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第六十八話 何とか、アンジェを引き留めたい1

 私は、おばあ様にお会いして、1ケ月がたとうとしていた。

 私の練習と理由をつけては、お茶会に呼ばれる内に、気も緩み、今に至る。

 ああ、もうこのままでいいのではないのか。

 お塔様とお母様に、会いたくない訳ではない。

 いや、ここの居心地が良すぎるのがいけないのだ。

 何故か、ミリー達も今日は何をして過ごしましょうとか言って来るほど、優しいのがいけない。

 エリアもイリスも、鍛錬と護衛を交代しながらも、連れてきた兵士たちの訓練に忙しそうにしている。



「お嬢様は、今の生活が余程、満足しているようね。

 これも、侯爵様と祖母様方のおかげね。」


「ミリー、私は少し寂しいわ。

 以前のアンジェ様なら、ご自分のやりたいことを優先して、もっと楽しそうにしていたと思うの。」


「お姉ちゃん、私も、アンジェの、今は、違うと思う。」


「エド様からも、言われているでしょう。

 帝国とのことで、アンジェ様を避難させることにしたと。

 いつ、前のアンジェ様になるか分からないのに、それに皆が傷ついて帰ってきたのを見たら、悲しんでお心を痛めてしまうのよ。」


「それは、分かっているは、ミリー、でも私はアンジェ様にはもっと、自由で思ったことをしていて貰いたいのよ。」


「私も、今の、アンジェには、合っていないと思う。」




 7月のある日のこと。

 アンジェリカは、突然、我に返ったように侍女たちに言い放った。


「飽きたわ。」


「アンジェ様、何がですか。」


「今の、生活によ。

 もう、満足したのよ。家族以外で、こんなに、優しくされたのは、初めてで、正直に嬉しかったわよ。

 でもね、私には、おばあ様のように、なりたいとは思えなかった。

 家に帰って、マクミランに勝てるような作戦を考えたり、バルムや領地の事で、もっとできる事をやりたいのよ。

 ここじゃ、私は、ただのお嬢様で何もできないじゃない。」


「アンジェ様、それが今のお役目ですから、我儘を言って困らせてはいけません。」


「ミリー、我儘って何を言っているのかしら。

 私は、私のままでいたいのよ。それが、いけないことなの。

 ここは、お嬢様、お嬢様って何かにつけて気を使ってくるのよ。

 そんな生活は、楽しかったけど、私の中でこのままではいけないって、思うようになったの。

 私は、私が出来る事を考えたりしたいのよ。それの、何が悪いの、間違っているの。」


「エルは、それがアンジェらしいと思う。」


「モーラは、どうかしら?」


「ミリー、私は、ステフ様とのお茶会でのアンジェ様が笑顔で笑っている姿を思い出すと、ここでは、その笑顔が無くなっていると思います。」


「そう、確かに、皆の言っていることは、間違ってないわ。

 でも、今は将来のアンジェ様の為にも、必要な事じゃないかしら。

 バルムに、帰ったらでいいじゃない。」


「じゃ、みんなでバルムに帰りましょう。

 連れてきた、護衛の兵士たちも、家族に会いたいでしょう。

 それに、長く常駐すると、それだけ士気も下がるし、迷惑になるわ。」



「それでは、先ずエリアとイリスに話をしてから、侯爵様にもお願いをしましょう。」



「エリアにイリス、分かったかしら。」


 二人とも、少し、眉をひそめるのが分かった。

「アンジェ様、私たちは、その程度で、士気は下がったり致しません。」


「そうです、今も帰りたいなど思う者もいません。

 アンジェ様の、お心遣いに感謝することでしょう。」


「何故かしら、貴女達が、反対するとは思わなかった。

 連れてきた護衛の100人も、帰ってバルムの為にできる事があるとは思はないのかしら。」


 痛い所を、突かれたように一瞬だけ言葉に詰まる二人だったが。

「みな、アンジェ様の護衛が出来る事に誇りを持っております。

 出来ますなら、ここでアンジェ様の力になりたい者を希望して集めておりますので。」


 そんな事、聞いてないわよ。

 いや確かに、旅の途中の食事を一緒にした兵士たちや声をかけた兵士が異様に嬉しがっていたわ。

「そんな、物好きもいたものね。聞いてないけど。

 どうやら、貴女達は、私を帰したくないようね。

 では、おじい様に、お話して、お願いするまでよ。

 ミリー、面会の申し出を、お願いするわ。」


 早くしなければ、今から帰っても、8月になるのに、10月までにここを、出なければ冬になる。

 大体、面会の予約って何よ。お父様なら、直ぐに会えるのに、普通は時間がかかるって!

