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【第一部・完結】ゴリラじゃなくて、ご令嬢! ~~ 元ヤン悪役令嬢の、即死しそうな乙女ゲーライフ ~~  作者: 牧野ジジ
第3章 〜〜 大国の皇太子さまを好きになったけど、身分違いなので、あきらめます! 〜〜
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38. 月は無慈悲な星の王子様


従者に麻酔銃で撃たれて、寝かされそうになった私を。


魔法で、助けてくれたのは……。


白馬の王子様だった。






王族のお仕事で、海外にいるはずの王子に、私はふるえる声で、聞く。


「ミハエル様が、どうしてここに……」


「それは、もちろん。

君のずさんな計画を、未遂で終わらせるためだよ」






ちょっとムリめな気もするけれど、私はシラを切ろうと、がんばる。


「計画って、何のことですの?

私は、ただ……。


スポーツカーでコーナーを攻めて、ガキとじゃれてただけですわ」







「セバスチャンから、連絡があった。


サクラちゃんとルシフェル殿下は、鍛冶屋の前で保護されたそうだ。


これで二人の駆け落ちは、未遂にとどまったわけだね」



「なっ……!」







月光よりも、冴えたお方は。

冷たく、無慈悲におっしゃった。


「ーーチェックメイト。

君の負けだよ、ロザリンド」






「そんな……!!


どうして、ミハエル様が……。

かけ落ちを、止めるんですの!?


だって、あなたは、サクラじゃなくて。

私が、好きなはずなのに……。





……まさか!


私との婚約は、やっぱりフェイクで。


やっぱり、サクラが本命でしたの!?」







金髪碧眼の王子は、にっこり優雅にほほえんで、とっても甘いセリフを吐いた。


「それは、君の考えすぎだよ。


……大丈夫。

ぼくは、ちゃんと君が好きだよ」






推しの優雅なスマイルに、私はとっても、うっとりしたが。


まったく、どこにもスキのない、あの完璧な笑顔を見てると……。


得体の知れない妙な不安が、腹の底から、わきあがってくる。







……。


気のせいかも、知れないけれど。


あの、端正な笑顔の裏で……。


なにか、とっても黒いお気持ちが、うずまいているような気がする。






……そういえば。


そもそも、どうしてミハエル様が……。

こんなところに、いらっしゃるのかしら?







だって、確か、今ごろは……。


外交のお仕事を全部、終わらせて。


何がなんだか分からない、むずかしい考古学の学会に、行ってらっしゃるはずなのに。






……まさか。


「研究会に行く」ってのは、ウソで。


ミハエル様は、この混乱につけこんで、あのヘッポコなヘタレから、私のダチを寝取る気なんじゃ……。







私は、ふるふる、首をふり。

弱気な自分に、言い聞かせてやる。




……いやいや、何を言ってるの。


「もう二度と、あなたの気持ちを疑わない」って、あんなに約束したじゃない。



それに、ミハエル様は、あの夜……。


私とキスをしたときに、心臓がちゃんとドキドキしてたじゃないの。






いくら、ミハエル様だからって。


心臓のドキドキを、自在にコントロールするとか……。そんな化け物じみたマネ、ぜったい出来るわけないわよ。



もし、そんなことが、ほんとに出来たら。

もう、人間じゃないじゃない。







……そうよ。


だから、大丈夫。

心配しなくても、大丈夫。






あれっ?


どうしたのかしら。

なんか、ものすごい手汗が……。


それに、全身がふるえて。

心臓が、嫌な感じで……ドッドッドッドッと、うるさい。






そこまで考えた、私は。


これまで思いもしなかった、ヤバい可能性に気づいた。






……いや、待てよ。


あんときの私は、テンパリMAXだったから、頭が回らなかったけど。

冷静になって、考えてみれば。


王子も人間なんだから、心臓はいつも動いてて。


べつにドキドキしてなくたって、さわればドクドク言うのでは?






…………。


マジかよ、おい。


しっかりしろよ、あのときの私!!!!





生きてる人間は、誰でも。

食わなきゃ死ぬし、トイレに行くし。


川は流れて、石ころは落ちて。

金はどんどん、減ってって。

風呂場にはすぐ、カビ生えて。



そんなレベルで、当然のことを。

「私への愛の(はーと)」とか、なんで思い込むんだよ!!







