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21. 私たちは友達が少ない


愛する推しを、守るため。


私は詩人の暗殺に、何度も何度も、チャレンジしたが……。

1度も、成功しなかった。





ヘタレは、ヒロイン見てるだけだし。


クズはのんきに遊んでて、津波を防ぐ発明が、ポンと出てくる気配もないし……。


何もかも、全部うまくいかない。







主人のブルーな気持ちも、知らず。


今日も空気の読めないチビは、カーテンをシャッと開け。


ブルーな空を見て、言った。






「最近、天気がいいですね。


……ところで、お嬢様。

今日はあの人の、ストーカーに行かないんですか?」


「ストーカー? 何のことよ?」


「オルフェウスさんのことですよ。

このところ毎日のように、あなたが追いかけ回してる、エルフみたいな歌手の人です」






私はフンッと、鼻で笑った。


「バカなこと言わないでくれる?

私はあいつの下手くそな歌を、笑いに行ってやってるだけよ」


「その割には、この間の弾き語りのとき……カゴに大金入れてましたね。


考えなしにお金を使うと、月末、苦しくなりますよ」






「うるさいわね!


毎回毎回、いいところで登場しては、私の邪魔をしてくれちゃって……。


あんたこそ、私のストーカーじゃないの!?」







黒髪のチビ助は、不思議そうに首をかしげた。


「そんないい雰囲気になったことありましたっけ?

崖とか、廃屋とか、線路とか……。

なんだか妙なところにばかり、行っていた気がするんですけど」


「……るっさいわね!

とにかく、あんたが付いてこなけりゃ、今頃うまくいってたの!!」







従者は、嫌味たらしく言った。


「ずっと好きだった王子と、婚約したと思ったら。


女癖のよくない人と、お酒を飲んで、遊び歩いて。

皇太子殿下を、城の外に連れ出して、さんざん騒ぎを起こしたあげく……。


今度は歌手に入れ込んで、パトロンの真似事ですか。




美形ときたら、誰彼かまわず……。

節操のない人ですね」






「人聞きの悪いこと、勝手にぬかすんじゃないわよ。


私ってマジ、貞淑だから。

好みに合わない男といると、マジ、鳥肌が立っちゃうの。





たとえば、眼鏡のクソヤローなんか……。


考えるだけで、鳥肌が立つわ」







「リチャードさんの場合は、中身が好みと違うんでしょう?


あの人も、かなりハンサムですから。


もしも違った性格だったら、絶対キャーキャー言ってましたよ」






「キモいこと、言うんじゃないわよ。

性格のいい眼鏡ですって? ハッ、そんなもん……」




ふと、私の脳内を、奇妙な妄想がかすめた。


ーーもし、あの強欲メガネが、まともな性格をしてたら……?






黒髪メガネでスーツを着こなす、知的で温厚なイケメン。もちろん、関西弁は喋らない。



……いやいや、ないない。

あり得ない。


そんな都合のいいイケメンなんか、この世に存在せえへんわ。







従者はしたり顔で言う。


「まあ、お嬢様があの人に、入れ込む理由は分かります。


『柔和そうで、線が細くて、陰のある美男子』は、あなたの大好物ですからね。


どうせ歌なんかまともに聞いてなくて、顔ばかり見てるんでしょう?」








私はイラッとした。


男の趣味まで、把握されてるとか……。


ウザすぎて、死にそうなんだが。






シェイドは私から目を逸らすと、憂鬱そうな眼差しで言った。


「ただ、おれは時々……。あなたがあの人を見る目が、なんというか、その……」



そこまで言うと。

なぜか、従者は口をつぐんだ。







シェイドの黒い左目が、不安げに揺れている。


その顔は、なんだかまるで。


言いたいことがあるんだけれど、ほんとに言ってもいいのか、どうか……。


途方にくれてる、少年のようで。






なんとなく。


放っておけない、気にさせられる。






「……何よ。

言いたいことがあるんなら、素直に言ったらどうなのよ」



しかし、従者は口を割らない。


どうやら、意地になっているようだ。







とっても、空気が読める私は。

従者の気持ちをほぐしてやろうと、軽いジョークをくり出した。



「……ははーん。

シェイド、あんた……もしかして……。


あいつにヤキモチ妬いてんの?


