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前編

(構想2時間、書くのに3時間、その他いろいろぐだぐだしつつも、脳に芽生えて24時間以内にUP)

 父の再婚相手が連れてきたのは、なまっちょろいひょろひょろのもやしのような少年だった。

 ちょっと気弱で、おどおどしていて、これから姉になろうという私を見て怖がっているのが判る。

 優しい姉になる気などさらさらなかった。


 私はずっと祖父に剣を習い、そこいらの男の子になど負けることはなかった。いつかは剣士になる、それが私の夢だった。

 それなのに、祖父が亡くなると、父は私が剣を扱うことを反対するようになった。

「いつかは男にかなわなくなるのだから」

 父の反対は、母が剣士であり、賊の剣に倒れ、亡くなったことが大きいこともわかってはいた。

 でも、母の死は女だからじゃない。それまでの自分の頑張りを、女だから、やってもいないうちからかなわなくなる、それだけのことで否定されて、私は納得いかなかった。


 でも剣を取り上げられ、習う宛てもなかった私は別の道に進むことにした。

 それは、魔法防具師。

 剣士達が使う防具には、様々な魔法が組み込まれている。

 剣は取り上げられたが、祖父の遺品である黒い甲冑は、祖父の遺言もあり、私の物になっていた。

 私は甲冑にいろんな魔法を仕組んでみた。

 組めば面白い魔法も、相性があり、なかなか思った組み合わせにならない。しかし、バッチリ決まると、剣士の動きをサポートし、より実力を発揮しやすくできる。

 これをいつか実戦で使ってみたい、そう思っていた。


 そこへやってきた新しい弟は、あまりにも実戦向きではなかった。

 早くに父を亡くしたらしいが、甘やかされて育ってたのが、見ただけで判る。

 今はまだ子供なだけだ。これから鍛えればいいのだ。

 そう企んで、にへら、と笑う私を見て、秘めた野望に感づいたのかも知れない。

 母親の後ろから顔を半分だけ出して、警戒気味に私を見ていた。

 勘がいいのはいいことだ。剣士には勘も必要だ。


 翌日から、私は弟の体力アップに取り組んだ。

 私を見て逃げるのをいいことに、徹底的に追いかけ回し、走り回らせた。

 どうやっても私の方が早く、簡単に追いつく。

 追いついたら、無理矢理その辺の枝を使って剣の打ち込みトレーニング。

 近所の子供達も巻き込んでの、山登り、沢登り、森の探検。

 森の野ブドウの季節には、従者に仕立てて同行させ、荷物も5分の4を持たせた。もちろん、筋力アップのためだ。

 すぐ愚痴る生意気な弟には、愛の蹴り、期待のチョップ、豊かなげんこつで応酬する。

 やがて、弟は「暴君」という言葉を覚えた。

 そうだ、パーシヴァルよ。

 ただの人は暴君の前で服従するしかないのだ。

「この暴君から逃れたくば、勇者となるがいい」

 何度そう言っても、弟は勇者にはほど遠い男だった。


 それでも、14才になる頃には、それなりに体力をつけ、剣での戦いもこなせるようになった。私が鍛えてきた甲斐があった。

 学校では、男子には剣の鍛錬が義務づけられていた。

 女子は任意で参加できるが、私は父に「禁止」されていて、参加することができなかった。

 参加を許された友達が羨ましかったが、この頃の年齢になると、女子で剣の道に進もうとする者は極めて稀になっていた。剣士は夫がなる職業、と思っている者が少なくなかったのだ。

