第六十四話 アゼリア要塞攻防戦2
ウィルビス侯爵閣下からは、ファナル殿の指揮下にと言われていたのになあ。
なんで、私が総指揮なんてやらなきゃならんのだ。
階級は、ともかくリヒタル子爵がいるじゃないか。それに、後詰からハイド伯爵も来られるのに。
それもこれも、アンジェリカ様に悟られぬように、出発を遅らせたからだ。
上手く、隠し通せただろうか。
「閣下、そろそろお時間です。」
「ああ、分かった。」
本陣の天幕には、リヒタル子爵を始め、皆が集まっていた。
「みな、集まっている様だな。
それでは、明日以降の作戦を伝える。残念ながら、本日の戦いで帝国軍との戦力差が5千強まで縮まっている。
しかし、報告に上がって来たことから、帝国軍に付け入る弱点もあると見える。」
「流石ですな。して、どういった策で迎い討つのかね。」
「敵には、2将で公爵と伯爵らしいが、両軍が独立して指揮されていることから、足並みも揃えられぬほど、バラバラなこと。
今回は、魔法師をそれなりに連れてきているが、人族が多く獣人などの部隊はいないこと。
これは、敵を2つに分断して、各個に撃破をすることが出来る。
これに対し、我らは、右翼と左翼にそれぞれ、3つの分隊を作り、右と左、中央をその後方に方陣を敷く。
敵が、今日と同じ突撃なら、それぞれを中央に引き込み包囲殲滅にて壊滅させる。
本隊は、より戦意が落ちている方へ加勢し、素早く殲滅させ、残りの方へ一気に畳みかける。」
「うむ。ほぼ同数で包囲をするとなれば、手薄になる所が出て来るのではないか?」
「いや、同数ではない。我らの方が少なくなる。
各々方には、2万の兵での半包囲でかまわない。その代わり、私の本隊が後方への蓋をして包囲陣を完成させる。そのため、構えている間は、方陣のままだが、後方へ回り込むために、突撃の際は、魚鱗の陣で一気に突き進む。
どちらになるか、なってからでしか分からないが、片方を包囲殲滅して、向かうまで、半包囲で耐えてもらわねばならない。」
「それは、間にあるのか。中央を、2分してそれぞれを、包囲すればいいのではないか?」
「それでは、損害も大きくなりうる、また、消耗して混戦になれば決着をつけれなくなる。
敵は、5万強ほどなら、片側に2万5千ほどで、迎え撃つことになる。
こちらは、2万だが、本陣の1万5千を合わせれば、数でも優勢に立てる。
完全に、包囲されれば、士気も下がる、その分早くもう一方へ駆けつける事で、更に優位に立てるだろう。」
「分かった。して、もし敵が馬鹿でなく、陣形を組んできたら?」
「実は、あまり気にしてないのだ。本来なら、今日みたいな突撃を仕掛けて来るだけの相手なのだからと。
そんな、相手が、もし我らの真似をして部隊をけてくるなら、こちらとしては、もっと早く敵を撤退まで追いつめられる。
2万の兵を、3部隊に分けずに、魚鱗の陣に変更して中央突破で敵将を討ち取ればいい。
本陣は、気を見て、それぞれの魚鱗に合わせて、更に2方向から敵の後方に攻撃を仕掛ける。
これは、突撃した時の敵兵の残存を潰しながら味方の後方の確保も出来る安全策だ。」
「何時の間に、考えていたのだ。」
「さすがは、伯爵殿であるな。」
「何を言う。其方たちも、考えていたのであろう。
何か、あれば言って貰いたい。何事も、完遂するからには、見落としの1つもあってはならないからな。」
「完璧主義は、相変わらずのようだ。それがまた、信頼のあかしなのだよ。
戦場は、生き物であるからして、敵が想定外の行動に出たならば、臨機応変に対応するしかないだろう。
それは、みなも、わかっている。シュナイゼン将軍に、背を任せた。」
リヒタル子爵からの返答で、一同は頷くと天幕を出る。
アンジェは、もうセルシの所へ着いた頃だろうか?
