第950話 正体不明の岩山生物
このダンジョンは、どちらかと言うと自然発生したような場所だ。スケルトンやゾンビがいないのは、ここが最近見つけられたばかりで、人間達が潜り込んでいないからだろうと思う。まあそれはさておき、この地下三階でも、一緒に来ている冒険者達は既に役不足だった。
《彼らは、足手纏いかもね》
するとシャーミリアが答える。
《始末なさいますか?》
《だめ。ていうか、目立ちすぎた時のために、スケープゴートにする》
《流石でございます。ご主人様》
《だから、このままでいい。俺達にしてみれば、難易度は上がってない》
《は!》
俺が、冒険者達に言う。
「じゃ、地下四階に降りようか?」
「「「「えっ!」」」」
冒険者達がいちいち驚く。
「だめ?」
「この階層を探索して、マッピングして進まないんですか? 見つかったばかりの階層ですよ?」
「あ。普通はそうするの?」
「はい……」
なんだか、ちょっと面倒になって来たが、シャーミリアが始末してしまわないように言葉を飲む。
「まあ、万が一、地下四階層の入り口を見つけちゃったら、しょうがないよね?」
「いや、流石に、戻られた方が……」
そこで俺は、したり顔をしていった。
「君らは低ランクだから知らないかもしれないけどさ、ミスリルのやり方ってもんがあんの」
「す、すみません」
「いいよ。最初は、誰もが知らないからね」
「「「「はい!」」」」
すると、エミルが胡散臭そうな顔で、俺を見ている。まあ、言いたい事は分かるけど。
《じゃ、カララ。最短ルートを探して》
《はい》
すぐにアラクネの糸が伸び、俺達はそこにとどまりながら待つ。
《見つけました》
「よし。休憩は終わりだ。おい! ワン公! お前が先導しろ!」
一瞬ケルベロスが、俺を睨もうとしたが、シャーミリアがギン! と殺気をはらむ。
「クゥゥゥゥウン」
本当に、子犬みたいだった。そして進むと、今度は蜥蜴っぽい魔獣がわんさか出てきた。
「ワン公! 蹴散らせ!」
シャーミリアが言うと、ケルベロスが飛びかかる。だが、あちこち蜥蜴達に噛みつかれているうちに、少しずつ動きが鈍ってきたようだ。
カララが言う。
「どうやら、毒を持っているようです」
「うわ。あのワンちゃん、毒にやられてんだ」
「そのようです」
「気の毒に」
確かに……足が腫れて来てる気がする。
エミルがたまらず言う。
「お前がやらせてんだろ」
「あ、すいません。シャーミリア! ワンちゃんをひっこめて」
「お戻り!」
よたよた戻って来るケルベロス。蜥蜴の残骸がまき散らされているが、いくらケルベロスが強くても、数と毒には勝てなかったようだ。噛みついている蜥蜴を振り払いながら、瀕死だった。
パン! パン! パン!
俺がコルトガバメントを召喚して、ケルベロスにくっついている蜥蜴を撃つ。
「俺達のために、よく頑張った」
「くぅぅぅん」
俺はさっき召喚したAT4ロケットランチャーを、こちらに来ようとする蜥蜴大群の鼻っ面に打ち込む。
ドゴン! パラパラパラ。
「うーん。爆発系は洞窟が崩れそうだな……」
とりあえず、蜥蜴がロケランの爆発で怯んでいるうちに、エミルに言った。
「エミル! 精霊の力で、その、でっかいワンちゃん治せる?」
「やってみよう。何せ大きいからね」
すると、冒険者が怯えたように言う。
「確かにあなたの、魔法? は凄いですが……」
「なに?」
「ケルベロスでも歯が立たないのでは、ひとたまりもありません。解毒剤が足りなすぎます」
「あ。薬ね。でも噛まれなきゃいいんでしょ?」
「剣では、あの数に太刀打ちできません。魔法でも、やっとでは?」
「あー、大丈夫」
ドン! 俺はすぐにM61 バルカンを召喚した。
「「「「うわ!」」」」
冒険者達が腰を抜かす。
そして俺がM61バルカンを稼働させるための、巨大バッテリーをファントムに背負わせる。
「蜥蜴が来ます!」
ケーブルをだし、すぐにバルカンを連結して稼働準備を整えた。
「よーし! ファントム! 撃て!」
《ハイ》
ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! ドガガガガガガガガガガガガガガガ!
