1. 殺すか、殺さないか。それが問題だ
今日から新章スタートです。
よろしくお願いいたします。
原稿を手伝ってくれた「Aさん (仮) 」さんと、
1章連載時、ブクマしてくださった方には、
この回のあとがきに、メッセージを載せてあります。お時間がございましたら、どうぞそちらもご覧ください。
その部屋は、歪んだ愛に染められていた。
おびただしい量の写真が、部屋中の壁にびっしりと貼られ……部屋の奥には、あやしげな祭壇と、一人の女の姿があった。
壁に貼られたどの写真にも、妖精のように美しい、銀髪の青年の姿が映っているが……。
彼の視線は、カメラの方を見ていない。
女は恍惚とした表情で、写真の青年に手を伸ばした。
「ああ……、オルフェウス様……。もうすぐですわ。私たち、すぐに一緒になれますわ……」
血塗られた祭壇の上には、おぞましい拷問器具と、小動物のあわれな死体と、ブタの貯金箱が載っている。
ロウソクの炎が揺らめくと、壁に映った女の影が、ぬらりと不穏に揺れ動く。
強い光が明滅し、雷鳴が低く轟いた。
祭壇の上のブタの目が、赤く、妖しく輝いた。
ーーーーーーーーーーーーーー
キングストン王立学園の朝は美しい。
元が乙女ゲームなので、モブにも美形が多いのだ。
縦ロールの令嬢たちは、スカートのすそを、フワリと風になびかせる。
色とりどりのイケメン達は、白い歯を輝かせながら、「おはよう」の挨拶を交わし合う。
そんな上流階級が集う、セレブなこの学園に、一際目立つ、大輪の薔薇のような令嬢がーー
「なに一人でウホウホ言ってるんですか? ここは動物園のオリの中じゃないですよ」
ナレーションを邪魔されて、私はギロッと、従者をにらむ。
「……シェイド。あんたねぇ……。
人がいい気分にひたってる時に、横からチャチャ入れてくんじゃないわよ!
つか、あんた、従者でしょ。カバンぐらい持ったらどうなのよ」
黒髪黒目のちっこい従者は、憎たらしい顔をして、身のほど知らずの暴言を吐く。
「女性の荷物は持ちますが、ゴリラの荷物は持ちません。おれは屋敷の使用人で、飼育員ではないんですから」
私は華麗なキックを放った。
従者はケリを難なくかわした。
態度のデカいクソガキは、何万回と聞いたセリフを、飽きもせずにくり返す。
「しゃべる知能がないからって、暴力に訴えようとするんじゃありません。
いいですか、お嬢様。
この学園は、野生のサバンナでもなければ、ゴロツキのたまり場でもないですからね。
退学になりたくなければ、礼儀正しく大人しく、人間らしく振る舞うんですよ。
……まったく。
毎日毎日、母親みたいなこと、言わせないでくださいよ」
はあ? てめー今、なんつった?
言っとくけどな。リアル世界の母親ってのは、そんな毎日そばにいて、子供に説教しねえもんだぞ。
親父に殴られてるガキを、知らんぷりしてほっぽって、男のとこに転がり込むのが、リアルな母親キャラってもんだろ。
分かったら、そのお粗末なキャラメイク、イチからやり直してこいよ。
「まったく、あなたはいくつになっても、本当に手がかかるんですから……」
はー、うぜえ。マジうぜえ。
このクソガキ、早くクビにならないかな。
私が優等生っぽく、説教をシカトこいてると、背後から、中性的な声がかけられた。
「ーーおはようございます。
ロザリンド様、シェイドくん」
振り返ると、そこにはすらりと背の高い、柳腰の美女……ではなくて。
男か女か分からない、エルフみたいなイケメンがいた。
その詩人は、今朝も人間離れして美しい。
長いプラチナブロンドは、サラサラと春の風に揺れ、舞い落ちる桜の花びらが、妖精の髪飾りみたいに見える。
長い睫毛に縁取られた、大きな紫の瞳は、かすかな憂いと、はかなさと、妙な色気を帯びている。
……こいつ、相変わらず、妙に色っぽいナリしてやがる。
さすが死か恋のお色気担当。
意味もなく、濡れたり脱いだり、エロいことさせられてただけあるぜ。
従者は詩人にあいさつをした。
「おはようございます、オルフェウスさん。
今日もいい天気ですね。
……ところで、お嬢様。
さっきから、なにボーッとなさってるんです。
通行の邪魔になってますよ」
るっせえ、チビ。
てめーこそ、イケメン鑑賞、邪魔すんな。
私はまじでイラッときたが、ここは大人の余裕でもって、謝罪してやることにした。
「あぁ~ら、ごめんなさい。
あなた、あんまり小さいもんだから、そこにいるって気づかなかったわ」
「いいえ、お気になさらないでください。
それだけ無駄に大きいと、脳に十分血が行かなくて……大変ですね、お嬢様」
私と従者のクソガキは、笑顔でガンのやり取りをした。
プラチナブロンドの詩人は、おびえたような声音で言った。
「あの、すみません。えっと、その……。
お二人は、週末はどこか行かれるんですか?」
「私は、ダチと遊ぶけど。
あんた、休みは何すんの?」
「ぼくは、服を買いに行こうと思います。
実は、洗濯物が飛ばされてしまって……。今、着るものがあまりないんです。
ついこの間も飛ばされて、買い足したばかりだったのに……。最近、ついてないですね」
お前、それ……。
ほんとに風に飛ばされたのか?
