第933話 敵王城への侵入
かなりの被害が出ているモエニタ王都だが、あちこちに市民は残っているようで、俺達の侵攻を建物の中から恐る恐る覗いているようだ。もちろん俺達が一般市民に何をするわけでもないが、きっと悪魔が攻めて来たとでも流布されているのだろう。
「どちらかというと、町を壊したのはゼクスペルとムカデ兵なのにな」
オージェが笑って答える。
「仕方ないさ。俺達は侵略軍で、アーティファクト兵はこの都市を守る兵士だ。俺達は銃を使わずに応戦していたんだがな、奴ら自分らの都市を焼き払うように暴れやがった」
グレースも頷く。
「ですね。おかげで、防戦の為に使った僕のゴーレムが結構壊されました」
「二人とも本当にすまないな。俺達がデモナードなんかに飛ばされてしまったばかりに」
「そりゃちがうだろ。俺達が飛ばされていたら、戻って来れなかった説は無いか?」
「ですよね。アスモデウスはラウルさんだから助けに来たんです。僕達だったら来てないですよ」
「それは…言えてるかも。知っていれば、俺がアスモデウスに頼むことが出来るけど、俺が知らなければどうしたらいいか分からなかった。そう考えれば冷や汗もんだったな」
「やっぱりラウルは強運だよ」
「まったくです」
建物から建物へと隠れるように進んでいるが、いまだアーティファクト兵が出てくる気配は無い。そして俺が建物の軒先に身を隠した時だった。目の前の玄関から、唐突にひょっこり小さな子供が出て来た。俺をじっと見つめているが、ヴァルキリーを着ているので顔は見えていない。
俺はアメリカ軍のチョコレートを召喚し、その子供に渡して言う。
「危ないから家の奥にいるんだ」
俺からチョコレートを受け取った子供を、サッと母親らしき人物が抱いて後ずさる。
「み、見逃して! 殺さないで!」
俺は手をスッと上げて、奥に引っ込むようにジェスチャーをした。すると母親は、子供を連れて奥に入っていく。やっぱり俺達はバケモノ扱いらしい。
「子供は分からんから」
「日本も占領軍が来たばかりの時は、こんな風に怖がったのかね?」
「そうかもな」
更に進むと視界がぱっと開けた。広場の先の建物が全て倒壊しており、王城がはっきりと見渡せる場所だ。ここは以前俺がシャーミリアと爆撃して焼いたところで、王城の周りに住居は無い。すぐに双眼鏡を召喚し、オージェとグレースに渡した。三人で王城を見ていると、城壁の上にアーティファクト兵がいるのが見えた。
「随分と高い城壁だな」
「かなり堅牢そうだ」
「すっかり守りに入っているな」
「アーティファクトの戦車もある」
「どうしますか?」
「二手に分かれるか。俺達の部隊が陽動するから、オージェとグレースの隊は別方向から壁に貼り付け。そこで騒ぎを起こして攪乱してるうちに、俺達が壁の上に上がって兵士をやる」
「「了解」」
オージェの部隊とグレースの部隊が、建物の裏通りを走って行った。マリアは俺の側に居て、シャーミリア、ファントム、ギレザム、ガザム、ゴーグ、カララ、カーライルが俺の後ろに待機している。
《ラウル様、位置につきました》
ドランからの念話が繋がる。
《俺達が出る》
《《《《は!》》》》
俺達が住居の通路から出ると、城壁の上のアーティファクト兵が騒ぎ出した。どうやらアーティファクト戦車の砲塔を動かし、手動で向きを変えている。
「あれ俺達にあたると思ってるのかな?」
「そのようで」
ひゅーんと飛んで来たのは、氷の玉だった。だがそのスピードは遅く、余裕で回避する事が出来る。
「魔法を増幅してるのか」
「ゼクスペルがいないと、こうも力が弱くなるのですね」
「一応、銃を撃ってみようかな」
コルトガバメントを召喚して、城壁の上にめがけて撃ってみる。
パン!
……
「よし。反撃は無い、全員発砲を許可する」
M240中機関銃、M134ミニガン、12.7㎜M2ブローニングが火を噴いた。それがアーティファクト兵を襲うが、アーティファクト戦車の後ろに隠れていく。それでも氷の弾は次々と飛んで来ていた。
「マリア。アーティファクト戦車の砲身を狙えるか?」
「はい」
マリアがマクミランTACー50をシュッと構えてすぐに撃つ。
ズドン!
「砲身の中に入りました」
「攻撃が止まった」
「では」
ボルトアクションのスナイパーライフルなのに、マリアはすぐに次弾を装填し次々に撃つ。
ズドン!ズドン!ズドン!
「全弾入りました」
いやはや。立ちながら狙って、あの細い戦車の砲身に正確に弾丸を撃ち込むなんて…。魔人にはこの精密射撃は出来ない。これはマリアだけの超技巧射撃だ。
ドランから念話が来る。
《壁に張り付きました》
《よしドラン。オージェに言ってくれ。壁に一発パンチをしてくれって》
《かしこまりました》
ズッズゥゥゥンン!
