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第934話 ノルマンディー上陸作戦より楽

モエニタ城の敷地内に侵入し、倒れたアーティファクト兵を乗り越えながら進む。


「フェアラートの事だ。何も無いわけがない。注意して進め」


「「「「「は!」」」」」


 時おりアーティファクト兵が蠢いているのを見て、俺はその鎧の頑丈さに舌を巻く。


「RPGロケランの掃射を浴びても、まだ生きてるんだからな。素材を考えると胸糞悪いけど、凄い技術なのは確かだ」


 だがオージェは、もっと胸糞悪い顔で言う。


「なにが凄いものか。子供達の命を元に作り上げられた鎧など、絶対にあってはならない」


 オージェの言う通りではある。元が子供達である事を考えると、壊したくないという思いは強い。しかし不謹慎ながらも、これを魔人版に改良したらどうなるかにも興味があった。俺はつくづく、魔王に近づいているのかもしれない。


 中の人間の生体エネルギー的なもの循環させて、鎧が強化されているようだが、魔人にそれが適応されるのだろうか? バルムスの研究はまだそこまで到達してないが、出来るだけこの鎧は無傷で回収したいところだ。


 シャーミリアが俺に言った。


「まだ息があるものが大勢います。どうなされますか?」


「いや。どうせ剣しか武器が無い。あのアーティファクト戦車を封じれば飛び道具は弓矢だけだし、俺達の脅威にはならない。鎧をなるべく無傷で手に入れたいから、先に進むことだけを考えよう」


「は!」


 そして俺達が城に近づいた時。


「なんか物音がするな」


 すると、突然王城の壁のあちこちが開き始めた。そしてそこから黒い何かが突き出て来る。


「ありゃ、アーティファクトの砲身だな」


 グレースが目を見開いて言う。


「要塞ですね。ていうかこの状況、ノルマンディー上陸作戦みたいじゃないですか」


 確かにグレースの言うとおりだ。俺達は不利な下に居る。城までは距離があり、あれが機関銃や榴弾砲なら俺達は非常に危険な状態だろう。


「みんな。念のため倒れているアーティファクト兵を積み上げて隠れろ」


 倒れているアーティファクト兵を積み上げていると、城から突き出た砲身が火を噴いた。


「やば」


 俺達に降り注いで来た火の玉を、カララが糸のバリアで防いだ。すると魔法は糸に弾かれて、俺達に届く事は無かった。


「防げます」


「普通の魔法だな。これがゼクスペルの炎ならまずかった。オージェがアイツをぶちのめしてくれたおかげだよ。グレースも俺が来るまで耐えていてくれたしな」


「いや、俺も竜化薬が無かったらヤバかった」


「なるほど。じゃあ、ミーシャにも感謝だな」


「ああ」


 そこでグレースが言う。


「何を悠長に言ってるんですか? 攻撃が途切れませんよ? これじゃあ身動きが取れない」


「防衛の為、かなりの数の魔導士を城に残していたんだろう。本当はゼクスペルに防衛させようと思っていたんだろうが、俺をデモナードに送り込んだことで、ヤツは慢心してオージェとグレースに全戦力を差し向けたんだ。おかげで俺は易々とゼクスペルを攻略できた。アスモデウスにも感謝だよ」


 オージェが言う。


「結局は皆に支えられているって事だな」


「俺達だけじゃ、ここまで来れてないかも」


「そのとおりだ」


 あちこちから火の玉や氷の玉が降り注いできて、それをカララが防いでいるが、四方から飛んできているので動けば誰かが被弾するだろう。


「ファントム! マリアを守れ」


《ハイ》


 ファントムがマリアの方を向いてドスンと座り込み、魔法の直撃があたらないようにする。


「マリア。全砲塔を黙らせろ」


「かしこまりました」


 マリアはマクミランTAC50をファントム越しに構え、アーティファクト砲の砲身めがけて銃弾を撃ち込んでいく。ニ十機はあったとみられるアーティファクト砲は、一分も経たずに沈黙するのだった。神狙撃のおかげで、魔法の爆撃が終わり俺達は再び前進し始める。