出陣が遅れて、ギリギリになってしまったが、これで良かったのだろうか。
エドワードは、犠牲者の無念と娘への気遣いを天秤にかけながら、空を見上げる。
満点の星広がる空を眺めながら、心に穿たれる思いが押し寄せていた。
「閣下、みなと酒でもいかがですか。
明日にそなえて、一つ緊張でもほぐしてやりましょう。」
「マクミランは、飲みたいだけじゃないのか。」
「なら、ハンスはいらないんだな。」
「そんなことは、言ってない。」
エドワードは、二人の肩をつかむと、
「よおし、ついでに飲み過ぎてないか、見て回ろう。
・・マクミランよ、其方にとっては、雪辱戦でもあるが、無理はしてくれるなよ。」
「閣下の、お心遣いに感謝を。」
陽が高く登った時、戦場に両軍が向かい合う。
帝国軍は、力押しで不利と見たのか陣形を組んでいた。
※※ ※
「全軍前進!今日こそ、ここで勝利し要塞を包囲するぞ。」
歓声が起こると、ヴァルテン伯爵の軍勢は前進を始める。
この様子を、エルランド公爵は、忌々しく眺める。
「ふん。昨日は、こちらが先行し過ぎた所為で、被害が大きくなった様だしな。
それにしても、敵の陣形を崩したというのに、押し返されおって。
今日は、こちらが後に、前進するとしよう。」
※※ ※
「シュナイゼン将軍!帝国軍は、昨日と変わり、黄陣の陣形を組んで前進して来ています。」
「さすがだな、要塞に引き籠っていただけのことはある。
もう少し、手ごたえが欲しいものだ。
・・よし、敵を引き付けて、魔法師と弓兵で敵前衛を叩いた後に、魚鱗の陣で敵中央に突撃をして、敵司令官を討て!
これを、ファナル将軍とリヒタル子爵へ伝達。」
伝令を受けて、王国軍の陣形は変わっていく。
「話していた通りだな。引きつけ過ぎて、出遅れない様にしなければな。
先鋒はマクミラン、後方にハンス、私は中央を率いて行く。」
「リンデン、任せたぞ。」
「おうよ。任せておけ。」
右翼のリヒタル子爵率いる軍勢は、先に帝国軍と衝突する。
魔法師から弓兵の遠距離攻撃の後、マクミランが先陣をきって突撃する。
帝国兵は、魔法師のシールドと歩兵の楯で攻撃を防ぎながら突進してくる。
マクミランの檄が飛ぶ。
「今だ、突撃!目指すは敵将ヴァルテン伯爵だ。
止まるな!振り返らず、突き進めー。」
先頭の中央から入られて、分断されていく帝国軍は、リヒタル子爵の軍を止めることが出来なかった。
何時もに増して、力が入るマクミランが道を切り開いていく。
※※ ※
「何故だ。何故、止められないのだ。手を抜いているのでは、無いだろうな。
突撃を止めて、分断された先頭に陣形を再編させろ。」
ヴァルテン伯爵の状況を、眺めながら笑みを浮かべる。
「敵は、突撃して我らを分断するのが目的である。
それを利用して、我らは、分断されたまま敵の後方まで進み後方を封鎖し包囲陣を敷くぞ。
各隊に伝令をだせ。」
エルランド公爵は、先頭までの各隊長に指示を出したが、これは上手くいかなかった。
左右の状況を見ながら、シュナイゼン将軍は部隊に指示を出す。
「右翼のリヒタル子爵には、現状のまま敵を崩してもらいたい。
我らは、部隊を左翼の後方へ向かい包囲する敵を挟撃する。
ファナル将軍へその旨を、伝えよ。」
※※ ※
突撃して、陣形が崩れたヴァルテン伯爵は立て直すことも出来ずに、苛立ちと眼前の迫る敵に指揮を執ることを忘れ、逃れる手を考え始めていた。
「何故なんだ、我が軍の陣形は立て直すことも出来ずにこのままでは、負けてしまうではないか。
これも、エルランド公爵が不甲斐ない所為だ。そうだ、この陣形で進軍を進言してきた参謀の所為だ。
あいつらのせいにして、後退しよう。まだ、要塞に戻れば巻替えう機会もあろう。」
「敵の後方封鎖に失敗しました。敵の増援です。
後方に回り込んだ所に、敵の本陣から増援に合い挟撃され、このままでは、全滅の危機です。」
「ヴァルテン伯爵の方も、思わしくない様だな。
我らも、潮時か・・・。」
エルランド公爵は、顔を上げ遠くに見える王国軍をみる。
「何と、愚かしいことか・・・。
我らの、勝敗は決した。これより、再度、陣形を中央に集め先鋒の部隊の救出の為に中央突破して要塞まで退くぞ。」
「閣下、それでは、要塞まで持たないかと。
閣下だけでも、先にお下がりください。」
「其方は、儂に敵に背を向けて逃げろと言いたいのか。
まあよい。このままでは、退くことも出来ないだろう。かといって、先鋒を見捨てるのも忍びない。
なにより、このまま、敵に背を向けて逃げる事が許せんのだ。
良く聞け!これより、我らは、再度、突撃して先鋒隊と合流して要塞まで後退する。」
※※ ※
アゼリア要塞攻防戦は、王国軍の勝利で終わった。
帝国軍は、最後は散り散りになり、
王国軍は、追撃を出すまでの余力は無かった。
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