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【第一部・完結】ゴリラじゃなくて、ご令嬢! ~~ 元ヤン悪役令嬢の、即死しそうな乙女ゲーライフ ~~  作者: 牧野ジジ
第3章 〜〜 大国の皇太子さまを好きになったけど、身分違いなので、あきらめます! 〜〜
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21. ノノ


執事のジジイが、いなくなり。


私は大好きな王子と、二人っきりになってしまった。


恋愛経験・豊富な私は、いさぎよく腹をくくって、シャンパングラスを、ひっつかむ。







……とにかく、酒よ。

酒を飲むのよ。


酒で緊張、まぎらわすのよ。



グラスに入ったシャンパンを、グビビと一気に飲み干して、ボトルに手を伸ばすと。


スカッと、空ぶりさせられた。






「君に、ワインは注がせないよ。

これは男の仕事だからね」


ミハエル様はそう言うと、私のグラスにシャンパンを注いだ。

金色の液体を、私は食い入るように見た。


プライスレス……!

王子に注いでもらったシャンパン……!!






王子様の美しい手が、イチゴの乗ったカゴを差し出す。


「これを、一緒に食べるといいよ。

互いのよさを、引き立てるからね」


私はお言葉にしたがい、イチゴを一つ、手に取ると。

ポイッと、口に投げ込んだ。






……なに、このイチゴ!?


めちゃくちゃ甘い! しかも、ジューシー。

こんなの、食べたことないわ。

どれ、もう1つ……。


私はイチゴを、ムシャムシャと食った。

王子は、楽しそうに見てた。






「気に入った?」

「めちゃくちゃ気に入っちゃいました」


「そう、それはよかった。

リチャードくんが聞けば、喜ぶね」






私は、イチゴを皿に落とした。


「まさか……。

このイチゴって……」


王子様は、優雅に言った。

「お察しの通り、リッチマン商会のイチゴです」





……なんて、けがらわしいイチゴ!!







メガネの会社の、果物なんて……。

食べたら舌がくさって、とけるわ。


でも、もう半分、食べちゃったし。

社長が悪人だからって、食べ物に罪はないんだし。





……いやいや、でも。

でもでも、だって!!


リッチマン商会なんて、今すぐ消えてなくなるべきだし。


あいつがデキる奴なんて、死んでも認めたくないし。






正義と食欲のはざまで、私が、もだえ苦しんでると。


王子がイチゴを、ヒョイッとつまんだ。

そして、そのまま「あーん」してきた。


「……ひょえっ!!」


私は抵抗しようとしたが、ドSな王子は容赦なく、イチゴで唇をつっつく。





……あああん! やめてっ!! 誘惑しないでっ!!


この戦いは絶対に、負けちゃいけない戦なの。

イチゴがうまいと認めたら、メガネに負けるのと同じなの。


私は、公爵令嬢よ!

たとえ、王子が相手でも……私は、ほこりを捨てないわ!!






ーーそして、1分後。

私は、イチゴを完食していた。


「おいしい?」

「おいしすぎて、屈辱です……」






……ぐすん。

王子様には、勝てなかったよ…。


王子様が、クスッと笑った。

「少しは、緊張がほぐれた?」






私は、からくりに気づいた。


王子は私の緊張に、とっくに気づいてらしたのだ。


だからメガネの話題をふって、怒りで気分を紛らわしたのだ。






「……そういうことだったんですの。

私の頭の中なんて、全部、お見通しですのね……?」


王子は、空々しく言った。

「まさか。君といると、驚かされることばかりだよ」



……ウソばっか。

この人、ほんと、ウソばっか……。







ウソの大変お上手な方に、私は、かわいく嫌味を言った。


「あら。調子のいいこと、おっしゃいますのね。

フィアンセの私の他に……好きな女がいらっしゃるくせに」


王子は、軽くあしらった。

「誤解だよ。サクラちゃんは、ただのクラスメイトだ。

君が心配しているような、おかしなことは何もない」






「……さあ、それはどうかしら?

あなたは、ウソがお上手ですもの。


裏では、何をなさってるのか……。

分かったもんじゃないですわ」






王子は、子供をあやすみたいに、大人の余裕をにじませて言った。


「はいはい、姫のおっしゃる通り。

ぼくは、とんでもない男ですよ。


……ところで、レディ。

カクテルはいかがですか?」


「…………。いただきますわ」





やたら香りのいい酒を、私はヤケになって、ガブ飲んだ。


続けて、さらに4杯目。

5杯目、6杯目と飲んだ。


ーーそして、気がついた頃には。

ベロベロに、酔っぱらってた。






私は、グラスをテーブルに置いた。

「……プリンス! もう1杯っ!

