46. ノノ
王子様の、浮気を知って。
めちゃくちゃ落ち込んだ私は、とってもお嬢様らしく、酒をがぶがぶ、飲みまくり。
しつこくカラんでくるチビを、どーんと押し倒してやった。
背中を打ったチビの従者は、私の下で、ブチ切れた。
「猛獣なみの筋力で、急にタックルするなんて……。
あなたは、おれを殺す気ですか!?
だいたい、あなたという人は……。
いつもいつも、無茶ばかりして……!!」
ほっぺの赤いチビ助は、一滴も飲んでないのに、なぜか説教し始めた。
私は、チビの説教を、右から左にスルーした。
…………。
………………。
…………………………………………。
「つまり、…………。
と、いうことなのですが。
ただいまの説明で、ご理解いただけたでしょうか?」
「ああ、うん。
ご理解できたわよ。
えっと。
なんだっけ、確か……。
伝説の武器を探しに、アマゾンの奥地にとんで……」
「分かってないじゃないですか!!!!」
「あっはっは!
そりゃそうよ。
だって、聞く気もなかったし」
スルーくらったチビ助は、めげずに説教を続ける。
「……いいですか、お嬢様。
お嬢様はもう、18ですよ?
普通、18ともなれば。
どんなに、おてんばだった人でも、すっかり立派なレディになって、感心されるものなのに……。
それなのに、あなたときたら!
子供のゴリラだった頃から、さっぱり何の進歩もなくて……。
むしろ、どんどん退化するのは、一体、どうしてなんですか!!
こんな情けないことでは……。
ミハエル様に、いつか愛想をつかされますよ!!」
ちっちゃな奴の大きなお世話を、私は鼻で笑ってやった。
「……ふんっ!
お子様のくせに、えらそうな口、きいちゃって……。
初恋もまだの童貞が、大人の女の恋愛に、イチャモンつけてくんじゃないわよ!!」
子供みたいなチビ助は、ヘンテコな寝技を使って、ポジションをひっくり返し。
私の上に、乗りやがる。
「…………。
子ども子どもって……いい加減、しつこいですよ。
おれは、もう……15です。
いつまでも、小さな子供じゃありません」
意外と顔のいいチビは。
せっぱつまった顔をして、私をじっと、見つめてる。
その目は、妙に真剣で、切ない熱を帯びていて……。
めちゃくちゃ、うがった目で見れば。
ずっと好きだった女が、弟としか見てくれなくて……。
ブチギレちゃったみたいに見える。
これが、乙女ゲームだったら。
鈍感だったヒロインが、やっと男の気持ちに気づいて、盛り上がるはずのシーンなんだが。
しかし、私の頭の中は……。
「前髪、切りてぇ」という気持ちで、パンクしそうになっていた。
「……お嬢様。
聞いていらっしゃいますか?
おれは子供ではなくて、男だと言ってるんですよ?」
私は、心のハサミを捨てて、ガキの相手をしてやった。
「うん、そうね。
そういや、あんたも男よね。
……で?
それが一体、どうしたの?」
チビ助は、絶句した。
「な……っ!」
「……だって、あんたって。
酔って抵抗できない女に、乱暴するって、キャラじゃないじゃん。
むしろ、人畜無害じゃないの?
口だけは、やたら小うるさいけど」
カルシウム不足のチビは、大声でキレちらかすのを、必死にこらえるように言う。
「……信用していただけて、何よりです。
ですが、おれも人間ですからね。
あまり挑発をされると、つい魔が差すということも……」
「ないない。そんなの、絶対にない。
あんたは自分がほれた女に、すっぱだかで乗られても……。
そいつが寝オチかましたら、毛布をかけて、ベッドにのせて、自分は床で寝るタイプでしょ?
想像しなくても分かるわ」
自称「男」の「いい人」は、苦渋に満ちた顔をして、屈辱そうにつぶやいた。
「…………。
そうですね……。
この件に関しては、あなたが正しいようですね……」
「でしょー?
あんたって、やっぱ意気地なしよねー!!」
私は、ケラケラ笑って言った。
おひとよし過ぎる従者は、「はぁ~……」と深く、ため息をついた。
「ねえ、シェイド」
「…………。
なんですか、お嬢様……」
「プロレスごっこしよっ!!」
「バカ言ってないで、立ちなさい!!!!
……ほら、早く立って!
水を飲んで、酔いをさまして……。
とっとと、家に帰りなさい!!!!」
つき合いの悪い従者は、勝手に私の上からどいて、レディの腕をひっぱった。
私は当然、逆らった。
「やだ。
家に帰るの、めんどくさい。
それより、プロレスごっこがしたい」
薄情すぎるお子様は、酔っぱらったレディを置いて、ひとりで家に帰ろうとした。
「お嬢様のからみ酒には、もう、つき合いきれません!
おれは、一人で帰ります!!
明日、具合が悪くなっても……。
看病なんて、しませんからね!!!!」
シッポをまいて逃げた獲物に、私は、すばやくとびついた。
「……うわっ!
離せ! この酔っぱらい!
バカ力! ゴリラ!!」
「嫌よ。
ぜっったい、離さない。
あんたが、試合を拒否るなら……。
無理やり、リングに立たせてやるわ」
私は、従者の弱点に……すかさず、ニュッと手を伸ばし。
くすぐり地獄に、落とそうとした。
従者は、すばやく腰をひねって、弱点をガードした。
「……いい加減にしてください!!
これ以上、ダダをこねると……。
力ずくで、だまらせますよ!!」
「はんっ!
やれるもんなら、やってみなさい!!」
「…………。
警告は、しましたからね」
ーードスッ!!
私は、首にチョップをくらい。
目の前が、
まっくらになった。
うすれゆく意識の中で、
私が、最後に聞いたのは、
「…………。疲れた…………」
という、従者の悲痛な声だった…………。