 剣士だった母を思う。

 私が剣士になることを止めた父は、どうして母を選んだのだろう。

 後悔したから、新しい母は剣など握ったこともない人にしたんだろうか。

 その息子を剣士に仕立てている娘を、どう思っているのかは知らない。

 むかつく気持ちを弟と甲冑に込め、チューンアップした真っ黒の甲冑を弟に用意した。

 耐久性は従来の3倍。ガッチガチに固めた分、ちょっと重いかも知れない。軽量化の魔法と、強度アップの魔法の相性が悪い。


 学年が低いうちは、試合の時に胸甲だけをつける。黒い胸甲はなかなかかっこよかった。

 しかし、初試合、弟は1回戦で負けてきやがった。

 怒りのあまり、コブラツイストをお見舞いした。

 とかく重い。脇の下が痛い。剣を振ると肩がこすれる。相手の剣を受けたら、中でぐわんぐわんと鐘のように音が響く。

 数々の実践レポートを受け、対応する。

 常にトライアル&エラーである。大人用の頂き物だ。サイズ調整の魔法をもっとしっかりとかけなければ。

 本当はちゃんと鍛冶屋で叩いてもらった方が体へのなじみはいいんだけど、まだまだ育ち盛り。本格的なサイズ調整は、もう少し大きくなってからだ。


 5回目の試合では、何とかベスト16位には残ってくれるようになった。

 ここまで来ると、相手も強くなり、実践向けのいいデータがとれる。

 剣の受けは、堅さよりも柔らかさで対応するよう仕様変更。へこんでも魔法の力で復元させる。この魔法は軽量化と相性がいい。初回の4分の3まで軽くすることができた。

 衝撃吸収力は、教会の塔の上から卵を落としても平気です、って感じで。

 甲冑をフル装備で着せたまま、2階の部屋から突き飛ばし、かなりこっぴどく叱られた。しかし、弟は無傷で、これでようやく私の甲冑のことを信頼してくれるようになった。

 もちろん、甲冑だけでは勝てない。毎日の筋トレも大事である。

 学校の行き帰りはランニング、当然私の荷物も負荷として持たせる。

 食事は大事だ。母が用意してくれる食事以外にも、こっそりと差し入れをする。

 試合は必ず見に行った。弟が用事で参加できない時だって、敵を知るべく、ベスト8以上の試合はきっちりと目に焼き付けた。


 1年もすると、弟はベスト8には入るようになった。多少は筋肉もついてきたようだが、何かにつけてトレーニングを逃れようとする。

 ある日、

「姉さん、今度の日曜はちょっと用事があって…」

と、言ってきた。

 サボりか、本当の用事か判らない。

 敵ばかりではなく、弟の観察も必要だ。その日のトレーニングは休みにした。

 弟も、年頃の少年である。見ると、男女6人組で楽しく街に出かけるようだ。

 お姉さんはうっかりしていた。

 少々反省する。

 自分がそういうのに縁遠かったため、人様のお楽しみまで奪おうとしてしまっていた。

 弟のお目当ては、どうやら流れる金髪の美少女、オリアナ嬢のようである。

 おいおい、その隣のパトリシア嬢が君に熱い視線を送っているのに気がつかないのか。残念な男だ。

 若者達のデートをストーカーのように見つめること2時間。大体の事情は把握した。

 まあ、これからは、デートくらいは気を遣える姉になろう、と心に誓った。


 さらに1年も経つと、弟はなんとベスト4に入るほどの腕前になっていた。

 姉としても鼻が高い。

 今回も新たなチューニングを試す。

 関節をさらに滑らかに動かせるよう、新しい素材の鋲を部分的に使ったり、ミリ単位の浮かせる魔法を仕組む。この浮かせる術の習得には、実に3ヶ月かかった。

 甲冑のメンテナンスだって、剣の技同様、いろいろと修行が必要なのだ。決して楽をしているわけではない。

 私の夢は、全身真っ黒の甲冑を着た黒騎士を育てることだ。

 そして、この頃には私の夢通り、弟の二つ名が「黒騎士」になっていた。姉として、この上ない喜びだった。

 この頃には、オリアナ嬢を試合の席でよく見かけるようになった。

 私はオリアナ嬢に弟のニンジンになってもらうことに決めた。

 決して直接その名は出さないが、「観客席で、黒騎士カッコイイって言ってたよ」とか、「今日は金色の髪のお嬢さんが応援してくれてたよ」とか、弟が試合に熱中して気がつけないウキウキ情報を提供してやったのだ。

