40. ノノ
「暗殺された」と、思わせといて。
……普通に、火事で死んでた伯爵。
伯爵様が大好きすぎて、帝国にケンカふっかけた……。
頭の悪すぎる、モブたち。
そして。
クソゲーのアホな市民に誤解され、暗殺疑惑をかけられた女帝 = ヘタレのお母様。
しかし、この火事の裏には。
まだ、世間に知られていない秘密があった。
……なんと!
伯爵家の人間は、全員死んでいなかった!!
しかも、火事場から消えた「そいつ」は……。
なぜか、この国にいたのだ。
…………。
それにしても、この王子様。
なんで、こんなに、くわしいの?
まさか当時、現場にいらして。
火事場ドロボーされてたなんて……。
いくらなんでも、あるはずないし。
……と、そこまで考えて。
私は思わず、ハッとした。
「火事場からドロンした、その人物って、誰ですの?
……!!
まさか、ミハエル様、あなた……!!」
「…………」
もしかして、あの火事は……。
やっぱり、帝国の放火で。
ミハエル様の正体は……。
暗殺された、伯爵の息子!?
……いや。
さすがに、それはないでしょ。
だって、火事が起きたのは……20年も前なのよ?
19歳のミハエル様が……。
息子さんなわけ、ないじゃない。
……気がつくと。
なんでだか手が、ふるえてる。
私はガタガタ言っている手を……サッと、すばやく背中にかくし。
動揺しまくっちゃってることを、「なかったこと」にしようとしたが。
今度はヒザが、ふるえ出す。
金髪碧眼の王子は。
復讐キャラにありがちな、激しい怒りをまったく見せず。
とても涼やかなお声で、「そいつ」について、お語りになる。
「……生存者の名前は、アンヌ。
当時は、16歳の少女で……。
金髪に青い瞳の……清楚な美貌の持ち主だった。
アンヌは、城に仕えるコックに、ほのかな思いを抱いていたが。
『自分は、伯爵家の娘。
いずれは、どこかの貴族のもとに、嫁いでいくべき立場だから』と。
平民の男への恋を、ひっそりと胸に秘めていた。
そして、コックの男の方も……。
身分違いの令嬢に、かなわぬ恋をしていることを、誰にも言おうとしなかった。
そのまま、何事もなければ。
アンヌは貴族の妻となり、コックは平民の女性と、家庭を築くはずだった。
しかし、あの火事の日に……。
二人の運命は、変わった。
炎と煙に包まれて、自らの死を覚悟したとき。
アンヌの前に、現れたのは……。
愛するコック、その人だった。
背中にやけどを負いながら、コックは愛する女性を抱いて、炎の中を懸命に進み……。
二人で生きて、外に出た。
九死に一生を得たアンヌは、コックの勇気に感動し、自分の気持ちを打ち明けた。
……こうして、二人の思いは通じ。
アンヌは貴族の身分を捨てて、平民のコックの妻になることにした。
『めでたし、めでたし』というわけだね」
なかなか終わらない話に、私はかわいくツッコミを入れた。
「……はあ、そうなんですの。
どっかの清楚な聖女さまとか、夢見る乙女が大好きそうな……テンプレすぎる展開ですわね?
で?
その、ながーいお話が、私のダチのかけ落ちに、どう関係してくるんですの?」
私のキュートなツッコミを、王子はクールに受け流し、テキパキと、先にお進みになる。
「二人は、船でこの国に渡り……。
グラトニー・グリーン村の『鍛冶屋』を目指すことにした。
そこではお金さえ払えば、面倒な手続きもなしに、5分で式が終わるから。
身分違いの恋人たちに、一番人気の式場なんだ。
……なんて、説明しなくても。
君は『鍛治屋』のからくりを、当然、知ってるはずだよね?」
「あっ、ハイ。
それは知ってます。
法律の抜け穴、バンザイ!
札束ビンタ、バンザーイ!!
ですわ。
だから、私はヘタレとダチを……。
あそこに行かせましたのよ?
