第97話 人道支援
夜が明けて陽が昇った。
シャーミリアとマキーナはファントムの補給作業を終えて、船底にあるヴァンパイアの寝床に戻っていった。4000近い死体を吸収したファントムはさらにデカくなり、いつもどおり俺のそばについてただ遠くを見つめて立っているだけだった。
《ファントムに作業させると物が壊れる・・戦闘以外は何もさせられんしな・・》
魔人の船にはシャーミリアとマキーナの寝床と怪我をしているマズルを守らせるため、ティラとタピを護衛に残す。ダークエルフを一人見張りに立たせ、操舵ができる一人が船内に待機する。
「ファントム!お前は正門に立て!俺が共有したお前の目で安全確認をする!」
シュッ!
ファントムが消えた。もうずいぶん先の方を物凄いスピードで移動しているのが見えるが、あっという間に米粒になり見えなくなった。
「さて・・」
グラドラム都市の建物は極大インフェルノで消え去り平地と化してしまった。
俺は生き残った民のために、救護施設用のテントを召喚する必要があった。
兵器データベースを開く
場所 陸上兵器LV4 航空兵器LV2 海上兵器LV3 宇宙兵器LV0
用途 攻撃兵器LV6 防衛兵器LV3
規模 大量破壊兵器LV2 通常兵器LV6
種類 核兵器LV0 生物兵器LV0 化学兵器LV0 光学兵器LV0 音響兵器LV2
対象 対人兵器LV7 対物兵器LV5
効果 非致死性兵器LV2
施設 基地設備LV3
日常 備品LV4
連結 LV2
まずは基地設備LV1のテントを召喚する。テントBase-Xシェルター403(5.49 x 4.57 m)を10個と、個別に休憩が出来るようにノースフェイスの迷彩テント(2.32m)を60個召喚した。さらにテントから離れたところに基地設備LV2の簡易トイレを8個召喚する。救助用の施設だが自衛隊などが設置するタイプだった。
《だいぶ魔力を消費してしまったが朝のうちに早急に対応せねば、疲弊してる人間が2次災害的に死ぬ・・それだけでも防がないと。》
ティラとタピ、ファントムを除く俺たち魔人13人と、船舶を動かすためのダークエルフ8人、ポールを含む無傷の人間の男達10人が協力して全てのテントを設置した。
そのわきではクルス神父が怪我人に回復魔法をかけている。
救助活動をしていた人間たちにいったん中止するよう伝える。このまま無理をして続ければ生き残った民までが死んでしまう。現段階で生存が分かった民は100人にも満たなかった。
《人間達はかなり疲弊しているため、今日はもう休んでもらおう。そして食べさせねば。》
「ポール王、民にはもう休んでもらいます。王もあとは我々に任せてお休みください。」
「ラウル様、私は責任があるのです。出来るだけの事をせねば、死んだ民にあの世で顔向けが出来ない。」
「ならば、なおの事いま休んでください。これから先ポール王にはやっていただかねばならない事がたくさんあるのです。今しばらくは我々魔人に任せて下さい。」
「それでは・・」
「隣国の王代理である私からの願いです。」
「ラウル様・・わかりました。体を休ませ万全を期してことに当たらせていただきましょう。」
「ありがとうございます。」
人間たちを休ませた俺は戦闘糧食を召喚する事にした。
「マリア、ルフラ、アナミス!こっちに来てくれ!」
病人の看病についていたマリアが俺のところに来る。
《以前イオナやマリア達に食べさせて好評だった、自衛隊、フランス、クロアチアのレーション(戦闘糧食)がいいかな?》
俺は大型テントBase-Xシェルターモデル403の中で、戦闘糧食の召喚作業を行っていく。
「俺がこれをどんどん召喚していくから、3人でこのテントの中にきっちり積み込んで行ってもらえるかな?」
「「はいかしこまりました。」」
「缶と袋はまとめたほうがよろしいですか?」
ルフラとアナミスからは返事が、マリアからは質問が来た。
「そうだな、バラバラにしないで缶と袋を合わせて置いて行ってくれるか?」
「わかりました。」
俺達はひとまず200食の戦闘糧食を召喚して積み上げていき、綺麗に積みあがったので配る準備をする。
「よし!これをみんなに配るぞ。」
「「「はい!」」」
無線機を使って魔人全員を呼び寄せた。
ギレザム、ガザム、ゴーグ、スラガ、アナミス、ルフラ、ダラムバ、ルピア、ジーグと、8人のダークエルフが集まった。俺の隣にはマリアが立っている。みな黒い雨が乾いて真っ黒になっていたが、不平も言わず俺の前に立っていた。