 男とはスケベな生き物だ。女の子が自分を見てくれている、と知ると、俄然試合にも熱が入る。かといって恋に溺れてもらっても困る。この辺りの手綱さばきが難しい。


 一度、とうとう1位を取った。いつもなかなか勝てないライバルの「銀騎士」を打ち破ったその姿を、今まで何度夢見たことか。

 しかし、勝利にはしゃいで試合相手と握手をするのも忘れた弟に

「最後の挨拶くらい、ちゃんとしなさいよね。騎士なんだから。礼儀をわきまえない奴はかっこ悪いでしょうが」

と、うっかり褒めることもせず、怒ってしまった。

 弟は、私の言ったことも間違いではなかったので、ちょっとポリポリと頭を掻いていた。

「嬉しかったのは判るけど…。まあ、よくがんばったわ」

と、後出しながら澄まし顔で褒めておくと、極上の笑顔を見せた。

 その後、誰もいない演習場の裏で、私は1人、初勝利に号泣して喜んだ。

 我が黒騎士計画に、悔いなし!


 しかし、「銀騎士」クライドは強い男だった。

 翌月には鎧も改良し、剣技も新たな技を仕込んで、やや天狗になりかけた弟パーシヴァルの鼻をボッキリと折ってくれたのだ。

 悔しいが、潔い勝ち方に、自らの鍛錬不足を反省し、今後も精進することを心に誓った。

 黒騎士計画に、終わりはないのだ。


 月例の試合とは別に、天覧試合が行われることになった。

 国にいくつかある学校の学生が集まって、王様の前で技を競うのだ。この試合は甲冑フル装備になり、王様から賞金も出る。

 このところ、2位の常連ではあっても確実に強さを身につけていた弟は、天覧試合で1位を取ったらオリアナ嬢と交際をする約束を取ってきた、らしい。

 あの弟が、そこまでするのだから、本気なのだ。もはや姉が口出しできることではない。

 弟の本気と、姉の本気、本気の二乗で天覧試合に臨む。

 決勝はやはりあの男、銀騎士クライドだ。

 銀騎士はギリギリまで軽量化された甲冑で、かわす速度も速い。

 あの衝撃吸収は、私の開発した技だ。畜生、盗まれている。…いや、魔法で再現できたその腕を褒めるべきだろう。

 こっちも向こうが見せた肩の耐久シールド術は既に再現、実装済みだ。

 剣だけじゃない、観客にはさほど判らなくとも、甲冑同士の戦いだってあるんだ。

 頑張れ、甲冑! 頑張れ、甲冑の中身!

 おお、あの弟が、フェイントを決める。精進してるじゃないか。

 オリアナ嬢も来てるぞ。いいとこ見せろ! いけ! そこだ!

 ひるむな、左だ左、 ばか、そうじゃなくて…いけ!!

 右の奥から払った剣で相手の剣をかわし、左に振り払い、渾身の一撃!

 やったー! よぅーーーーーーし!

 …かくして、天覧試合の勝利は、弟のものとなった。


 喜びの中も、ちゃんと礼を尽くせるようになった弟に、成長を見た。

 自分的には、まだまだ、黒騎士の甲冑の改良点をいくつか思いつく。

 しかし、今日はいいだろう。

 弟を素直にねぎらう言葉をいくつか考えていた時、オリアナ嬢が向かったのを見た。

 そうだった。弟は彼女の騎士になるんだった。

 ちょっとかっこ悪くにやけていても、長年来の憧れの人を手に入れて、さらに精進することだろう。

 もはや、姉の出番ではない。

 いい夢を、ありがとう。

 私はそっと会場を出て、1人、家へと戻った。

 実に楽しい、黒騎士ごっこだった。


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