プロローグ
雷鳴とカラスの鳴声、そしてコウモリ。
絵に描いたような魔王のお城の中で日差しが差し込む不思議な中庭がある。
広さはテニスコートほどであろうか。
赤に黄色と色とりどりの花が咲き、
手入れの行き届いた木々は緑の葉が茂っている。
緑の芝生の上には幅2メートルの石畳の十字の通路があり
十字の中央には直径3メートルほどの石畳の円がある。
西洋風のお庭ではあるが、石畳の円の上に置かれているものは
時代劇の茶屋などで見かける大きな赤い番傘のパラソルに
赤い布を被せた長方形の椅子。
西洋風のお庭に日本風の茶屋セット。
そして赤い布を被せた長方形の椅子に座ってお茶をすすっているのは
「やはり緑茶が落ち着きますね」
魔王城の管理人にして魔族最古の5人の一人。
犬神家のスケキヨの白いマスクにタキシード姿。
身長180センチ、しゃがれ声の恵比寿丸である。
両手を添えた湯のみをゆっくりと口元へもっていこうとした手が止まる。
赤い布の上に湯のみを置き
「おや、お客様のようですね」
左右から伸びる半円状の階段の上には
魔王っぽい衣装を着た顔の見えない男性の大きな肖像画。
大きな玄関ホールの観音開きの重厚な木製の扉を開けて駆け込んできたのは
「助けて欲しい、ニャー。変なのに追われている、ニャー」
お客?を出迎える恵比寿丸。
「これはキャッツ殿、いかがなされましたか?」
駆け込んできたのは、おはようからおやすみまでミュージカルを強要する悪法
国家総動員ミュージカル法
を制定したブロードウェイウェイ国の国王にして魔族のキャッツ国王であった。
ドーン!という音が観音開きの扉の外で聞こえる。
砂埃の中から現れたのは
「破壊こそ全て。破壊こそ創造」
顔はパンダ、体はヒューマンだがパンダ柄の細マッチョ。
「あいつしつこいんだ、ニャー」
恵比寿丸の後ろに隠れるキャッツ国王。
魔王城の中へ入ってこようとしているデストロイヤーに
「魔王城の中へ入ってくることは許可できません。
一旦そこでお待ちになってください」
ゆっくりとした足取りで近づいてくるデストロイヤー。
デストロイヤーの左足が魔王城の玄関ホールに入った瞬間
目の前には瞬間移動したのか恵比寿丸が立ってた。
「我はあの男が持っている小さな管に興味があるのだ」
右足を踏み出し中へ入ろうとしたデストロイヤーは
強力な磁石の反発にあったかのように
もあ~んと20メートルほど吹っ飛ばされる。
「一旦そこでお待ちになってください、と申したはずですが」
「それは愛か?」
「いえ、それは警告です」
玄関の外に出る恵比寿丸。その20メートル先にはデストロイヤー。
ズガガガガーン!という大きな音とズズズズンという地響き。
赤い布の上に置いてある湯のみが倒れ、飲みかけの緑茶がこぼれる。
コロコロと赤い布の上を転がり、地面に落ちて割れる湯飲み。
この戦いを間近で見ていたキャッツ国王は後日、こう語った。
「いや~恵比寿丸ってあんなに強かったんだ、ニャー」
この物語は魔王城の管理人こと恵比寿丸と
顔はパンダ、体はヒューマンだがパンダ柄の細マッチョことデストロイヤーの
魔王城史上最高と言われた戦い
の話ではなく、ダンジョンの深層部へ落ちていき行方不明になった男
職業 吟遊詩人固定、
レニー・グラディウス 15才のお話です。