あっという間に四散していく毒蜥蜴。冒険者達が目を見開いている。
「す、凄い」
「ま、魔法?」
俺が冒険者に言う。
「まあ、安心して良いよ。時期に終わる」
キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。 M61バルカンが止まると、動く蜥蜴は居なくなっていた。
「よし!」
「す、すご……」
「じゃ進むぞ」
「は、はい!」
カララの糸を手繰り進んでいくと、ところどころで同じような蜥蜴がいた。全部M61バルカンで吹き飛ばして余裕で進んでいくと、壁に大きな穴が見えた。
「あそこが地下への入り口です」
皆がそこに行って下を覗くと、ひゅおおおおおお! と風が吹いて来た。
「風?」
「なんでしょう?」
「これじゃ、ドローンは飛ばせないな……」
「下の様子を、調べます」
カララが糸を這わせて、地下四階を調べてみる。
「わかりました」
「どうなってる?」
「吹き抜けになっているようです」
「なるほど」
すると、冒険者が聞いて来た。
「なんで先がわかるんです?」
アラクネだからとは言えない。
「だから! ミスリルだから! ミスリルは分かんの」
「な、なるほど!」
もう、全部それでいいや。
俺が後ろを振り向いて、ケルベロスに言う。
「お前はもういいや。自分のいたとこに帰っていい」
少しもじもじしていたが、シャーミリアが睨むと走って行った。
「よし」
そして俺達は、風が上がって来る坂道を下っていく。
「ご主人様。地下四階には、何か大きな生き物がいます」
「マジ? 龍じゃね?」
「わかりません」
下りきると、めちゃくちゃ広い空間に出る。見れば地面が途中で切れて、崖になっているようだった。その真ん中あたりに、太めの石の橋がアーチになってかかっている。
「いました」
その石の橋の向こうに、巨大な岩の塊みたいなのがある。
「えっ? ゴーレムかな?」
「違います。生きております」
「生き物か……」
俺達が橋の前までやって来るが、その岩は動く気配を見せなかった。
「ほんと、生きてんの?」
「はい」
するとエミルが言う。
「寝てる? なんだろう?」
「じゃ、こっそり横を抜けてけばいいじゃん」
「名案」
俺とエミルが指をさし合う。橋の下を見れば、底は真っ暗で見えなかった。ホーッと音がなっていた。
「不気味」
「だな」
「エミルの、精霊で下の様子を見れないの?」
「深さが分からない」
「んじゃ」
俺がコンバットナイフを召喚して、それを下に落としてやった。そしてみんなで、耳を澄ませる。
「「「「……」」」」
なかなか、音が聞こえてこない。
「「「「……」」」」
カツーン。と、微小に聞こえた。
「深くない?」
「深いな」
「どんだけ階層あるか分からないぞ」
「ご主人様。私奴が見て参りますか?」
「いや。万が一がある、オージェみたいなバケモノがいたら、シャーミリアだってひとたまりもない」
「しかし」
「あの岩みたいなのも、動かないみたいだし、腹減ったから一旦、ここで腹ごしらえしよう」
「は!」
冒険者たちも、少しほっとした顔をする。とりあえず、橋のこちら側に座って冒険者が荷物を置いた。
「では、食べ物を用意します」
そう冒険者が言うので、俺はそれを止めた。
「あの。それは、いざという時に食べて。ちょっと、こっちで用意するから」
「えっ? 良いのですか?」
「ああ」
すぐ、自衛隊の戦闘糧食Ⅱ型を人数分召喚する。いきなり出てきた袋に、冒険者が目を白黒させた。
「「「「えっ!」」」」
「よし。食おう」
「いま、どこから?」
「あー、ミスリルだから?」
「いやいやいや」
「えーっと、君たち、ミスリル冒険者の何を知ってるの?」
「す、すみません」
「そんなのどうだっていいから、俺のマネして」
俺は袋からレトルトやヒートパックを取り出し、ペットボトルの水を横に置いた。冒険者も真似て、同じように広げていく。大きなビニール袋から、レトルトの袋が並ぶ。
「じゃあ、このヒートパックを中に入れて、レトルトは全部袋から出して、そしてこの袋に全部入れて」
「「「「はい」」」」
