ドグレッタという生き物
鉄が溶解したときのように真っ赤になった
顔はパンダ、体はヒューマンだがパンダ柄の細マッチョこと
デストロイヤーと距離にして100メートルほど先で
対峙する魔王親衛教会の五将星の4人。
「破壊こそ全て。破壊こそ創造」
ゆっくりと五将星の方へ歩いていくデストロイヤー。
デストロイヤーから見て、
体の真正面にリフレクトシールドを構えたドグロック。
ドグロックの右後ろにスターライトランスを左手に持って
ドグレッタに引きちぎられそうになった右のもみ上げを痛そうにさすっているドグマ。
ドグロックの後ろにケンタウロスのドグザーヌが
ドグマと反対方向に人間の体の部分を向け
顔だけデストロイヤーの方向へ向けている。
馬の部分の背中にはフードのついた白い司祭服を着た
身長130センチ、小学3年生くらいの女の子、ドグレッタが乗馬している。
(6人目・・・ドグザリオン投入前にあやつを捕獲せねば・・・)
「ドグザーヌ。降ろしてくれ」
「はい、お母様」
ドグザーヌは上半身をドグレッタの方へひねり、両手で抱え
ドグレッタを丁寧に地面の上に置いた。
リフレクトシールドを構えたドグロックの右へ横並ぶドグレッタ。
デストロイヤーが巻き起こした火災旋風で
ドグレッタの髪の毛が後ろの方向へなびく。
「お母様、熱いですから私の後ろに隠れてください」
「ここで構わん。今から私の魔法でやつを急速冷凍する。
ドグマ、冷凍したらのお前の槍であやつの足を貫け」
「OK~ママ~、ベイベー」
眉間にしわを寄せて右手拳を肩近くに上げプルプルと震わせながら
ドグマを睨みつけるドグレッタ。
「今度、ママって言ったら、あやつに掛ける前に
私の魔法でお前を急速冷凍してやるからな!」
ひぃぃぃ~という顔になり両手をもみ上げにあてガードするドグマ。
「何で俺だけいつも怒られるんだぜ、ベイベー」
海の中から念話で参加する白いイルカのドグミーナ。
「ピュロロヒュロ(ふふふ、お母様とお兄様のこのやり取りは
いつ見ても飽きませんね)」
「本当よね、ドグミーナ。あなたもそう思うでしょ、ドグロック」
「私にはわかりません、姉上」
「全く、面白くない男ね・・・」
「よく言われます、姉上」
なぜ、五将星の面々はドグレッタのことをお母様、と呼ぶのか。
そしてドグマだけママ、と呼ぶのか。
●
80年前のことになる。
人里離れた山奥の洞窟内。
洞窟内はよく整備されており、地面は平らに整地されていた。
通路の天井には等間隔に明かりが灯っている。
身長170センチ。細身、栗毛にオールバック。
上も下も科学者のような白い服。
黒い革靴を履いている男性が一人、両手を後ろ手にして通路内を歩いている。
多目的トイレのドアくらいの大きさの重厚な作りの鉄の扉の前に立つと
右手の平をドアにあて
「全ては魔王様のために」
カチャという音が鳴ると、スウゥ~と無音で右側に収納されていく鉄の扉。
中へ入っていくオールバックの男性。
10メートルほどの通路を通っていった先には
天井の高さが10メートル、床の広さはテニスコートほど空間があった。
通路とは違い薄暗い空間の奥の中央には高さ4メートル、直径2メートルの
円筒形の透明のタンクがあり、中はピンクの液体で満たされていた。
タンクの下には高さ1メートルの台座があり、
台座からは直径30センチの管が3本、扇状に伸びており、
勉強机くらいの大きさの装置3台につながっていた。
タンクと装置の間の床には無数の線が乱雑に散らばっている。
部屋に入ってきた男性と同じ科学者のような白い服を着た男性3人が
淡々と装置を操作している。
装置からの明かりが3人の男性の顔を下から青白く照らしている。
装置の間を通り抜け、床の配線を気にせず踏みながら
タンクの前まで進むオールバックの男性。
ピンクの液体の中には膝を抱えて逆さまになっている
ドグレッタに良く似た全裸の少女がタンクの中ごろで浮かんでいた。
タンク越しに少女を見上げる両手を後ろ手にしているオールバックの男性。
「1万体目にしてようやく生成に成功したとは・・・」
オールバックの男性はタンクに背を向け静かに告げる。
「液体を抜いてくれ」
ポコ、ポコポコポコとタンクの下から泡が発生し、
ピンクの液体はタンクの下から抜かれていく。
直径30センチの管からは洗濯機で水を抜くときに聞こえる
ゴゴゴゴという音が聞こえている。
完全にタンクの中のピンクの液体が無くなると
ビーっという音がした後、カチャというロックが外れる音がして、
ウィィィンというモーター音とともにタンクの透明部分の筒が上方向へ上がっていく。
タンクの底の台座に横たわる全裸の少女。
「ゴボゴボっ・・・うう」
台座に備え付けられた4段の簡易的な階段をゆっくりと登っていく黒い革靴。
「・・・うがぁあ・・・ゴボ」
口からピンクの液体を吐き出す全裸の少女。
ゆっくりと目を開けると黒い革靴が見える。
顔だけを動かし見あげるとぼんやりと人影が見えた。
人影はゆっくりとしゃがんで近づいてくる。
人影の顔だけがはっきりと見えたとき
「やあ、ドグレッタ。
私の名前はドクター・スロット。
人の言葉は理解できるかな?」