第935話 巨大蜘蛛型重機アーティファクト
モウモウと煙が立ち込める城の通路を進んで行くと、煙の向こうから話し声が聞こえて来る。
「なんだこの煙は!」
「敵はどうなった!」
「魔装兵はどうなってる?」
なるほど。アーティファクト鎧を着ている奴らの事を、ここでは魔装兵と呼んでるらしい。まあ外のアーティファクト兵は、俺達の砲撃であらかた戦闘不能になっているんだけど。
煙から先を見ると、普通の鎧を着た騎士達が右往左往していた。俺はマリアからマクミランTAC50スナイパーライフルを受け取ってガザムに渡し、代わりにハンドガンのP320とベレッタ 92にサイレンサーをつけて渡す。そして俺が、コルトガバメントにサイレンサーをつけて二丁持った。
《そっと近づいてこい》
《《《《《は!》》》》》
煙で視界の無い中を、俺とマリアが先行していく。何の合図もせずに、同時に拳銃格闘を始めた。
パスパス! パスパス!
至近距離からヘッドショットを受けた騎士達は、操りの糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちていく。俺とマリアは兵士達をすり抜けるようにして、次々に殺害していった。
「お、おい! どうした?」
「なにかあったか?」
「おい!」
パスパス! パスパス!
反撃される前に、音もなく近づいて騎士の頭を撃ちぬく。通路に居た奴らは全て静かになり、俺は魔人達に言う。
「オージェとグレースの隊が音をたてれば、敵は左右から攻めてきていると思うはずだ。俺達は音をたてずに中央から真っすぐに進む」
「「「「「は」」」」」
そんな話をしているうちに、左右から銃声が聞こえて来た。
ズドドドドドドドドドドド!
ガガガガガガガガガガガガ!
「あいつらが戦い始めた」
俺はオージェに無線を繋げる。
「派手にやってくれ。俺達が中央突破する」
「了解だ」
そして魔人達にも念話を繋げた。
《使用人は無視して、兵士だけを殺せ》
《《《《《は!》》》》》
中央を走り抜けていくと、そこに大きな扉が現れ俺達はその扉の前に張り付く。
「オージェ達が暴れているおかげで手薄だな」
「そのようです」
「カララ! 扉の先を確認してくれるか?」
「はい」
扉の隙間から、さらさらとカララの糸が侵入していき内部の様子を探り始める。
「罠はありません。転移罠の確認を」
「よし」
俺は鏡面薬を取り出して薄っすらと扉を開け、ふたを開けた瓶を放り投げる。だが何も反応は無く、ここに転移魔法陣は設置されていないようだ。スッと扉を押して中を覗くと、そこは舞踏会でもする様な広い部屋だった。中には誰もおらず、俺達はするりと内部に侵入した。
「普通の王城だな」
するとギレザムが答える。
「アーティファクトの類は無いようですね」
「シャーミリア。気配はどうだ?」
「反応はありません」
俺達は部屋の奥にある階段に向かって走る。中央から上に登っている階段があり、突き当りに大きな肖像画が飾られていた。
「これが火神じゃないよな?」
マリアが答える。
「装束的には王家という感じですね。モエニタ王ではないでしょうか?」
「てことは王様は生きてるのかな」
「わかりません」
俺達が警戒しながら、その階段を途中まで登った時だった。
ガガガガガガと床が揺れ始める。
「なんだ?」
皆が身構えていると、その広間の床が音をたてて左右に広がって行った。
「落とし穴?」
「ではないようですが…」
広間の床がすっかりなくなり、暗い空洞がその下に広がっている。俺が下を覗き込むと、かなりの深さがあり底は暗くて見えなかった。
「誘ってんのかな?」
するとシャーミリアが言う。
「何かが上がってきます」
グウウウウウ! と音がし始め、その底から何かの気配が昇って来ていた。
「全員集まれ! ロケットランチャーを!」
「「「「「は!」」」」」
魔人とマリアとカーライルにロケットランチャーを渡す。カーライルも引鉄ぐらいは引けるだろう。暗い底からの音がどんどん大きくなってきた。
シュウウウウウウ! ガン!
