14. 湖底の恐怖! よみがえる邪竜!!
【注意】
・この回以降、暴力描写が増えます
・少年マンガ程度の、軽度のグロ表現があります
白い霧の向こうから……。
うっすら、朝日がさしてくるころ。
私はベッドの枕の上に、手紙とお礼のコインを置くと。
そーっと家を抜け出して、ボス戦の舞台に向かった。
ーーーーーーーー
とんがった山にかこまれた、大きな灰色の湖。
そのすぐそばの平原に……。
古い、ストーンサークルがあった。
私は遺跡に近よると、いかにも観光客っぽく、看板を読み上げた。
「へー。
これが、ストーンサークルかぁ……。
なになに?
『このストーンサークルは、有名な大賢者さまが、邪悪なドラゴンを封じたもので……。
石にさわって、お願いごとをとなえると、必ずかなうと言われています』
へー、そうなんだぁー。
なるほどね」
そう言うと。
私は石にぺたぺたさわって、「ミハエル様と、結婚できますよーに!」とさけぶと。
右のコブシをふりかぶり、ドゴォ!!と石柱をくだいた。
「よーし、1本こわした。
この調子で、柱を全部こわすわよ」
そう言ってはりきって、次の柱を殴ろうとすると。
後ろから、誰かに腕をつかまれた。
パッとすばやく、ふり向くと。
鬼太郎ヘアーの、ちっちゃな従者が……。
私の右手をつかんでた。
黒髪のチビ助は、血相を変えてさけんだ。
「何やってるんですか、あなたは!!」
私は、びっくりして言った。
「シェイド!
あんた……どうしてここに?」
「ミハエル様に、あなたの監視を頼まれたんです」
くぅっ……!
やっぱミハエル様には、なんかするって、バレてたか。
でもミハエル様は、私の居場所も知らないし。
ボス戦に参加して、死んじゃう危険はないわよね。
黒髪のチビ助は、主人をにらみながら言う。
「お嬢様の居場所は、ミハエル様に報告しました。
発表が済みしだい、こちらにいらっしゃるそうです」
「……バカッ!
なんてことしてくれたのよ!!
あんた、ミハエル様を殺す気!?」
私とチビが、ギャーギャーののしり合ってると。
枯木の枝がカサカサと鳴り、突然、地面が大きく揺れた。
灰色の湖が、たつまきみたいに、うずを巻き。
うずの真ん中のとこから、滝みたいに巨大な、水柱がほとばしる。
白い巨大な水の柱は、意思をもった生き物みたいに、ウヨウヨとうごめいてーー……。
透明な龍の姿になった。
私とチビは、言い争いするのをやめて、ボスの方に目をやった。
龍のすきとおった体は、ほんのりと、青白く光ってて……。
まるで氷で作られた、ドラゴンの彫刻のようだ。
体のあちらこちらには、キラキラ光る銀色のうろこがついてて。その全身に凛としたーー冷涼な気をまとわせている。
ガイドのトムの話では。
ブサイクで、キモくて、頭の悪いトカゲって話だったけど。
こうやって、実物を見てみると……。
なんだか妙に神々しくて、「邪悪な魔物」っていうより、「神様のおつかい」っていう方が、しっくりくるような見た目だ。
千年の眠りから目覚めた龍は、威厳に満ちた声でいう。
『わが封印を解きし者は、おまえか……?』
「うん、そう。私」
『そうか。
ならば、死ね』
そう言うと、龍は問答無用で、水のビームをうってきた。
従者のチビは、私をすばやく抱っこして、ボスの攻撃を避けると。
遺跡のかげに、かくれて言った。
「……なんなんですか、あの龍は!!」
「あ〜〜。あいつは……」
私は鼻の頭をかくと、ガイドのトムに聞かされた、昔話を教えてやった。
「あいつは1000年前に、賢者様と戦って、封印されたドラゴンよ。
ガイドのトムの話では、あいつは大魔王の家来で、四天王だったらしいけど……。
まあ、それは、さすがにフカシだと思うわ。
……でも。
めっちゃ強いってのは、ほんとで。
あのトカゲ……。
すんげー威力のビームぶっぱなしてくるから、まともに食らったら即死よ。
あと、あいつの体、魔法のうろこでおおわれてるから。
物理攻撃、いっさい無効ね」
「はあ!?
そんなもの……どうやって倒すんですか!!」
「大丈夫。
私には、秘密兵器があるから」
そう言うと。
私はコートのポッケから、ちっちゃなナイフを取りだした。
ナイフを手のひらにのせて、マグマみたいに熱くきらめく、赤い宝石に触れると。
私は、秘密の呪文をとなえた。
「赤赤、黒黒、赤、黒、赤」
すると、ナイフは、ギュインッと伸びて。
赤く輝く、刀身に……。
炎をまとった、大剣になった。
「じゃーん!
炎の魔剣〜〜!!」
従者は、びっくりして言った。
「そんな高そうなもの、どうやって手に入れたんですか? まだ、借金も残ってるのに……」
「こんなこともあろうかと、クズの家から盗んでおいた☆」
「犯罪じゃないですか!!」
「だいじょーぶ!
被害者はクズだから、これは犯罪にならない!!」
「被害者の人間性がどうであっても、犯罪は犯罪です!
ちゃんとお金をはらうか、持ち主に返しなさい!!」
「この戦いが終わったら、持ち主のクズに返すわよ。
……たぶん」
頭のかたいチビ助は、やたらしつこく念を押す。
「たぶんじゃなくて、絶対ですよ!
いいですね!!」
「はいはい。
分かった、分かった。
借りパクしないで、返します。
けど、それよりまずは……。
あいつを倒すのが先ね!」
私はすばやく、遺跡のかげから飛び出すと。
巨大な龍の、体めがけて……
大剣を、大きく振った。
私の華麗な一撃は。
魔法のうろこを、つらぬいてーー。
ボスの体を、いともたやすく切りさいた。
『くっ……!』
ドラゴンの銀の瞳に、ほんのかすかに、あせりがにじみ。
いつも生意気な従者が、ハッと小さく息をのむ。
「すごい威力だ……」
「よーし!
この調子で、一気に行くわよ!」
勢いに乗った私は、ぐっと大きくジャンプして。のどもとにある……ボスの弱点をねらった。
「……もらった!」
しかし、炎の魔剣は。
急にプシュッ! と音を上げると、みるみるうちに、小さくなって……。
もとの、ちっちゃなナイフに戻った。
「……へっ?
あれっ?
ちょっと、何よ、これ……。
急にどうしたのよ、こいつ?
こら!
動きなさいよ、
このっ! この……!」
ーー私が、ナイフをふり回してると。
「よっ」と、と陽気な声がして。
剣の柄についていた、赤い宝石の中から……。
ちっちゃな、子どもの手が生えてきた。
ぼうぜんとして、見ていると。
正体不明のなぞの手は、プールの水から上がるみたいに……。
宝石の表面をすりぬけて。
親指サイズの妖精が、宝石の上にちょこんと立った。