第95話 グラドラム消滅
俺は震える神父2人を見ていた。
「なんだ?」
クルス神父の後ろから俺が語りかけると、神父2人はさらに真っ青になった。
「ひっ!」
俺と配下達を見比べるようにして後ずさる。
「どうしたのです?あなた方?」
クルス神父が2人に詰め寄る。
「近寄るな!偽善者が!」
「なっ!何を言っておられるのですか?」
「魔人が我々の味方だなどとほざきおって!このような恐ろしい力を持ったバケモノ達が、人間の仲間なわけなかろう!」
2人の神父はかなり激昂して、叫びまくっていた。
「待ちなさい!ラウル様たちはグラドラム解放のために命懸けで、戦っておられるのではないですか!」
クルス神父が2人を諌める。
「はじめからデイブなど使えんと思っていたのだ!悪の元凶を捕らえることも出来ん無能ではないか!」
ポール王が驚いて2人に話しかける。
「デイブがデイブがどうかしたのか?」
「もうまもなくあの方の審判がくだる!我々はお前たちをこの地へ足止めした功労で、神国で救われるのだ!」
「デイブの事を聞いている!」
ポール王がキレて叫んだ!
「お前は愚かな王様だ、部下も使用人も無条件に信じおって!」
「いったい何を言っておるのだ!」
敵が目前に迫っている時に、人間同士が割れ始めた。とにかく早く真相を突き止めねばならない。
「アナミス!」
アナミスはすぐに動いて神父2人に息を吹きかけた。神父2人を眠らせた。スッと目を閉じてストンとその場に座り込む。
《まるで瞬間催眠だな。》
「2人に問いただす。アナミスから聞いてくれ。」
「はい。」
「お前たちは何者だ?」
アナミスは通訳のように俺の質問を、2人にささやきかける。
「お前たちは何者だ?」
「我々はファートリア神聖国の神官」
するとクルス神父が驚いたように言う。
「ファートリアの神官?隣国のシュラーデン王国から逃げてきた神父ではなかったのか・・・」
俺はひとまずクルス神父の言葉を遮り聞く。
「審判とはなんだ?」
アナミスが俺の言葉をおって言う。
「審判とはなんだ?」
「神の炎がグラドラムを浄化する。」
浄化?どういうことだ?
「浄化とはなんだ?」
「彼のお方が誰にも気づかれぬよう2年かけて用意した魔法だ」
「魔法?どういう魔法だ?」
「悪しきものを浄化する魔法だ」
《うーむ堂々巡りだ・・これでは話が前に進まん。とにかくあの巨大な魔法陣は2年もかけて設置されたものらしい・・》
「なぜデイブが裏切る?」
「彼の方の指示で、魔人の王の子供を捕らえるか殺すかすれば、グラドラムの民を全て救うと、我々がけしかけた。」
「彼の方とは?」
「アヴドゥル・ユーデル大神官様」
「大神官?」
クルス神父がなにそれ?って顔をした。
「ファートリアの教会で一番上位に立たれるお方は、教皇様では?」
「・・・・・」
2人の神父はクルス神父の質問には答えない。
やはり俺がアナミスを通じて聞くことにする。
「教皇の間違いじゃないのか?」
アナミスが聞く。
「教皇は悪の手先に堕ちた。いまはアヴドゥル大神官様さまこそが真の神の使い。」
《誰なんだ?そのアヴドゥルとか言うやつは?》
「アヴドゥルになんと言われた?」
アナミスを通じて俺が聞くと、2人は同時に答える。
「我らの命をもって魔人の王の子と、その配下を滅ぼせ。」
「そんなことをすればお前たちも死ぬぞ。」
「私達の命はアヴドゥル様が目指す平和のため、人柱として捧げられる。」
《これは狂信的な信者というやつか・・洗脳か?》
「アナミス。2人を眠らせろ。」
「はい」
ドサ!2人の神父は崩れ落ちた。
「何という・・」
ポール王が驚愕の顔で2人の神父を見つめていた。
《ポールは白だった。黒幕に踊らされているのはデイブだったのか・・疑って悪かった。》
尋問が終わったと同時に、また配下全員が銃を撃ち始めた。
ズドン、ズドン、ズドン
ガガガガガガガガガ
ズダダダダダダダ
パラララララ
「ラウル様!敵がもうすぐでこちらにきます!」
「わかった!」
ロシアの戦闘車両ターミネーターから、シャーミリアとマキーナを呼び出す。
「はいご主人様!」
「はい。」
2人が瞬間的にターミネーターから飛び出してきて俺の元に跪く。まさに瞬間移動のように。
「お前たちはこれを装備しろ!」
M240中機関銃とバックパックを召喚して装備させた。そして通信機でルピアに指示をだす。
「ルピア!マリアを連れて降りてきてくれ!」
「はい!」
ルピアがマリアを抱いて岩壁の上から降りてきた。
「マリアは俺とBMP-T テルミナートル戦闘車両に乗ってもらう。ルピアとアナミスも乗れ!」
「「「はい!」」」
このふたりは魔人の中でも耐久力がない。安全圏にいてもらう。
「ルフラはこれを!」
スライムのルフラにはAK47自動小銃を召喚して渡した。
ガガッ
通信機がなった。
「弾切れです!」
「こちらも残りわずか!」
「ファントムもうち終わったようです!」
ギレザム、ダラムバ、ゴーグから通信が入った。
「ファントム!こい!」
「シャーミリア、マキーナはM240機関銃で、城壁の上に飛んで敵を殲滅しろ!」