あんたの大事なご主人様が、他の男にかまうから、それが気に入らないんでしょ?」







私のとっても粋なジョークを、従者は無言でスルーした。



ノリの悪いお子様は……しばらく、むっつりしていたが。


ちっちゃな顔をこっちに向けて、私の顔をまっすぐに見ると。反抗的に、こう言った。






「あなたが、あの人を見る目が……オバサンみたいに見えるんです!」






……この野郎。


いっぺん、マジで殺してやろうか?







ーー思えば、私のすべての苦労は、こいつに会って、始まった。



エロい詩人が殺せないのも。

ヘタレ野郎がヘタレてるのも、クズが怠惰でクズなのも……。


王子が仕事で忙しいのも、みんなみんな、こいつのせいだ。







この従者さえ消してしまえば、問題はきれいさっぱり、なくなる。


国は津波で沈没しないし、ミハエル様は死なないし。私は王子のお妃として……お城で楽しく、優雅に暮らせる。



やったあ、ハッピーエンド。

事件解決、謎は全て解けちゃったぜ。






……と、まあ。


冗談は置いといて。






私のいまの目標は、エロい詩人の抹殺と、ヘタレの恋のサポートなんだけども。



この従者……どこに行っても、付いてくるから。

何をするにも、邪魔なのよ。


ウザいこいつを振り切るには……?

そこで、私はひらめいた。





そうだ、寮、入ろう。







ーーーーーーー



寮生になりたい理由は、従者が邪魔で、ウザいから。


それ以外にも、もうひとつある。







ヒロインの聖女には、学園に入る前から、死亡フラグが立っている。



ヒロインを助けるために、私はイベント当日に、女子寮の中に、忍びこみ。


死亡フラグを折ってやる、計画を立てていたのだが。






寮生になっちゃえば、堂々と中に入れるし。


寮は男女にわかれてるから、ウザい奴とも、おさらばだ。







……と、まあ。

そんな感じで。




とにかく、寮に入りさえすれば。


邪魔な奴から解放されて、一人で自由に動けるし。

ヒロインと友達になって……。


ヘタレ野郎のいい評判を、ふきこむことも出来るのだ。







天才的なひらめきを、私はすぐに口にした。


「来月からの学園生活だけど、私は寮に入るから。

あんたは家から登校しなさい」


従者はまたもや、逆らった。

「あなたは突然、何を言い出すんですか。

こんな直前になって入寮したいだなんて、学校側にも迷惑でしょうが」







「こっちはお客なんだから、好きに注文つけりゃいいのよ。


この程度の注文に、対応できないってんなら。

『キングストン一の名門校』が聞いて呆れるわ。



……つか。

学校だって、商売なんだし。

いざとなったら寄付金つめば、喜んで言うこと聞くわよ」






「寄付金を積んだって、迷惑なのは変わりないです。


それに、別々に登校するとなると、警備上の問題が……。あなたの護衛も、おれの業務のうちなんですから」







……こいつ、私のボディーガードだったのか。


あんまりしつこく付いてくるから、マジでストーカーなのかと思ったわ。







私は腕組みをしてふんぞり返った。

「……あら。

この私に、ボディーガードなんかいると思うの?」


「正直いらないと思いますが、とにかくそういう契約になってるので」

「じゃ、契約を変更するわ。あんた、もう私の護衛しなくていいわよ」


「そんなこと、おれに言われても困ります。

雇い主は旦那様なんですから、不満があるなら、旦那様に直接言ってください」






……チッ。

頭の固い従者だな。


まあいいや。

あのオッサン、娘の私にメロメロっぽいし。


肩叩きでもしてやれば、言うこと聞くに決まってる。






私はルンルン、ランランと……。


かわいくお歌を口ずさみながら、お庭の花を、引っこ抜き。


むしった花を手に持って、親父の部屋に押しかけた。







――――――――――――


「……ええ!?

私にこれをくれるのかい?


