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第944話 モエニタ騎士と敵の尻尾

 モエニタ国の騎士達は、震えながらも気を振り絞って剣に手を添えていた。ガッチガチになっているが、王都の惨状を聞いて騎士としてのプライドがなんとかそうさせているのかもしれない。


「貴様らは……あの、怪しいものたちの仲間か……」


 それを聞いて俺は手を振って言う。


「違う。まってくれ。俺達は北大陸から来たんだ。こっちに仲間なんていない。誰の事を言ってる?」


 今にも斬りかかって来そうな雰囲気だが、こちらの力量が分かっているのか身動きが取れないでいる。騎士達はどうにか自分の気持ちを奮い立たせており、俺の仲間達の威圧感がそれを抑え込んでいた。


 スベイルの額に汗が流れ、振り絞るように俺に聞いて来る。


「貴様ら。王を……どうした?」


「いや、だから、分からないんだ。こっちも王様と話がしたくて探してる」


 すると、後ろの騎士が叫んだ。


「騙されんぞ!」


「いや、騙してない」


 俺の飄々とした答えが気に入らないのか、更に腰を落とし飛びかかる姿勢になる。

 

 だが異変は俺の隣りで起きていた。


 ビキビキ。


 あ。シャーミリアがキレそうだ……。


 その騎士が何かを言おうとした時だった。


「貴様らは……」


「黙れ虫けら! ご主人様のお言葉を疑うなど! 万死に値する! 今すぐここで殺してやろう!」


 シャーミリアから膨れ上がる殺気は強烈で、俺ですらビビってしまいそうだ。これまでの戦いで成長してきた俺に合わせ、配下たちの力も大きくなっているが、いつも一緒にいるシャーミリアはその恩恵が一番大きかった。その殺気は既に、実体を伴っているかのようなパワーすらある。


 すると……。


 ガシャガシャガシャ! と鎧の騎士達があっという間に倒れてしまった。あまりにもの恐ろしい殺気に、正気を保っていられなかったらしい。


「あーあ」


 俺が呆れるとギレザムが苦笑する。


「シャーミリアの殺気に、気を保っていられなかったようですね」


「それだけ、俺らの力が上がっているんだろう。普通の人間じゃあこんなもんか」


「そのようです」


「で、どうすっかね? 埒が明かない感じだったけど」


「アナミスが適役かと」


「……だな、そうすっか。強制的に信じてもらうしかないよな?」


「はい」


 すぐに念話を繋げ、アナミスを呼び寄せた。チヌークヘリの前に陣取っている魔人軍の中から、アナミスがこちらに飛んできる。


「お呼びですか?」


「いやあ。彼らが気絶しちゃってねえ。今のうちに、俺達の事を仲間だという意識を植え付けてもらえないかな? 敵だと思われてて、全く話を信じてもらえないんだよ」


「かしこまりました」


 アナミスから赤紫の霧が発生し、一気に倒れた騎士達を包み込んでいく。そこで俺はアナミスに聞く。


「デモン干渉や魅了はされてる?」


「いえ。全くございません」


 アナミスの術が終わると、すぐに騎士達が起き出して目の前の俺に微笑みかけた。サキュバスが仲間で本当に良かったと思う。こんな事で騎士を殺していたら、この国を守る人らが居なくなってしまう。


「よくぞおいでくださった」


 そう言ってスベイルが手を差し伸べて来たので、俺はその手を取った。


「いやいや。ちょっと野暮用があったもんでね」


 すっかり変わったスベイルに、俺がダメ押しでお願いをした。


「とりあえず今後の事も話し合いたいし、お互い和解しているという事を、本隊にも伝えてもらえないかな? どうしても君らの力が必要なんだよ」


「すぐにでも」


 そして俺は、話し合いをせずに強制的に事を進める。スベイルは俺達を歓迎するかの如くふるまい、そのまま本隊へと連れて来てくれた。大勢の騎士達がざわつく中で、スベイルは俺達を北大陸から来た客だと紹介した。


