キメラ化したドグマ
キメラワーム管理室と書かれた部屋。
二人の助手風の男、ぽっちゃり体型の助手Aと
ドグマに良く似たもみ上げのリーゼント無しの助手Bが
帳簿を見ながら試験管の数をチェックしている。
「今日は問題なく帳簿と試験管の数が一致しているね」
「ふふっ・・・嫁認定したぜ、ベイベー」
「何だ、また盗撮した女の子の写真を見てるのかよ」
助手Bが持っている帳簿の上には村人っぽい若い女性の写真がのっかっていた。
「盗撮じゃないぜ、ベイベー。 芸術と言って欲しいぜ、ベイベー」
「芸術ねぇ~、ものは言いようだよな」
●
フクロウのドグマがキメラワームを飲み込んだ翌日の朝。
朝の心地よい気温に温室内に差し込む朝日は今日も何事もなく1日が終わる。
そんな予感でいっぱいである。
ピューィ!
ドグレッタは左手の親指と人差し指で輪っかを作り口笛を吹く。
バッサバッサと羽ばたきながら飛んできたフクロウのドグマは
ドグレッタが真横に伸ばした右腕にとまり、ぴょんぴょんと肩の方へ移動し、
ドグレッタの頬を口ばしでカキカキした。
「ママ・・・ホー、ママ・・・ホー」
ドグレッタはくすぐったい顔をしながら、ドグマを肩に乗せたまま
ゆっくりといつものベンチに歩いていき座る。
ドグマはベンチの背もたれにぴょんと移動する。
そしていつものように紙袋の中に入ったドグマの餌を与えるドグレッタ。
●
「これで何人目だ・・・」
3人の警備隊の男が死体の周りに立っている。
ここ数ヶ月の間に若くて綺麗な女性の惨殺死体が野原に無造作に
置かれてある事件が起こっていた。
今回の死体は首が反対方向にネジ折られ、体中に中殴ったような跡が多数残っていた。
死体の顔を確認する警備隊の男。
死体はキメラワーム管理室で助手Bが盗撮した女性であった。
死体に灰色の布を被せるもう一人の警備隊の男。
「ひでぇ事しやがる・・・」
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フクロウのドグマがキメラワームを飲み込んだ2日目の朝。
いつものように口笛を吹きドグマを呼ぼうとしていたドグレッタは
誰かに見られているような視線を感じた。
パシャリ!とカメラのシャッター音のような音が遠くで聞こえる。
その後、すぐに気配がなくなる。
(何だ、今の視線は・・・まあ、いいか)
ピューィ!
と口笛を吹きドグマを呼ぶドグレッタ。
キメラワーム管理室と書かれた部屋。
助手Bの男が帳簿の上に置いたドグレッタの写真を見ながら頬を赤らめ
「可愛いぜ~、嫁認定したぜ、ベイベー」
ベンチの上にちょこんと座り、膝の上に乗ったドグマの口ばしを
右手の親指と人差し指でつまみ、遊んでいたドグレッタは
悪寒を感じブルブルブルと体を小刻みに震わせた後、周りを見渡した。
「何か嫌なものを感じたが・・・気のせいか」
助手Aはあきれ顔で
「おいおい、そんな小さい子を嫁認定って・・・。
昨日、嫁認定してた子はいいのかよ」
「断られたので殺しちゃったぜ、ベイベー」
助手Aはびっくりした顔になり
「マジ?嘘だろ、殺したって」
「ジョークに決まってるだろ、ベイベー」
●
フクロウのドグマがキメラワームを飲み込んだ3日目の朝。
今日は朝から雷鳴が轟き、どんよりとした曇り空はいつでも雨が降りそうな様子である。
今朝も誰かに見られている視線を感じるドグレッタ。
遠く離れた場所で右目に直径10センチほどの魔方陣を展開し、
両手でカメラを持つようなポーズを取り、シャッターチャンスを狙っている助手B。
「よし、もうちょっと前を向いて・・・今だ!」
パシャリ!魔方陣の下から1枚の写真がプリントアウトされる。
写真を手に取り満足そうな助手B。
「いい感じだぜ、ベイベー」
「もう一枚いくぜ、ベイベー」
と両手を構えた瞬間、背後から音も無く、空から舞い降りてきた大きな鳥が
職員Bの両肩を鷲づかみにし、職員Bを抱えたまま
そのままの勢いで飛んで行った。
ピューィ!
ドグレッタは左手の親指と人差し指で輪っかを作り口笛を吹く。
いつもならすぐに飛んでくるはずだが、今朝は静かである。
1分くらい経ったであろうか。
バッサバッサと大きな羽音を立て何かがドグレッタの前に舞い降りてきた。
ドグレッタの目の前にライオンくらいの大きさに成長したフクロウのドグマがいた。
肉食獣を思わせるような顔つき。口ばしからはよだれが垂れている。
鋭く太い足の先には首の骨が折れている職員Bが鷲づかみにされていた。
職員Bの右目の魔方陣から数枚の写真がプリントアウトされ、床に散らばる。
その中の1枚の写真を拾い上げるドグレッタ。
そこには自分の姿が映し出されていた。
(数日前から視線を感じていたが、犯人はこいつだったのか)
職員Bの右目の魔方陣が完全に消え、職員Bはその場で絶命した。
「ママ・・・ホー、ママ・・・ホー」
(なぜキメラ化している?
体内に仕込んであったキメラワームは取り除いたはずだが)
モニター室でこの様子を見ていたドクター・スロットは
「なぜ、フクロウがキメラ化している?」
(キメラワームは危険なため毎日在庫を厳正にチェックしているはずだが・・・)
後ろを振り返り、助手に指示を出すドクター・スロット。
「今週のキメラワーム在庫チェックを行った者をこの場に連れてきてください」
モニターに向き直すドクター・スロット。
手はず通りではなかったがキメラ化したフクロウを用意することができた。
「さあ、ドグレッタ。どうするかね?」
両目に眼鏡くらいの大きさの魔方陣を展開し、ドグマの体内を観察するドグレッタ。
(ここまでキメラ化していてはもう元に戻すことができないか・・・)
「ママ・・・ホー、ママ・・・ホー、ママ・・・」
グアシャアアアア!
と口ばしを大きく開けドグマは死体となった職員Bの首に噛み付き、
頭部と胴体をねじ切った。
そして頭部の脳天に口ばしを突き刺し持ち上げる。
ドグマの胸の中央辺りから3本のミミズのような触手が
ニョキニョキと生えてきて職員Bの頭に絡まると職員Bの頭部を
胸の真ん中へ取り付けた。
モニター越しに様子を見ているドクター・スロットは
「ふむ、第二段階に移行しているね」
キメラワームは体内に入るとランダムに遺伝子を書き換える。
そして一般的には大型化し凶暴になる。
これが第一段階である。
キメラ化がある程度終了すると、今度は別の固体を取り込み
更なるキメラ化を進めようとする。別の物体に襲い掛かり
キメラ化に必要な部位を取得するのである。
これが第二段階である。
10秒ほど時間が経過するとキメラ化したドグマは体を小刻みに振るわせた。
そして、職員Bの頭部の目が開く。そして一言
「ママ、ベイベー」
その言葉を聴いたドグレッタは眉間にしわを寄せて言うのであった。
「お前の顔でママって言うな、気持ち悪いんだよ!」