第五十五話 侯爵領へ3
旅の朝は早い。潤みを運ぶ風が、冷ややかに肌を撫る。
陽が明ける頃には、朝食を食べ準備に移る。
「もう、出発するの。」
「はい。昨日の遅れを取り戻さなければなりませんから。
それに、もう陽が昇るのも早くて日中も長く移動できますから。」
エリアに、説明を受けながら、相槌を打つ。
昨夜に続き、兵士たちは、気持ちのいい挨拶をして準備に向かう。
おかし過ぎるわ。
士気が高いのは、喜ばしいのだけれど、なぜ私なのだろう?
「ねえ、昨日も思ったのだけれど。
皆はどうして、私に挨拶をして来るのかしら?」
「えっ、アンジェ様の護衛に選ばれて嬉しかったのでしょう。
何しろ、倍率が・・・ん、んーん。」
「なに、倍率がどうしたの?」
「そんな、大した事ではありませんよ。」
エリアは、何かを言いかけて止めた。
なんだか、おかしい事が起こっている感じがするけど、はぐらかされているのか分からなかった。
(バレてるよね。これ、見られてたやつでしょ!
なんのこと?コソコソと、呟いて。
いやー、なんでもないよ。うん。
貴方たちも変よね。繋がっているのに、繋がらないような遠いような。
びゃっ。・・・ かかか 変わるはずないじゃないか。まったく~。
あやしい。)
「アンジェ様、馬車へお戻りください。出発ですよ。」
「分かったわ。」
エルが呼びに来たので、最後に背伸びして戻った。
何事も無く、暇を持て余し流れる景色を見て、過ぎる時を『ポカン』としていた事もありました。
前触れもなく、その時は来た。
3日目の夕刻、私たちは野営の準備に入っていた。
森林を背に、落ち着いたところに、イベントはやって来た。
「大人しく、全てを置いて行け。
ああ、女は置いて行けよ。
剣を抜いた者から、殺していく。分かったら、さっさと出ていきな。」
嗚呼、何というお決まり的なセリフなんだろう。
こいつらには、テンプレが配布されているに違いないわ。
馬車もあって、こちらは50人の護衛兵がいるのに、と思ったら!
後ろの森にも、回り込む手際の良さである。
大きいな、100人近くいるんじゃない。
「アンジェ様は、お早く馬車でお待ちを。
ここは、私たちで制圧致します。
イリス!」
「配置に付け!一人も抜かせることは許されない。」
エリアが、兵たちを鼓舞する。
呼ばれた、イリスが駆けてくる。
間近でみるエリアに、ここは早く戻った方がいいわね。
そう、思った私は、賊に向けて侮蔑の表情で睨みつける。
「あっ!」
何が『あっ』っだと思った途端に、ざわつきだす盗賊たち・・・。
「もしかして、 何でここに・・・」
まだ何も、始まっていないのに、突然に騒ぎ出す賊たち背を向ける。
「頼む、首だけは勘弁してくれ。
あの時は、言われた通りに、直ぐ帰ったじゃないか。」
何やら、喚き出している。
「ねえイリス、賊の真ん中の人たちは、何を言っているの?
喚いているのって、賊の頭目たちでしょ。」
「ななな、なんでしょうね。
急に気分が悪くでもなったのでしょう。」
『ななな』ってなんだよ。
そんな、馬鹿なことは無い。
いくらなんでも、これは異常だと気付くわ。
「アンジェ様は、お早く馬車へ。」
イリスが、私を急かす様に、馬車へ押し込もうとする。
何もしていないのに、盗賊が崩れている様に見えた。
そこからの、やり取りは馬車に乗ると、見えなく聞こえなくなった。
合流した、ミリー達は緊張している様で、モーラとエルは手を握り合っている。
エリアが、頭目へ近づく
「お前たちは、帝国兵の残党か?
それと、おまえは、あの方を見たのか? 答えろ!」
エリアの怒号とその内容から、頭目は陥落する。
「ああ、俺たちは、元帝国兵で、あの戦場・・いや司令官の近くにいた。
なぜ、ここにいるんだ。
教えてくれ、なんなんだあれは!
