16. ノノ
卑劣なワナにはめられて、私は剣が使えなくなった。
せまる推しの命の危機に、あせりを募らせた私は……とりあえず。
使えなくなった魔剣を、素手でベキッと、へし折ろうとした。
すると。
剣の中から声がして、クズの魔術師が出てきた。
卑劣なワナをしかけたクズは、自分を棚に上げていう。
「人の家から、勝手にものを盗んだあげく。
壊そうとするなんて……。
どれだけ手癖が悪いんだ、君は」
「だから!
金なら、後ではらうって!!
私たち、いま……。
こーこーこーいう状況で、銀行に行ってる場合じゃないのよ、わかった!?」
クズ野郎は、うなずいた。
「なるほど、事情は分かったよ。
うーん……。
となると、どうしようかな……。
今月は、デートの予定がもりだくさんで、そんな遠い田舎まで、剣をとりに行くヒマもないし。
それに……」
ギャンブル依存の魔術師は、急に、真面目な顔して言った。
「実は、ここだけの話……。
その剣の材料費だけで、ルーレット100回は回せるんだよね。
貴族の君に、力を貸すのは嫌だけど。
ここは私も大人になって、少しは協力した方が、結果的にはお得かもなぁ……」
ムダに顔のいいクズは、悩ましそうに目をふせて、妙に色っぽく悩むと。
覚悟を決めたように、言う。
「しょうがない。
じゃあ、今回だけは特別に……。
ちょっと、オマケしてあげよう」
ーークズ野郎が、そう言うと。
剣の柄のところに……。
「10」という字が、うかび上がった。
「この剣のタンクには……。
まだ少し、燃料が残ってるから。
10秒間だけ、試用期間を延長しよう。
ドラゴンの体を、落ちついてよく見てごらん。
のどのところに、1枚……。
色の違うウロコがあるだろう?
それは逆鱗といって、ドラゴンの弱点なんだ。
そこを魔法の剣で、一刺しすれば……。
一撃でドラゴンを倒せるよ、やったね!」
「よっしゃ!
絶対、殺ったるわ!」
やる気まんまんの私に、チビが横から手を出してきた。
「おれがやります。
お嬢様の命中率には……かなり不安がありますからね」
「う……。
まあ、しょうがないわね……」
私は、剣を差し出した。
「私が、おとり役やるから。
10秒で、確実にしとめなさいよ」
チビは、自信まんまんに言った。
「2秒もあれば、十分です」
私は、チビに剣をわたした。
すると……。
剣をおおってた炎が、目に見えて小さくなった。
剣を開発したクズが、ひとごとみたいにお気楽に言った。
「ちなみに、剣の攻撃力は……。
剣をもつ人の、筋力で決まるから。
がんばってね、シェイドくん!」
チビは、ビシッと固まった。
私は、チビの腕をつかんだ。
「かえしなさい。
私がやるわ」
強情なチビ助は、ご主人様の命令に逆らった。
「嫌です。
絶対、返しません」
私とチビは、全力で剣をとりあった。
「返しなさい!
あんたの、ひよわな攻撃で……。
あいつを、倒せるわけがないでしょ!!」
「いいや、おれがやります!
あなたの雑な攻撃が、当たるわけないじゃないですか!!」
クズ野郎が、作戦を出した。
「……なら、こうすればいいんじゃないかな?
シェイドくんが、ゴリラさんをお姫様だっこして、敵の急所のそばまで走る。
急所の目の前まで来たら、剣のスイッチを入れて、10秒以内に攻撃を当てる。
これなら、うまくいくと思うよ」
チビの従者は、真面目な顔でうなずいた。
「……仕方ないですね。
その作戦で、いきましょう」
「えー。
私は、ヤダー。
クズの言うこと聞くなんて、ヤダー」
私が、かわいくダダをこねると。
泣きボクロの魔術師は、甘い笑顔を見せて言う。
「私は、別にいいんだよ?
ここで、君たち二人が負けて……。
ミハエルくんが、殺されることになっても。
剣の出費は痛いけど、ミハエルくんが死んでくれるんだったら……。
そっちの方が、得だしね」
私は、ズバッと覚悟を決めた。
「仕方ないわね!
その作戦で、いきましょう!!」
私は、チビに抱っこされ。
ボスの、急所の前まで来ると……。
剣のスイッチを入れて、するどい突きをくり出した。
「……やったか!?」
しかし。
ドラゴンは、倒れなかった。
私の放った攻撃は。
のどのところの、青いうろこを……。
ほんのわずかに、それていた。
ーー『しまった!』と、思った刹那。
銀色の龍と、目が合った。
カッとまばゆい、閃光がきらめいて。
龍の、いかりの一撃が……。
まっすぐ、私におそいかかった。