17. ノノ
私は従者と協力し、ドラゴンの急所をねらった。
しかし、私の攻撃は……。
おしいところで、微妙に外れ。
怒りくるったドラゴンの、反撃のビームをくらった。
しまった!
死んだ……!!
そう思ったが。
私の体は、なんともなかった。
「……?」
不思議に思って、目を開けると。
私は、従者に抱きかかえられて……。
ふたたび、遺跡のかげにいた。
「あ……。
あんがと……」
「ぐ……っ!」
従者は苦悶の声をあげ、ひざから地面にくずおれた。
どうしたのかと思って、見ると。
執事服の、黒い上着が……。
なぜか、じっとり、ぬれている。
すばやく、上着の前を開くと。
白いシャツの、腹のところが……。
血で、真っ赤になっていた。
「シェイド!
あんた、この傷……!!」
「……へい、きです。急所は、外したので……」
私はスカートを破いて、傷口に押しつけた。
でも、白かったスカートの布は。
みるみるうちに、真っ赤に染まり……。
おさえても、おさえても、まったく血が止まらない。
……ダメだわ。
この傷、けっこう深い……。
今すぐドラゴンを倒して、病院につれてかないと……!!
私は、も一度、スカートをさき。
シェイドの腹に巻きつけて、包帯がわりに、きつくしばると。
ふたたび、剣を手にとった。
「……これで、応急処置は済んだから。
あんたは、ここで寝てなさい。
私……。
あいつに、トドメさしてくるから」
すると。
従者が、私の腕をつかんだ。
『さすがのこいつも、心細くなったのか?』
そう思った私は、従者を安心させようと、なるべく、やさしくほほ笑んで言った。
「……大丈夫。
絶対に、あいつを倒して……。
すぐ、むかえに来てあげる。
だから、あんたは、ちょっとだけ……。
ここで、いい子にしてなさい。
お姉さんとの、約束よ」
従者は、私の腕をはなすと。
かすれた声で、こう言った。
「……もう1回、やりましょう」
「えっ?」
「その剣には、まだ2秒……。
魔力が残ってるはずです。
だから、さっきの作戦を……。
もう1回、やりましょう」
「……はぁ!?
あんた、なにバカ言ってんの!
そんな体で、ムチャしたら……。
あんた、本当に死ぬわよ!!」
ーー黒髪の従者は。
痛みと苦痛に、あえぎながらも……。
よろよろと立ち上がり。
ものすごい目で、私をにらんだ。
「……おれは、あなたの従者です!!
だから……。
死んでも、そばを離れません!!!! 」
従者の腹から、鮮血が……。
ポタポタと、したたり落ちて。
まっ白な地面の上に、赤い点々を描いてく。
怒れる龍の咆哮が、霧のむこうから聞こえる。
そして、それをかき消すように。
自分の心臓の音が、耳元で……ドッドッドッと
はげしく鳴ってる。
どうするべきか、迷っていると。
家来が、私をしかり飛ばした。
「ミハエル様の、命がかかってるんでしょう!
いいから、早く命令しなさい!
私に、力を貸しなさいって!!」
シェイドの黒い、まなざしが……。
私の胸に、まっすぐ刺さる。
私は、剣をギュッとにぎって、従者の覚悟を受け入れた。
「……分かったわ。
私、あんたの言うとおりにする。
そのかわり、約束しなさい。
ぜったいに、死ぬんじゃないわよ」
従者は、笑ってこう言った。
「そちらこそ、次は……。
外すんじゃないですよ」
私は、従者の腕に抱かれて。
もう一度、強大な敵と向き合った。
感覚が、とぎすまされて。
全身で、沸騰しそうな熱い血が……。
ぐつぐつ言っているのが、分かる。
従者が、小さく合図をすると。
体に、ぐんと圧がかかってーー……
目のはしに、キラリと光るウロコが見えた。
「……今です!!」
私は、剣をグッとにぎって。
ありったけの力をこめた……。
全身全霊の、一撃をはなつ。
「……はあぁあああっつ!!!!」
ーー私の、はなった攻撃は。
ドラゴンの、のどの中心にある……。
青いうろこを、ぶちぬいた。
怒れる龍の、断末魔の悲鳴が響き。
氷で出来た、龍の体が……。
もとの水へと、かえってく。
私は、従者の体をかかえて……湖のふちに、はい上がり。
ぐったりと目をとじている、従者の体をゆさぶった。
「……シェイド! シェイド!!
しっかりしなさい!!!!」
次回の更新は、5/1(月)です。