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第948話 新しいダンジョンに潜る事にした

 エルフであるエミルを会わせた事で、冒険者たちは心を許してくれた。嫌われてるエルフを仲間に引き入れてるだけあり、このパーティーの連中は気分のいい奴らだった。


「で、突然ダンジョンが出て来たんだって?」


「そうらしいんだ。このあたりにダンジョンなんてなかったんだがな」


「そうか」


 俺達は顔を見合わせる。一体どういう経緯で出来上がったダンジョンなのか、今までの流れからすれば、神が絡んでいるかデモンが関与している可能性も無いとは言えない。


「行ってみなければ、わからないだろうな」


「おお、ミスリル冒険者が行くとなれば、階層の攻略も進むかもな」


「階層? そう言う形式のダンジョンかい」


「そういう連絡が来ているが、まだ二階層あたりまでしか調査出来てないらしい」


「広いってことか?」


「そう言う事だ」


 広いダンジョン。となれば、アグラニ迷宮のような龍の巣の跡地という事も考えられる。


「どんなモンスターが出るんだろう?」


「魔獣系だと聞いている」


「そうか。魔獣系か」


 となれば死神ではないだろうが、神じゃない可能性も出て来たという訳だな。俺が念話で言う。


《火神だったりしたら、ビンゴなんだけど》


 カララが答える。


《逃げてきて、このあたりに隠れ住んだという事でしょうか? 火神が作ったものでしょうか?》


《まあ、だったらいいなあ。っていう、希望的観測だけど》


 するとシャーミリアが入って来た。


《ご主人様。私奴が言って、早急に最下層迄、探ってまいります》


《いやいや。火神とかデモンだったら危ないし、行くなら皆でだ。よっぽど危険なら、カオスを使って仲間を大量に連れて来るさ》


《は! 余計な事を言い、申し訳ございませんでした!》


《余計じゃないよ。シャーミリア、自分の意見は必要だ》


《は!》


 そして俺が、冒険者パーティーリーダーに聞く。


「ダンジョンに潜ろうと思うんだけど、ギルドに断りはいるかい?」


「一応昼は調査のために冒険者達が潜ってるらしいから、断りは入れた方が良いかもな」


「わかった」


 話が付いたので、俺はエミルと話したかった本題に入る。エミルが口を開いた。


「君達は、冒険者パーティーだ。きっと、そこの彼女がいないと困るんだろうね?」


 俺達が話したがっていることが、冒険者達に伝わったらしい。リーダーが優しく言った。


「いや、斥候は他でもどうにかなる。彼女は優秀だったが……故郷が無事だと分った以上、ここに居る必要はないんじゃないか?」


 エルフの女が聞いて来る。


「どういうこと?」


「自分の生まれ育ったところに帰れ。こんな、虐げられた土地で生きていくことはない」


「……」


 するとリーダーが、エミルに言った。


「彼女を、連れて行ってくれるって事でいいんだよな」


「彼女が良いのなら、そのつもりでいるよ」


「だそうだ」


 すると冒険者のエルフが言う。


「私は役に立たないかしら?」


「いや、そんな訳ないだろう。お前の斥候の力と、その身体能力でだいぶ助けられた。だがよ、このあたりでエルフは忌み嫌われているのは知ってるだろ? お前はいい奴だから、苦しんでほしくない」


「そうか……」


 微妙な空気が流れる。そこで、エミルが俺をチラリと見て冒険者に言った。


「いや、いますぐ決めろと言う事じゃない。我々も、ダンジョンを調査するという目的がある。すぐに居なくなるわけじゃない、俺達が立ち去る時までに決めてくれればいい。俺は、君らの意見を尊重するよ」


「わかりました」


 そしてエルフの女は、もう何も言わなかった。冒険者の仲間達も、気を遣うようにそれ以上聞かない。


 するとその時、リーダーが言う。


「そうだ! 出来る事なら、一緒にダンジョンに潜ってもらえないだろうか。俺達はそんなに金を持っていないから、依頼するのは難しい。だけど、あんたらがもう行くって決めてんなら、一緒に頼む」