 早くて、3日、それ以上なんてなったら、どうしようかしら。

(なあ、アンジェさあ、今のままでいいじゃないか。急がなくても、ゆっくりしたがってたじゃないか。

 ノブ、黙っていたと思った、私の邪魔をするの。

 いや、邪魔をする気は無いよ、でも、折角の機会だし、外の世界を見ることもいい事だよ。

 やけに、引き留めるわね。なにか、あるのかしら?例えば、甘味とか甘味とか甘味かしら。

 いや、3回も言わなくても。

 なら、おばあ様がそんなにいいのかしら!不潔な!

 いや、ち、違うよ。綺麗な人妻になんて、ある訳がないじゃないか。

 声が、上ずっているわよ。しょうもないわね。まあいいでしょ。今は、それどころじゃないのよ。)


「アンジェ様、侯爵様にお話になる前にイザベラ様とマリアンヌ様にも、ご相談されてはいかがでしょう。

 きっと、いいアドバイスを教えて下さると思います。」


「そうかしら?息抜きの理由が無くなって、逆に引き留めると思うわよ。」


 そうだ。きっと、そうに違いないわ。

 なんたって、1ケ月も社交についての練習やら駆け引きやら話していたのに、今じゃ、ただお茶と菓子を食べて駄弁っているだけじゃないの。

 私は、確信を持って言えるわ。逆効果だとね。




 侯爵様の面会を待つ間に、やはり、おばあ様とのお茶会に招かれた。

 仕方ないけど、ミリー達を納得させるためにも、話をするしかないようね。


「イザベラおばあ様、マリアンヌおばあ様、御機嫌よう。

 本日も、お招きしていただき、嬉しく思います。」


 おばあ様方が、微笑みながら、話が始まる。

「アンジェ、今日は、貴女にプレゼントしようと珍しい菓子を用意したのよ。」


 なんだって、甘いものかぁ。

 んっ。何で、今日はこんな準備をしているの?

 情報が、漏れている可能性があるわ。

 私は、ミリー達3人に、視線を向けるが、澄ました様にお茶の準備をして、顔を合わそうともしない。


 顔に出さない。何時ものように、返すだけよ。

「そのような、珍しい物を、宜しいのでしょうか?」


「ええ。貴女の為に用意したのです。

 気に入って貰えると、嬉しいわ。」


(珍しい、甘味だと。いただきまーす。全部、俺のだ。)

 頭の中が、騒がしいわね。

 いままでも、十分にお菓子を食べてきたはずなのに!

 こいつらは、騒がしくていけないわ。


 イザベラおばあ様は、さあ食べてごらんなさいと言わんばかりの、笑顔を向けてくる。

 作法は何処に行った!この、お菓子に屈することはできないわ。


「白くも無くて、クッキーのような感じでもないですわ。

 この、黒いものが、菓子なのですか?」

 私は、差し出された菓子を見て、思わず声に出ていた。


 おばあ様たちは、私の反応を見て、更に喜んでいる。

 くっ、私としたことが、踊らされているようだわ。


(はーやーく、はーやーく・・・。

 うっさいわ。静かにしなさい。)


「それでは、いただきますわ。」

 その黒い物体は、口の中で、じわりと溶けて甘みが広がっていく。


 なにこれ、凄く甘いのだけれど。


「おばあ様、これって凄く甘いわ。見た目と違って、凄く甘いの。」


 イザベラおばあ様とマリアンヌおばあ様は、私の反応を見て確信をしたように、

「アンジェ、気に行って貰えたかしら?

 今、交渉をしている所だけど、先に確認の為に持ってきてもらったのよ。」


「アンジェ、気に入ったのなら、今度のお茶会でも用意させるわ。」


 甘い、幸せを感じる、頭の中でも、叫び声が広がっている。

 しかし、わたしは・・・・。

 相談をしなければ、・・・。

 もう一つ、手に取りたいけど、ああああああ。


 ミリー、助けてー。

 私が、こんなに困っているのだから、侍女の出番よ。


 しかし、ミリー達は私の期待を裏切って、相談の「そ」の字も無かったように、だんまりである。


 覚えてろよ~。しかし、これ本当に美味しいわ。

「おばあ様も、ご一緒に頂きましょう。

 私が、独り占めしては申し訳ありませんもの。」


「色々な、種類があるから、食べてごらんなさい。」



 それから、わたしは、この菓子に心まで屈してしまった。


いつも、読んでいただきありがとうございます。

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