乙女ゲーム的断罪イベントを粉砕
思い付きでぱぱっと書いたやつです。なのでクオリティは低いです。
「アニュエラ・エメンシア!お前との婚約を破棄する!」
王立学園での卒業パーティーが始まり、俄に盛り上がりを見せ始めた中、パーティーホールの中央から突然が上がった。
パーティーに参加する貴族や平民の生徒立場皆一様に目を向け、しんと静まり返った。
視線の先には声を張り上げた王太子を囲む4人の男達と、王太子に縋り付く1人の女がおり、王太子が指差す先には黒髪に赤いドレスの麗しいご令嬢がいた。
このご令嬢こそ、アニュエラ・エメンシア公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者である。
10年も前に結ばれた婚約はそのとても仲睦まじい様子と共に貴族平民問わず広く知れ渡っているものであったが、この1年間でとんでもない噂により婚約そのものが危ぶまれていた。
その原因というのが、王太子に縋り付く女、男爵令嬢のタリンナ・アターマである。
このタリンナは平民として育ったが、男爵家の養子となって学園に編入してきたのだが、騎士団長の子息、魔術師団長の子息、公爵家嫡男、宰相の子息に近付き、あまつさえ王太子にまで擦り寄っていった。
最初こそモラルもマナーもあったものではないはしたない様子に苦言を呈したり、突き放していた5人であったが、段々と様子がおかしくなり、タリンナに侍るようになっていった。
正しく堕落である。
それと同じくして、それぞれが婚約者を蔑ろにするようになり、その婚約者達はそれまで築いてきた愛情と絆を信じ、諌めようと婚約者やタリンナに言葉をかけるが、婚約者達からは反感を買って時には強い言葉で突き放され、下位貴族であるタリンナからは生意気で不敬な態度をとられ、挙句侍らせた5人に虐められたと泣き付かれ更に険悪になるという悪循環。
周囲の殆どの生徒達はどちらに非があるのか分かってはいるものの、タリンナが侍らせているのがこの国の上位貴族の子息達であるため、何も出来ずにいた。
豹変した婚約者達に傷つき涙する令嬢達を慰め激励し、いつか正気に戻ってくれると信じて待とう、と繋ぎ止めていたのがアニュエラ・エメンシア公爵令嬢であった。
アニュエラは淑女の鑑と呼ばれ、あらゆる分野にて優秀で聡い女性であった。思春期の火遊びくらい認めよう、妾にしたいのならそれも許そうと、傷む胸には気付かぬフリをして静観していたが、豹変としか言いようのない変化には驚き戸惑っており、一先ずはと口頭での注意で諌めようとした。だが、以前とはまるで別人の理性的ではない婚約者の姿を見て、失望するのではなく不信感を抱いた。
彼の側近達まで同様の変化を見せたからだ。
それからのアニュエラは大忙しとなった。
王妃教育を日々こなしながら、国王や王妃、宰相達と現状打破の為に話し合ったり、原因を突き止める為に王宮図書館で一般図書から禁書まで、隅々まで漁り読み耽っていた。
それでも努力は実を結ばず、今日に至った。
悪あがきのように送った手紙も、届かなかったのだろうか。
アニュエラは眼前の変わり果ててしまった婚約者の険しい表情を見て、広げた扇で口許を隠し、苦々しい気持ちを押し殺す為にふぅと溜め息を吐いた。
「…婚約破棄、とは。一体何故なのでしょう?理由をお聞かせくださいますか?」
「何と白々しいことか!お前が取り巻きを従えてこのタリンナを虐げていたことは分かっている!お前のような卑怯で傲慢な女を未来の王妃になどできるものか!」
「身分を理由にタリンナを貶めていたのは知っているぞ!」
「平民の出だからと言って貶していたよね」
「持ち物を隠したり捨てたり、大人数で囲って脅しをかけられたと、可哀想にタリンナが怯えて泣いていた!」
「挙句の果てには階段から突き落として怪我をさせようとしたな!」
王太子に続いて周りの4人も次々に言葉を繋いでいく。それはまるで打ち合わせでもしていたかのように息が合っている。
「お待ちください、誤解です。私はそのような…」
「ええい、黙れ!見苦しく言い訳などするな!私はお前との婚約を破棄した後、タリンナと婚約する!」
「……っ!」
王太子が怒りを隠そうともしない素振りで切り捨てるように言い渡す。そのらしくない素振りと口振りに抑えきれない悲しみが押し寄せ、アニュエラは息を飲んだ。
王太子の隣ではタリンナが優越感に満ちた歪んだ笑みを浮かべているのが、彼らには見えていないのか。
どうしようもないのか、諦めるしかないのか。悔しさでアニュエラが俯いたと同時に、ホールの扉が大きな音を立てて開かれた。
「お待ちなさい!」
ホールにいる全員が反射的に顔を向けると、そこには2人の聖者を連れた神々しいまでの女性が佇んでいた。
「あれは…!」
「聖地生まれの聖女様だ!」
「聖地生まれの聖女様が何故ここに?!」
「聖女様が来てくださった!」
「これで勝つる!」
ギャラリーと化していた生徒達がざわざわとしたざわめきが俄に歓声へと変わり始めた。
「あぁ、間に合ったのね…!」
