第六十六話 ミリーとモーラの憂鬱1
アンジェの到着前に、少し前に戻ること、ウィルビス侯爵は夕食の時にイザベラに頼みごとをしていた。
「イジー、近くリヒタル領から娘のアンジェリカがやってくる。」
「まあ、カスパーの孫娘ね。あら、お一人でして?」
「今は、事情があるのだ。そこで、来年の春までは預かる事になるのだが、その間は目をかけてやってはくれないか?」
「モルドレッド様、もちろんでございますわ。それに、女の子ですのね、楽しみですわ。
カスパーが早くに逝って、エドワードが後を継いで、その子供ですもの。
私には、男子しか恵まれなかったですから。」
「それとな、アンジェリカなのだが、頭脳は切れる方だと思うが、以前に会ったとき、それは、間違いじゃないかとも思ったのだ。それとなく、言動にも気を付けておいてくれ。」
「モルドレッド様、それはいったい。何かご懸念がおありでしょうか?」
「いや。大したことでは無いのだ。多分な。
では、マリアンヌにも伝えをだして、近いうちに、呼んでおいてくれ。」
「かしこまりました。」
「さすが大伯父様ね。んー、これも美味しい。」
「アンジェリカ様、程々になさいませ。明日には、侯爵夫人とリヒタル子爵様のお母様にもお会いになられるのですから。」
「まあ、いいじゃない。ここには、私たちしかいないのだから。
この部屋を出たら行儀よくするわよ。」
「分かっていればいいのです。
ここは、侯爵様のお城だということを、忘れない様にお願いします。」
翌日、久しぶりに熟睡したアンジェは、ミリー監視もとモーラとエルに着替えさせられていた。
「エル。ここは、こうすると、ね。分かった?」
「うん。じゃ、はいっ。」
「今日は、お茶会がありますからね。しっかりと、頼みますね。」
モーラは、エルにドレスの着替えを教え、エルは、モーラの指示で着替えを手伝っていた。
「また、ひらひらしたドレスね。これって、必要なのかしら。」
「あたりまえです。もう、ふざけないでください。」
「アンジェリカ様、とっても綺麗です。」
「ありがとう、エル。
さあ、会いに行きましょう。」
挨拶、挨拶っと。
部屋に入った、私の目の前には、綺麗なドレスを身に纏った女性が2人いた。
『め、めめめ、目がぁ。』なんて、破壊力なのかしら。
お母様以上に、キラキラしてるわ。
『おば様、ストラーイク!
うわっ、きっもち悪いわね。何があった。
いや、本物の貴婦人を始めてみた感じだし。結構なお手前で。
何がだよ。全くもう、いつもお母様も見てただろに、何が違うんだよ。
ステフは、お母さんじゃないかぁ。目の前にいる2人は、記憶にもないご婦人だが、キラキラしてるっていうかあ、美しい!
うっわ。最低ね。そんな目で、見るんじゃないわよ。』
「モルドレッド侯爵夫人、初めてお目にかかります。
リヒタル子爵エドワードの娘、アンジェリカと申します。
本日は、お会いできて光栄です。」
「いらっしゃい、アンジェリカ。昨日は、疲れは取れて?」
「はい。とても良くしていただき感謝しています。」
次ね次。慣れたものよ~。これくらいの、挨拶なんて問題ないわ。
「マリアンヌ伯母様、初めてお目にかかります。アンジェリカでございます。
本日は、お会いできて光栄です。」
「まあ、大きくなったわね。アンジェリカ、歓迎いたします。」
カーツィも、さまになってきたのでは。
と、思っていたのは、間違いありません。
別に、他意があった訳じゃないのよ。
「そう、ハイド伯爵様にも困ったものですね。まだ、小さい女の子に、剣の相手をさせるなんて。」
「セルシったら、今度、会うときに叱っておきましょう。」
「まあ、大伯母様ったらぁー・・・」
一瞬で場が、凍り付く様に、鋭い視線が向けられる。
痛いたいわ。何なのよ、全く。
ミリーとモーラの顔が、青ざめてるわ。どうしたの?