ロザリンド……。

お前はほんとに、やさしい、かわいい娘だね。


愛してるよ、私のかわいいロザリンド」







ーーここは、フェンサー公爵の部屋。

つまり、私のお父様の部屋。



ちっちゃな丸いオッサンは、娘から花もらって、馬鹿みたいにデレデレしている。







私はかわいく微笑みながら、心の中でほくそ笑んだ。


……フッ、チョロいぜ。


18歳の美少女が、オッサンを丸め込むなんて……。

ガラスを割るよりも、楽だわ。







金髪美少女の私は。


デレデレしてるオッサンに、うっとうしい従者のクビと……「入寮届」のサインをねだった。







オヤジは寮に入る話を、ニコニコしながら、却下したあと。


タプタプほっぺに手をやって、悩ましげにため息をついた。





「まあねえ……。

シェイドくんも、もうお年頃だしね。


女の子の身の回りの世話を、男の子にさせるのは、ちょっとね……。


だから、シェイドくんには、そろそろ従者をやめてもらって……別の部門のお仕事に、うつしてあげたいとこなんだけど。






……お前の世話をしてくれる、メイドのなり手がいないんだ」







「……なり手がいない? どういうことよ?」


「ほら。大昔はおまえにも、メイドをつけていたけれど……全員3日ももたないで、逃げ帰ってしまっただろう?


メイドだけじゃなくて、家庭教師もボディーガードも、みんな同じ調子だし……。





求人広告は、今でも出してるんだけど。

噂が広まっちゃったのか、今じゃほとんど応募がこない。


おかげで、ひどい人手不足だ。

……それで、仕方なく。シェイドくんには……


従者とメイドと家庭教師とボディーガードの仕事を、全部やってもらってるんだよ」





……あいつ、よく過労死しないで、生きてるな。







気が弱そうな父親は、娘をおがむように言う。


「……頼むよ、ロザリンド!

シェイドくんとは、仲良くやって!


シェイドくんに、逃げられちゃったら……。


おまえの世話をしてくれる人が、一人もいなくなっちゃうよ!!」







私は毅然と食い下がった。


「……じゃあ、せめて!

ボディーガードの仕事だけでも、外してよ!


あいつ、四六時中くっついてきて、マジでウザくて、死にそうなのよ!!」







「そういうわけにはいかないよ。

おまえは私の大事な娘だ。万一のことがあっちゃいけない。

脅迫状も来てることだし……」


「……脅迫状?」


「……ああ。

おまえを怖がらせまいと、このことは黙っていたんだが……。


おまえが、6つになった頃から……。






毎年、100通は来てるよ」




……年賀状か!!


どんだけ恨み買ってたのよ、これまでの私……。







オヤジは私の手を取ると、涙ながらに、こう言った。


「これで私の心配も、分かってくれただろう?

おまえを立派に育て上げることが、天国のママに私がしてやれる、唯一の供養なんだ。


それに、おまえも、もうすぐお嫁に行くし……。

私がおまえと一緒に暮らせる時間も、あと少ししか残ってない。


パパはおまえが可愛いし、心配でしょうがないんだよ」







う~ん……。

このオヤジ……。



家に女は、連れ込まないし。

給食費は使い込まないし、酔って刀を振り回さないし。



ちょっと過保護で、ウザいけど。

悪い親じゃあないのよね。







死んじゃった奥さんと。

奥さんの産んだ一人娘を、とっても大事にしてるのが、言動の端々に感じられて……。


ううぅぅう……っ。






……だから、もうっ!!


そんな、つぶらな……。

小動物みたいな目をして……こっちをジロジロ、見てくんじゃねえよ!


そんな目で、見られると……こっちが悪いみたいじゃないか!!







私は心を鬼にして言った。


「……とにかく、私は寮に入るから!!


とっくに、いい年こいた娘に……いつまでも執着してるなんて、キモいのよ。このクソ親父」







……ごめんなさいね、お父様。


私は愛するフィアンセと、原作ゲームのヒロインの……命を守らなきゃ、ダメなの。






もしも、ヒロインが死んだら。


そこで、なんでか津波が起きて……大陸中のモブと一緒に、お父様も被災するのよ。


お父様は太ってるから……プカプカプカプカ、よく浮くわ。







とっても、けなげな娘の私は。


必死に心を鬼にして、親父の部屋をとびだした。






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