「「はい。」」
「ルフラは下の正門から自動小銃で銃撃しろ!魔法には気を付けるんだ」
「はい」
よし、これでいったん全員の弾丸の補充ができる。
「弾丸がきれたものから俺のところにこい!」
一番最初に現れたのはファントムだった。あいかわらず俺のそばでどこか遠くをみるように立っている。M61バルカン砲の弾倉ケースとバッテリーを取り替えてやる。
「よし!お前は門の正面から攻撃しろ!魔人達を守れ!」
ファントムは俺の前からフッと消えるようにいなくなった。数百キロのバルカン砲とバッテリーと弾丸パックをかかえて・・
《巨体なのにシャーミリアのように俊敏に動けるファントム・・俺のマスコットでよかった。》
その後も弾切れしたものから順番に俺の元に来て、フルのマガジンを数個持って持ち場にもどる。
全員がフル装填で戻っていくのを確認して、俺はポール王に話しかけた。
「ポール王!さきほどまではあなたを疑っておりました!大変申し訳ありませんでした。」
「いえ、私が配下の裏切りに気がつかず、大変ご無礼をいたしました。」
「我々は敵の本拠地に進み、グラドラムにかけられた魔法を解除させようと思います!」
「わかりました!何卒よろしくお願い申し上げます!私は都市内の民を非難させます」
「じゃあこれを使って下さい!」
俺はLRADを召喚した。鎮圧用の音響兵器だが高性能なスピーカーとしても使える。使い方を説明してマイクを渡すと、ポールが都市のなかに向けて話しだした。
「みな良く聞いてほしい。我々を解放するためにラウル様が立ち上がって下さった。私はこれに協力しようと思うておる。」
家の中からどんどん民が外に出てきた。
「だがその前に聞いてほしい。忌々しいファートリアの神官とやらが、この街に罠を仕掛けたのだ。窓から外を見てくれ、真っ赤に輝く光を!」
みんな空を見上げて、赤く光り輝く魔石をみていた。美しくも、禍々しい光の塊を。
「まずは皆、避難する必要があるのじゃ!急いで逃げてほしい!時間がないかもしれん!東側の者はグラドラム墓地へ、西側の者は正門の外へ・・」
ポールが民を説得しているそのときだった。
グラグラグラグラグラグラ
地震かおきた。このあたりには火山などないため、誰も地震など体験したことがなかった。
《これはまずい!》
俺はポールからマイクを奪い叫んだ。
「急いで西か東に逃げろ!走れ!子供を抱えろ!老人には肩をかせ!走るんだ!」
聞いた町人たちが、家から出てどちらかに走りだした!
無線機で配下全員に通達をだす!
「敵を押し返さないと市民の逃げ場がない!全員攻撃しつつ前進しろ!」
「ポール王もクルス神父も早く!正門を出て!」
「しかし・・民が!!」
「時間がない!早く!」
俺の剣幕に押されてパニックで逃げる民達と一緒に正門へ走り出す。
俺は急いでロシアのBMP-T テルミナートルに乗り込んで、急発進させる!
「マリア!30mmの機銃をたのむ!」
「はい!」
ゴゴゴゴゴゴゴ
グラドラムの中心付近から細い火柱が上がった。100メートル上空まで炎が龍のように登っていく。するとそこを中心にして、あっというまに火柱が広がっていく!火の噴水のようだった。
「うわああ」
「あつい、あついよう」
「この子だけは・・」
「あなた!」
「ママーママー」
人が家が火に飲まれ、蒸発させていく!
ゴォオォオオ
火が路地という路地に蛇のようにウネウネと、炎で焼き尽くしながら広がって行く。津波のように家々の間を塊のような炎が広がる。すると街のあちこちから火柱が立ち、逃げまどう人を飲み込んでいく。
迎賓館もポール邸も、教会も、商業ギルドもあっという間に燃えていく。
バアァァァァァ
魔法陣の縁が円錐状に輪を描き、逃げ遅れた人の逃げ場を無くした。
老人が、若い男が、若い少女が、子供を抱えた母親が、妹をおんぶした幼い兄が、親が居なくなって泣き叫ぶ子供達が、老いた親に肩を貸す初老の女が、なすすべもなく焼き尽くされていく。
魔法陣の外にでた人間など僅かだった。
《このためだったんだ!敵の本隊の玉砕覚悟の突撃は俺達をグラドラムに足止めして、焼いて滅ぼすための罠だったのか!!なんという非道な・・味方の命をなんだと思ってんだ!》
「うおおおおお!」
ポール王が炎の街に戻ろうとするので、俺はガザムに指示を出す。
「仕方ない・・押さえろ。」
ガザムがポール王の首に手刀を落とすと白目をむいて倒れた。
「おおお、なんという・なんという・・」
クルス神父が跪き涙を流している。
2人の神父が魔法陣の中で燃えさかりながら叫んでいる。
「神よ!神よ!ありがとうございます!我を救い給え!わははひ」
「あははははあははは」
狂信的な神父ふたりはすぐに消し炭になってしまった。
100メートルにも登る巨大な円錐状の火柱が、あたり一面を昼間のように照らした。俺は天井ハッチを開けてその惨劇を眺めていた。
「なんだよこれ!なんなんだよ!これは!畜生!」
「ラウル様!敵がひいていきます!」
ギレザムから通信が入った。俺は配下全員に対して叫んだ!
