表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/131

4. ノノ


 うるさい従者の母親が、ポックリ死んでしまったと聞いて。


 やさしいご主人様の私は、いちおう、従者を気づかった。




 遠慮なくコキ使うのを、なるべく、ひかえめにしたり。


 いつもあびせる暴言を、なるべくひかえめにしたりと、何かとやさしくしてやった。


 しかし、3日経っても。

 あいつが元に戻らないので、だんだんイライラとしてきた。




「……あー!

 くっそ、ムカつくっ!!


 つか、なんでご主人様の私が、家来のあいつに、気をつかわなきゃダメなのよ?


 ……決めたわ。

 私、もう、こんなことやめにする。


 今日こそは、あいつを元に戻して。

 また前みたく、コキ使いまくってみせるわ!!」




 ーーすると、タイミングよく。

 らせん階段の下に、従者のちっちゃな姿が見えた。


「……よしっ、来たわね!」




 私は、深呼吸をすると。

 いかにも貴族のお嬢様らしい、お上品なスマイルを、きれいな顔にはりつけて。


 従者が、上がってくるのを待った。


 黒髪のチビ助は、私の姿を見かけると。

 名家の従者にふさわしい、礼儀正しい態度で言った。




「お嬢様。

 紅茶を持ってきましたよ」


「ありがとう、シェイド。


 ……ぷはーっ! うまいわ!!

 あんたが入れる紅茶の味は、やっぱり他とは違うわね!!」




 黒髪のちっこい従者は、教科書みたいにみごとな角度で、頭を下げてこう言った。


「おほめの言葉をいただきまして、光栄でございます」


 そこで、私の広い心は……。

 ついに限界をむかえて、ぷっつんと、盛大にキレた。




 (かん)(にん)(ぶくろ)がはじけた私は、聞き分けのよすぎる従者に、次から次へと、命令してやる。


「……次は、あれをしなさい!

 それが終わったら、これをしなさい!!


 …………。

 ……倉庫の掃除、きれいにできた?


 じゃあ、もっぺん倉庫をちらかして、最初から全部、やり直しして」




 大人しくハイハイと、言うことを聞いてた従者は、ついに、ぶちギレて叫んだ。


「……いい加減にしてください!

 どれだけ人を、コキ使ったら気が済むんですか!!」




 人形みたいに従順に、言うことを聞いてた従者が、ついにぷっつんキレたので。


 私は、ニヤリと笑ってやった。


「……あら。

 よかったじゃないの。

 どなり返す元気が出てきて。


 思いっきり、コキ使われまくって……。

 ちょっとぐらいは、気晴らしになった?」




 従者は、ハッとした顔をして、ギャンギャン言ってた口を閉じると。


 不機嫌そうにそっぽを向いて、愛想のかけらもなく言った。


「そろそろ、気持ちを切りかえて……。

 いつものおれに、戻ります。


 あなたに気をつかわれるなんて、まっぴらごめんですからね」




 チビのあまりのガンコさに、私はあきれまくって言った。


「おまえ……。

 ほんとに、かわいくないな。


 感謝してるんだったら、『ありがとう』って素直に言えよ。


 ほんと、空気の読めない奴だな」




 黒髪のちっこい従者は、プイッとそっぽを向いたまま、KYらしいセリフを吐いた。


「感謝なんて、してません。

 お嬢様のわがままに、つき合いきれなくなっただけです」


「……なんだと、てめー!!

 ケンカ売ってやがんのか!?」





 私とチビは、いつものように言い合いながら……屋敷の廊下を歩いていった。


 どしゃぶりだった、雨がやみ。


 冬のどんより薄暗い空に、ほんの少しの晴れ間がさした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