お前が気づいてないだけで、ストーカーに盗られたんじゃねえか?
女みたいな吟遊詩人は、困ったような顔で笑った。
「洗濯物って、すぐに風に飛ばされますし、気がつくとなくなってますよね」
いや。
飛ばされねえし、なくならねえよ。
「洗濯係の方にも、いつもご迷惑をおかけしてしまって……。
この間も、日が暮れるまで探したのに、どこにも見当たらなかったそうなんです」
どう考えても、一番怪しいの、そいつだろ。
お前、その綺麗な目玉、何のためについてんだ?
「あんたさあ……。
服だけじゃなくて、他にも色々、なくなってんじゃないでしょうね」
「そうなんですよ。
実はぼく、そそっかしくて、すぐ物をなくしてしまうんです。リコーダーとか、体操服とか、水着とか……」
そこまで言うと、詩人はハッとした顔をして、カバンの中を探り始めた。
「あれっ? ……リコーダーが入ってない。
最近、どうも忘れっぽくって、ダメですね。
お二人とも、すみません。ぼく、購買に行かないといけないので、失礼させていただきます」
そう言うと、詩人はあわてた様子で去った。
私は呆れた。
あいつ、芸能人のくせして……どんだけ危機感ないんだよ。ほんと危なっかしい奴だな。
……あ~あ。
やっぱ、ゴールデンウィークが来る前に、殺しといた方がいいのかなー。
でもあいつ、正直、かなりタイプだし。なんだかんだで、愛着わいてきちゃったし。
できれば殺したくないなぁ……。でもでも、あいつ殺っとかないと、推しの命が危険だしなぁ。
……くそっ。
ストーカー殺って片がつくなら、ガッコなんか今すぐフケて、殺しに行ってやるのにな。
年頃の女の子らしく、私がうんうん悩んでいると、すばらしく爽やかな声がかけられた。
「ーーおはよう。シェイド、ロザリンド」
私はバッと、振り向いた。
そこには少女マンガに出てくるような、完璧な王子様がいた。
ミハエル様は、すらりとした長身に、ブレザーのご制服をまとい、おだやかな笑みを浮かべてらっしゃる。
明るい色の金髪は、朝の日差しに照らされて、キラキラと美しく輝き。
新緑のような色の瞳は、知性と品位と凛々しさと、爽やかなイケメンオーラに満ちている。
まさに「白馬の王子様」的な、パーフェクトなお姿だけれども。
残念ながら、今は馬にもチャリにも乗らず、普通に歩いていらっしゃる。
白馬に乗ってない王子は、スマイルしたまま、おっしゃった。
「二人とも、こんなところで立ち止まって、どうしたの?」
「このゴリラ、またオルフェウスさんに見とれて、通行妨害してたんですよ。婚約者として、何か言ってやってください、ミハエル様」
あっ、この……。クソチビ野郎。
推しに告げ口しやがって。
ミハエル様は、まるで嫉妬してるみたいに、おっしゃった。
「ぼくがいるのに、他の人に目が行くの?
ぼくは君と婚約出来て、とても嬉しいんだけどな。
君の方は、この婚約に、それほど乗り気じゃないのかな?」
……おお。
さっすが、ミハエル様。
演技がとっても、お上手ね。
ただの便利なコマとして、利用してるだけの女に、恋してらっしゃるみたいだわ。
私は貴族のお嬢様らしく、とっても優雅で可憐に言った。
「まあ。おかしなことを、おっしゃいますのね。
あのナヨッとした奴は、ただの鑑賞用ですわ。
私がお慕いしてるのは……あなた一人だけですのに」
空気の読めないクソガキが、寒いギャグ聞いたみたいな顔で、こっちをジロジロ見てやがる。
王子は茶目っ気たっぷりに、お芝居みたいなセリフを言った。
「愛する人の言うことを、疑うわけではないけれど……言葉はうつろなものだから。
はかない言葉だけを頼りに、君を信じていいのかな?」
「もちろん、信じていいですわ!