 それを聞いた、一人の騎士が言う。


「スベイル隊長。あの、巨大なものは?」


「ああ、あれは彼らの乗り物らしいんだ。気にする事はない」


「気にするな……ですか? 信じられない」


 信じるも何も、あれは本当に乗りものなんだけどね。


 とりあえず話し合いができそうな雰囲気が出来上がったので、俺は改めて王都にいたフェアラートの事や、火の一族ゼクスペル、魔導兵器の事についての情報を伝えた。彼らの中でも王都からの通信が途絶えたことは、それらが原因なのではないかという話に変わる。


 そこで俺が聞く。


「あんたらが王都を出る時に、魔導兵器の存在は見たかい?」


「そのようなおかしな鎧の存在は、自分は知らない」


 スベイルが言うと皆もうんうんと頷いていた。どうやらアーティファクトの存在は知らないらしい。


「では、こちらに戻る前に南方で何かおかしなことは?」


 するとスベイルが正直に話し出す。


「実は、我々は無断で王都に戻って来たのだ 。何度書簡を出しても、返答が得られなかったのでな」


 って言ってたよね。


「でも、勝手にそんな事していいの?」


「良くはない。だが、ある情報が伝えられたのだ」


「ある情報?」


「王都が、敵の侵攻を受けるだろうという情報だ。侵攻して来るであろうそいつらはバケモノで、まもなく王都の人間は皆殺しに合うといっていた」


「それを信じて帰って来た?」


「いや、確認する為に、我々が差し向けられたのだ」


「なるほど」


 アナミスの術が働いているので嘘ではないと分る。だが気になる事があった。そこで俺はガザムに念話を繋げて確認をした。


《ガザム。俺達が侵攻してから、逃げた騎士なんかはいないよな?》


《確認しておりません》


《なるほな。だとすれば、俺達が侵攻を始める前に逃げた奴がいるという訳だ?》


《はい》


《俺達の事を知っている奴なんて、考えられるのは一人だよな》


《アブドゥルですか?》


《もしくはその仲間、その可能性は高いだろうね》


《そうですね。それに……》


《なんだ?》


《しばらくデモンの襲撃を受けていません。とすれば、アブドゥルはこの先にいるのでは?》


《確かにな》


 転移魔法とインフェルノと召喚魔法は、似たような原理だとモーリス先生が言ってた。それらを使いこなすらしいアブドゥルが居なくなって、デモンの出現が無くなったというのは間違いない。フェアラートは、デモンの召喚を出来ないようだったし。デモナードへ俺達を飛ばす事は出来たけど。


「いずれにせよ。スベイルさん」


「はい」


「今のモエニタ王都にはあなた方の力が必要だ。ここからは徒歩で行けば数日かかるが、我々が連れて行けばすぐに行けるんだ。あの乗り物で、あんたらを王都に連れて行ってやろうかと思うんだが?」


 それを聞いて本隊の騎士達が、ざわざわとざわつき始める。


「あんな化物に?」

「魔獣に食われるのでは?」

「どこに連れて行くと?」


 不安になるのは分かる。だがそこでスベイルが言った。


「こら! 客人に対して失礼ではないか! ここはお言葉に甘えるべきであろう!」


「しかし師団長!」


「これは決定事項である!」


「……は!」


 騎士は縦社会だからね。逆らえばいろいろと問題があるだろうし。すぐにティラに念話で伝えた。


《ティラ! こっちに全軍を連れてくるようにしてくれ》


《はーい》


 そして遠くの方でヘリコプターの音がし始める。俺達が待っていると、チヌークが空に浮かび上がる。その巨大なチヌークの機影を見て騎士達が後ずさった。そこで俺はスベイルに言う。