「いいよ」


「本当か! 恩に着る! きっとあんたは育ちがいいんだなあ。なんて素直な人だ」


 まあこの世界での生まれは悪くないが、育ちという意味では戦闘に明け暮れた育ちだけど。むしろ俺の人格形成は、前世の三十二年間で作られている。


「まあ、それはどうか分からないけど、あんたらは悪い人じゃなさそうだ」


 すると冒険者の女魔導士が言った。


「あら、この人はまあまあ悪い人よ。女癖と言う意味では」


「お、おま!」


「本当の事じゃない」


 リーダーが頭を掻き、冒険者達が笑っている。そしてエルフの彼女も笑っていた。


 そして俺達は、ダンジョンに潜るべくギルドに行く事にする。冒険者も一緒に来て、ダンジョンに潜る事を申告していた。どうやら常に調査隊が出ているらしく、ダンジョンには大勢の冒険者がいるらしい。


 俺達が直ぐに行こうかと言うと、冒険者達があっけに取られて言う。


「は? 準備は?」


「いや、もうできてる」


「て、手ぶらじゃないか」


「ああ、いつもこんな感じだよ」


「それに、女らはそんな軽装で行くのか? 肌を露出して?」


 するとシャーミリアが鋭い笑みを浮かべて、冒険者のリーダーに言う。


「何か問題でもあるかしら? 人間」


「こ、コホン! シャーミリア?」


「は!」


「い、いや。こんなべっびんな三人が、そんな無防備で行くなんてことは……。せめて、防火の魔導のローブとか、魔法強化のローブとか着ないのかと思って。ミスリルなんだろ?」


「いらないわ」


「そ、そうかい。ミスリルってのは凄いんだな」


「そうよ」


「あと、武器が見当たらないんだが」


「あ、えーっと、持ってるよ。そうだね、じゃあみんな! ちょっときてくれ」


 俺は路地に行き自分の体で隠れるように、コンバットナイフを召喚して渡していく。大きめのマチェットなので、充分武器として見えるだろう。


「ほら。持ってるでしょ」


「え……」


 いや、面倒だな。いちいち驚かれても。こんな往来の人の歩くところで、ゴタゴタ言わないでもらいたいんだけどなあ……。ほら、道行く人が変な目で見てんじゃん。


「とりあえず、もう行こうよ」


「いえ、魔導士も後衛もみんなナイフ?」


「あ、ミスリル冒険者の、ウチはこういうスタイルなんで」


「そうか、やっぱりミスリルって変わってるんだなあ」


「そうそう」


 とりあえず、何とか誤魔化せそうだ。ただ、そう言われてみると、このメンバーでダンジョンに潜るのは珍しいかもしれない。シャーミリアとファントムはいつもと同じだけど、ケイシーもエミルも久しぶりだし、カオスなんて完全に初だ。カララとアナミスも一緒に戦って来たけど、二人は俺達の冒険者パーティーには入ってない。


 大丈夫だろうか? いや……シャーミリアと、ファントムが大丈夫なら大丈夫だろ。


 すると、冒険者達がある場所に寄って背負子を担ぎ始める。どうやら預けていた装備らしく、預かり賃を払っていた。そして小さな馬車が用意されて、荷物を載せて出発した。


 そこで、冒険者達が聞いて来る。


「素材とか、魔獣とかは持ち帰らないのかい?」


「持ち帰らないよ」


「そっか。やっぱ、ダンジョン攻略は趣味みたいなもんか」


 俺が金持ちの道楽でやってると思ってるんだっけ? じゃ、その設定でいいや。


「まあ、困ってないんでね」


「そっかそっか」


 なるほどね。冒険者って、結構用意周到にしていく訳だ。そりゃそうか、生活かかってるんだもんね。でも俺達も、いざとなったらファントムに飲ませるから、それでいいんだけど。


 都市を出て草原に出来た、新しそうな道を歩いて行く。どうやら、これがダンジョンに続く道らしく、チラホラと馬車を引いた冒険者達が歩いて行くのが分かる。


「結構、稼げるの?」


「まあまあの魔獣が出るんでね。素材が取れるんだよ。だから、皆が馬車をひいているわけさ」


 そう言う事か。だから、準備が違うんだ。


「新しいダンジョンってのは、そう言うもんなのかね?」


「いや、俺達も出来たてのダンジョンなんて初めてだから分からない。かなり広くて魔獣が多いらしい」


「なるほどねえ」


《どう思う?》


《神……でしょうか?》


 カララが言う。


《うーん、分からん》

 

