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21. ノノ


私の愛のムチをくらって、死ぬ気まんまんだった詩人は……もうちょっとだけ、生きてみる気になったみたいだ。





詩人の心をケアした私は、厄介なボスの待つ、裏山に向かって走る。


ーーだが、しかし。

ゴールの山へと続く道路は、大渋滞を起こしてた。





気の狂った大勢のアンと、気の狂った数人のトムが、ゾンビパレードをくり広げてる。


私は剣をふり回し、道をきれいにお掃除したが、頭のおかしいモブどもは、次から次へと、わいてくる。




……くっそう。

こんな手間どるんだったら、やっぱり火炎放射器も、一緒に持ってくればよかった。

ちょっぴり後悔していると、気持ち悪いオッサンが、抱きついてきやがった。

フーフー言ってて、まじキモい。


あやうく頭を割りかけたとき、詩人の情けない声が、後ろの方から飛んできた。

「……ごめんなさいっ!」


ポコッと軽い音がして、オッサンの顔に、詩人の投げたミカンが当たる。

オッサンは私から離れ、落ちたミカンを拾い上げると、なぜか皮をむき始めた。

近くにいたアンたちは、オッサンのむいてるミカンを、なぜかじーっと見つめてる。


放置された屋台のミカンを、吟遊詩人が次々投げる。

すると、1匹、また1匹と、ゾンビがミカンに手を伸ばす。

腹をすかせたゾンビどもに、私は屋台ごと投げてやる。

「ランチタイムのサービスだ! 仲良くみんなで食べやがれ!!」


ゾンビたちは輪になって、仲良くみんなで食べ始めた。

ストーカーの海が裂け、細い道が現れた。


「ナイスアシスト!!」

私が右手を高く上げると、詩人は弱々しく笑い、遠慮がちにハイタッチした。




ーーーーーーーー

私は右手に剣を持ち、背中にミカンの袋をかつぎ、後ろに詩人を引き連れて、道なき道を、突き進む。


詩人が、ミカンを投げながら言う。

「……その貯金箱さえ壊せば、みんな正気に戻るんですね?」

「そうよ。あと、あのブタも……」

「……ブタ?」

「あっ。……いやいや、別にっ!!

今のはほんと、何でもないわよ?」


「でも……。いま、確かに『ブタ』って……」

「ほら、あそこで暴れてるオッサン、ブタみたいでキモいでしょ。あんな風にならないように、ちゃんと運動しなくちゃね」

「はぁ……」

詩人は納得したらしく、ミカンを投げる作業に戻った。


……ふぅ。

今のは危なかったぜ。

あのブタのこと教えたら、こいつ、また「死ぬ」とか言い出すからな。


こいつに教えてやったのは、ストーカーの「恋のおまじない」が、ゾンビパニックの原因なこと。

それと、貯金箱を壊せば、ゾンビが正気に返ること。


3時を過ぎたらアウトなことも、ブタが強くてマジヤバいことも、吟遊詩人一人が死ねば、全部丸くおさまることも、しゃべらないで伏せてあるのだ。


詩人は突然、時間を聞いた。

「今、何時ですか?」

私は時計に目をやった。

……予定よりも、進みがおそい。

このペースでは、間に合わない。


私はその場にしゃがみこみ、ガリガリ野郎に確認をした。

「あんた、車酔い大丈夫?」


「えっ? あの……。それはどういう……」

「私の肩に乗せてやるから、あんたはミカンを投げてなさい」

詩人はなぜか、ためらった。

「でも……。

女性にそんなことをさせるわけには……」

「あんたの足がおそいのよ!

こんなチンタラ走ってたら、ゴールするのがおそくなるでしょ! いいから、言うこと聞きなさい!!」



詩人は複雑そうな顔をしたが、意外と素直に従った。

「……すみません。失礼します」

申し訳なさそうに言うと、私の肩に乗ってきた。


……うおっ。

こいつ、マジいい匂い。男のくせに、なんてフローラル。

肩に触れる体温と、華奢な体の感触と、甘い匂いが脳を揺さぶる。

私はちょっぴりクラクラしたが、強い心で誘惑に勝ち、しっかり正気をキープした。


そのまますくっと立ち上がると、詩人が心配そうに言う。

「……重くないですか?」

「ミカンよりも軽いわよ。

こっからはちょっと飛ばすから、しっかりしがみついてなさいね」


私は詩人とミカンをかつぎ、ハイスピードで走り始めた。




ーーーーーーー

その凄惨な光景を、私はあぜんと見つめてた。

目の前には、高い崖。

乗るはずだったロープウェイは、ものの見事にぶっ壊されてる。


……おい、ロープウェイ壊したアン。

何もしないから出てこいや。大人しく出てきたら、今すぐブチ殺してやるぞ?


