4. ノノ
うるさい従者の母親が、ポックリ死んでしまったと聞いて。
やさしいご主人様の私は、いちおう、従者を気づかった。
遠慮なくコキ使うのを、なるべく、ひかえめにしたり。
いつもあびせる暴言を、なるべくひかえめにしたりと、何かとやさしくしてやった。
しかし、3日経っても。
あいつが元に戻らないので、だんだんイライラとしてきた。
「……あー!
くっそ、ムカつくっ!!
つか、なんでご主人様の私が、家来のあいつに、気をつかわなきゃダメなのよ?
……決めたわ。
私、もう、こんなことやめにする。
今日こそは、あいつを元に戻して。
また前みたく、コキ使いまくってみせるわ!!」
ーーすると、タイミングよく。
らせん階段の下に、従者のちっちゃな姿が見えた。
「……よしっ、来たわね!」
私は、深呼吸をすると。
いかにも貴族のお嬢様らしい、お上品なスマイルを、きれいな顔にはりつけて。
従者が、上がってくるのを待った。
黒髪のチビ助は、私の姿を見かけると。
名家の従者にふさわしい、礼儀正しい態度で言った。
「お嬢様。
紅茶を持ってきましたよ」
「ありがとう、シェイド。
……ぷはーっ! うまいわ!!
あんたが入れる紅茶の味は、やっぱり他とは違うわね!!」
黒髪のちっこい従者は、教科書みたいにみごとな角度で、頭を下げてこう言った。
「おほめの言葉をいただきまして、光栄でございます」
そこで、私の広い心は……。
ついに限界をむかえて、ぷっつんと、盛大にキレた。
堪忍袋がはじけた私は、聞き分けのよすぎる従者に、次から次へと、命令してやる。
「……次は、あれをしなさい!
それが終わったら、これをしなさい!!
…………。
……倉庫の掃除、きれいにできた?
じゃあ、もっぺん倉庫をちらかして、最初から全部、やり直しして」
大人しくハイハイと、言うことを聞いてた従者は、ついに、ぶちギレて叫んだ。
「……いい加減にしてください!
どれだけ人を、コキ使ったら気が済むんですか!!」
人形みたいに従順に、言うことを聞いてた従者が、ついにぷっつんキレたので。
私は、ニヤリと笑ってやった。
「……あら。
よかったじゃないの。
どなり返す元気が出てきて。
思いっきり、コキ使われまくって……。
ちょっとぐらいは、気晴らしになった?」
従者は、ハッとした顔をして、ギャンギャン言ってた口を閉じると。
不機嫌そうにそっぽを向いて、愛想のかけらもなく言った。
「そろそろ、気持ちを切りかえて……。
いつものおれに、戻ります。
あなたに気をつかわれるなんて、まっぴらごめんですからね」
チビのあまりのガンコさに、私はあきれまくって言った。
「おまえ……。
ほんとに、かわいくないな。
感謝してるんだったら、『ありがとう』って素直に言えよ。
ほんと、空気の読めない奴だな」
黒髪のちっこい従者は、プイッとそっぽを向いたまま、KYらしいセリフを吐いた。
「感謝なんて、してません。
お嬢様のわがままに、つき合いきれなくなっただけです」
「……なんだと、てめー!!
ケンカ売ってやがんのか!?」
私とチビは、いつものように言い合いながら……屋敷の廊下を歩いていった。
どしゃぶりだった、雨がやみ。
冬のどんより薄暗い空に、ほんの少しの晴れ間がさした。