13. ノノ
邪悪な龍を、倒すため。
湖氷地方にやって来た私は、観光ガイドのトムと出会って、1泊させてもらうことになった。
ーー玄関のドアを、開けると。
暖炉の薪が、パチパチとはぜてる音と。
奥さんのあたたかい笑顔が、私たち二人をむかえた。
ばら色のほおをした、上品そうな奥さんは、にっこりと笑って言った。
「おかえりなさい、二人とも。
……さあ。
早く、コートを脱いで、暖炉の前にすわってちょうだい。
ごちそうが待っているわよ」
テーブルの上のごちそうを見ると、ガイドのトムは、目を丸くした。
「おお〜〜!
これは、また……。
今日は、えらく豪華だなぁ……」
「久しぶりのお客さんだから、はりきっちゃったの。
おかわりもたくさんあるから、遠慮しないでいっぱい食べてね」
私は、行儀よく言った。
「ありがとうございます、おばさま。
遠慮なく……ひとつ残らず、食べつくします」
奥さんは、クスクス笑った。
「……まあ。
おもてなししがいのあるお客さんで、うれしいわ。
今日はあなたのために、とっておきのパイを焼いたの。
焼き上がったら、すぐに出すわね」
「わーい!
やったーー!!」
「……とっておきのパイ?
アン……
まさか、おまえ……」
奥さんのアンは、夫の話をさえぎると。
冗談っぽく、こう言った。
「さあさあ、二人とも!
早く、ナイフとフォークを取ってちょうだい。
せっかくのお料理が、冷たくなってしまうわよ」
暖炉の前のソファーに座って、奥さんが作ってくれた、絶品料理を食べてると。
タイマーが、ジリジリと鳴った。
「……あっ!
パイが焼けたわ!」
そう言うと、奥さんはパッと立ち上がり。
キッチンの方に向かうと……。
こんがりと焼き目のついた、おいしそうな熱々のパイを、ミトンではさんで持ってきた。
ガイドのトムは、うろたえた。
「そっ……。
そのパイは、まさか……!!」
奥さんは、夫の動揺も気にせず、ササッとパイをとりわけた。
とりわけられた熱々のパイを、スプーンですくって食べると。
まろやかなホワイトソースと……。
お肉のうまみが、口に広がる。
「ちょっ……。
何これ、ヤバい……。
超うまい!!!!
ねえ、おばさま。
これって、何の肉ですの?」
奥さんは、いたずらっぽく、ほほ笑んで言った。
「うふふ、それはね……」
ガイドのトムは、不安そうな顔をして、パイを一口ほおばると。
サーッと、顔を真っ青にした。
「……!
この味は……。
アン、おまえ、やっぱり……!
正直に言いなさい。
このパイに入ってる肉は……」
「トリ肉よ」
おっとりと上品で、おとなしそうな奥様は、有無を言わさぬ口調で言った。
「これは、どこでも食べられる……。
ごく普通のトリ肉よ」
夫は、妻の迫力に負けた。
「……はい。
これは、普通のトリ肉です……」
ーーーーーーーー
大満足のディナーが終わり。
私たち3人は、ショウガのクッキーをつまみに、暖炉の前でまったりダベる。
「そう……。
ロザリンドちゃんは、ストーンサークルが見たいの。
あの遺跡は、確か……。
ええっと、なんだったかしら、あなた?」
ガイドのトムは、はりきった。
「……それは、私が説明しよう!!
昔、この近くの湖に……。
大魔王の部下の、とっても強いドラゴンがいてね。
そいつが暴れ回るので、村人たちは困っていたんだ。
そこで、冒険者を雇って、ドラゴン退治を頼んだんだけど……。
ドラゴンのあまりの強さに、冒険者たちは、みんな返りうちにあって、殺されてしまったんだよ。
食料もお金もつきて、村人たちが、すっかり困りはてたとき。
この村に……。
賢者さまが、やって来たんだ!!
村人たちがわけを話すと、賢者さまが……。
ある作戦を出されてね。
賢者さまの華麗な策で、ドラゴンは封印されて、村には平和が戻ったんだよ。
めでたしめでたし、というわけだね!」
「へー。
そうなんですのー」
バリボリバリと、クッキーをかじりつつ。
私がめっちゃテキトーに、話をスルーしていると。
トムはますます興奮し、えんえん歴史の話を続けた。
……ふぁ〜あ。
この話、いつ、終わるのかしら……。
眠くなる歴史の話で、意識が遠くなったとき。
おばさまが、ナイスアシストをした。
「……あなた。
お話はそれぐらいにして、ロザリンドちゃんを、そろそろ寝かせてあげないと……。
ロザリンドちゃんは、明日、朝が早いんですから」
すっかり興奮していたトムは、壁の時計を見て言った。
「……んっ?
おや、もうこんな時間か。
いや、すまないね。
つい話が長くなってしまって……」
私は、礼儀正しく言った。
「いえいえ。
そんな、オホホホホ……」
そして、二人に「おやすみなさい」のあいさつをすると。
明日のボス戦にそなえて、ウィスキーをかっくらって寝た。