47. 冬、朝チュン、酒くさいベッドにて。 …………第一部・完結
ーー舞踏会の、たぶん翌日。
私は、豪華なベッドの上で、パッチリと目を覚ます。
ごきげんな午後のひざしが……。
お部屋の中を、クリアに照らし。
二日酔いのズキズキが……思考回路をにぶらせる。
…………。
私ったら、いつの間に……。
実家に、帰ってきてるのかしら?
ミハエル様とダンスして、キスしてもらったとこまでは。
ぼんやり、記憶に残ってるけど。
それから、何があったのか……。
さっぱり、思い出せないわ。
ふんわり、ふかふかのベッドで。
ぷっつり切れた、記憶の糸を……一生懸命、ひっぱってると。
ドアがコンコン、ノックされ。
不機嫌そうなチビ助が、お盆を持って、やって来た。
いつもの服を着たチビは、不機嫌オーラMAXの、作り笑いでこう言った。
「おはようございます、お嬢様。
本日は、ずいぶんお早いお目覚めですね。
お嬢様におかれましては、今朝も、ご機嫌うるわしいようで……恐悦至極に存じます」
京都のテンプレみたいな嫌味を、ネチネチ言ってきやがる、チビを。
私は、お嬢様らしく、しかり飛ばしてやることにした。
「あんたねぇ……。
……んぁっ!」
だが、しかし。
こめかみのすぐ横に……ズキッと、するどい痛みが刺して。
私は、ベッドにつっぷした。
「う~〜……。
頭が痛い……。
今日は、紅茶の気分じゃないから、しじみの味噌汁、持ってきて……」
「そう、おっしゃるだろうと思って。
本日の『朝食』は……。
玉子焼きと、おにぎりと、しじみの味噌汁にしました」
とっても寛大な私は、態度の悪いクソガキを、お嬢様っぽくほめてやる。
「……へぇ。
あんたにしては、気が利くじゃない。
貧乏人の朝メシが、レディの口に合うわけないけど。
とりあえず食べてやるから、せいぜい感謝しなさいよ」
「……では、どうぞ。
冷めないうちに、ご賞味ください」
そう言うと。
チビは、お盆をテーブルに置き。
銀のカバーを、カパッと取った。
……すると、そこには。
めっちゃ、うまそうな和食が……ビシッと、きれいに並んでた。
つやつや光る、おわんのフタを。
ちょっとひねって、カパッと取ると。
おだしと味噌の、やさしい香りが……。
ふんわり、湯気と一緒に立って。
私の鼻を、くすぐった。
両手で、おわんを持ち上げて。
グイッと一気に飲み干すと、腹の底から声が出る。
「あ~、うまいっ!
胃袋に、しみる味だわ~~」
まったく愛想のない奴は、そっけなく言い捨てた。
「そうですか。
それは、よかったです」
私は質素な「朝食」を、ぺろりと、全部たいらげた。
チビは、急須にお湯をつぎ、食後のお茶を用意した。
あったかいほうじ茶を……私はズズッと、一気にすすり。
さっそく、ベッドに戻ろうとすると。
召し使いが、命令してきた。
「おれは、部屋を出ていきますから。
その酒くさいドレスを脱いで、ネグリジェに着がえてください。
今すぐ、クリーニングしないと……。
シミが落ちなくなりますよ」
そう言われて、鏡を見ると。
私は、昨日の赤いドレスを、着たままなのに気がついた。
「えっ、私……。
なんで、ドレスを着てんのよ?
っていうことは、もしかして……。
メイク、落とさずに寝ちゃった?
……や~ん!
ニキビが出来たら、どうしよう~~!!」
空気の読めないチビ助は、レディのグチを、スルーして。
主人をしつこく、せっついた。
「いいから、さっさと着がえてください。
洗濯係のアンさんが、朝から困ってるんですよ」
「……あんたねぇ。
あんたの大事なご主人様が、お肌のことでグチってるのよ?
