第四十八話 開戦1
夜明け前の頃、両翼が敵の横に移動すると中央から前進し正面から攻撃を始める。
しかし、両翼の部隊は予定の半包囲を敷く前に敵の反撃にあい膠着状態に陥った。
中央は、帝国に加勢した捕虜の住居を焼きはらい当初は優勢であったが、獣人兵団に押し返され、進めずにいる。
更に、後方の退路を断つべく本陣からの別動隊を送る予定までも、崩れ戦場は膠着状態に陥る。
「すぐさま、対応されるとは」
「よし、次の手に移りましょう。」
「うむ、魔法師を前進、敵中央に攻撃をかける。」
※※ ※
領都バルムでは、夜明け前に火の手が上がる。
まだ、暗く寝静まっている静寂の街から、悲鳴に似た声が響く。
「アンジェ様、起きてください。」
「どうしたの、こんなに早く・・」
アニーとミリーの声に、目を擦りながら起きると
「大変でございます。
街に、火の手が・・」
「何を言って・・・」
アニーが、カーテンを開けると、そこには
窓から、差し込む、淡い明りに目を疑う。
この明かりは、夜明けじゃないようね。
いったい、何でこんなことに
(おそらく、侵入者でもいたんだろう。
おかしいじゃない、今回の人員は伯爵と家から出しているのよ。
それでも、偽装して侵入することは出来たんだろう。 普通にある事だ。
もっと、検問を強化しておくべきだったの。
もう遅い、今は領民の避難が優先させなきゃ。)
「おそらく、敵の患者による仕業でしょう。
アニー
カルビンとカミラにアベルに、街の人たちの避難を優先しつつ、鎮火の対応に向かわせなさい。」
「ミリーは、私に付いてきなさい。」
急がなきゃ、お母様はどうしているかしら。
「お母様、ご無事ですか。」
「アンジェ様」
「アンジェ」
お母様は、ロッテと窓辺から心配そうに街を見ている。
「おそらく、敵の間者が侵入していたのでしょう。
避難できるように、仕度をしておいてください。」
「そうね
ロッテ、お願いね。」
「かしこまりました。」
私も、急いで準備しないと
「今使わずに、いつ使うのだ。」と
専用の武具を頬ずりしながら取り出す。
緊急事態だものね。
これを使っても、良いわよね。
「何してるんですか。
普通に、気持ち悪いですよ。」
戻って来た、アニーがすかさずツッコミを入れてきた。
日に日に、手ごわくなるわね。
少しくらい、良いじゃないと思ったけど、確かに急いだ方がよさそうね。
「アニー、ミリー、行くわよ。」
「カルビン、状況は」
「火の手が、同時に複数個所で上がっているようでして、消火の人手が足りてない様です。」
「領民の避難を優先に、ここを開放して受け入れなさい。
手の空いている者は、誘導を」
お母様も、そろそろ来られるはずだし、今は出来る事を
「カミラとアベルは?」
「アンジェ様、ここに」
「貴方たちは、鎮火を優先に、残っている者たちをここへ」
「よろしいので
エド様の不在ですが」
「ここで、救わなければ民を見捨てたと言われるわよ。
お父様がいないからこそ、私たちで街を守るわよ。」
「分かりました。
して、犯人はいかがしましょうか。」
「捕らえているなら、監禁でもしてなさい。
まだなら、ほっときなさい。
いずれ分かることでしょう。」
「アンジェ、その格好は」
後ろから、お母様が声をかけて来た。
こんな時でも、嬉しさのあまり、作らせた専用の武具を自慢する。
「ねっ。
いいでしょ。
似合ってるかしら。」
「まあ、今はいいわ。
カルビン、状況の報告を」
「アンジェ様のご指示がありましたので、総出で鎮火と非難の誘導に出ています。
ここを、受け入れ場所にとのことでしたが、よろしいでしょうか。」
「そう
分かりました。
引き続き、頼みます。」
街の人たちが、ぞろぞろとやってくる中、アンジェも手伝いに出ていた。
「それにしても、中々に大変なのね。
それだけ、ここが安全なのだろう」
「アンジェ様、少し休憩を取った方が」
「ありがと、アニー。
けど、まだいいわ。
それより、モーラの姿が見えないようだけど。」
「ええ、モーラ街へ出て誘導を手伝っているところです。」
「へー、あのモーラが」
感心したは、あの子が率先して出るなんて。
「私たちも、出来る事を頑張らないと。」
「アンジェー」
「あら、セトにエル達も無事だったのね。
早く、ここに。」
友たちのセト達は、親と共にここへやって来たようだ。
私は、ミリーに皆の事をお願いすると、アニーと橋のところまで下りて行くことにした。
「誘導は、順調ね。
消火はまだ、大変そうだけど。
ああ、私たちの街が・・」
怪しげな、ローブを被った者たちが見える。
最近、ここへやって来たのかしら。
私は、疑いも無く早くこちらへ、と誘導をする。と
急に走り出しこちらへ向かって来る。
慌てないわよ。まだ、考えれる距離だ。
アニーを下がらせよう。
「アニー、変なのが来る。
少し、下がっていなさい。」
仕方なさそうに、少し下がるアニーを確認すると。
私の専用武器に手をかける。
数は、3人か何とか?
