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第六十一話 侯爵領へ9

 謁見の間で、挨拶をしないと怒られるわよね。

 堅苦しいのは、嫌いだけど、来た時と同じ様にしないと失礼になるらしい。


「ハイド伯爵様、大変お世話になりました。」


「これから、10日ほどで、ウィルビス侯爵領に着くだろう。

 道中は気を付けて行くのだぞ。」


 城を出て、馬車の前で、声をかけられる。


「アンジェ姉さま、また遊びに来てくださいね。」


「キア(キアリーナ)様も、またお会いできる日を、楽しみしています。」


 謁見の間に、同席できないから、ここで待っていたのか。

 短い間でも、仲良くなれた可愛い妹分だ。お互いに愛称で呼びあえるようになった。

 ちなみに、兄のアルベルトは、来ていない。

 照れ屋なのかな?


 城を出て、暫くすると、ミリーから、また色々教えてもらった。

 謁見の間での挨拶は重要で、領主と招かれる方の代表が対面するので基本は家族や女性は入れないそうだ。

 ノブの記憶にある本の出迎えは勿論なく、お見送りも簡素なものだった。

 キアが見送りに来たことが、珍しいらしい。

 それと、男性が基本的に謁見するところ、今回は、私だったこと、護衛も女性が隊長だったことも、殆ど無いらしい。

 そんなことは、先に教えておいてもらいたいが。

 ミリーは、伯爵が私の伯父にあたるので、通常と違う場合もあると気を使っていたらしい。

 ともあれ、私は、再び馬車に揺られて旅路を行く。



 ※※ ※

 5月14日開戦前


「なあ、後どのくらいでつくんだ。」


「明日には、着くだろう。いいか、俺たちは後詰なんだから、開戦に間に合えばいい。」


「俺たちは、戦わないのか?せっかく、ここまで来たのに。」


「負傷した兵士の治療や、前線への補給が主な仕事だ、滅多に出る事は無いよ。

 いいか、セト、生き残る事だけ考えるだ。」




「閣下、此度はまた、アゼリア要塞に寄せてきていますが。」


「この一年で良くも、あれほどの兵を準備できたものよ。」


「我々は、合わせて、2万とハイド伯爵の3万にウィルビス侯爵から2万の、7万になります。

 十分に、互角以上に戦えるはずです。」


「まあ、数だけはな。だが、何を企んでいるのか、分からない内は気を緩めてはならぬ。」


「しかし、野戦で万が一あったとしても、アゼリア要塞で籠城することも出来ます。」


「マクミランよ、その場合は、我らがその後に、立て直す事が出来るのか。出来たとして、どれ程の時間が必要になる。」


「今回も、陛下からの王国軍の派遣はなかったのだ。

 思っていたのだよ、どちらが味方なのか。我らが、戦うのは何の為なのか。」


「閣下、そこまでに。誰が聞いているともしれません。」


「ああ、分かっている。ここまでにして、作戦でも考えるとしよう。」




 ※※ ※

 帝国軍の進軍は、予定よりも遅く、到着が王国軍とほぼ同じになる。

 特に、作戦も立てないで両将は、それぞれに陣をたてる。

 既に、王国軍の先発隊が陣を敷き始めている。


 エルランド公爵は、右翼に3万

 ヴァルテン伯爵は、左翼に3万の兵を終結させる。


「明日には、敵前衛に攻撃をかける。

 それまでに、準備だけはしておけよ。」


「ふん。 何を偉そうに。」

 我々が、直ぐにでも蹴散らせてみるわ」




 ※※ ※

 前方からかけて来た知らせは、

「リヒタル子爵様、帝国軍は既に陣営を組んで明日にも進行してくる恐れがあるとのこと。」


「わかった。 こちらの進軍も上げるぞ。

 先発隊だけでは、退けるのは難しいだろう。

 して、伯爵と侯爵の軍の状況は?」


「リンデン将軍とファナル将軍は本日中には入られるとのことです。

 シュナイゼン将軍は、明日には到着するとのこと。」


「マクミラン、其方は急ぎ先発隊に行き指揮を取れ、私も急ぎ向かう。」


「閣下、我が忠誠を持って全うします。」




「ファナル、見ろよ。ぞろぞろと、入って来るなあ。」


「リンデンよ、気が緩み過ぎてないか。