俺たちを捕まえる為に、出て来たのか?」
「我々は、別にお前たちを捕えようと出て来たのではないが、見過ごすことも出来なくなった。
我々も、教える事は出来ないし、聞いているのではないか、あの方に。」
『はっ』と青ざめていく頭目たちから、それ以上の返答は無かった。
次々へ捕縛されていく盗賊と、訳が分からず逃げ出す者で一時的な混乱はあったが、エリアとイリスの指揮の元で収拾されていく。
「エリア、こっちは片付いたわ。」
「わっかた。こちらも、もう終わるから待機していて。」
二人は、事後処理で話し合う。
「ここからだと、明日に予定していた村で引継ぎした方が良いわね。」
「なら、今からでも、使いを出した方がいいかしら。」
「もう、陽が落ちるから、明朝にでも出てもらいましょう。
まだ残党が、逃走してから時間も経ってないし、遭えて危険に合わせる事も無いでしょう。」
「そうね。
この規模の残党が、まだいるのかしら?」
「分からないわ。
でも、危険を冒して襲撃してきたのは、私たちの引いている馬車が多かったからでしょう。
これだけの人数だもの、物資を確保しないと直ぐに瓦解するわ。」
「それにしても、知っていたわね。」
「ええ。あれだけ、目立っていたもの、顔まで見られているとは、思わなかったけど。」
「何をしたら、顔を見ただけで、戦意をなくすのかしらね。」
「私たちも、今は余計な詮索は止めましょ。」
「そうね。でも、色々、無理があるわよ。
もう、私、自信が無くて。
だいたい、馬鹿なんじゃないの、あれだけしてバレないとでも思っていたのかしら。」
「仕方ないじゃない。だから、侯爵の所に行くのでしょう。」
エリアとイリスは、ため息を付き、今後の予定を部下たちへ伝えてから、馬車へ呼びに向かった。
「お待たせしました。
もう、出て来ても大丈夫です。」
「やっと、終わったのね。
それで、これからどうするのよ。」
私たちに、予定を伝えて準備に戻る。
私は、盗賊たちの方を見ると、こんなに捕まえて、侯爵領に着くのかしらと思った。
囚人馬車を、手配するにしても、また時間を無駄にしてしまうわ。
もう、イベントなんて起こらなければいいのに。
(そんなフラグを立てると、決まってやってくるからな。
なによ、そんな事、ある訳ないじゃない。
お約束は、必ずやってくるのが、お決まりなんだよ。
馬鹿じゃないの!)
なんか、色々と怒りがこみあげて来たわね。
あいつらせいで
この感情のまま、皆殺しにしてやりたい。
私は、賊が捕らえられている場所へ向かおうとした。
「アンジェ様、どちらへ行かれるのですか。」
「ちょっと、あいつらに制裁を入れてやろうと思って。
魂から、謝罪させてやらないとね。」
「駄目です! 会わせる事は出来ません。
それに、罪は償わなければなりません。
この後の処理は、私たちにお任せください。」
イリスに止められて、抵抗するすべを失った者たちを殺すことに躊躇いを覚える。
そうして私は、ぐっと拳を握りしめながらも、感情を抑えることに成功した。
(それでいい。 この後の事は、アンジェが手を出す事じゃない。
分かっているわよ。 前にも、話したから、でも現実はそうじゃない。 許せない許せない許せない、、、許さない!
気持ちは分かるがって、最後、言い切ったよねぇ。)
仕方がない。 少し頭を冷やして来よっと。
「危なかった。 絶対に、アンジェ様をここに近づけては行けないわ。」
翌日になると、躊躇なくやってやろう的な感情も幾分か治まり、馬車へ乗り込む。
今日は、リヒタル領の外れの村で足止めになる。
エリアたちは、時間がすでに遅れていることを気にして、村では隊を半分に分けて私たちは先行して、ハイド伯爵の元へ進むことにした。
盗賊の頭目たちは、帰っても捕まる可能性があったことで、王国側で盗賊になったとか・・・。
エリアとイリスの取り調べで、吐いたらしい。・・吐いたわけじゃない。
まだ、4日なのに、イベントを2つこなした私は、少し満足していた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