アニュエラもまた、他の生徒達と同じだった。ホッとした呟きが溢れると聖女と目が合い、聖女はニコリと微笑んで返した。
「救いを求める声に応えに来ましたが、間に合って良かった。それにしても…やれやれですわ。王太子ともあろうものが、魔のモノに魅入られてしまうとは、情けない」
聖女はフゥヤレヤレ、と言い伝えられている仕草を見せると、たおやかな雰囲気に似合わない素早さで王太子達の目の前まで歩み寄る。
王太子達は先程の勢いはどこへやら、金縛りにあったかのように動かない。
「ちょ、ちょっと何なのよアンタ!いいところなんだから邪魔しないでよ!悪役令嬢を断罪しないとハッピーエンドにならないんだから!」
タリンナがキャンキャンと小型の駄犬のように騒ぎ立てると、聖女は「喝ァァァァつ!!」と叫びどこぞの老師かのような眼力で射抜くような視線をタリンナへ向けた。
「ヒィィィイ!」
その勢いに負けタリンナは尻餅をついた。その姿には気品も何もなかった。元からなかったが。
「よろしいですか皆さん!凡そ殆どの方は気が付いていらっしゃったでしょう、この方々は正気ではありません!悪魔の力に操られていたのですッ!ですがご安心なさい、私がきたからにはもう大丈夫!今すぐ救って差し上げますわ!」
聖女は両手を広げ何度か体の向きを変えながら、ギャラリーへ向けて声を張り上げた。最後にぐっと拳を握って締め括ると、ギャラリーからは大歓声が返ってきた。
「……破ァァァ!!」
「「「「「うわぁーー!!」」」」」
聖女はくるりと王太子達へと振り返り、手をかざして目を閉じると小さく息を吐き、息を吸い込む勢いのまま目を開き声を張り上げると、眩い光が5人を包み込んだ。
5人分の悲鳴とは言い難い声が上がると光は収束していき、5人の姿を視認できるようになった。
5人はぽかんと惚けたような困惑顔をしていたが、その内1人の視線がそろりと動き、赤いドレスの令嬢を捉えるとハッと息を飲んで覚醒した。
「アニュエラ!」
「殿下!」
覚醒したのは勿論、王太子その人。何度か足をもつれさせながらも愛しの婚約者の元へ駆け寄り、アニュエラも以前の婚約者の瞳に戻ったと分かると自らも駆け寄っていく。
王太子は勢いそのままに婚約者を抱き締め、数年ぶりの再会であるかのように涙を流す婚約者を宥める。
「ああ、すまない、アニュエラ。君を傷つけた。ずっと意識はあったのに、体の自由が効かなかった。言葉も行動も何も思い通りにならず、君が傷つく姿を見るのが、君を傷付けてしまうことがとても辛かった。でもやっと謝ることができる。君の涙を拭うことができる」
「いいえ、いいえ、殿下。私はずっと信じておりました。確かに傷付くこともございましたが、それは貴方のせいではありません。貴方をお救いできない自分の不甲斐なさのため。お慕いしております、殿下」
王太子は婚約者の涙を拭いながらも頬を撫で回し、アニュエラもその手に自分の手を添えて擦り寄り、遂に感極まった二人が「アニュエラぁぁ!」「殿下ぁぁ!」と再びきつく抱き締めあった辺りで漸く他の4人も覚醒し、己の婚約者を探しそれぞれに奇跡の再会を見せつけた。
全てのカップルが恙無く元鞘に戻ったと同時にギャラリーは本日最高の盛り上がりを見せた。
そもそも、王太子の溺愛により二人は一応人目を憚って節度は守っていたもののそのイチャイチャぶりは全生徒の知るところであり、そのあまりのアツアツぶりに周囲も感化され、学園内は近年稀に見るほど、婚約者カップルの仲が良かった。
二人のお陰で幸せな結婚ができそうだと喜ぶ生徒達が大多数だった為、今回の心変わりは誰も信じていなかったし、受け入れ難いものだった。
もし、5人が正気に戻っていなければ。
その場合は最悪の結果が待っていたのだが、そんなことにはならなかったので割愛。
「な、何よ…。どうなってるの?!何でみんな…私のこと好きなはずでしょ?!愛してるはずだわ!なのに何で…」
そしてここに、渦中の人物であるはずがすっかり忘れ去られた少女がいた。
「まだ分からないの?ここはゲームの世界なんかじゃないわ」
ホールの冷たい床に座り込んだままのタリンナに向かって、聖女が冷たく言い放つ。
「アンタ…!そうよ、アンタのせいに違いないわ!一体何をしたの?!」
「何って、決まっているでしょう、解呪よ。貴女の使った呪術、魅了の呪いを解いたの。呪術は則ち邪法。邪法は大罪。処罰は免れない。使った対象も悪かったわ。王族に使ったということは反逆罪にも問われる。間違いなく極刑ものね」
「そんな…!わ、私、そんなことしてない…!」
「貴女の意思は関係ない。使ったという事実が全て。…貴女が前世の記憶なんてものを信じて身の程を弁えない振る舞いを続けた結果。因果応報というものだわ。…処遇は王国へ委任します。大罪人に相応しい罰をお与え頂きますよう」
いつの間にか現れた騎士団に取り囲まれ、抵抗する間もなく拘束されたタリンナは、氷よりも冷たい判決を言い渡す聖女の後ろ姿を見送った。
蛇足。
その後王太子も他の4人も無事婚約者と結婚してます。
タリンナは国家反逆罪とかで間もなく処刑されています。
聖女の連れの二人はスケーノルさんとカクータスさんです。