「よし!みんな疲れていると思うが、俺達より弱い人間の怪我人および作業をしている人は、優先して休息させる必要がある!栄養と水分が必要だ!衰弱しきっていて食べないと死んでしまう可能性もある!とにかく戦闘糧食をすべての人に渡してくれ!まずは動ける人をここに集める!」
「「「「はい!」」」」
LRADスピーカーを召喚してドン!と置いた。マイクに向かって話す。
「グラドラムの皆さん、必死の救助活動お疲れ様です!休憩をとってください!動ける方は食料を用意しましたので取りに来てください!動けない人の所へはこちらから食料を配りにまわります。決してなくなりませんので安心してください。また怪我人は大型のテントへ搬送します、無傷の方や軽傷の方には個別テントを設置しました。全員に入っていただけますのでご安心ください。」
すると動ける民があちこちから集まってくる。建物が無いので皆の動きがわかる、身動きが出来なくなった人もいるようだった。
「マリアは先に食べていてほしい。そしていったん眠ってくれ!」
俺は傍らにいるマリアに声をかける。
「私もお手伝いします!」
「だめだ。マリアに倒れられたら俺が困る。頼むから自分優先で動いてくれ!魔人と歩調を合わせていたらまいってしまう。」
「わかりました・・」
マリアは自分も手伝いたがっているが、俺達と歩調を合わせて働けばダウンするのは確実だった。とにかく慈善の心が強いマリアには、自分中心に物事を考えてもらう必要がある。
そして俺は魔人達に号令をかける。
「食べ方は魔人国で教えた通りだ、説明をしてあげてくれ!」
「「「わかりました。」」」
「茫然自失となって食べられない人もいるだろうから、水分か果物の缶詰だけでも食べさせてくれ。食べられそうにない人には介助をしてほしい!」
「「「はい」」」
「では頼む。」
ルフラとアナミスとルピアが食べられない人への介助にまわるらしい。男性の魔人達が皆に食べ物を渡して回り、食べ方を説明するように作業分担していた。俺が具体的な指示を出さなくても自分の役割分担が分かっているらしかった。
一通り食事を配り説明を終わらせて、男魔人が全員で俺のところに戻ってきた。
「よし!それでは人間が食事をして休んでるあいだに、怪我人の収容を急ぐ!炎天下では人間の怪我人はすぐに死んでしまう。朝のうちにすべての怪我人を収容する!」
俺は軍用のストレッチャーを4台召喚した。
「ダークエルフ8人は副隊長のダラムバの指示で、怪我人をこれに乗せて大型テントに運び込め。」
「「「はい」」」
「これに乗せる際は怪我の状態を見てそっと乗せるんだ!」
「「「はい」」」
「いけ!」
「「「は!」」」
配下達は二人一組になって散っていった。
「ギレザム、ガザム、ゴーグ、ジーグ、スラガは、引き続き人間の捜索を頼む。一人でも多くの人間を救いたい!」
「わかりました!」
そしてそれぞれ捜索のため散っていった。
ルピア、ルフラ、アナミスの女性魔人達が、人間の食事の介助が終わり戻ってきた。
「お前たちには怪我人を頼みたい。ルピアは能力で大きな傷をおった人の傷を吸い込んでほしい、くれぐれも無理のないようにな。回復はクルス神父もしてくれている、大きな傷を持っている者だけでいい。」
「はい、私は今とても元気ですので、何人かは治せると思います。」
「無理はしなくていい。」
「はい」
ルピアはハルピュイアの能力で傷を吸い込むことができる。その能力で死にそうなものの傷を塞ぐことだけお願いした。
「ルフラは熱を持った人を冷やしてあげてほしい。1カ所に集めるから熱を取ってあげてほしいんだ。火傷をした人の熱を少しでも和らげてあげたい。」
「かしこまりました。」
スライムのルフラは軽い回復能力とひんやりと冷やす体を持っている、布団のように火傷を負っているものを冷やしてもらうことにする。
「アナミスは、精神が持たなかった者に夢を見させてくれないか?もしかすると戻るかもしれない・・はかない希望だがお願いしたい。」
「わかりました。」
「みんなが怪我人を搬送して来次第、順次対応してほしい。」
「「「はい」」」
そこに・・クルス神父がやってきた。
「あの・・ラウル様申し訳ありません。私は魔力が切れてしまいました。」
「ならば、すぐにお眠りになってください。眠る前にぜひ私が出した食料を食べてから。」
「わかりました。」
俺はクルス神父のテントに連れていき、そこで戦闘糧食を召喚して食べ方を教えた。
「これは・・神の御業でしょうか?この魔法を見た事がございません。」
「はい・・俺の魔法だけ特殊らしくて・・」
「素晴らしいお力です。人を救う力だと思います。」
「・・・・」
俺は何とも言えず、その場を離れた。
ガガッ!
