6. ノノ
ヘタレ野郎にお願いされて。
私はてんでガラじゃない、チャリティー舞台に出ることになった。
んでもって。
その話を聞きつけたトムが、ヘタレに協力したいと言い出し。
ささやかだったはずの舞台は……。
クラスみんなで、やることになった。
クラス委員をやってるアンは、テキパキと多数決をとり、黒板に字をでっかく書いた。
「……では、お芝居の演目は、白雪姫に決定です。
次に、キャストの決定ですが。
まず、主役の白雪姫は……」
お調子者っぽいトムが、元気よく手を挙げた。
「はーい!
白雪姫は、レディ・サクラがいいと思いまーす!!」
クラスの男連中は、お気楽なトムの意見に、次々と同意して、クラスの女子を不機嫌にした。
「意義なし!」
「意義なーし!
……だって、レディ・サクラは、おれたちのヒロインだもんな☆」
ヘタレがあわてて、フォローを入れようとしたとき。
出席番号5番のトムが、のほほんと、こう言った。
「……うん。
ぼくも、トムの意見に賛成だ。
白雪姫は、レディ・サクラがいいと思うな」
ーーすると。
サクラを庶民とバカにして、いじめ隊長やってたアンが、別人みたいなセリフを吐いた。
「……まあ、素敵!
レディ・サクラなら、白雪姫にぴったりですわ!
レディ・サクラは、お美しくって、おやさしくって、おまけに教養もおありで……。
将来は、大国のお妃になるお方ですもの。
レディ・サクラ以上に、白雪姫にふさわしい方が、このクラスの中にいまして?」
ボスザルのアンが、そう言うと。
サクラをネチネチいびってた、クラスの他の女子たちも……突然、サクラを持ち上げた。
「賛成ですわ!」
「異議なしですわ!」
「わたくしも、トムくん……。
じゃなかった。
アン様の意見に、賛成させていただきますわ!」
私はクラスの女子どもを、めちゃくちゃ冷めた目で見つめた。
こいつら……。
サクラがめっちゃ出世して、皇太子妃(仮)になったからって、手のひらクルクル返しすぎだろ。
頭に、スポンジつまってんのか?
お調子者っぽいトムが、ヘタレ野郎を見て言った。
「レディ・サクラが、白雪姫なら。
王子様役は、ルシフェル殿下で決まりですよねっ!」
「えっ」
「ひゅーひゅー!
お熱いですねー!」
「結婚式は、いつですかー?」
ヘタレは、真っ赤になって言う。
「……これ、おまえたち!
からかうでないぞ!!」
私は、一瞬、納得しかけた。
……うん。
まあ、でも、確かに。
この二人、婚約してるし。
このキャスティングが、一番、無難か……。
……ん?
でも、待てよ。
サクラが姫で、ヘタレが王子ということは。
ミハエル様が、リスとか木とか、小人とか。
そういう役に、なっちゃうってこと?
そんな面白おかしい役を、いとしい推しに、やらせるわけにはいかないわ。
ここは、なんとしてでも。
私が主役をゲットして……。
王子役のミハエル様と、舞台でキスをしなくっちゃ!
「……はーい!
はいはいっ!
王子様役は、ミハエル様がいいと思いまーす!
そして、白雪姫は……この私!
ロザリンド・フェンサー!!
ロザリンド・フェンサーに、きよき一票を……。
みなさま、よろしくお願いしまーす!!」
金髪碧眼の王子は、すっと優雅に手を挙げて。
朝露にぬれた、白バラのように……。
さわやかに、おっしゃった。
「ぼくは当日、公務で欠席しますので。
みなさん、どうぞお気づかいなく」
私は、推しにつめよった。
「ミハエル様ーー!!
あなたって人は……。
どんだけ、行事がお嫌いなんですの!?
放課後に居残って、練習するのがダルいからって、仕事に逃げないでください!!」
超・演技派の王子は。
さびしげな顔で笑って……。まったく心にもない嘘を、ペラペラとお吐きになった。
「……本当に、残念だ。
もし、ぼくに、もっと自由な時間があったら……。
君と同じ舞台に立って、思い出を作りたかったのに。
何かと思い通りにならない、王族の身がうらめしいよ」
端正な顔の王子は、そう言って、私の両手をギュッとにぎると。
宝石みたいに美しい、深い緑色の瞳で……。
私をじっと、お見つめになった。
王子の色気に負けた私は、めっちゃあっさり、ほだされた。
「お仕事だったら、仕方ないですわよね!
私、あなたの分も……。
がんばって演技して、すてきな思い出作っちゃいますわ!
だから、あなたはお仕事に集中しちゃってくださいな!!」
私のいとしい、フィアンセは。
にっこり優雅にほほえんで、甘く、やさしく、おっしゃった。
「……ロザリンド。
君みたいに、かしこい女性がフィアンセで、本当に助かるよ」
……と、まあ、そんな感じで。
そのあとも色々と、すったもんだしたあげく。
劇のキャストは、以下の配役で決まった。
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白雪姫:サクラ
王子様:ヘタレ
意地悪なお妃:私
勇者の小人:出席番号5番のトム
魔法つかいの小人1:委員長のアン
魔法つかいの小人2:従者のチビ
商人の小人:クソメガネ
ポエマーの小人:演劇部のトム
盗賊の小人:知らないトム
賢者の小人:よく分からないトム
狩人のおっさん:……誰だっけ?
ナレーター:女みたいな吟遊詩人
〜〜以下、
木とかリスとかなので、省略〜〜
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