 デカいダンジョンと言えば三カ所、アグラニ迷宮と海底神殿と虹蛇のスルベキア迷宮神殿を思い出す。その中でも魔獣の話を聞くと、龍の巣だったアグラニ迷宮が一番近いかもしれない。


「エミル」


「ん?」


「龍ってさ。オージェの一族以外に居るのかな」


「しらんぞ」


「だよね。オージェなら知ってたかな」


「こんな南の地の事なんて知らねんじゃね」


「だよなあ」


 うん、俺は別にこの世界の事を知り尽くしている訳じゃない。突然出来たダンジョンなのか、昔からあったのかは知らんけど、そこの主が何者なのかは大きな問題だった。


「万が一だけどさあ」


「ああ」


「龍。いたらどうする?」


 エミルが目を丸くして俺を見る。


「龍……、オージェとかメリュージュさんみたいな?」


「ああ」


「……いないとは言い切れないな」


「ヤバくね?」


「ヤバいかも」


 俺とエミルがちょっと焦り始めた。てっきり、逃げ出した神の誰かかと思っていたが、万が一いままでに遭遇した事の無いような個体なら? 俺達は、何もしらずにその巣に入っていくことになる。


 そして俺はエミルに言った。


「大丈夫。いざとなったら、コイツがいる。転移だよ転移」


 そう言ってカオスを指さした。


「い、いや。彼らはどうするんだ? 他の冒険者とかもいるぞ」


「いや、そこまでは面倒みれないよ」


「その時は、彼らだけでも連れて行ってくれよ」


「それは約束する」


 前を歩く冒険者達を見て、スッゴイヤバイのが居たら、どうしようと思い始めていた。


 それから数時間ほど歩くと森林地帯に差し掛かり、奥に大きな洞窟が口を開けていた。


「おー、めっちゃ雰囲気ある」


 その洞窟の周囲には、木で出来た家やテントが大量にあり、商売をやっている奴もいるっぽい。すると冒険者達は、馬車の預け所のようなところに向かい馬を預ける。


「随分人がいるな。まるで、町じゃないか」


「ああ。あっというまに、こうなったらしい。素材買取もするし、回復薬も売るらしいぞ」


「飯屋もあるじゃないか」


「冒険者が大勢いるからな」


 凄い活況だった。いろんな肌の色の冒険者が集まり、獣人なんかもうろついている。ただ、入り口の大きさからすると、それほど大きくは感じないが。


 入り口に行くと、ギルドの出張所みたいなところがあり、冒険者が声をかける。


「このメンバーで潜りたい」


「じゃあ、代表者の冒険者プレートを見せてくれ」


 すると、冒険者のリーダーが俺を見る。


「えっ? 俺?」


「あんたが一番上だ」


「そう言う仕組みか……」


 そして俺がミスリルプレートを見せると、ギルド職員が驚いている。


「ミスリルですか!」


「ああ。そうだ」


「それは凄い! ここは凄く広いし、魔獣も多い。高ランク冒険者はありがたい!」


「じゃあ、よかった。何階層まで行ってるの?」


「未だ、二階層までです。広くて魔獣が多いから、拠点を作りながらですよ」


「わかった。中にも拠点があるんだね」


「そうです」


 そうして俺達は、その冒険者パーティーと共に、新しくできたというダンジョンに潜っていく。中に入っての印象は、かなりの広さがありそうという事だ。冒険者があちこちに居て、天幕をはったりしつつ攻略を進めているらしい。


「よし。じゃあ、下に降りよう」


「もうかい?」


「人が多い。おいしい、高級な魔獣素材がほしいだろ? 全部あげるよ」


「そ、そう言う訳には」


「いいからいいから。レッツゴー!」


「れっつ?」


「こっちのこと」


 そして俺達は一階の魔獣などは無視し、一気に二階へ下りていくスロープへと向かうのだった。

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