 さらに近づくと弓矢隊と魔導士が三階付近に現れて、直接俺達に攻撃して来た。アーティファクト無しでも届くようになったので、直接攻撃に切り替えて来たらしい。そんなものが魔人達に通用するはずもなく、皆が全てを弾き返していた。


「構え! 撃て!」


 魔人達が自分の持っている機関銃で、城の上を掃射し始めると魔法と弓の攻撃が収まった。銃撃が通る所を見ると、この状況をフェアラートは確認していない。


「よし。フェアラートの反射は無い」


 俺はすぐさま、ブラックホーネットナノ(超小型偵察ドローン)を召喚して、ディスプレイを見ながら上空に飛ばしてやった。真上から見ると王城内には結構な人がいて、弓兵やアーティファクト兵達もあちこちにいるようだ。


 すぐに五基の120mm迫撃砲 RTを召喚する。


「グレース! 弾着観測を頼む」


「わかりました 」


「ティラ、クレ、ナタ、マカ、タピは迫撃砲で砲撃を頼む」


「「「「「は」」」」」


 そしてそれぞれが王城に向かって方向を調整し、筒にシュポンと砲弾を投げこんだ。


 ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!


 あちこちで爆発音が鳴り、グレースが言った。


「兵士達は逃げ惑い始めましたね。あと五十メートルほど奥に向けて一斉に掃射しましょう」


 ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!


「直撃しました。ティラさんとマカさんの砲撃を右に十五、さらに五十メートル奥に調整してください。クレさんとナタさんの砲撃を左に十五、更に五十メートル奥に調整してください。タピさんはそのまま真っすぐに五十メートルに調整」


 ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!


「いい感じです。絨毯爆撃みたいになってますよ」


「よーし。それじゃあ、スモーク弾に変えて無差別に撃ちまくれ」


「「「「「は!」」」」」


 ゴブリン隊は俺が召喚するスモーク弾を次々に射出していく。更に手元にM34発煙手榴弾を召喚し、ギレザムやラーズ、他の魔人達に適当に投げ込むように指示をした。


「マリアとカーライルはこれをつけろ」


 人間の二人にはM40 ガスマスクを装着させる。


「みんな! 投げて良いぞ」


「「「「「「「は!」」」」」」」


 魔人達がM34発煙手榴弾を投げ始めると、あたりに黙々と煙が立ち込め始める。視界がどんどん悪くなり、恐らく相手にはこちらが目視出来なくなるだろう。


「行くぞ!」


 俺達は走って王城の壁に張り付き、窓ガラスから中を覗き込んだ。中は豪華な装飾で飾られた部屋で、王城にふさわしい雰囲気だ。そこの壁に俺がC4プラスチック爆弾を重ね、信管を取り付ける。


