7. ノノ
チャリティー演劇の準備で、1月がバタバタと過ぎ。
2月に入った、日曜日。
頭の悪いヘタレ野郎が、くるったことを言い出した。
「……そうだ!
ウィザードさんも、劇に誘おう。
この舞台をきっかけに、クラスのみんなと打ちとけて……保健室登校がやめば。
ウィザードさんの、ためにもなることであろうし」
クズのクズさを知ってる私は、冷静にツッコんだ。
「あのクズが、協力なんてするわけないだろ。
おまえ、少しは現実みろよ」
方向音痴のヘタレ殿下は、現実までも見失い。
教室に来れないクズのつらい気持ちを、自分勝手に想像すると。
自分のいい人ぶりに、すっかり酔った顔で言う。
「……ロザリンド、たのむ!
おれを、ウィザードさんの家まで、つれて行ってはもらえぬか?」
「つれて行ってあげてもいいけど……。
説得は、あんた一人でやんなさいよね」
ーーーーーーーー
……そして。
ヘタレを連れてやって来た、下町にあるクズの家。
昼間っから酒のんで、女を両手にかかえてるクズは、けがらわしい口を開いた。
「やあ、皇太子くんとゴリラさん。
君たちも混ざるかい?」
ヘタレは、天然で返した。
「……なんと!
そちらにおられるご婦人も、芝居に参加してくれるのか!」
クズは、きょとんとして言った。
「……芝居って、なんのこと?」
「実は、かくかくしかじかで……」
「……なるほど。
そういうことか」
茶色いロン毛の魔術師は、意地悪そうに笑って言った。
「ミハエルくんが出ないなら、参加してあげてもいいよ」
ヘタレは、元気よく言った。
「ミハエルは、その日は公務で欠席だ!」
「……ふーん、そうなんだ。
何日?」
「13日の、金曜日の予定だぞ!!」
どこまで行っても、クズな野郎は。
手帳をめくるフリもせず、めっちゃ気楽に断った。
「あっ、ごめん。
その日は、デートが15件ある。
残念だけど、パスするね」
ヘタレは、しょんぼり悲しげに言った。
「そうなのか……。
残念だ。
参加のお礼にと思って、手みやげを持ってきて
おったのだが。
しかたない。
この酒はバザーに出して、寄付金の足しにするとしようか」
そう言うと。
ヘタレはめっちゃ高そうな酒を、カバンの中から取り出した。
クズは、コロッと態度を変えた。
「……まあ、待ちたまえ。
話ぐらいは聞こうじゃないか」
「本当か、ウィザードさん!
本当に、話を聞いてくれるのか!?」
「うん。
ただ、話を聞くだけだけどね」
「……ありがとう、ウィザードさん!!
では、この酒を受け取ってくれ。
それから、チーズと葉巻もあるぞ!」
顔だけはいいクズは、色男っぽすぎる手つきで、前髪をかき上げて。ムダにセクシーに笑った。
「……へえ。
気がきいてるね。
じゃあ、とりあえず……。
グラスとお皿、持ってこようか」
「……あっ、ウィザードさん!
一人では大変であろうから、おれも準備を手伝おう」
「わたしも手伝うわ、ダーリン!!」
「わたしも! わたしも手伝うわ!!」
クズとヘタレと、クズの女は、みんなそろって、キッチンに消えた。
公爵令嬢の私は、とってもお嬢様らしく、ソファーにドカッと腰かけて。
酒と、つまみが来るのを待った。
待ってる間、ヒマなので。
私は、天才魔術師の家を……ジロジロ遠慮なく見てやる。
実験器具と本の上には、ぶあつくホコリが、ふりつもり。
テーブルの上には、イベント情報のチラシや、クラブやキャバでもらった名刺が、うず高くつみ上がってる。
あの野郎……。
さては、女遊びに夢中で、まったく研究してねえな?
…………。
まあ、いいか。
ヘタレとダチがくっついたから、津波が起こる心配もないし。
あのクズは、もう用済みだ。
ーーそう思ったとたん。
私は、「あるもの」を見つけた。
「……んっ?
こっ、これは……!!」
これさえあれば。
あの厄介なボス戦が、楽勝になるじゃあないか……!!
あたりをサッと、見回すと。
私は、その「あるもの」を、ポケットの中につっこんだ。
そして、なにくわぬ顔で、ソファーにもっぺん腰かけた。
次回の更新は、4/17(月)です。