私、あなたのためなら、どんな汚いこともしますわ。
だって、あなたは……私のイチオシだからです!!」
王子はにっこり微笑んで、空気を読んだセリフを言った。
「ありがとう。
やっぱり君は、ぼくが思った通りの人だ。
君みたいに素敵な女性に、そこまで想ってもらえるなんて……ぼくは幸運な男だ」
推しにめちゃくちゃ褒められて、すっかりやる気になった私は、ダルい授業を抜け出して、詩人を始末しに向かった。
しかし、「ここぞ」という時に……なぜか、うっかりドジをふみ。
私は詩人を殺せないまま、下校時刻になってしまった。
―――――――――――
夕暮れをバックにしょって、私はトボトボ、校庭を歩く。
結局、今日も殺せなかった。
私って、ひょっとして……。
殺しの才能、足りないのかしら……?
自分のあまりの才能のなさに、すっかり、しょんぼりしていると。
お庭の池のそばにある、大きな柳の木の下に……。
銀髪のイケメンが立っていた。
女のように美しく、妖精のようにはかない詩人は、細い体を木に預け、ぼんやりと物思いに沈んでいる。
その顔は、どこか悲しげで……。
二度と戻らない誰かを、ずっと待ち続けてるみたいに見える。
私は思わず、息をのむ。
……なんて無防備で、頼りない顔してるのかしら。
こっちに気づいてないみたいだし、簡単に始末できそうね。
私は空想の中で、詩人の首筋に手を伸ばした。
指先に軽く力を込めると、白くて細いその首が、ポキリと、あっけなく折れる。
吟遊詩人はまぶたを閉じて、草の上に横たわる。
詩人の長い銀髪が、模様を描いて広がると、桜の白い花びらが、亡骸の上に落ちていく……。
ーーと、そこまで想像したとき。
私の足元で、ベキィ! と大きな音がした。見ると、太い木の枝が、まっぷたつに折れている。
現実の詩人は、驚いたような顔をして、パッとこちらの方を見た。
気がつくと、私は走り出していた。
……ふん、運のいい奴め。今日は命拾いしたな。
だが、お前の幸運も、そうそう長くは続くまい。
愛する推しを守るためなら……私は鬼にだって、悪魔にだって、なってやる。
何の罪もない、萌えるキャラを一人殺すぐらい……。ぜっ、全然平気! ちっとも心が痛まない!!
これまでは、ちょっとドジって失敗したけど……。
明日こそは、絶対に。
明日が無理でも、あさっては。
どんなに遅くなったとしても、ゴールデンウィークまでにはーー私はあいつを殺してみせる!!
アホー、アホーと、カラスの群れが鳴いていた。
「……ロザリンド様? 一体どこに行くんですか?」と言う詩人の声が、池の方から、かすかに聞こえた。
〈1章連載時、ブクマ登録してくださった方へ〉
1章の完結後すぐ、2章を書き始めましたが、
正直かなり苦戦しました。
「あ~……。ここ書くの難しい……。
なんかもう、面倒くさくなってきた……。
やる気出ないな、投げ出したいなぁ……」
そんな気分に、
何度も何度もなりました。
そんな時にはいつも
小説情報のページに飛んで、
ブックマークの欄を見ました。
そうすると
ブックマークがついていて
「ああ……
続きを待ってくださる方がいるんだ」
と思うと、
なんだか力がわいてきて
最後まで書き上げることができました。
お名前も分かりませんが、
ここでお礼を申し上げます。
あなたのおかげで
続きを出すことができました。
本当にありがとうございました。
ーーーーー
〈「Aさん (仮) 」さんへ〉
今回も、私のつたない初稿を読んで、アドバイスをくださって、ありがとうございました。
「Aさん (仮) 」さんの時にきびしく、時にやさしく、とってもするどいアドバイスには、いつもほんとに助けられてます。
……ところで、「Aさん (仮) 」さん。
ペンネームはいつ決まるんですか?
ペンネームを決めてくれないと、私はこれから先もずっとあなたのことを「Aさん (仮)」さんと呼び続けなければならないのですが……。
というわけで、ペンネームが決まったら、いつでも連絡してください(笑)