(分からん、相手の技量も分からないし
それでも、守らなきゃ
それは、同意だ)
「一人・・二人・・
たいした相手じゃないようね。」
「アンジェ様!」
一瞬 背後を取られた私だったが、まだ慌てる時間じゃないわ。
切り替えしてやる。
『ズバッ』
私の目の前に、アニーが立ちふさがる。
私は、無我夢中で敵の横腹から剣を突き上げ倒すと・・
眼前に、倒れている・・
なにこれ
私なら、一人で大丈夫だったのに
何故
どうして、アニーが
剣を落とすと
ふらふらと、傍により座り込む
「アンジェ様、お怪我は・・」
血に染まっていく
「大丈夫に決まってるじゃない。
なんで、私を・」
「私の務めですから。」
血の気が引いていく
わたしには、何もできない。
「誰か、救護を 治癒の魔法師を読んでちょうだい。」
「アンジェさ ま 」
「安静にしてなさい。
こんなの、直ぐに治してもらえるわ。」
「よかった、アンジェ・が・・」
(もう間に合わない 最後に聞いてやるんだ
何が、最後よ ふざけるな これからなのよ)
「おねがいが」
地に濡れた手を取ると
「なに なんでもお願いを聞いてあげるから」
「私は、ここまでの・ようです。
マクミラン様へ 申し訳ありません と・・」
「そんなことは 」
いつの間にか、涙が零れ落ちる
ミリー達が駈け寄ってくる
カルビンが、首を横に振る
「アニー、何がしたい。
わたしの全てをあなたへ上げるわ。
だ か ら!
おねがいっ!」
「ミリー・・おねがいね
ア ン ジェ おそばに・・」
とぎれとぎれに、言葉を紡ぐ
「アニー!」
強く手を握りしめる
冷たく力の抜けた体は、わたしの手を離れ
安心したように、眠りにつく
「まだ まだ 言いたいことも
話したいことも たくさんあるのに」
泣き叫ぶアンジェを、誰も止めようとしなかった
やがて、力が尽きたのかアンジェは、アニーを抱きしめながら気を失った。
その時
アンジェの体が光に包まれる
「同調しすぎたせいか。
不快だな、この感情は」
「アンジェ さ ま ?」
「ミリーだったか、この者を綺麗にして
僕が戻るまでは館に」
「アンジェ様、何を・・」
「この場は、任せるよ。
カスタールだったか
直ぐに、使いを
それから、これが一番大事な事
僕の事は
皆に秘密にしておくこと。」
「何を、されるのですか。」
震えながら、ミリーは会話を続ける。
「時間がないんだ。
ゴミを片付けてくる。
直ぐに、戻るから安心して」
アンジェの体が宙に浮くと
背中に、白く輝く羽が現れるとそのまま飛び去って行く。
誰もが、目を疑い
静けさに包まれる中
ミリーは、優しくアニーへ言葉をかける。
「帰りましょう。」
ずしりと重く感じる
アニーは、もう何も語ることなく
ミリーは、頬から流れ落ちる雫をそのままに
二人を見送る
誰もが、かける言葉もなく
いつも、ありがとうございます。




