第六十三話 アゼリア要塞攻防戦1
王国歴188年5月15日
この日、陽が昇る頃に、帝国軍は本陣を前に方陣を2つ構えて王国軍へ前進していた。
「敵は、まだ完全に陣が敷かれていない。これは、好機だ。
全軍突撃の用意をせよ。」
「エルランド公爵閣下、まずヴァルテン伯爵との足並みを揃えてからにしなければ、陣形が崩れます。」
「何を言う!この好機に、遅れる方が悪いのだ。
伝令でも、送っておけ。遅れて来ても、武功は、我が全て貰ってやるとな。」
「ヴァルテン伯爵閣下、エルランド公爵が先行しています。
このままでは、我らとの陣形が崩れてしまいます。」
「むう。手柄に、釣られて出過ぎたことを。
我らがいなければ、各個に攻撃されるだけだろうに、それすら分からぬのか。」
「敵が、まだ少ないとはいえ、公爵だけでは突破するのは難しいのではありませんか。」
「そうか。よし、我々は、このまま前進をする。決して、急がずにだ。
敵が、エラルド公爵に食いついている所を、横から敵の本陣を落とせばよい。
我ながら、良い案だと思うであろう。」
「本当に、よろしいのですか、エラルド公爵には
少なからず、被害が出るものと思われます。」
「くどい!今の作戦で、前進を続けろ、突撃の合図は任せる。」
「はっ。了解しました。」
※※ ※
そのころ、王国軍では、帝国軍が迫っている事が分かると急いで陣形を整え始めていた。
「リンデン将軍、ファナル将軍。我らも、陣形を組んで迎え撃ちましょう。」
「おお、マクミラン殿、ハンス殿も早かったな。
兵がいても、指揮官が不在ではどうしようもなかったが、これで暫くは、持ちこたえられる。」
「して、まだ半数程度じゃ、攻勢まではいかないか。」
「こちらも、方陣を敷いて迎え撃ちましょう。
まだ、作戦を実行に移すのは、全軍が揃ってからになりましょう。
今は、敵を押しとどめ、被害を抑える事が肝心かと思われます。」
「総指揮は、私、ファナルがとる。
副指揮官にマクミラン殿をお願いしたい。」
「承った。」
「それでは、左翼にリンデン将軍、右翼にハンス殿は、それぞれ1万5千の兵を持って迎え撃ってくれ。
魔法師団の中距離攻撃の後、弓兵で攻撃をして、槍兵で先方を迎え撃ち騎兵で押し込む基本戦術で行くとしよう。」
「仕方ないか。今回は、守勢に徹する事しか出来ないか。」
「まあ、落ち着け。リヒタル子爵閣下とシュナイゼン伯爵閣下が揃えば、一気にたたき込むことも出来るだろう。」
「わぁーかってるって。言ってみただけだ。」
「ハンス殿の言も分かるがの、功を焦っては墓穴を掘るってな。」
「リンデン将軍にまで、言われるとわ。大体、子供じゃないんだから、もうちょっと、信用してくれてもいいんじゃねえか。」
「これくらいにして、行くとしようか。」
「承知した。」
※※ ※
両陣営が向かい合うと、既に帝国軍は、突撃のラッパを鳴らしていた。
王国軍の、魔法師の攻撃にも怯まず、弓兵の矢を受けながらも、突撃は止まらない。
リンデン将軍の率いる左翼が先に、帝国軍と激突する。
ハンスの率いる右翼の先頭が、帝国軍右翼のエルランド公爵を迎え撃つと、左翼のとの間に少しの隙間が出来る。
ハンスは、部隊を分け、横から帝国軍の右翼先頭の横から攻撃を開始する。
「今だ、敵は足並みすら揃えられない素人だ。
先に、敵、右翼の横っ腹から崩してしまえ!」
「馬鹿な!ハンスめ、目先に囚われおって、こちらの、陣形を崩して何になる。
急ぎ、馬を出せ、陣形を崩すなと!
間に合えばよいが、難しいか・・・。」
※※ ※
「エルランド公爵閣下、敵の左翼の一部がこちらへ攻撃を仕掛けています。」
「ふん。たかが、数千である。こちらの、数には及ぶまい。
そのまま、突撃を続けろ!もろとも、蹴散らしてやる。」
「ヴァルテン伯爵閣下、敵の先頭が右翼のエルランド公爵へ向きを変えて、攻撃を仕掛けております。」
「馬鹿な奴らだ!我らは、このまま突撃を仕掛けるぞ。
敵の前衛が手薄になったのだ、このまま突き進め!
目指すは、敵本陣の司令官を打ち取るのだ。」
※※ ※
「くそう。敵の左翼が追いついてきやがった。
一端、後退して、陣形を立て直すぞ!」
「マクミラン殿、本隊から、5千の兵でハンス殿に、立て直す時間を作ってきてやれ。
今、崩れては、元も子もない。」
「すまぬ。ファナル将軍、少しの間ここは任せる。」
※※ ※
「エルランド公爵閣下、敵の左翼が下がっております。」
「よし。今だ、敵の前衛を突破しろ!