 相手は、将が2人に6万の軍勢なのだぞ。」


「今まで、こちらが仕掛けなかった要塞のおもりをしていた奴らだろう。

 ぬくぬくと、命令を出してきただけの奴らに負けるかよ。」


「わかった、お前は、それでいい。」




 ※※ ※

 伯爵のアゼリア要塞を立ったアンジェは、戦場のことなど知らないままに、馬車に揺られて侯爵領へ向かう。


「ねえ、まだ着かないの?」

 分かっているのよ。でも言わずにいられないの。


「まだです!順調に行っても10日程かかるのですよ。

 聞いていたはずですが。」

 ミリーがちょっと、不機嫌な顔をして私も見る。


「アンジェ様、本はいかがですか?時間も気にならないと思います。」

 モーラなりの気遣いなのだろう。


「ありがとう。じゃあ、少し貸してもらうわね。」


 なになに、植物図鑑?これは、読むものなのかしら?

 微妙なチョイスね。


「ねえ、モーラ。なぜ、図鑑なのかしら?」


「今回の、野営でもしかしたら、食べられる物が取れるかもと思って。」

 嬉しそうに、照れてる。


 私にも、取って来いって事かしら。まあ、いいけど、覚えられる自信は無い。

 お茶の葉は、何かあるかしら。ホーリーミント。響きが、はいいわね。

 って、ここでは、自生してないじゃない。

 キノコは、焼いて美味しいからね、何があるのかしら。

 カザンダケ・・・赤く筒状の子実体を持ち、触るだけで被れてしまう。

 食用ではない・・・。


 ダメだ。私の、食欲まで無くなりようだわ。


「ねえ、モーラ。これは、私にはまだ、難しいと思うのだけれど。」


「そうでしたか。」

 シュンとするな!何故か、私の良心が痛む。


「でしたら、物語ではどうでしょうか?」


 私は、モーラからまた1冊の本を受け取り表紙を見る。

「トリスとイルデ。 恋愛ものかしら?まあ、モーラも、恋する年頃よね。」


 少し赤くなるモーラだったが、私は、本を流し読む。


 ちょっとまて、これは純愛ものじゃ無いわ。最初だけじゃない、叶わぬ愛からドロドロしていくわね。


「ねえねえ、アンジェ様、どんな物語なの?

 恋愛かあ。私は、いつ出会えるかなあ。」

 エルが、興味深々に話しかけて来た。


 私は、キッとモーラを見つめる。

 それから、ミリーに本を渡すと

「モーラ、趣味趣向は、人それぞれだと思うわ。だけど、これは何か違うと思うのよ。

 7歳よ、私が読んでいい物語じゃないと思うのよ。エルにも、もちろん早いと思うわ。」


 本のパラパラと、読むミリーの眉間にしわが寄っていく。


「モーラ、なんてものを、全く。

 もっと、良かったわねってなる様な物を選びなさい。」


「えっ、ドロドロって、最後はどうなるの?」

 エルが興味があるのか、聞いてきた。


「エル、世の中には、お互いに愛し合っても叶わない事もあるのよ。

 私は、そんなエルを見たくないわ。ずっと、これからも、純粋なエルのままでいてね。」

 私は、エルに抱き付きながら、胸に顔をうずめる。


 バシッ、ミリーの一撃が私の頭に直撃する。

「痛いわ。何をするのよ、ミリーったら。」


「アンジェ様、今、なにをなさっていましたか!」


 バレてる!

「親愛を表現する為に、エルにハグをしていたのよ。」


「ハグに、胸に顔をあてる必要はありませんよね。

 もしかして、また胸の大きさを図っていたのですか!」


 さっと、胸を両手で隠すエルが、赤くなっている。

「そんな、こと、あるわけ、ないじゃ、ないの?」


「なぜ、そこは疑問形なのですか。」


「いやー、エルって、着やせする子なんだなあって、思ったら止められなくて・・・

 ごめんなさい。今度からは、許可を取ってからします。」


「誰も、許可なんて出しません。

 もう、油断も隙もあったもんじゃないですね。」



 アンジェの、知らない所で、再び戦火が上がろうとしていた。


何時も、読んでいただきありがとうございます。

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