「全員聞こえるか!一人たりとも逃がすな!絶対だ!」
俺たちの総攻撃が始まる。
逃げる敵兵の背中を銃弾の雨あられが遅い、大量に死んでいく。
俺に大量の人間の魂のエネルギーが流れ込んでくる。
戦場の状況を確認するため、上空から攻撃しているシャーミリアの目の共有で敵陣を見ると、敵の本拠地らしきところが丸く光っている。
「これは・・?」
兵士たちがその光の輪に入るとどんどん消えていくのだ。光の輪の後ろに誰か人が立っているようだった。
「あれは・・魔術師か?あの魔法はなんだ?」
とにかく兵士が光に到達すると消えていくようだ。
「ご主人様。」
シャーミリアが俺の疑問を共有で察して、系譜を通じて脳に直接語りかけて教えてくれた。
「あれは転移魔法陣にございます。」
「転移魔法?」
聞いたことないぞ!あるのか?
「人間界では禁術とされているようです。」
「あれは・・敵兵は逃げているのか?」
「おそらくは。」
「シャーミリア!武器を捨てて、すぐ俺んとこに来い!」
ドン!
シャーミリアは瞬間でターミネーターの天井に降りた。
「全員この乗り物より後ろに下がれ!ファントムもだ!」
配下達は急いでターミネーター戦闘車両の後ろに集まってきた。
「お前たちはここにいて、もし敵が戻ってきたら迎え撃て!」
「「「「「はい!」」」」」
「シャーミリア!俺をあの光の上空に連れて飛べ!」
「かしこまりました。」
シャーミリアは俺の胴回りを抱いて飛んだ。
初速度はどれほどなのだろう。シャーミリアと俺はそこから消えた。
ズシューーン
2キロほど先にあった光の円を上空からみると魔法陣だった。どんどん逃げる兵士が光に飛び込んで行く。すると円の淵に立っている奴が俺達に気がついたようだ。
俺は速攻で9M111 ファゴット ミサイルシステムを召喚した。照準を光の円に合わせる。
武器データベースを開く。
場所 陸上兵器LV4 航空兵器LV2 海上兵器LV3 宇宙兵器LV0
用途 攻撃兵器LV6 防衛兵器LV3
規模 大量破壊兵器LV2 通常兵器LV6
種類 核兵器LV0 生物兵器LV0 化学兵器LV0 光学兵器LV0 音響兵器LV2
対象 対人兵器LV7 対物兵器LV5
効果 非致死性兵器LV2
施設 基地設備LV3
日常 備品LV4
連結 LV2
【連結LV1を選択する】
散々吸い込んだ人間の魂のエネルギーを、9M111 ファゴット ミサイルシステムに供給する。
《総大将に気づかれたか》
魔法陣の淵に立っている魔術師みたいな奴が、俺に気がついて慌てている。するとそいつは光の魔法陣の中に飛び込んでしまった。
「ちぃ!」
ズドン!
ミサイルを射出した!
魔人の魔力をたらふく吸い込んだミサイルが敵の光の輪に飛ぶ。しかし直撃する前に魔法陣の光が消え、魔法が閉じた地面にミサイルが着弾した。
ボゴゥン!ガガーン!ズゴゴゴゴゴゴ
一点から広がるように一瞬で直径100メートルに渡って光り輝いた。それに遅れて凄まじい爆炎と破壊的な空気の膨張が一気にあたりを吹き飛ばしながら膨らんでいく。
魔法陣に飛び込もうとしていた奴らは、ものすごい爆発に巻き込まれて蒸発した。100メートルより外にいたやつらも爆風に飛ばされて舞い上がっていく、もちろん体を爆散させながら。
数秒後に2キロ先のターミネーター戦闘車両に届くがびくともしなかった。後ろに隠れていた魔人達には、スライムのルフラがバッと広がり、ギレザム、ガザム、ゴーグ、スラガ、ジーグ、ダラムバを包み込んだ。
マキーナはなんともないように立っているが服が軽く焼けている。皮膚はなんともないようだ。ファントムもそよ風でもうけるようにどこか遠くを見て立っていた。
爆風が収まり、魔法陣のあったところを中心にキノコ雲が上がっていた。
雲の所々が、雷のように光っている。
はっきり分かる事は2つ。
敵の大将に逃げられた事。
そしてグラドラム首都が民ごと、この世界から消えたという事だった。