18. ノノ
ニセの殺害予告を送って、城の警備を強化させ。
推しの生存確率を、ちょっぴりアップさせた私は。
世界で一番美しい顔を、黒い覆面でかくして……モブのおうちに押し入った。
「……強盗よ!
この家にある、貯金箱を出しなさい!!
住民のトムはふるえ上がって、金目のものを差し出した。
「……よし!
金目のものは、これで全部か?」
「はい!
この家にある金目のものは、これで全部です!!」
私はトムのほっぺたに、大剣をピタピタ当てて、強盗らしく念を押す。
「……本当に本当だよな?
床下に、ヘソクリとか隠してないよな?」
なんの罪もないトムは、ブルブルふるえて、命ごいした。
「本当に、本当です!
ですから、どうか……命だけはお助けください!!」
私はトムの財産を、サッとすばやく物色し。
大剣を、ふり上げた。
「……ひぃっ!!」
トムの悲鳴をスルーして、私は自慢の大剣で、貯金箱を叩き割る。
「……へっ?」
「邪魔したわね!」
「えっ、あの……。
お金は?」
「貯金箱さえ割っちゃえば、この家にもう用はないから。
次の民家を、襲いに行くわ!」
トムは、ポカンとして言った。
「えっ……。
あっ、はい……。そうですか。
いってらっしゃい」
一番はしっこの通りを、強盗し終わった私は、さっそく次の通りに進み。
中華っぽい看板のある、あやしい店に押し入った。
ーーーーー
「……強盗よ!
貯金箱を出しなさい!!」
チャイナドレスの店員は、ニコニコ愛想よく言った。
「お客さん、いくつ欲しいアル?」
「……この店にある貯金箱、全部だ!」
チャイナドレスの店員は、ぱっちりとした目を見開いて、とっても機嫌よさそうに言った。
「……あいやー!
お客さん、太っぱらアルね~。
さあ、さあ!
そこに座って、待ってるヨロシ!
すぐに、商品もってくるアル!!」
そう言うと。
チャイナドレスの店員は、ウキウキしながら、奥にひっこみ。
ガラガラとカートを引いて、貯金箱の山を持ってきた。
私は思わず、まばたきをした。
カートの上に、山積みになっているのは……。
ファンシーなブタの貯金箱だった。
体はつやつやのピンクで、つぶらな瞳に、ちっちゃなお鼻。
そして、その額には、赤い宝石がついてる。
これは、どこからどう見ても……。
中ボス野郎の、進化前。
チャイナドレスは、陽気に言った。
「『恋のおまじない貯金箱』アル。
100万個売れた、ヒット商品ネ。
この、大人気商品が……。
今なら、なんと! 通常価格の、2割引!!
さらに、『ニワトリの血1リットル』と、大人気の吟遊詩人、『オルフェウス・ハープの服の切れはし』がついてくるアル!」
呆然とする私をよそに、チャイナは陽気にトークを続ける。
「使い方は、トッテモ簡単。
愛する人の持ち物か、体の一部を中に入レ、動物の血をタップリ注グ。
次に、オデコの宝石を、チョンチョンチョンッ、とつっついてから、ブタの鼻にキスするだけアル」
私は思わず絶句した。
しかし、アンは気にもせず、ひたすらセールストークを続ける。
「注意点が、3つあるアル。
一つめ。ブタにキスするところを、人に見られたら、失敗。おまじないをやり直すアル。
二つめ。ゴミに出すときは、ちゃんと分別して出すアル。
三つめ。雷に当てちゃ、ダメッ! アル。
魔力が暴走しちゃうかもアルよ」
「……てめーのせいか、このアンめ!」
私はアンの胸ぐらをつかみ、ドスをきかせて、こう言った。
「……おい、おまえ。
この危険なシロモノを、どこのどいつに売りつけた?
買った客のリストをよこせ!」
強情な店員は、フルフルと首をふる。
「嫌アル。
企業秘密アル。
お客さんの情報は、絶対に売らないアルよ。
…………。
まあ、お金をつめば、別アルが……」
「よし、分かった。
アクセで払う」
公爵令嬢の私は、こないだ親父に買わせたブレスを、金の亡者に叩きつけてやる。
チャイナはルーペを取り出して、ブレスを鑑定し始めた。
「あいやー!
こいつは、いい品アルねー。
本物の金、ルビーにダイヤ……。
この真ん中の石なんか、3カラットはあるアルよ?」
「……買い取り価格の査定は、いいから!
さっさと、リストをよこしなさいよ!!」
チャイナ娘は、不思議そうに言う。
「……お客さん、おつりいらないアルか?」
「いらねーよ!
いらねーから、早くしろ!!」
私は店にあった在庫を、すべて粉々に壊すと。
びっくりしてるアンの腕から、顧客リストをひったくり。
ふたたび、町にくり出した。