そのときジーグから通信が入った。
「ラウル様!洞窟に逃げていた人々がおりました!その数およそ70名」
「おお!本当か!すぐに向かう!」
「はい、スラガと一緒に救助しております。」
「頼む。」
俺はひとまずポール王の所に向かって報告をする。
「ポール王!生存者が約70名!洞窟に逃げて無事だそうです!」
「本当ですか!?おおお。神よ!ありがとうございます!」
「私と部下で連れてまいります!」
「お願いします!」
入り組んだ迷路の奥にある洞窟はインフェルノの影響を受けなかったようだ、もし洞窟が町の正面にあったならインフェルノにより酸素がなくなって死んでいただろう。不幸中の幸いということかもしれない。
俺が洞窟方面に向かおうとしたとき。
ガガッ!
今度はギレザム通信が入った。
「ラウル様!海に生存者がいました!」
「海に?」
「はい、あの炎が遅く直前に海に飛び込んで難を逃れたみたいです。」
「いまのいままで海に?」
「はは!ラウル様!それが!なんとペンタです。ペンタが30人ほど乗せて海に浮かんでいます。」
俺が使役していたシーサーペントのペンタが、海に飛び込んだ民を助けてくれたようだった。こんなに長時間、海に居たら溺れてしまうのでペンタが乗せてくれていたようだった。
無線で他のヤツに伝える。
「よし、ガザム、ゴーグ、は港に向かってギレザムと一緒に海から民を引き上げて来てくれ。」
「「「は!」」」
俺とライカンのジーグ、スプリガンのスラガが約70名ほどの人を連れてテント村まで戻ると、海から助けられた民はすでに戦闘糧食で食事をしていた。
俺は倉庫用にしていたテントに入り込み、戦闘糧食をあと100食ほど召喚して並べる。女子連中がいないので結構雑多になってしまった。
「戦闘糧食を用意した!みんな取りに来てくれ!わたっていない人に配るんだ!」
「「「「は!」」」」
手の空いている魔人がやってきて戦闘糧食を運んで行った。
そこに、あらかた病人を収容したダークエルフのダラムバ以下、8名のダークエルフが戻ってくる。
「ラウル様!病人の収容が終わりました!」
「よし!それじゃあ休みなしで働かせて悪いんだが、お前たちとスプリガンのスラガを連れて船から輸入の物資を運び込む。それを倉庫用のテントに入れてほしい!」
「「「「わかりました!」」」」
ダークエルフ達とスラガは船の方へと向かっていった。
《クルス神父の魔力が復活するまでは、ルピアの傷を吸う能力だよりだが・・彼女はあまり極端に能力を使わせると消耗して死んでしまう可能性がある・・いったん治療を止めさせよう。》
そんなことを考えている時だった。
俺の元にポール邸で助けたユークリットの少女で、元貴族のカトリーヌが来た。
「あの、ラウル様。よろしいでしょうか?」
「どうした?」
「私は回復魔法が使えます。」
「回復魔法が?本当か?」
「はい!」
なんとカトリーヌが回復魔法を使えると言ってきた。
《それなら少しは助かる・・クルス神父が寝ている間でも助けてもらえればありがたい。》
「わかった、それじゃあ怪我人を集めるから回復を行ってくれ。」
「あの・・怪我人を全員集めてくださいませんか?」
「ああ、そのつもりだよ。大型のテントに入れるからそこに行ってくれ。」
「わかりました。」
ユークリットの貴族で回復魔法が使えるのか。どんな幼少期だったんだろう?
俺は彼女について怪我人を収容するテントに足を向けた。