「そしたら、この袋を開けて、中の赤い線まで水を入れる」
「こ、この入れ物は何ですか!?」
「あ、ペットボトル」
「す、すごい。水が見える」
「ああ、まあそれはあげるよ。三十日したら消えるから気を付けて」
そして俺は手元の袋に注いだ水を、そのままレトルトを入れたナイロンの袋に注ぎ、すぐに口を縛る。
「やってみて!」
皆が、みようみまねで同じようにすると、袋が膨らんできて蒸気が出て来る。
「け、煙が!」
「熱いから気を付けてね」
しばらく待っていると、蒸気が収まったので、俺が袋から開けてレトルトパックを取り出して並べた。それを見て、冒険者達も真似をして取り出す。
「よーし、このあっつあつの袋を開けてみて」
皆が開けると、中からほかほかご飯のカップが出て来る。エミルもケイシーも嬉しそうな顔をする。
「そしてこっち、すき焼き煮込みハンバーグ。これ、すっごい美味いから」
袋を開けてみせると、マネして冒険者達も開けた。そして、そのご飯の上にかけるように言う。
「いい匂いです」
「すごい」
「まるで、家にいるみたい」
「こんなの、冒険で食べた事無い」
「そいつは良かった。あとはスプーンですくって食えばいい」
「「「「はい!」」」」
若い冒険者らが、すき焼きハンバーグを口に放り込んだ。
「えっ……」
「美味い」
「まるで、料理屋で食ってるみてえだ」
「料理屋でも、なかなかないわ」
「さあ。冷めないうちに」
皆ががっついて、あっという間に食事が終わった。
「美味しかったです!」
「そりゃよかった。とりあえず、まもなく行くから、少し休んでたら」
「はい」
そして俺達が、橋の向こう側にいる岩のような奴を見た。
「俺達が、こうしていても動かないか」
「そのようです」
「あれ、いったいなんだ?」
「魔獣の類ではあると思いますが」
「とりあえず、彼らを休ませてからだな。ファントム、見張ってて」
《ハイ》
そして俺達も、軽く横になった。時間の感覚が狂っているが、潜ってからだいぶ経つ。それが証拠に、冒険者もケイシーもかなり疲弊しているようだった。俺達は感じないが、彼らは無理をさせると死ぬ。
そしてエミルが言う。
「それにしても、アレ。動かないな……なんだろう?」
「ここからだと分らないね」
「ま、彼らが起きるのを待つか」
俺達も静かにして、冒険者とケイシーが起きるのを待った。数時間しても、対岸の岩は動かない。
「あの岩、死んでたりはしないよね?」
「生きております」
「にしても、動かないね」
「はい」
五時間も経った頃、ようやく冒険者が目を覚ました。
「すみません。寝すぎました」
「いや。そんなでもないさ。うちの仲間の方がまだ目を覚まさない」
ケイシーが爆睡状態で、いっこうに目覚める気配がない。
「慣れてないからな……」
「えっ?」
「いや、こっちのこと」
そして俺が、ゆさゆさとケイシーを揺らして起こす。
「う、ん……」
「ケイシー起きろ。みんな起きてるぞ」
「あ、ああ……すみません。ふわーあぁ!」
なんて、緊張感のない奴だろう。ていうか、俺達を信用しきってるんだろうけど。
「じゃ、試してみっか、あのデカいの」
「渡るんですね?」
「いや。渡る前に試す」
「えっ? かなり距離がありますよ? 魔法も弓も届かない」
「だいじょうぶ。届く」
俺は使い慣れた、バレットM82対物ライフルを召喚した。足を二つ出して、地面に固定して寝そべる。スコープを覗いてみても、どこからどう見ても岩の山にしか見えなかった。
「弱点とかもわからないな」
するとエミルが言う。
「適当に撃ってみればいいんじゃないか?」
「そうするか」
そして俺は、岩みたいなそいつめがけて狙いを定め、丁度、真ん中あたりに向けて引鉄を引く。
ズドン!
銃弾がヒットした。だが岩煙のようなものが弾けただけで、特に動きは無かった。
「反応なしか」
「本当に岩じゃないんだよな?」
「はい。エミル様。あれは生きています」
「どうするんだラウル?」
「んじゃ、徹甲弾にしてみっか」
ガシュン! ズドン!
「ぎゃおぉぉぉぉ」
俺達が見ている先で、その岩の山が動き出したのだった。