「恐れないでほしい! とにかく荷物をまとめてくれ! あれに乗って王都に向かう」


「よーし! 聞いての通りだ! 言うとおりにしよう!」


 スベイル団長の掛け声に、騎士達が天幕や荷物をまとめ出した。俺はその隙に、さらりと新たにもう一機チヌークを召喚してスラガに操縦を依頼する。


「よし、じゃあ馬と荷車も載せるぞ」


「「「「は!」」」」


 モエニタの騎士達が、後部ハッチから恐る恐る乗り込んでいき、何とか馬もなだめながらヘリコプターに乗せていく。荷車も全て載せ、俺達は騎士達を乗せて王都へと飛んだ。地上がどんどん遠ざかっていくのを見て、騎士達は更にざわついているようだ。


「これは……龍なのか」

「こんなに大勢を乗せて空を飛ぶなど、龍だとしか思えん」


「ヘリコプターという乗り物だよ。だから食ったりしない」


「そうなのか……」


 すぐにモエニタ王都へと到着し、彼らを南門の前で降ろした。南門は壊れていないので、騎士達は安心したようだが、東側に周ればフェアラートの重機アーティファクトで壊れしまった市壁が見える。


 騎士達が入っていくと、市民達がそれを見て歓声を上げた。


「おお! 南方の騎士団が戻ってきたぞ!」

「本当だ!」


 市民達が囲むように集まってきたところに、俺達が入ってきたら、蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。


「嫌われてるな」


 するとエミルが言う。


「俺達は進駐軍だからな」


「まあ、スベイルに何とかしてもらうしかないだろうね」


「だなあ」


 スベイル達が都市の中心に行くほどに、険しい表情になっていく。戦闘で壊れた建物を見て、ここでの戦いが激しいものだったと分ったようだ。そこで俺はスベイルに言う。


「これが、魔導兵器と火の一族が暴れた結果なんだ。俺達が何とかそれらを破壊したが、都市はこんなに壊れてしまった」


「……だが……多くの市民は生きているようだ」


「戦火に巻き込まれた者はいる。だがまだ大勢が生きているんだ。既にここでの戦いは終わっているが、ここを統治するべき王がいないんだよ。だから王様を探しているという訳だ。今はこの都市の治安を、俺達の仲間が守っている状況なんだよ。本来はあんたらがやるべき仕事だ」


「そのようだ……。王都の騎士達はどうなったんだ」


「魔導鎧の中で燃えてしまった。一応回収した物があるが見るか?」


「みせてもらいたい」


 そこで俺達の居住区へと連れて行き、数体のアーティファクト鎧を見せる。スベイル達はそれを見ても、何か分かっていない様子だった。


「これが、鎧?」


「そうだ。見たことは?」


「ない」


「これを操っていたのがフェアラートという魔導士で、それの動力となっていたのが火の一族というわけ。いずれにせよあんたらの王様が見つかって、騎士達が戻ってきたらここは明け渡したい」


「そう言う訳でしたか」


 スベイルの口調が変わった。どうやら状況が飲み込めて来たらしい。


「分かってもらえてありがたい。我々もいつまでもここに兵を割いておくことは出来ないんだ」


「モエニタ市民の為に尽力いただき、かたじけない。ここまでの大事になっているとは……」


「なんなら、南方から騎士達を運ぶのも手伝うけど」


「……ひとまず検討させてください」


「それは構わない」


 ようやく話がまとまった。アナミスの術を使っての強制パターンではあるが、いずれにせよこの国の事は、この国の人にやってもらう必要がある。だがそれには、王の存在がいる。もし既に死んでしまったのであれば、この国の人に判断してもらってどうにかしてもらいたい。


 そして、南方の騎士団に王都の現状を伝えた者の存在。掴みかけては消える真の敵の尻尾が、ようやく見えて来たかもしれなかった。ここまでは散々逃げまくられたが、魅了まで手が回らない状態のようだ。


 今度こそ。真の敵までもう少し、そんな手ごたえを感じていたのだった。

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