18. 生かしておけない、エロい奴!
愛する王子に、告白し。
「おやすみのキス」をくらった、私は。
ドキドキしすぎて、気絶して……。
気づくと、朝になっていた。
あったかい、お布団の中で。
ゆうべのキスの思い出に、うっとりと浸っていると。
ガミガミうるさい奴が来て、寝ている私を、無理やり起こし。
「国一番の名医」とかいう……ジジイの医者に、無理やり診せた。
とことん空気の読めない、チビは。
昼メシの時間になると、豪華なメシを運んで来たが。
うまいメシを食わせたあとに、まずい薬を無理やり飲ませ、後味を台なしにした。
私は苦みに、耐えながら。
次のミッションのクリアと、家来への復讐に、メラメラメラッと燃えていた。
―――――――――――――――
ーーそして、3日後。
すっかり元気になった私は、手厚い看病のお礼に、従者をカフェに連れてきた。
シェイドはテーブルに置かれた、高級温泉リゾートの、ペアチケットを見て言った。
「……何ですか、これ」
「商店街の福引きで当たったの。
あんた、私のお世話はうんざりだって、なんかグチグチ言ってたじゃない。
だから、ちょっとここいらで、息抜きさせてあげよかなって。
……まあ、せっかくだから。
かわいい女の子でも、誘って。
今日から1週間ぐらい、ゆっくりお湯につかって来たら?」
従者は、ジロリと主人をにらむ。
「こんなものまで、用意するとは……。
よっぽど、おれが邪魔みたいですね。
正直に言いなさい。
今度は、どんな裏があるんです」
「やぁねえ。
裏なんて、ないわよ。
あんたの看病のおかげで、すっかり熱も下がったし。
あんたのご主人様からの、感謝の気持ちだと思って、ありがたく、とっときなさいよ。
……タダでもらった券だけど」
黒髪のチビ助は、プイッと、そっぽを向いて言う。
「……結構です。
お嬢様を野放しにしたら、どんな悪事をしでかすか、見当もつきませんので」
……うん。
やっぱり、断ってきたか。
でも、まだ手は用意してあるわ。
ーーアゴヒゲの店員が来て。
私たちのテーブルに、コーヒーカップを、2つ置く。
チビはカップに、口をつけると……。
そのまま全部、飲み干さず。
すぐに、ソーサーに戻した。
「……コーヒーに、何か入れましたね」
「えっ?
な……っ、何のことかしら?」
「とぼけても無駄ですよ。
かすかですが、薬草の風味がします。
……ということは、店員もグルですか?」
「……はあ!?
そんなおかしな味なんて、全然しないじゃない。
あんた、突然、なに言い出すの?」
「それは、おれのコーヒーにだけ、薬が入っているからですよ。こんなことまでして、今度はどんな……。どん、な……」
その言葉を、最後に。
従者はテーブルに突っぷし、スースー寝息を立てだした。
私はワンピースの、そでで。
おでこにかいた、冷や汗をぬぐう。
……ふぅ。
危なかったわ。
クズ特製の「マジカル☆強力睡眠薬」を、使っておいて正解ね。
普通の眠り薬だったら、失敗してたわ。
にしても、こいつ……。
ほんとに、ただの人間なのか?
ほとんど無味無臭の薬を、ひとくち飲んで、感知するとか……麻薬犬の仲間じゃないのか?
ワンコみたいな、従者の鼻を。
思わずじっと、見ていると。
さっきのヒゲの店員が、私に声をかけてきた。
「おー、うまくいったか! よかったな、嬢ちゃん」
私はすばやく、ネコをかぶって。
恋する乙女に、なりすます。
「ありがと、おじさま。
これで、あの人に会いに行けるわ」
「……おぅ! いいってことよ。
年頃の娘の恋を邪魔するなんざ、ヤボなことはあっちゃならねえ。
彼氏とのデート、楽しんで来な!!」
私は細っこいチビを、その辺の木に、くくりつけ。
おでこに「肉」とマジックで書いて、スキップしながら、その場を去った。
それから、公園のトイレで、流行カラーのドレスに着替え。
「生かしておけない、エロい奴」との……。
待ち合わせ場所に向かった。
――――――――――――――
ーーここは、トムズ川の、橋の上。
観光客用のボートが、ゆったり水の上を行き。
気持ちのいい風が、ほおを優しく、くすぐっていく。
いまの時刻は、朝の9時。
待ち合わせの、1時間前だ。
私はハンドバッグから、コンパクトを取り出して、身だしなみをチェックした。
それから私は、ひたすら待った。
待って待って、ただ待って。
待ち合わせしていた時間の、20分ぐらい前になると。
妖精みたいにすき通る、すごい美声がかけられた。
「……あの、すみません。
あなたが、ロザリンド様でしょうか?」
ハッとして、振り向くと。
トムズ川の橋の上には。
女を恋に突き落とす……魔性の男が立っていた。
ーーその男は銀髪で、紫の瞳をしていた。
絹糸みたいにきらめく髪は、腰の下まで長く伸び。
サラサラと、風に揺れている。
肌は抜けるように白くて、長いまつ毛の下の目は……うれいを帯びた、すみれ色。
身長は、171センチほどで。
手足は、柳の木のように……しなやかで、細くって。
ちょっと強く抱きしめただけで、背骨がポキッと、折れそうだ。
細くて、色が白くって。
女みたいな顔してて……。
これで耳がとんがってたら、もう完全にエルフよね。
ーーオルフェウス・ハープは、攻略対象の一人で、職業は吟遊詩人。
21世紀風に言うと、シンガーソングライターだ。
年齢は、なんでだか秘密。
修学旅行の最中に、高確率で失踪するため……。
生存率も、分からない。
性格は一言でいうと。
超ネガティブな、メンヘラだ。
世界で一番、歌がうまくて。
絶世の美女っぽい、いかした顔をしてやがるくせに。
なぜか、こいつは自分のことを……。
「生きる価値すらないゴミ」と、すんだ目をして言いやがる。
イケメンで、才能あるのに。
なんで、こんなにネガティブなのか、まったくもって、わけ分からんが。
おさななじみだった彼女が、病気か事故で死んだのが……そんなにショックだったのか?
でも、それだって、何年も前の話だし。
もういい加減、前を見て。
シャキッと頭をきりかえないと、せっかくの顔が、もったいないわよ。
墓の下にいる女とは、キスも〔ピー〕も出来ないんだから。
……っと。
まあ、そんな感じで。
ずっと昔に死んだ女を、今でも思い続けてるような、一途で重い男なんだけど。
フランスっぽい、国の生まれで。
女をレディ扱いするのが、クセになってるもんだから。
下心がまったくないのに、口説いてるようなセリフを、次から次へと、くり出して……。
ストーカーを量産するのが、ライフワークになっている。
ーー今日の、私のミッションは。
このストーカー製造スキルで、後に大きなトラブルを起こし。
王子様のお命を危険にさらす、このミュージシャンを……ゲームがスタートする前に、ここで退場させること。
もっと、ハッキリ、キッパリ言えば。
こいつを、ここで……。
殺ることだ。
私は息を、吸って、吐き。
世界一腕の立つ殺し屋に、なりきりまくって決意した。
……オルフェウス・ハープ。
私は、ここで……。
お前を殺す!!!!