あなたに、邪魔されましたけど」
私はお嬢様らしく、お上品に嫌みを言ったが。
王子は涼しい顔をして、話を先に、お進めになる。
「火事の混乱に乗じて、国を抜け出した二人は……。グラトニー・グリーンの『鍛治屋』で、ひっそりと式を挙げた。
こうして夫婦となった二人は、仲むつまじく、平凡に暮らし。
二人の開いた弁当の店は……。
知る人ぞ知る、名店となった。
そうして、年月が経ち。
やがて、二人の間には……。
かわいらしい娘が生まれた。
ヤマトン生まれだったコックは、初めての子の誕生を、子供のように喜んで……。
大声で叫びながら、ご近所中を駆け回り、妻に大いに恥をかかせた。
妻にやんわり叱られて、頭の冷えた父親は、その年の大晦日まで、頭をかかえて悩んだ末に。
自分の故郷の花にちなんで……。
生まれた娘を、サクラと名付けた」
「…………。
それって、つまり……。
どういうことですの?」
「つまり、サクラちゃんは……。
貴族の令嬢だったんだ」
「な……っ。なんですってー!?」
「彼女の本当の名前は……。
サクラ・ミヤモト・サンドリヨン。
平民のための政治を行い、『領主の中の領主』と呼ばれた、サンドリヨン伯爵の孫で……。
サンドリヨン伯爵領の、本来の持ち主なんだ」
私は、マジでおどろいた。
「……ええっ!
マジですの、それ!?」
そんな、都合のよすぎる設定……。
原作のクソなゲームでは、完全スルーされてたし。
どう見ても、雑に作ったくさい……。
【初回特典ファンブック】にも、載ってなかったんですけど!?
「サンドリヨン伯爵家は、ロワンス王家にも連なる、由緒ある家柄で……。
あの『伝説の聖女』の、子孫だという説もある。
さらに、その領地には、聖女信仰の聖地と……。
良質の魔法燃料が、豊富にとれる鉱山がある。
帝国は、領地を伯爵家に返し、紛争をおさめた上で……。
タイミングを見はからい、お二人の関係を、メディアにわざと『スクープ』させる。
ルシフェル殿下の母君は、はじめは二人の結婚に、反対しているフリをする。
『平民育ちの令嬢を、皇太子妃にするなんて!
おまけに、相手の令嬢は、よりにもよって、あの伯爵家の娘だなんて……。
そんなロミジュリすぎる結婚……。
お母さんは許しませんよっ!!』
……と。
こんなコメントを、記者会見で発表し。
伯爵領の住民と、一般市民の反感を買って……。
世間一般の市民が、二人の肩をもつように、世論をうまく操作する。
マスコミの報道によって、世間が二人の味方になったら、二人がかけ落ち騒動を起こす。
ルシフェル殿下の母君は、『そこまで気持ちが固いのなら……』と、しぶしぶ二人の仲を認めて、結婚させるフリをする。
こうすれば、伯爵領には、平和が戻り。
帝国は、サンドリヨンの鉱山と、聖地を有効活用できる。
……というシナリオを、公務のついでに提案したら、女帝陛下はお笑いになって、こんな手紙をたくされた。
この手紙の受取人は、もちろん、サクラちゃんだけど。
彼女の親友の君には、特別に見せてもいいと、陛下の許可が下りている。
……さあ。中を読んでごらん」
私は親友あての手紙を、賞状みたいに受け取ると。
封筒を派手にビリビリと裂き、中の手紙を取り出した。
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サクラ・ミヤモト・サンドリヨン様
あなたたちの結婚について、打ち合わせがしたいから、今度こっそりお話ししましょ。
ただし、このことは、うちの息子には内緒ね。
あの子って……。
ほんと頭も根性もなくて、嘘をつくのがド下手なの。
だから、話し合いには、あなた一人で来てちょうだいね。
あなたのことは、ミハエル殿下から聞いたわ。
サクラちゃん、あなたって……。
そのへんの普通の男を、自分の信者にしちゃうスキルを、チートレベルで持ってるそうね。
きっと、じっくり育てたら……。
カリスマ皇妃になると思うわ。
政治と戦争のしかたは、やさしく教えてあげるから。
うちのポンコツのかわりに、しっかり国をおさめてね。
あなたが息子の嫁になるのが、今からとっても楽しみよ♪
あなたの未来のお母様より
P. S.
この手紙、読んだらすぐに燃やしてね。
こういう素敵な陰謀は、バレないように、やるのがコツよ☆
じゃあ、また今度。近いうちに会いましょう。
チャオ!
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