第942話 カオスの転移魔法運用試験
カオス(元フェアラート)の実用試験をするために、俺はシャーミリアとマキーナとファントムを連れて荒野へやってきていた。万が一何かあった場合に、都市の内部だといろいろ問題が起きそうだが、だだっ広い荒野であれば何とかなるだろう。
そして俺はシャーミリアに聞く。
「ファントムの時と同じで、元の力が数倍になってると考えて良いんだよな? 」
「左様でございます。また魂を喰らうのは同じで、多くの魂を得るとその力は強くなります」
「アーティファクト鎧の中身の兵士を食わせたんだろ?」
「左様でございます」
「ファントムの時は、グルイスとかいうバルギウスの騎士だったじゃん。だから物凄く身体能力が強化されたみたいだけど、フェアラートは魔法が強化されてると考えていいのか?」
「左様でございます」
「シャーミリアが目を付けたのは、その素体が優秀だから、という事であってる?」
「はい。あっております。稀に見る逸材でございました」
「ほうほう」
とりあえず俺は、シャーミリアとマキーナにM240中機関銃バックパック付き、ファントムにM134ミニガンのバックアップ付きを渡した。
「じゃあ危なそうだし、俺は離れた所から見てるからさ。カオスに攻撃を仕掛けてみてよ」
「「は!」」
《ハイ》
「撃て!」
ガガガガガガガガガガガ!
キュィィィィィィィィ!
三人は一斉にカオスに攻撃をし始める。だが次の瞬間にハチの巣になったのは、シャーミリアとマキーナとファントムだった。
「撃ち方やめ!」
三人が撃つのを止めて俺のところに来るが、三人とも体の損傷部を修復させているところだった。不死の三人に実験してもらって本当に良かったと思う。俺はいまヴァルキリーを着ていないので、あっという間にハチの巣になってあの世行きだったろう。
「やっぱ視認できるところからの攻撃は、転移魔法で跳ね返されるんだな」
「そのままの能力ですので、そのようになります」
次に俺は無線を取って言う。
「マリア!」
「はい」
「カララはそこにいる?」
「おります」
「ルフラは着た?」
「はい。纏いました」
《んじゃ、念話は繋がるな》
《はい》
《よし。そこからカオスが見えるか?》
《見えています》
俺はマリアを使って、視認できない所から攻撃をしてみるつもりだった。
《カララとルフラは、マリアに怪我はさせないでくれよ》
《《分かっております》》
《マリア! 撃て!》
数秒後に、超遠距離狙撃はカオスに着弾した。体に穴をあけて、修復し始める。
《おっけ。マリア! サンキュー!》
《はい》
認識できる外からの狙撃は通るようだ。だがファントムと同じ構造なので、一発の銃弾では破壊する事は出来ないらしい。
「よーし。次は転移試験してみようぜ」
「「は!」」
モエニタ王都では、地下から地上への転移は出来た。だが転移の原理が分かっておらず、どこまでそれが可能かを調べる必要がある。
「どこまで行けるんだろうな?」
「指示を出されれば、よろしいかと思います」
「じゃあ、皆カオスの周りに集まって。念のため手を繋ごう」
「「は!」」
《ハイ》
俺達四人は、カオスを囲むようにして円陣を組んだ。
「カオス! モエニタ王都の門のところへ転移しろ」
周辺が光り輝き、次の瞬間モエニタ王都の門の前に現れた。
「おお! 転移した」
「はい」
城壁の上に居るマリア達は、俺の出現に驚いていた。俺はマリアに手を振る。
「転移って視界に見える範囲じゃないよな。前にブリッツの村や東の村にもフェアラートは来たぞ」
「指示を出してみてはいかがでしょう」
俺はまた四人でカオスを囲み、指示を出してみる。
「ブリッツがいた村の前に転移」
ぱあっと光ったと思ったら、ブリッツの村の前に出現していた。
「マジか」
「いかがでしょうか?」
「めっちゃ使えるぞ」
「それは良かったです」
一瞬シャーミリアを褒めようと思ったけど、またエッチな感じになっちゃうと悪いので黙った。そして少し考え、次の行先を告げてみる。
「んじゃ。魔人国に転移」
……
シーン。全く何も起きない。
「魔人国に行ってくれ」
やはり変わらない。うんともすんとも言わない。
「えーと。それじゃあグラドラムに行ってくれ」
結果は同じだった。何も起きない。
「魔力切れ?」
「いえ。保有しているようです」
「んじゃあ。ユークリット王都の正門前に転移」
パアッ! と光り輝いて、次の瞬間ユークリット王都の門の前に出現した。
「あ! きた! ユークリットだ! 久しぶりだなあ…」
「来れたようです」
「分かってきたぞ! 多分、次は行ける!」
「はい」
「ファートリア神聖国の首都の門に転移」
パアッ! と光り輝いて俺達はファートリア神聖国の門前に居た。
「分かった!」
「どのような原理でしょう」
「行った事があるところにしか行けないんだ! ユークリットとファートリアに行った事があるのは知ってたからさ!」
「なるほどでございます!」
「こりゃ良いぞ。あとはどのくらいの範囲の物が運べるかだな」
「では。ファートリア基地の魔人を連れ帰っては如何でしょう」
「なるほど。魔人は連れていく予定だったもんな!」
俺はすぐに軍用車のハンヴィーを召喚し、四人を乗せてファートリアの魔人軍基地へと向かう。系譜の力により、俺が来ることを察知していた魔人達が、ずらりと基地の前で跪いていた。
「おー。みんな元気にしてたか!」
「「「「「「は!」」」」」」
そして、俺はそこにいる魔人に言う。