「カララ。爆発から皆を防げ」


「はい」


 そして俺は起爆装置を押した。


 ズズン! と大きな音をたてて爆発し、王城の壁が崩れ去る。もう一度内部を見るが、誰かが来る気配も無い。


「鏡面薬を」


 ギレザムが蓋を開けて、バッと室内の床にに鏡面薬をふりかけた。だが特に反応は無く、転移魔法陣は仕掛けられていないようだった。


「行くぞ」


 そこから俺達が入り込んでいく。ここまでアーティファクトだらけだったから、内部も近代的な改造をしていると思っていたが、何の変哲もない豪華な木造の部屋だった。


「普通の部屋だな」


 カーライルが言う。


「恐らくは、元の王族たちが作り上げた城なのでしょう。そこを根城にしているだけだと思われます」


「だろうな。元の王族たちはどこに行ったのやら」


「どうでしょう。既に生きてはいないような気がしますが」


「確かに」


 俺は先に進み、その部屋の扉を開ける。すると先は左右に繋がる廊下になっていて、グレースとオージェも反対側から先を覗き込んだ。するとオージェが何かを見つけて言う。


「あれ、何だと思う?」


 天井付近に何か丸い筒のようなものが取り付けてあった。それを見て俺が答える。


「多分だけど、監視カメラ?」


「だよな」


 そこで俺達はいったんドアを閉めた。


「ここから侵入して行けば、きっとフェアラートにバレますね」


 グレースの言うとおりだ。しかもここに俺達全部隊が集結している。


「ラウル。隊を分けるか?」


「転移罠に引っかかる可能性もあるけどな。全部隊が一か所に固まってるとリスクが集中するよな」


「そのとおり」


 そして俺は再びブラックホーネットナノを召喚し、ドアを少し開けて通路に飛ばしてやった。


「まずは右から」


 通路を飛んでいくと、その突きあたりが左に折れている。そのまま先に飛んでいくと、開いている扉があり中を見ると使用人らしき人らが固まっていた。そのまま部屋を素通りして、更に奥に行くと階段と左右に分かれる通路にぶつかった。左右を見れば崩れた瓦礫が散乱しており、俺達の迫撃砲の爪痕が見て取れる。


「ここまでは問題なさそうだ」


 そしてブラックホーネットナノを戻し、今度は左側に向けて飛ばしてやった。真っすぐと右に向かう通路が出て来たので、そのまま真っすぐに飛ばしていくと突き当りが右に折れている。壁に大穴が開いており、どうやら俺達の迫撃砲が横から直撃したらしい。迫撃砲の穴から外に出ると、そこは中庭になっているようだった。中庭から煙が黙々と入り込んでいて、それから先は視界が悪かった。


「目下の俺達の殺害目標はフェアラートだ。火神は殺して良いかどうかが分からん。神の一柱を殺したりなんかしたら、どうなるか分からないからな」


「そこでグレースが言った」


「ラウルさん。ブラックホーネットナノをそれぞれのチームに渡して、確認しつつ進めばいいんじゃないですか?」


「分かれるか」


「一塊で動くのは非常にリスキーですし、三方向から行った方が早く見つけられると思います」


「そうしよう。オージェとトライトン、カーライルとマリアはこれをつけてくれ」


 魔人の念話が届かない四人に、俺はヘッドセットを配った。そしてヴァルキリーにも装着する。


「無線の周波数を合わせろ」


 皆が操作し、俺が無線に呼びかける。


「聞こえる? オッケー?」


 すると四人が親指を挙げた。


「連携をとりながら進む。グレースは左手にまわってくれ、オージェが右手を俺が中央の通路を進む。各自にブラックホーネットを三機渡すから、それで先の確認をしつつ慎重に進め。サポートする魔人は鏡面薬を使用し、魔法陣罠が無いかどうかを逐一確認しろ。俺達の目標はフェアラートただ一人、どれかの隊が見つけたら手を出さずにまずは俺に連絡をしてくれ」


「「了解」」


「あと監視カメラのようなものがあったら、全て破壊して進め」


「「了解」」


「よし」


 そして俺はそろりとドアを開け、コルトガバメントを構えて天井の監視カメラに向けて撃つ。


 パン! ガシャッ!


「壊れる。アーティファクト鎧のように頑丈じゃなさそうだ。みんな行くぞ!」


「「おう!」」


 そして俺達はドアを開けて、三方向に分かれて王城に侵入していくのだった。入り込んで来た、俺たちのスモークが薄っすらと場内を煙らせている。あちこちから声が聞こえるが、まだ俺達の侵入には気が付いていないようだ。


「マリア。大丈夫か?」


「ラウル様と一緒ですから問題ありません」


「おう」


 俺達の隊はグレース達と別れ、中央の通路へと進んで行くのだった。

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