この店で、一番強い酒をくださいなっ!」


王子様は、水をよこした。

「それぐらいで止めておいたら?」


「だぁ~って、……ヒック!

こんな状況、飲まなきゃ、やってられませんわよぅ……」




「何がそんなに、悲しいの?」





私の胸が、チクリと痛む。


ヒリヒリ後を引く痛みを、私は感じてないフリをした。

「なんのことだか、分かりませんわ。

私、べつに悲しくなんか……」


ウソつきな王子様は、甘く、やさしく、ささやいた。

「ぼくでよければ、話を聞くよ?」






私は、フィアンセを見つめた。


明るい色の金髪は、ロウソクの火に照らされて……。

ほんのり、オレンジがかって見える。


奥に鋭さを秘めた、エメラルド色の瞳は。

いつもよりも柔らかくって、不思議な色彩を帯びてる。





あんまり、きれいな微笑みに。


何もかも全部、投げ出して……。


心をゆだねて、しまいたくなる。







私は誘惑をはねのけ、勇気を出して、酒に逃げた。


「いいから、酒をくださいな!

私のちっぽけな悩みなんて、なかったことに、しちゃいますから」


「やれやれ、仕方ない人だなぁ……」






王子はグラスを手に取ると、青いカクテルを作った。


うれいを帯びた青色に、私は思わず、目を奪われた。


……なんて、きれいなのかしら。

ロウソクの丸い光が、グラスの底に沈んでて……水に映ったお月様みたい。






なんとなく泣きたくなって、ごまかすように手を伸ばすと。


王子に、グラスを奪われた。






「あっ! 私の酒……!!」


キングストンのプリンスは、お客の苦情を、完全にシカト。

静かなバーでくつろぐように、お酒を味わってらっしゃる。


私は大切なものが、目の前で奪われてくのを……指をくわえて見てるしかない。





ミハエル様の、右手は。


しなやかで優美な感じで、指がすらりと長くって。

だけど、灯りに照らされて。

手の甲の血管や、骨が影になって、浮き出てて。


こう言っちゃうと、アレだけど。

……なんだかちょっぴり、色っぽい。






王子様が、クスッと笑った。


「……君は一体、どこを見てるの?」







私は必死になって、ごまかす。


「別に、どこも見てませんわよ!?

もし、見てるんだとしたら……。


……そうっ!

星空を、見てるんですわ!!!!」






「今日は、くもり空だけど?」


「夜景! 夜景の間違いですわっ!!


……っていうか、ミハエル様。

レディのあげ足とるなんて、紳士的じゃありませんわよ!?」






王子はレディのクレームを、紳士的にスルーして。


タンスの奥につめこんだ、私の密かな憂鬱を、明かりの下に引き出そうとする。


「……そろそろ、自分に正直になれば?」






私は、王子様から、目をそらし。


ヒザに置いてるナプキンを、テーブルの下で、ギュッと握った。


「だって、こんなこと……。

あなたに言っても、しょうがないですわ」






「ぼくは君のことが、好きだよ。

悩み事があるのなら、話を聞いてあげたいし。

ぼくに出来ることがあるなら、君の力になりたいよ」


ヒザの上のナプキンが、ますますグチャグチャになった。

「ほんとにそうなら、うれしいですけど。

……信じたくても、信じられません」






ミハエル様の瞳が、スッと鋭さを帯びた。


真っ暗な海の底を……一条の強い光で照らして。

貝の中に隠された、真珠を見つけだすように。


エメラルド色のまなざしが、私の瞳を、まっすぐ射抜く。





王子は暴力的な知性で、私の心を暴こうとした。


私は何も悟られまいと、必死に彼の視線を避けた。

しかし、探偵の頭脳は、全てを容赦なく暴いた。


「……なるほど。それが君の気持ちか。

だったら、証拠を見せようか?」


「えっ?」






冷たい頭脳の持ち主は、とても端正に笑った。


「君の仕事に、手を貸すよ。

ルシフェル殿下と、サクラちゃん。


この二人を、ぼくが結婚させてみせよう」






ーー突然の、急展開に。


甘くとろけてた、ムードは。

サスペンス的に、ピリリとなった。









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