詩人の絶望的な声が、肩の上から聞こえてくる。

「そんな……。まさか、こんなことって……」

私は怒りと焦りをおさえ、何でもないフリをしてやった。

「なに情けない声、出してんのよ。

ロープウェイが使えないなら、手と足、使って登ればいいでしょ」

「でも、時間が……」

「こんなボロいロープウェイより、私の方が早いわよ」



詩人は、時計を盗み見ようとする。

「……いま、何時なんですか?」

私は時計をサッと隠して、明るい声で言ってやる。

「時間ならまだ、余裕があるわよ。何なら、ここで一休みしてく?」

「タイムリミットはいつなんですか?」

「大丈夫だって言ってるでしょ。

それより、ちゃんとしがみつきなさい。あんた、落ちたらケガするわよ?」


アホはロクでもないことを言う。

「……本当に間に合わないと思ったら、遠慮なく置いて行ってください」


私は、肩を揺すってやった。

詩人はあわてた声を出し、ギュッとしがみついてきた。






ーーーー

私は崖をよじ登りながら、ふっと、後ろをふり返り……自分の住んでる、町を見た。


町がゾンビでいっぱいになって、もう1時間ぐらい、たつ。


ミハエル様は……きっと、ご無事なはずだけど。

親父とサクラは、大丈夫かしら……。





「……ロザリンド様?

どうか、なさったんですか?」


詩人に声をかけられて、私はハッと、われに返った。





詩人は、心配そうに言う。

「ひょっとして……。

どこか、おケガをなさったんですか?」


「……なんでもないわ。

ただ、ちょっとボーッとしてただけ」


私はなんでもないと笑って、ふたたび崖を登り始めた。






……ペースは、かなり遅れてる。

正直いって、間に合うかどうか、ギリギリだ。

この崖を急いで登って、それから、あの山道を、5分で登れば、なんとかなるか……?


もしゴールにつく前に、3時の鐘が鳴り始めたら……。…………。


……いいや。余計なことは、もう考えない。

とにかく、今は少しでも早く!

1分1秒でも、早く!!





死ぬ気で手足を動かして、私は崖を登りきり、サッと時計に目を走らせた。


……うそっ。もうこんな時間!?

これじゃ、3時に間に合わない。


人のあせりをスルーして、背中で詩人が暴れ出す。

「ちょっと! あんた、何やってんの!

大人しくしてなさいったら!!」

詩人は、ジタバタともがいた。

「ぼくは、一人で平気ですから……。

早く、先に行ってください!」


「あんた、なに言ってんのよ!! あそこのゾンビが見えないの!?」

「ぼくには、ミカンがありますから!」

「ミカンはとっくに、なくなったでしょ!」

「……ポケットに、まだ入ってます。あそこの群れは、なんとかなります」


「どんな巨大なポケットなのよ!

口ゲンカしてる場合じゃないでしょ!? もう時間がないんだから!!!!」

「……なら、先に行ってください!」


……ああああ~~っ!!

もうっ!!

イライラするっっ!!!!


こんだけ必死にがんばってんのに……。

なんで、こんなに上手くいかないの!?


大体、こいつもこいつでしょ。

助けてやるって言ってんのに、なんで言うこと聞かないんだよ。

元はと言えば、この騒動……全部お前のせいなんだぞ。


詩人が懺悔するように言う。

「こんなことになったのは、全部ぼくのせいなんです。あなたは本当によくしてくれました。

……だから、早く行ってください!」

私は、声をはり上げた。

「そんなこと、出来るわけあるかっ!

それ以上バカなこと言ったら、私があんたを殺すわよ!!」


「あなたに殺されるなら、何も文句はありません。

もう時間がないんでしょう?

いいから、早く! 行ってください!」

「うっせえ! 黙れ!! 大人しくしろっ!

ほんとに間に合わなくなるだろうが!!」


ーーゴーン、ゴーンと。

やけに大きく響く音色が、私の鼓膜をつき刺した。


処刑台の鐘の音が、タイムリミットを知らせた。






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