35. ノノ
邪魔な従者を、倒すため。
車を持ち上げた私は……。
がけっぷちでよろめいて、谷底に落ちそうになった。
いかにも、女の子らしく。
つい、うっかりドジをして、うっかり死にかけた私は。
愛し合う二人の仲を、邪魔しようとしてた従者に……。
がけっぷちで、押し倒された。
主人にタックル、かました奴は。
レディの上に乗ったまま、なぜか逆ギレし始めた。
「……あなたは、何をやってるんです!!
いくら、ゴリラだからって、車を武器にするなんて……。どこまで、ゴリラなんですか!?」
小さなドジをした、レディは。
ほっぺをかいて、ごましした。
「えへへへへ……。
いやぁ~。まあ、ぶっちゃけて言うと……。
いけるかなーと思ったんだけど。
ちょっと、無理だったみたいね。
だから、まあ……。
なんつーか、その……。
手間かけさせて、悪かったわね?」
そう言って。
私はそっと、腕を伸ばすと。
……従者の肩に、やさしく触れた。
従者の肩が、ピクッと動き。
私のたおやかな、右手は……。
一瞬で、ふり払われた。
思春期まっさかりな、奴は。
顔をプイッと横に向け、私から目を背けると。
不機嫌そうな顔をして。
なぜか、言い訳し始めた。
「かん違いしないでください。
おれは、ただ……。
お二人の安全のために、あなたにタックルしただけです。
あなたみたいな頑丈な人が、ケガをするとも思えませんしね」
……とか、なんとか言っちゃって。
怒ったような顔、してるけど。
ほっぺたは赤く、なってるし。
口元はちょっと、ゆるんでて……。
ぶっちゃけ、ちょっと、うれしそう。
あくまで、素直じゃない奴は。
ぶつぶつ説教しくさったあげく、わけの分からんクギを刺す。
「……そういうわけで。
あなたにタックルをしたのは、おれの仕事の一環であって……。
あなたのためじゃ、ありませんから」
私は、あきれを押し殺し。
大人のお姉さんらしく、お子様の労をねぎらってやる。
「……ううん。
あんたが助けてくれなかったら……。
私、崖から落っこちて、車と一緒に燃えてたわ。
だから私ね、本当に感謝してるのよ?
……あんたの甘さと、バカさにね!!」
「……えっ?」
私は従者を、突き飛ばし。
ゴロリと横に、転がった。
……よしっ! 間一髪!
従者の肩にくっついた、木の実のカラが、パキッと割れて。
ーー緑のツルが、ふき出した。
一人で照れていた、従者は。
今さら、私の狙いに気づき、あわてて木の実を取ろうしたが。
気づくのが、遅すぎた。
太くてウゾウゾ、うごめくツルは。
従者の細い胴体を、ギリギリギリッと、しめつける。
生意気な従者の顔が、苦痛と屈辱にゆがんで。
ジタバタあがく、抵抗も。
……きれいさっぱり、ムダになる。
触手みたいな、木のツルは。
ボワッと、白い煙をふくと。
鎖と南京錠に、変わった。
鎖で縛られた、従者は。
なすすべもなく、地面に倒れ。
頭のよすぎる令嬢を、殺意に満ちた目で、にらむ。
ウンザリするほど、ウザかった奴の。
無様な姿を、見下ろして。
おしとやかすぎる令嬢は、お嬢様らしく、あざ笑う。
「オーホッホッホッホッホ!!
でっかい口を叩いた割には、ずいぶんあっさり、やられたもんね。
ほら、鏡で見てみなさいよ。
今のあんた……まるで、イモ虫そっくりよ?」
イモ虫みたいな、従者のガキは。
お嬢様の言いつけに、背き。
生意気な目で、私を見上げた。
……ほほぅ。
チビ、貴様……。
この状況で、まだ逆らう元気があるのか。
なかなか、見上げた根性じゃねえか。
機嫌のよくなった私は、家来にほうびをくれてやる。
「冥土のみやげに、教えたげるけど。
そいつはあのクズ特製の、『マジカル☆ブービートラップ』よ。
あんたみたいな貧弱な奴にゃ、絶対、そいつは壊せないから。
……残念だけど、これで終わりね。
やっぱり、勝つのはこの私!
たかだかモブの分際で、この私にタテ突こうなんて……。
たくさん光年、早いのよ!!」
全身を縛られている従者は、意味不明なキレ方をした。
「光年は時間じゃないって……。
何度言ったら、分かるんですか!?」
「……はぁ? あんた、なに言ってんの?
光年つったら、時間でしょ。
そんなことも分かんないなんて……。
あんた、ひょっとして、バカなの?」
「光年は、時間じゃなくて、距離ですよ!
そんなことも分からないから……万年・赤点なんですよ!!」
まったく物を知らない奴を、私は華麗にスルーして。
ロミオとジュリエットを、つかむ。
「さぁーてと。
ウザい奴は、お片付けしたし。
あとは、あんたたち二人ね」
私に持ち上げられた、殿下は。
ととのった顔を、青ざめさせた。
「……待て、ロザリンド。まさか、お前……」
「……あら。
ボケッとしてるあんたにしては、めずらしく察しがいいわね。
乗りかかった船だから、向こう岸まで行かせてあげるわ。
つーわけで。
受け身はちゃんと取りなさいよ!」
「ギャーー!!!!」
私は、かけ落ちカップルを、崖の向こうに、放り投げると。
二人の無事を確認し、「サッサと行け」と手で示す。
ダチは笑顔で、うなずいて。
私にペコリと、お辞儀をすると。
ヘタレ野郎の手を引いて、式場の方へ向かって行った。
私はダチを、見送って。
……ほんのちょっぴり、しんみりすると。
グルグルにしばられて、身動きとれなくなってる従者に……真正面から向き合ってやる。
「さぁーて、どうしてくれようかしら?
あんたには今回も、さんざん邪魔されまくったものね。
それに、日頃のイライラも、空の上まで積み上がってるし。
まずは、このハイヒールで……。
思いっ切り顔を、踏みつけてやるわ!!」
しかし、私の高いヒールは。
……地面にグサリと、突き刺さり。
踏まれてるはずの、クソガキは。
自由の身になって、立ってた。