……だって、しょうがないじゃない!!


大大大好きな人に。

情熱的な表情と、甘い言葉で迫られて。


「ぼくの心臓が動くのは、君に恋をしたせいだよ」とか。それっぽいこと、言われたら。


恋する女なら誰でも、そんな気分になっちゃうじゃないの!!!!






「好きな人に、愛されたい」

「私のことを考えて、彼にドキドキして欲しい」


そんな女の心理をカモった、なんて巧妙なトリック!!






……さすが、腹黒王子様。


やることが、マジ悪質よ!

悪質すぎて、鬼畜ドSよ!!







王子様のあまりの黒さに、私がふるえ上がっていると。


冷酷非道なプリンスは、死ぬほど、クールにおっしゃった。


「……ロザリンド。

ネガティブな妄想にひたってないで、現実に戻って来なよ」







「……いいえっ!


私、もう二度と……。

その手には、乗りません!!





大事なダチの、幸せのために。


私は、ここで……。



……あなたを倒す!!!!」






私は、ビシッと、ハラを決め。

ロケットダッシュで、飛び出すと。


華麗に、フェイントをかましてーー王子の横を、すり抜けた。







あなたを倒す! ーーなんて、ウソ!!






推しをボコッて、()るなんて……。

どう考えても、私には無理!!


だったらここは、ひとまず逃げて。

執事のジジイをボコッて倒し、二人に式を挙げさせる。


もう、これしか方法がないわ。







王子様が、クスッと笑った。


「……なるほど。

いい判断だ。


でも、残念だったね。

ぼくからは逃げられないよ」







王子様を抜いた、私は。

10メートルも、進まないうちに。


見えない壁に、ぶつかった。


「……ぷぎゃっ!!」






私は、あわてて、ターンをしたが。


目には見えない空気の壁に、ぐるりと取り囲まれていてーーどこにも逃げることが出来ない。



どうやら、王子様の魔法で……。

1畳ぐらいの空間に、閉じ込められてしまったようだ。







私はアワアワ、あわてたが。


いつでも余裕たっぷりな方は、月夜の散歩を楽しむように、ゆったりとした足取りで……。


こっちに歩いていらっしゃる。







私は恐怖に、腰を抜かして。

後ろにズリズリ、お尻で下がり。


自分をギュッと、抱きしめて言った。




「こんなところに閉じ込めて、私に何をなさるおつもり?


……まさか! こんなところで……。

あんなことや、こんなことを……!?」







ふるえる美女を、見下ろして。

冷酷ドSで、クールな方はーー……。


うっとりするほど、美しく笑う。







……その顔が、あんまり綺麗で。


絶対、そんな場合じゃないのに。

私はうっかり、ときめいてしまう。







……どうしよう。


はずみで言っただけなのに。

もし本当に、何かされたら……。


……えっと。

今日の下着、どんなのだっけ……?

ムダ毛の処理って、ちゃんとしたっけ……?







恋する乙女になった私が、一人でグルグルしていると。


冷静沈着な王子が……。

おかしそうに、フッと笑った。




「……君は、面白い人だね。


愛する女性からの誘いを、無下にするのは忍びないけど……ぼくには、やることがあるから。


最後の仕上げが終わるまで、大人しくここで待っててね」







女にまったく、うえてない方は。

レディの期待を裏切って……。


私を壁に閉じ込めたまま、どこかに去って行こうとなさる。






私は見えない壁を叩いて、王子の背中に呼びかけた。


「……どうしてですの、ミハエル様!


あなたぐらい、モテモテだったら……。


清楚で可憐で性格がよくて、料理のうまい女なんて、いくらでもゲット出来るじゃないですか!!






聖女さま、一人ぐらい……。

ヘタレに、ゆずってくださいよ!!」







王子は、ふーっと、ため息をつき。

ゆっくりと、ふり向くと。


ひっそり、静かに燃える心を……。

押しかくすように、おだやかに言った。






「その質問に、答えるためには。


これまでに起きた出来事を、逆方向に全てたどって……20年前のある事件から、話を始める必要がある。


話が長くなるけど、いいかな?」






緑の瞳に、みいられて。

私はこっくり、うなずいた。


感情を見せない王子は、静かな声で、語り始めた。




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