すると、ミリーと視線が合うと合図を送ってきた。
「曾祖母様、祖母様、恐縮ながら申し上げます。お嬢様は、まだ旅の疲れはもとより、眠りからお目覚めになって、記憶違いな所がありまして、少々お時間を頂戴したく存じます。何卒、ご容赦くださいませ。」
こ、これは、緊急事態ようの脱出準備だわ。
私は、事前に教わった通りに、小さく消え入りそうな声でミリーに倣う。
「曾祖母様?伯母様・・・誠に、申し訳ございません。」
私は、ミリーに連れられ、控室に連行された。
ミリーは、モーラとエルにも合図を送ると、モーラが謝罪と同時に深いお辞儀をすると、エルは、それに倣った。
私はいま、青ざめるミリーから、叩かれる勢いで睨まれている。
それに、エルがあたふたしている所に、モーラが何とか落ち着かせようとしている。
何があった?と聞こうとした時・・。
「何ですか、あれはいったい。」
「あれって?」
「わたくしが、中座の謝罪をしたときに、何とお呼びになったか覚えてますか?」
「あっ、ん。あー。曾祖母様と伯母様だ。んっ、曾祖母様って誰の事なの?」
『バチィ』ミリーからの、大きな平手打ちが私の頬に、当たると大きな音を立てて私は飛んだのだ。それはもう、見事に宙を舞うドリルの様に回転した。
痛いわねって、立ち上がろうとした時、見た事も無い物体が飛んできた。
うわぁ。回転してる物体が、パンツ丸見えで飛んでくる。
『グフッ』私のお腹に刺さるように物体が突っ込んできた。
モーラかっ。
「いったいじゃない。二人ともやめてよ。暴力はいけないわ。
ねえ、エルもそう思うでしょ。」
ミリーが頷くと
『ゴンッ』エルの、拳が頭に直撃する。
バタッ、倒れた私に、歩み寄る3人。
「どうして、ここまで、酷いことを・・・。」
「なぜ、ひどい、ですって!
アンジェリカ様、あれほど言ったではありませんか!礼儀作法のことを!」
「うぅ。やれてたでしょ。」
「まだ、言いますか。そんなことを言うのはこの口ですか!」
ミリーが、私の頬っぺたをつまんでくる。
「いきゃい、いひゃい。」
モーラも皆の、こんなに怒っている所は、見たことが無い。
「最近、容赦が無くなって来たわね。
それで理由を、教えてもらえないかしら。時間も、そう余り無いのだから。」
「アンジェ様、侯爵夫人を、大伯母様と仰られましたね。」
「ええ。」
「本気ですか?ここは、バルムではありませんよ。」
「ええ。」
「モーラさん、どういうことなの?私、まだ良く分からなくて。」
「エル。いいのよ、まだ貴女は、私たちに任せておきなさい。
アンジェ様、この失態は言い訳が出来ません。私たちの落ち度が、お嬢様の評価を悪くして旦那様方へもご迷惑を掛ける事になるのです。
そのことについては、お詫びの使用も無いのですが。
誠に、申し訳ありません。」
「いいですか。ひいおばあさまの事をなぜ、おおおばさまと呼んだのです。」
「えっ、いや・・だって、えっ!伯母様の上でしょ。だ、か、ら・・。」
「本気ですか。マジですか、ガチですか。」
モーラが、何やら連呼している。
「アンジェ様、祖母様の上は、曾祖母様です。何を、どうして勘違いしたら、はぁ。」
「でもでも、侯爵様が来た時に、誰も何も言わなかったじゃない。」
「おおおじさまの件ですか? あれは、堅苦しくなくて良いと、侯爵様が言われた後で、侯爵様が何も咎めなかったからです。 私たちも、ヒヤッとしたのですが、冗談が過ぎると思っていたのですが、冗談では無かったとわ!」
「じゃ、大伯父様は?」
「曾祖父様です。大は、ありませんよ。」
「ホントに?大を付ければ・・・。」
「まだ、こんなお馬鹿だったとわ。出来ないことが減って、見落としていたわね。」
「アンジェ、大丈夫なの?」
「一応確認を込めて、侯爵ご夫妻は、アンジェリカ様の直系になります。曾祖父様と曾祖母様にあたります。ここが、ご兄弟になられると、大伯父様、大伯母様になります。
堅苦しく呼ばれないときは、ひいおじいさま、ひいおばあさまで、または、おじいさま、おばあさまでいいでしょう。」
「わかった。でも伯母様は、おばあさまで良かったのね。」
「駄目です。そぼさまのことでしょうか!近しい直系のお方ですから、呼ぶ時には、おばあさまで大丈夫ですが、がぁ格式ある社交の場で使い分けをお願いします。
たまたま、呼び方が、セーフだったけれど、字にすると全然違います。」
「それにしても、2人とも、おばあ様でいいのかしら?
話をするときに、区別がつかないじゃない。」
「ですから、この場では、お名前とおばあ様か、ひいおばあ様とおばあ様で」
和むお茶会の一時に、暗雲立ち込める。
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