「なんだこりゃ」
まるで舞台のセリのように、何かが台に乗って飛び出して来たのだ。巨大な箱の上に、巨大な重機のような黒鉄のアーティファクトが乗っている。腕が四本も生えていて、一つには鎖についた巨大鉄球、一つには何かを掴むような爪、一つには円筒、一つには大きな斧がついていた。パワーショベルのバケモノみたいなアーティファクトが聳え立っていた。
「重機? ロボ?」
俺はつい呟いてしまった。
「とにかく撃て撃て!」
俺達はロケットランチャーを、その巨大な重機に打ち込んだ。轟音を立てて爆発するが、その煙が晴れた後に無傷のロボもどきが出て来た。
「オージェ。奥に巨大ロボが居た! 警戒してくれ!」
「ロボだと!」
「ああ!」
そしてグレースにも念話を投げる。
《巨大ロボが出た! ゴーレムを先に進ませて警戒してくれ》
《ロボですって!》
《ああ!》
なんか二人ともロボと聞いて色めき立っているが、目の前の奴は全くカッコよさを度外視している。するとその四つの腕が生えたロボもどきは、急速に回転し始めた。
「退避! ファントム!」
ドガガガガガガ! と壁を壊しながら、鎖に繋がった巨大鉄球が向かって来た。
ガシィ! ファントムがその鉄球を受け止めたが、吹き飛んで壁を突き抜けてしまう。俺はシャーミリアに引き上げられて天井付近に、カララがマリアを糸で釣り上げ、ギレザムとガザムとゴーグはジャンプをしてかわし、カーライルは噴射機で飛んで天井に剣を刺して回避した。
「あっぶねえ!」
と思っていたのもつかの間、その鉄球が一回転してまた襲って来た。ブンブンと回転する鉄球を上から眺め、俺がみんなに指示を出す。
「一度撤退だ。部屋が崩れる!」
俺達は壊れた壁からそれぞれに飛び出し、その鉄球から逃れたのだった。
「なんだよあれ」
「恐れながら巨大なアーティファクトかと」
「なんであんなのが動いてる」
するとシャーミリアが言う。
「魂を感じます。恐らくは数万の子供が使用されたものと思われます」
「マジか! 胸糞だな!」
「いかがなさいましょう?」
「とにかく通常の銃火器じゃ通用しない。みんなに通達しなきゃ」
「はい」
俺はオージェとグレースに、一度城から出るように指示をする。室内で戦うには分が悪いし、俺が大型の兵器を使えば味方に被害が出る。崩れる城の中を走り、外に出るとグレース達も出て来たところだった。そこで俺はオージェ隊に通信を繋げる。
「オージェ! 大丈夫か!」
「問題ない!」
あちこちから煙の上がる城を尻目に、俺達は庭に出て様子を見た。城がガタガタに震えており、あちこちが倒壊しかけている。
「ラウルさん! なにがあったんです?」
「変な重機みたいなロボが、城を壊し始めた」
「マジですか」
するとドガン! と城の壁から筒状の鉄が出て来た。
「「パイルバンカー…」」
俺とグレースが同時に言う。
ガラガラと城が崩れ出し、その重機の一角が露わになったのをみてグレースが言う。
「がっかりです」
「まあカッコイイロボじゃない。今まで見て来たアーティファクト戦車のデカい番だな」
するとそいつは自分の爪で城を壊し始め、その全容を表し始める。たぶん城の中には兵士や従者もいるのだろうが、お構いなしに城を壊していた。
「ロケランがきかない」
「あれだけデカけりゃ装甲も厚いでしょうね」
「ああ」
すると突然そのデカい重機が音を発した。
ブォォォォォォォン!
思わず耳を塞ぎたくなるような轟音だが、そいつは更に地中からせり出してくる。
「マジでデカい」
城の中から黒鉄の城が出てきた。するとそのデカ物が、またグルグルと回り出した。
「みんな気を付けろ!」
次の瞬間、鎖のついた鉄球が伸びて俺達に襲い掛かって来る。
ズッズゥゥゥウン!
「おわ!」
そいつはガンガンに城を壊して、鉄球をブンブンと振り回している。既に城は半壊しており、俺達はそいつから距離を置くしかなかった。
ゴゴゴゴゴゴ!
するとまた地響きがしてきた。
「こ、今度はなんだ?」
するとその重機の四方から、ズボズボと何か尖ったものが花弁が開くように出て来た。それが地面に突き立ったと思ったら、重機の本体を更に上に押し上げていく。
「マジかよ…」
十本くらいの蜘蛛の足のようなものが生えて、奇妙な動きをしながら歩きだしたのだった。
ずぅううううん! ずっぅぅぅぅん!
「こっちに来てる! 俺達を認識しているぞ! 退避だ!」
俺達がそいつから逃れるように走り出すと、オージェから通信が入る。
「ラウル! 蜘蛛がこちらから離れていく。これを攻略する兵器がないぞ!」
「まて、いま考え中だ!」
流石にこれは想定外だった。せいぜいアーティファクト戦車くらいが関の山だと思っていたのに、まるで城のようなアーティファクト多脚戦車が現れたのである。八十メートルはあろうかというそれを前にして、流石にすぐにどうすればいいのか分からない。
すると突然声がしてきた。
「見たか! 私の魔導工学の粋を! お前らがどれほど強力な兵器を持っていようと、この魔導巨城に太刀打ちなど出来ないのだ!」
フェアラートの声だ。どうやらフェアラートがこれを操っているらしい。フェアラートは俺達を城に引き寄せて、これを使って潰すつもりでいたんだろう。俺達が街を走り出すと、このバケモンは住宅を破壊しながらついて来た。
「俺達が逃げれば、市民が死ぬ」
「でもどうします?」
「足を狙うか!」
俺はすぐに、携帯式防空ミサイルシステム・ジャベリンを召喚して足に打ち込んだ。だがそれが足に着弾する直前に消えて、俺達の所にジャベリンが戻って来た。
「やべ!」
ボズゥン! と俺の側でジャベリンが炸裂する。俺がヴァルキリーを着ていなければマズかった。
「むだだああああ! お前の攻撃など通用しないぃぃぃ!」
フェアラートの勝ち誇った声がムカつく。それに転移魔法で俺の攻撃をはじき返しやがった。
「視認されている!」
「ラウルさん! 煙幕! 煙幕!」
俺は走りながらバラバラと、スモークハンドグレネードをばら撒いた。それが黙々と煙をあげる。
「散開しろ!」
皆が散って行くが、魔導巨城は真っすぐに俺について来ていた。
《グレース! バーニアを射出してくれ!》
《はい》
自動で俺の所に飛んで来たバーニアは、ヴァルキリーの背中に装着され、俺は急遽上空へと離脱するのだった。