あんた、仮にも家来だったら……。
『あらまあ、それは大変ですねぇ。
……でも。
ご主人様なら、大丈夫。
ニキビが出来ても、きれいです!』
……とか。
思ってなくても、言ったらどうなの?」
ご主人様のおしかりを、ガキは、まるっとスルーして。
食器を、ササッと片づけた。
「……では、失礼いたします。
ドアのところに、洗濯カゴがございますので。
お着がえがお済みになったら、ベルを鳴らして、お呼びください。
洗濯物を、取りにまいります」
そっけなく、そう言うと。
チビは、お盆を手に持って、トンズラここうとしやがった。
……そのとき、ふっと。
私の頭に……。
変な映像が、浮かんだ。
私は、頭を手でおさえ。
脳内の変な動画に、しごく、まともなコメントをする。
「…………。
そういや、確か……。
夢の中に、あんたが出てきて。
私に、デレデレしていたような……。
でも、そんな気色の悪い夢……。
この私が、見るはずないし。
もしかして、マジだったのかしら……?」
かわいげのないチビ助は、ご主人様のご意見を、バッサリ、冷たく切りすてた。
「おれが、あなたにデレデレなんて……。
するわけないじゃないですか。
そんな気持ちの悪い夢、勝手に見ないでくれますか?」
予想通りの返答に、私はぷいっと、そっぽを向いた。
「……ふんっ!
ジョークの通じない奴ね。
安心しなさいよ。
あんたみたいな堅物が、身分違いの恋するなんて……。
これっぽっちも、思ってないから。
あんな気色の悪い夢、ぜっっったい、夢に決まってるわよ」
かわいげのないクソガキは、この期におよんで、嫌みをたれた。
「きちんとご理解いただけて、こちらとしても安心しました。
では、今度こそ……失礼させていただきます。
どうぞ、頭もお体も、お大事になさってください」
いやしい庶民にあるまじき、暴言を吐きすてて。
従者は、部屋を出ていった。
召し使いの態度の悪さに、ぷっつん切れちゃった私は。
枕をビリッと引きさいて、お部屋に羽根をばらまくと。
ドレスを、床に脱ぎすてて……。
ブラとパンツとキャミ1枚で、ボフッと、ベッドにとび乗った。
「……ふぅ。
やっとスッキリ、サッパリしたわ。
さーて。
今日のダーリン情報は……」
ベッドの横に置いてある、ラジオのスイッチを入れると。
ヘタレとダチと姑が、記者会見をやっている。
ヘタレ野郎の母上は、世間の熱い応援と、二人の熱い気持ちに負けて……。
息子とダチの結婚を、「しぶしぶ」許可してやるらしい。
んでもって。
何も知らないモブどもは、愛し合ってるお二人が、無事ゴールインすることに……。
大歓声を送ってるらしい。
弁当屋の娘から、皇太子妃になるヒロインは。
ラジオの向こうの国民に向けて、堂々とスピーチをする。
『……わたしは、なんの取り柄もない、平凡な女の子でした。
そんなわたしが、殿下と結婚できるのは……。
やさしく応援してくださった、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。
ほんとうに、感謝しています。
わたしには、足りないところが、いっぱいあります。
こんな、わたしでいいのかと、不安に思うこともあります。
でも、みなさんが……。
わたしを、応援してくれるから。
立派な妃になるために、一生けんめい、がんばります』
幸せそうな、マブダチの声に。
私は、すっかり満足し。
そのまま、そっと、目を閉じた。
ーーこうして、平民の聖女は、貴族のプリンセスになり。
愛する二人は、結ばれて……。
津波の危機は、だいたい去った。
使命をなしとげた、私は。
死亡フラグのまるでない、平和な学園生活を……。
一ヶ月ほど、送るのだけれど。
それは、また……今度の話。
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ゴリラじゃなくて、ご令嬢!
~~ 元ヤン悪役令嬢の、即死しそうな乙女ゲーライフ ~~
【第一部・完】
〈3章最終話・あとがき〉
ここまで
読んでくださって、
本当に、ありがとうございました!!
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第二部のスタートは、
【2023年・4〜8月ごろ】の予定です。
みなさま、どうぞ
来年も、よろしくお願いいたします!
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(2023.2.21 追記)
3章の完結後、
何度も読み返してくださった方、
いいねを押してくださった方へ。
「がんばってね。続き待ってるよ」
と言われたようで、とてもうれしくなりました。
あたたかい応援、
本当に、ありがとうございます。
m(_ _)m
予想していたよりも、
原稿が早く書けているので、
【4章の公開は、4月〜6月】ごろになる予定です。
連載が再開するまで、もうしばらくお待ちください。