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【第一部・完結】ゴリラじゃなくて、ご令嬢! ~~ 元ヤン悪役令嬢の、即死しそうな乙女ゲーライフ ~~  作者: 牧野ジジ
第3章 〜〜 大国の皇太子さまを好きになったけど、身分違いなので、あきらめます! 〜〜
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44. 遅刻しすぎたシンデレラ



私は、死ぬ気でダッシュしていた。


なぜ、急いでるのかと言うと。

王子様との約束に、遅刻しちゃったからである。







私の愛しいフィアンセは、頭の悪いアンどもと、ダンスするのがお嫌いなので。


12月の24日に、わざと公務をぶちこんで、舞踏会をおサボりになった。






ドレスを用意した直後に、そんな話を聞かされて……。

私は、ガックリ落ち込んだのだが。






その日の夜に、王子様から、お電話があって。


「3つ目の公務と、4つ目の公務の間に、1時間ほど空きがあるから、こっそり二人で会おうよ」と。


ありがたすぎるお誘いを、いただいちゃって、マジでビビった。






そういうわけで。


私はダンスを途中で抜けて、「鏡の広間」に向かってるのだが。





今の時刻は、午後11時55分。


……と、いうことは、つまり。


王子様との約束を、55分も過ぎている。







私はさらに、スピードを上げ。


予定時刻を1時間すぎて、やっと目的地についた。







ーーーーーーーーーーー


鍵のかかったお部屋のドアを、ハイヒールでって開けると。


鏡にぐるっと囲まれた、銀色の空間の中で……。


タキシード姿の王子が、ピアノを演奏なさってる。







うるわしすぎる光景に、私は心を奪われて、「ごめんなさい」も言えなくなった。






王子様の金色の髪は、シャンデリアの光を受けて、月光のように淡く輝き。


うつむき加減の横顔は、どこか憂いを帯びていて。


深い緑のまなざしは 、目の前にある鍵盤ではなくーーどこか遠くにいる人に、向けられているような気がする。








……一瞬の、沈黙の後。


王子様の美しい手が、すっと右側に動いて。


水晶みたいに透きとおる音が、キラキラと宙を舞っていく。







あんまり、きれいなメロディに。


私はなんだか、切なくなって……。


気づくと、涙がこぼれてた。






……ピアノの音が、小さくなって。


王子様の指先が、そっと鍵盤を離れた。





「……やあ、ロザリンド。


ちょうどいいところに来たね。

ぼくは、これから帰るところだよ」



そう言って、王子はにっこり、お笑いになった。







私は、必死に謝った。


「本っ当~……に、すみません!!


この埋め合わせは、必ずしますわ。


実家の土地でもミイラでも、あなたが欲しいとおっしゃるものを、何でもくれて差し上げますから!!」






「……本当に?」


「もちろんですわ!

なんなら、あなたのお父様とか、兄貴の首でも、よろしくってよ!!」



「……では、踊っていただけますか。

ぼくの愛しいプリンセス」







思わぬものを要求されて、私はコブシの行き場をなくした。


「うぇっ!? えっ……。ぁ、はぃ……」







王子はサッと、立ち上がり。

私のもとにやって来て、なんか優雅なお辞儀をなさった。


執事はピアノの前に座って、BGMをスタンバイした。


私は、どうしていいか分からず。

ただオロオロと、突っ立っていた。







時計の音が、カチコチと鳴り。


ピアノの前に座った執事が、ゴホンと小さく、せきばらいした。





すると、すかさず。

王子が、私に手を差しのべた。


「……どうぞ、この手をお取りください。

私があなたに触れるのを、お許しになるのであれば」







私はえいっと、覚悟を決めて。


王子様の手を、ギュッとつかんだ。


王子様の手が、腰に触れ。

ラスト・ダンスが始まった。






ーーーーーー


ピアノの甘い、調べに乗って。


優雅にダンスを踊りながらも……。


私は目線の置き場所に、すっかり困り果てていた。






視線をちょっと、右にやったら。


王子様と目が、バッチリ合って。

私はあわてて、視線をそらし。


それから、そろーり、そろーりと、視線をもとの位置に戻した。







私の愛しいフィアンセは、エメラルド色のまなざしを、まっすぐ私に向けて言う。



「……今夜の君は、とても綺麗だ。

まるで、深紅のバラのようだね」






突然、そんなことを言われて。

死ぬほど、こっぱずかしくなり、私はプイッと、そっぽを向いた。


ーーだが、しかし。


壁が鏡になっているので、どこに視線をそらしても……ミハエル様と踊ってる、自分の姿が目に入る。






私がワタワタしていると、王子様がクスッと笑った。


「今夜は、とてもいい夜だ。

来年のクリスマスイブも……こうして、二人で踊ろうか」







……このクソゲーの、中に入って。


1年近く、経ったけど。


今でも、私は王子の気持ちが……いまいち分かっていなかった。






ミハエル様は私のことが、ほんとに好きかも知れないし。


実は、全然好きじゃあなくて、利用されてるだけかも知れない。






だけど、私はこの人が好き。


もしもこの先、この人に……だまされていただけだって、分かってしまう日が来ても。


それでも、私はこの人を、心の底から憎めない。





……そのことだけは、ハッキリしてる。








――あっという間に、一曲が終わり。


突然、あたりがシーンとなった。


なんか気まずくなった私は、小粋なジョークで場を和ませた。







「いやぁ~……。


にしても、ビックリしましたわ。

まさか、ミハエル様が、私と会ってくださるなんて。





これが、いつものあなたなら。


『イブを誰かと楽しむなんて、はっきり言って、時間のムダだ。


んなことしてるヒマがあるなら、暖炉の前に本つんで、ぼっちで読んでた方がいい』



……とか。いかにも、おっしゃいそうなのに」







王子は、クールにツッコんだ。


「君って時々、失礼だよね。

ぼくにも、大事な人ぐらいいるよ。


君と、セバスチャンと、おばあ様。


あと、もう1人いるけれど……。君は知らない人だから」






「……えっ?

それって、どういう……」



最後まで言う前に、私は口をふさがれた。







ーーミハエル様と、キスしてる。



そう思ったら。

頭も体もフニャフニャになって、何にも考えられなくなった。







「……残念だけど、もう行かなくちゃ。

この続きは、また今度」



そう言うと。

王子は爽やかに笑って、風のように、軽やかに去った。







私は、暗示にかかったみたいに。


王子様が、出ていったドアを……。


いつまでも、いつまでも見てた。









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