第五十四話 侯爵領へ2
「お父様~、お母様~。」
私は、皆に見送られて、、出発した。
馬車は、街の大通りに差し掛かると、思いのほか大勢の人たちにも見送られた。
教会の近くで、ふと見たことのある、顔を見た。
控えめに手を振る、少女はサラだった。
出会った頃は、6歳だったがあれから2年、今年の成人の儀で、啓示を授かったそうだ。
しかも、治癒魔法だ。羨ましいなんて、思ってないわ。
そういえば、カールとシンは家の手伝いだったが、セトは領軍で従者として入ったのよね。
これから、訓練を受けていくだろう。何で、入った・・入れたの・・。
エルなんか、目の前にいるし・・・。何があった・・・。
問題は、ジルとリーズね。同い年で、来年なのよね。
みんなで、集まれないかなあ。
なんて、考えていた。
「それで、どれくらいかかるの。」
「まずは、中継地点になるアゼリア要塞へ向かいます。
ここバルムからですと、10日程かと思われます。
更に、侯爵のヘリアンサス城郭都市まで10日程かかると思います。」
「そう、それまでは野営で過ごすのね。」
さっそく、夜が待ち遠しくなる。
(おい、アンジェ。この馬車で2、3時間置きに休憩を入れて10日なら約300kmの旅になる。公爵領までは、約600kmだぞ。
何よ。そんなこと言われても困るわ。遠いって事なの。
東京から青森、広島くらいだな。
分かるかー!それがどうした。
いやね。前の所なら、直ぐだったのに、こんなに時間がかかるんだなあーと。
無いものを自慢して、何になるのよ。馬鹿なの。)
「それにしても、広いわ。
それから、のどかね。
もう、寝いいかしら。」
『ゴトゴト』
馬車の揺れは、座り心地の良い椅子で眠気を誘う。
「何言ってるんですか。
まだ、出発したばかりですよ。」
ミリーは、真面目だな。
「でも、モーラもエルも寝てるじゃん。
きっと、楽しみで昨日は眠れなかったんだわ。」
ウフフ、皆で旅をするなんてね。
胸のペンダントを握りしめながら、外を眺める。
「こらっ、ダメでしょ。
全くもう、早く起きなさい。」
ミリーに怒られながら、目を覚ます二人は、まだ、ぼんやりしている。
『ガタンッ』
急に、馬車が止まる。
「アンジェ様、申し訳ありまりません。
魔物です。暫く、そこでお待ちください。」
来たぁー!
さっそく、イベント発生だわ。
見たい、見たい、見たい。
窓は、破られない様に、板がはめ込められ、馬車の中は暗く、外の音しか聞こえない。
「ねえ、ミリー。ちょっと外の空気が吸いたいのだけど。」
遠回しに、言ってみれば少しだけですよ、なんて。
「駄目に、決ってるでしょう。
何を、言ってるんですか。魔物が出たって言われたでしょう。」
怒られた。
暗く、目が利かなかったが、人の形くらいは分かる程度に慣れて来た。
ミリーと意外にモーラは、落ち着いている様子だったが、エルはモーラにしがみつき声を押し殺している様だった。
暫くすると、イリスから声をかけられた。
「もう大丈夫です。
片付きましたが、後処理をしますので中でもうしばらくお待ちください。」
「見てもいい。」
「いえ、余りお見せするようなものでは・・・」
「いいじゃない、少しお尻も痛くてね。」
今度は、ミリーの静止を振り切りドアを開ける。
「どんな、魔物かなあ。あ、ゴブゴブよね。」
(せめて、ゴブリンって言ってやれよ。
あれは、ゴブゴブだわ。
聞いてない。もうゴブゴブでいいよ。)
なにやら、一か所に集めているようだ。
「ねえ、何をしてるの?」
近くにいたイリスに聞いてみた。
「何で、出てきているのですか。
って、アンジェ様だから言っても無駄ですね。
あれは、他の魔物や魔獣たちが寄ってこない様に埋めているところです。」
「私のイメージじゃ、ゴブゴブ達って夜に出て来る感じなんだけど。」
