表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/131

5. ロイヤルスクール・ミュージカル


 母親の死を乗りこえて、すっかり元気になった従者は。


 主人の顔をひとめ見るなり、いきなり、説教し始めた。


 やさしいご主人様な、私は……。

 うっかり仏心を出して、こいつを元気にしてやったことを、モーレツに後悔していた。



 ……あ〜あ。

 余計なこと、すんじゃなかった。


 ほっとけば、今ごろチビは落ちこんで、めちゃくちゃ静かだったのに……。


 私って、なんて、けなげでいい人なのかしら。




 空気の読めないチビ助は、人の気持ちも知らないで……。クドクドクドクドクドクドと、しつこく説教をかますと。


 ゴホンと、せきばらいをして。

 怒ってるんだか、照れてるんだか分からない、ヘンテコな表情をした。




「……。

 まあ、その……。


 今回のことでは、あなたにも迷惑をかけてしまいましたし。


 おわびと言っては、なんですが……。

 どうぞ」




 そう言うと。

 チビはふせんがベタベタ付いた、なんだか妙にぶ厚いノートを、私に向かって、差し出した。


「……なにこれ?

 あんたの日記帳?」


「進級テストのために作った、対策用のノートです。

 このノートをくり返し読んで、次こそ、赤点の回避を……」




「いらない。

 どうせ読まないし」


「そうおっしゃらず。

 どうぞ、お納めください」


 いらないと言っているのに……。

 チビは手作りのノートを、しつこく渡そうとしてくる。




 あんまり、チビがしつっこいので、私はノートを廊下にポイした。


 ノートをぶん投げられた従者は、なぜか、プンプン切れだした。


「なんてことをするんです!!

 せっかく、人が一生懸命、徹夜して作ったノートを……」




「一生けんめー作ろうが、いらないものは、ほしくない。


 私に喜んでほしけりゃ、肉とか酒とか、よこしなさいよ。

 あんたって、ほんと気が利かないわね」




「……お言葉ですが、お嬢様。


 今のお嬢様にとっては、この対策ノートが、もっとも必要なのではないかと……。

 そう思って、用意した次第なのですが……」


「心配しなくても、平気よ。


 私って、やれば出来る子だから。

 テスト勉強なんて、直前にちょちょいとやれば、楽勝だもの」




「そういうことを、言っているから……。

 学年で5位なんて、無様な点を取るんです!」


「……はぁ?

 5位つったら、立派でしょうが」


「上からだったら、そうですね……!!

 でも、お嬢様の場合は……下から、学年5位ですよ!!」




「……ったく、いちいち細かい奴ね。

 上から5位でも、下から5位でも、大した違いないじゃない」


「全然、まったく、違います!!

 とにかく、次のテストこそ……赤点を回避してもらいますからね!

 まず、今週の土日は、数学のやり直しから……」




 頭がめっちゃいい私は、廊下を爆裂ダッシュして、うざい従者をふりはらい。


 トイレに、かけ込もうとした。


 ……と。

 廊下の角を曲がったところで、ヘタレとばったり出くわした。





「……おお、ロザリンド!

 ちょうどよいところに来てくれた!


 実は、おれは今朝から、ずっと……。

 おまえを探しておったのだ。




 ロザリンド、おまえ……。

 舞台に、出てみるつもりはないか?」




「……はぁ?

 なんで、私が?」




 ヘタレな皇太子殿下は、ニコニコと愛想よく、わけを説明し始めた。


「うむ、実は……。

 おれが訪問している、ある孤児院が経営難でな。

 孤児院を立て直すために、多額の寄付が必要なのだ。




 そこで、チャリティー芝居を開いて、その売上を寄付しようと思うのだが……。


 ……ロザリンド。

 おまえも、芝居に出てはくれぬか?」




私は、クールに断った。


「私、パス。

ボランティアとか、超だるい」


「そう言わず!

 おまえは、美人で華があるから……。


 おまえが参加してくれれば、きっと多くの観客が、集まるはずだと思うのだ。


 いそがしいところ、すまぬが、どうか……。

 協力しては、もらえぬか?」





「おだてられても、やなものは嫌。

 ボランティアとか、マジ・超だるい」


 そっけなく、そう言うと。


 赤毛の皇太子殿下は、ダンボールに捨てられた、子犬みたいな目をして言った。




「来月までに、100万ゴールド集めなければ、孤児院がなくなってしまう……。


 両親をうしなった気の毒な幼子たちが、帰る家をもうしなって、この寒空の下に、追い出されるとは……。


 そのような、むごいこと……。

 とても、おれには耐えられぬ……!!」




「分かったわよ!

 ……ったく!

 協力すれば、いいんでしょ!!」


 ヘタレは私の手をとって、満開の笑顔を見せた。


「ありがとう、ロザリンド!

 やはり、おまえはやさしいな!」




「はぁ〜〜……」


 私が、ため息ついてると。

 クラスメイトのトムが、ヘタレの肩をたたいて言った。


「……でーんかっ!

 話は、聞かせてもらいましたよ。


 水くさいじゃないですか。

 おれたちにも、協力させてくださいよ!」





「いっそ、その舞台……。

 クラスみんなで、やりましょう!


 そうすれば、100万ゴールドなんて、きっとすぐに集まりますよ!」


「そうですよ!

 みんなで力を合わせれば、できないことはないですよ!」




 喜怒哀楽のはげしいヘタレは、感激で目をうるませた。


「おお……!

 ありがとう!


 トム、トム……それに、トム!」




 目の前でくり広げられる、テンプレ的な青春ドラマに。


 私は、「はぁ〜っ……」と、ため息をついた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