「あー。ちょっと引っ越ししたい人を十人ばっかり連れていく。南部の最前線に行く奴を選んでくれ」
「は!」
俺の前に十人の魔人が来た。
「あー。お前達、俺と一緒に最前線い行くけど良いか?」
「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」
「んじゃ。俺達の周りに円陣を組め」
カオスを囲んで俺達と魔人が円陣を組む。
「モエニタ王都の正門へ転移」
光り輝いた次の瞬間、モエニタの正門前へと現れた。十人の魔人も無事にここに運ぶ事が出来た。
「おお! 成功だ」
「そのようです!」
そして俺は、ギレザムに念話を繋げる。
《ギレザム! 来てくれ!》
ギレザムがやってきて、連れて来た魔人達を見て言う。
「この者たちは?」
「カオスの転移で、ファートリア基地から連れて来た」
「おお! 素晴らしい!」
「行った事があるところには行けるみたい。残念ながら、グラドラムや魔人国には行けなかったよ」
「なるほどでございます。それは使えますね」
「だろ? 魔人軍基地間は転移魔法陣でつないだけど、カオスを使えば転移魔法陣無しでもいいんだ」
「ここまで、エミル様のヘリを使わずに済むという事ですか?」
「そう! ヘリでの往復は時間がかかりすぎるけど、これならモエニタ王都を簡単に増強出来そうだ」
「はい」
「ガンガン連れてくるから、各所への配置をよろしく頼むよ。みんなにも伝えておいてくれ」
「わかりました」
それから俺はカオスを使ってユークリット王都に転移し、車両を召喚してユークリット基地へと向かった。基地へ到着するとダークエルフのウルドが、軍勢を引き連れて基地の前で待っていた。
「お待ちしておりました」
「ああ。ウルドにお願いがあるんだけどさ、北大陸で手の空いている魔人を集めておいて欲しいんだ」
「御意」
「三日後に引き取りに来るから、千人ほど集めといて」
「は!」
指示を出し俺はモエニタ王都に戻る。王都内に作った魔人軍の拠点に向かい、真っすぐにイオナたちの部屋へとやって来た。
コンコン!
「はい」
部屋に入るとイオナとカトリーヌ、アウロラが居た。
「母さん。朗報だよ」
「なにかしら?」
「ここモエニタから、ユークリットに転移できるようになった」
「なんですって? 転移魔法陣は設置していないのでしょう?」
「新しい仲間がそれを可能にしたんだ」
「カオス?」
「そ! 久しぶりに、ユークリットに帰ってみない?」
イオナとカトリーヌが目を合わせた。
「行ってみようかしらね」
「三日後に行く予定なんだ。それまで準備してて」
「わかったわ」
俺はテンションが上がっていた。カオスは非常に有用で、使い方次第では戦局をかなり有利に持っていけるだろう。イオナたちの部屋を出て、俺はシャーミリアに言う。
「フェアラートが行った事ありそうな所を知るには、どうしたらいいだろう?」
「それは…恩師様に尋ねるのが良いとは思いますが……聞くのは難しいかと」
「確かに……」
もっとカオスを使えるようにするためには…。
ピンときた。
「まずは、最南端の魔人軍基地に連れて行けばいいんだ。転移魔法陣を使って、カオスをあちこちに転移させて覚えさせればいいんじゃね?」
「さすがはご主人様でございます! その通りかと」
「よし。んじゃシャーミリアがカオスを連れて飛んで、基地を覚えさせてきて」
「は!」
シャーミリアがカオスを連れて出て行った。俺は部屋に戻り、あれやこれやと思考していると、そこにモーリス先生がやって来る。
「ラウルや」
「はい!」
「転移魔法陣を使えるようになったのか?」
ギクッ!
「あー。僕じゃないですけどね」
「イオナから聞いたのじゃ」
しまった。軽率だったかも。
「あー。あのー、実はシャーミリアが作ったカオスがですね。あのー、転移魔法陣が使えるらしくて」
「ふむ」
モーリス先生は椅子に深く腰かけ、テーブルに帽子を置いて俺を見る。
「ラウルや……わしゃ怒りゃあせんよ。正直に言ってごらん」
「な、なにがでしょう?」
「シャーミリア嬢が作ったあの屍人じゃが……ありゃあ、フェアラートじゃろ?」
ギクギクゥ!
そりゃバレるよな。
「ご、ごめんなさい! 僕が指示を出したわけじゃないんです! シャーミリアが勝手にやった事で、気がついたらああなってたんです」
モーリス先生が静かになる。腕を組んで俯いている。
「す、すみません……」
「……くっくっくっくっ。あーっはっはっ! そうじゃったか! あ奴は死んで役に立っておるのか!」
「えっ!」
「いいではないか! 散々人に迷惑をかけたのじゃ! ただ死んでしまうよりずーっといいわい!」
「そ、そうですか! なんというか、倫理的にマズいかなと思っていたんですが」
「そんな事は無い! 役に立つのならばいいのじゃ!」
なるほど。怒られると思ったら大丈夫っぽい。
「は、はは…」
「して、あ奴は今どこに?」
「カオスはシャーミリアと魔人軍基地に行きました」
「どんな能力じゃ?」
「物理の反射は健在で、行った事があるところには転移出来るようです」
「行った事があるところか…なるほどのう」
丁度良かったかもしれない。
「あの。先生、出来ましたらフェアラートが行ったところありそうな所を教えてほしいです」
「うむ。それじゃあ羊皮紙とペンを用意しようかの!」
「はい!」
いろいろと問題があるかと思ったが、モーリス先生の好奇心の方が勝ったようだ。それから俺は、モーリス先生と一緒に、フェアラートが行った事がありそうな所をピックアップしていくのだった。