「そうですね。でも、獲物が取れない飢餓状態の場合は、日中でも襲ってきたりしますので注意が必要です。
余り、強くは無いのですが、数が多かったりするのが特徴です。」
ノブの記憶にある、ファンタジーに出て来るゴブゴブと変わらない。
なんだか、残念な気分になる。
(おいおい、当たりはずれなんかないからね。
これで、時間を取られて腹がたって来たわ。
気の毒な、ゴブ達だな。)
予想通り、ここで小休止になる。
そうか、楽しみにしていたイベントが起こるたびに時間を取られて、到着が遅れる事になるのでわ。
皆も、怪我とかして大変なことになるんじゃない。
(今頃になって、気づいたのか。
嗚呼、なんて残酷なのかしら。私としたことが、うっかりしていたわ。
何時もの事じゃね。)
ミリー達は、落ち着くと出てきたが、まだ少し漂う生臭い臭いに、馬車へと戻ってしまった。
ゴブゴブが、弱いなら少しくらい戦ってもいいかしら。
(アホだな、こいつわ。護衛対象が出て来てどうするよ。)
「ねえ、エリス。
次に、何か出た時に、少しだけ、ちょっとだけ出てもいい。」
「駄目に決まっているじゃないですか!
何を言ってるのですか。さすがに怒りますよ。」
「そこまで、言わなくても。ちょっとだけ、ね、一匹だけ。いや、ひと振りだけでも。」
「簀巻きにして、出られないようにしますよ。」
キッとイリスに睨まれた。
今は、余り怒らせない方が良いわね。
私は、空気を読めるのだ。
(よめるやつは、初めからそんなことはしない。
なんだか、今日は口数か多いのね。もしかして、おのぼせさんなのかしら。
いや違う。言い方も、おかしい。その偏った、言葉の選択はどうにかならんの。
分かったわ、更年期なのね。大丈夫、でもお医者さんにもかかれないわよね。
ストレスだよ!疲れた。)
「そろそろ、出発しますよ。」
エリアが、皆をまとめ始めると私は、馬車に戻った。
暇だ。そうそう、イベントは発生しない事を私は知った。
それもそうね、ここを通る人が危ないもの。
誰も、バルムへ来てくれなくなっちゃうのも困るし。
「今日は、この辺りで野営することにしましょう。」
エリアが、伝えに来る。
出発から、野営まで早い気もするけど、暗くなっては危ないしご飯の準備もある。
初めてのキャンプだ。なんだか、皆でワイワイやるのもいい気分だ。
と思っていた、時期がありました。
エリアからは、騒いで獣や魔物が来たらいけないと言われ、ノブからボソッと、キャンプじゃないと言われた。
「ご飯だけが、楽しみね。」
私は、エリアたちと同じところに座る。
「アンジェ様、こちらへ。」
またもや、ミリーに連れていかれようとする。
「ここでいいわ。
そこまで、特別扱いなんてごめんよ。
皆と話もしたいし聞きたいし、同じ旅をするんだから貴女達もこちらへいらっしゃい。」
ここは、もう譲れないと思ったら、今度は直ぐに受け入れてもらえた。
その基準が、良く分からない。
「お肉ね。臭みは無いけど、淡白な味付けで少し物足りないわ。」
「その日によって、変わったりしますが、パンと干し肉なんて日も珍しくはないのです。
今回は、食材を十分乗せていますし、途中で狩ったり村でも仕入れる予定です。」
「そうなのね。ん、これってゴブゴブじゃないわよね。」
「さすがに、あれは食べ物ではありませんよ。」
エリアが、少し笑う。
護衛の兵士たちにも、話をしながら食事をする。
ミリーは慣れている様子で、モーラは元々が商家のでだし、エルは平民なので直ぐに打ち解けていった。
何故か、私が話をかけると皆が嬉しそうにする?
ちょっと、訳が分からないけど、聞いても私に間近で会えて話が出来ることが嬉しいらしい。
変態か。スープに、汗なんか入れられたら泣くぞ。
まだ、一日目にして不安を覚えながら、眠りにつく。
いつも、読んでもらってありがとうございます。