ふん。今頃、追いつきおって、我らが先に本陣を落ちしてやるわ。」
「イノシシの様に、突撃しか出来ぬ公爵が、足止めをしているうちに、我らが、先に落とすのだ!」
※※ ※
リンデン将軍は、押し込められている前衛に単騎で前に出ると、兵士たちを鼓舞する。
「我が身にやどりし業炎よ、剣に宿りて眼前の敵を焼き尽くせ。プロミネンス・エッジ。」
先陣に立ち敵の進攻を抑え始める。
マクミランは、増援として、前衛の守備の層を厚くするために、割り込む。
「ハンスに伝令を。こちらが、時間を作る。隊を立て直して陣を敷き直せ。」
「蒼炎よ、我が剣に宿りて、かの敵を灼き尽くせ。アズール・フレイム。」
「悪い。マクミラン。少し、先走ってしまった。」
「分かっているなら、さっさと、立て直せ!今は、攻勢に出るだけの余力は無いのだから。」
「ああ。直ぐ、戻る。」
ハンスは、冷静さを取り戻した様子で、後方へ少し下がる。
しかし、帝国軍は、思いのほか善戦していた。
お互いに、本陣を落とそうと、進撃の手を止めない事と、兵士も互いに先を勝ち取ろうと奮戦した結果である。
ハンスが、戻った時には、混戦状態から抜け出せなくなっている両軍に、少なからず被害が大きくなってきていた。
「このままでは、消耗戦ではないか。ここまで、帝国軍が押してくるとはな。
数において、劣勢な我らが持ちこたえているのは、士気や練度もあるだろうが、指揮する者への信頼でもあるか。」
※※ ※
「エルランド公爵閣下、このままでは、敵陣の突破はおろか味方の損害が大きくなるだけでございます。
ここは、口惜しい限りではありますが、兵を引き再度の攻撃に再編が必要と思われます。」
「くう。あの程度の、敵を蹴散らすことも出来ぬとわ。忌々しい。
一端、陣へ帰還する。差配は任せる。」
「ヴァルテン伯爵閣下、公爵の軍が引き始めております。
このままは、我らは孤立してしまいます。
今は、兵を下げ公爵と再度の攻勢に向けて立て直すしかないかと。」
「勝手に、先走りよって何の成果も上げられぬまま引き下がるとわ。
全軍に通達せよ、陣まで下がって再編するように。」
この日、功を競い合った帝国軍の奮戦に、王国軍は想定より大きな被害をだした。
また、帝国軍も、同じく数で押し切れず、混戦になったことで被害が大きなものとなった。
帝国軍6万の内、死傷者8千7百名
王国軍4万の内、死傷者1万3千6百名
「思いのほか、被害を出してしまったな。
もう間もなく、シュナイゼン将軍とリヒタル子爵閣下も、到着されるが面目もたたぬ。」
※※ ※
「ヴァルテン伯爵よ、何をしておった。
われの邪魔をしよって、其方のせいで、無駄な時間を消費しただけではないか。」
「エルランド公爵よ、私の軍の進軍を無視して先行した挙句に、敵の本陣にも届かぬ内に撤退とはな。
勝手が、過ぎるのではないですか。」
「閣下、お二人の無念もまだ、挽回の機会はあります。
敵の方にも、無視できない被害が出ております。また、我らは、5万強で攻勢に出れます。
まだ、五分以上の戦いで勝利を。」
「仕方ないが、ここは明日は、共に王国軍を打倒して、陛下への手土産にするとしようではないか。」
「承知した。ここは、帝国の勝利に協力しようではないか。」
※※ ※
ほぼ、同じころに、シュナイゼン将軍とリヒタル子爵が陣営に加わる。
「何やら、余り顔色が良いとは言えないようだが。
どうしたのだ。話してくれ。」
「シュナイゼン将軍、リヒタル子爵閣下、まことに申し訳ありません。
本日の戦で、お預かりした兵に、想定外の被害をだしてしまったこと。
全ては、指揮した私の責任であります。」
「いやなに、戦場での事で、絶対はありえぬ。
それよりも、良く本陣を守り抜いた。」
「シュナイゼン将軍には、明日の総指揮をとってもらいたい。
宜しいな。」
「いや、ここは、ハイド伯爵とリヒタル子爵の戦場であるから、私は遠慮しておいた方が・・・。」
「いや、シュナイゼン将軍の方が、身分も上であろう。伯爵である其方が、士気を取って貰えれば、我々も安心して本陣を任せられる上に、敵に集中出来るものであろう。」
少し、考え込むが、将軍らの頼みでもある。
「分かった。その役目、私の身命にかけて、務めさせていただく。
では、明日の、作戦会議を後ほど説明する。」
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