と、こちらまで地響きがした。壁が揺れてアーティファクト兵達が何人か、壁の外に落下して来る。
「行くぞ」
俺達が一気に、壁際に詰めた。
「シャーミリアとカララが先に行って俺達を上にあげろ」
「「は!」」
シャーミリアがカララの腕を掴んで、瞬間的に城壁に上った。すぐに俺達がカララの糸に吊るされ全員が城壁の上に上がる。すると振動で転がっていたアーティファクト兵達が、慌てて剣を抜き去った。
「カララ」
「すでに」
カララの糸は一斉に広がり、既にアーティファクト兵の鎧の忍び込んでいた。俺はその糸の先にMK3手榴弾を召喚してピンを抜く。
「「「「「うおおおおおおおお」」」」」
アーティファクト兵は雄叫びを上げ、剣を構えてこちらに走って来る。
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
鎧の中で手榴弾が爆発し、バタバタと倒れていくアーティファクト兵。鎧の中は生身の人間なので、この攻撃に耐えられるわけがなかった。
「よし。オージェ達を引き上げに行くぞ」
「「「「「「は!」」」」」」
そして俺達が城壁の上を走っていき砦を潜っていくと、またアーティファクト兵達がいた。
「面倒だな」
俺はRPGロケットランチャーを召喚し、アーティファクト兵の中心に打ち込む。爆発で飛ばされ、そいつらがごろりと転がった。
「ギレザム」
「は!」
ギレザムが、電撃の加わったM134ミニガンを掃射した。
「あがあ!」
「うが!」
「うぐぐ!」
皆が電流で麻痺したらしい。俺達はそいつらを尻目に、オージェ達の上まで走り込む。
「カララ! 皆を引き上げろ」
「は!」
オージェとグレースの隊を全員城壁の上にあげ、ようやく俺達は城の全容を見る事が出来た。
「デカいな」
するとマリアが言う。
「ユークリット城みたいですね」
「南の大国だからな。かなり栄えているんだろうな」
俺達が話をしていると火の玉が飛んで来た。どうやら火魔法を使う奴が、アーティファクト戦車を使って撃ってきているらしい。そのすべてを、カララの糸のバリアが防いでいる。
「糸が溶けません。やはりゼクスペルの炎とは比較になりませんね」
それを見てオージェが言う。
「だけど、どうする? アーティファクト兵は、まだ結構いるぞ」
「うーん。フェアラートがどこかで見ていて、反射させて来るかもな。まずは一発撃ちこんでみるとわかるだろ」
俺が再びRPGロケットランチャーを構え、カララに目配せをする。
「攻撃を返されるかもしれん。万が一は防いでくれ」
「はい」
バシュゥ!
砲弾が、敷地内にいる奴らの元に飛んで行った。それが大爆発を起こしたのを確認して、俺はオージェとグレースに目配せをする。
「フェアラートはどこかに隠れちまったようだな。反撃は無い」
「負傷が酷いのかもしれんな」
「あとは転移罠も気をつけないといけませんね」
「だな。グレース、みんなに鏡面薬を配ってくれ」
「はい」
転移魔法陣があれば、また俺達は飛ばされてしまうだろう。そうなれば一気に形勢逆転されるかもしれない。慎重に魔法陣を確認しながら進む必要があった。
「とにかく、あのアーティファクト兵達が邪魔だ。みんな俺の所にロケランを取りに来い」
皆が来たので、俺は次々にRPGロケットランチャーを召喚して渡していく。その間カララは火の玉を糸で防いでいた。
「次々に撃っちゃって。バンバン召喚するから」
「「了解」」
「「「「「「「「は!」」」」」」」
それから俺は目の前にどんどんRPGロケットランチャーを並べ、撃った人が戻ってきてまた撃ちに行く。織田信長の三段撃ちを始めるのだった。あのアーティファクト鎧の特性で、銃弾は防ぐ事は出来るようだが、打撃や爆発は直接衝撃を喰らうようだ。仲間達は逃げ惑う蟻を追いかけるように、城壁の上からロケットランチャーを降らし続けた。
するとシャーミリアが言う。
「左右の城壁を周って、人間どもがこちらに近づいて来ています」
「そっか。んじゃあ」
俺は城壁の幅を図り、すぐに兵器を召喚した。
ドイツのレオパルト2を隊の左右に一台ずつ召喚する。
「グレース。そっちを頼む」
「了解です」
俺は左側のレオパルト2の砲座に座り、目の前から並んでやって来るアーティファクト兵に狙いを定めた。
ドンッッ!!
55口径の120ミリ滑腔砲が勢いよく、アーティファクト兵の隊列に突っ込み爆発を起こした。直撃を受けた奴がぺっしゃんこになり、爆風で周りの奴らが飛び散る。そして俺は次弾を装填して撃った。
ドンッッ!!
ボゴオ! 何人かが潰れ城壁が崩壊し、そこから行動不能になったアーティファクト兵がボロボロと落ちていく。
ドンッッ!! ドンッッ!! ドンッッ!!
城壁がすっかり崩れて、後続がこちらに渡れなくなったようだ。それでも何とかこっち側に飛ぼうしている奴がいたので、俺はその集団に55口径の120ミリ滑腔砲を撃ち込む。
ドンッッ!!
城壁はボロボロに崩れ、どうやら後続がこちらに渡って来るのをあきらめたようだ。俺はすぐにハッチから出て、反対側のグレースのレオパルト2に走る。
「グレース。城壁を狙って崩せ」
「了解」
ドンッ!! ドンッっ!! ドンッ!!
気持ちいいほどに城壁が崩れて行った。
「これで後続は来ない。もうアイツらに飛び道具は無い」
「了解です」
地表に居たアーティファクト兵たちも既にボロボロになっており、なんとか動く者もいるがその数を極端に減らしている。
「オージェ! そっちの戦車を城壁の外に落としてくれ」
「レオパルト2が使い捨てか…」
そう言ってオージェが戦車を蹴り飛ばし、王城の外に落としてやった。反対側の戦車はファントムが落としてやる。万が一敵がこれを操作し、俺達に攻撃して来たらたまったもんじゃない。
「よし! 城内に侵入! 各自、鏡面薬で魔法陣の有無を確認しながら進め!」
「「了解」」
「「「「「「「「は!」」」」」」」
「カララはマリアの護衛につけ」
「はい」
「カーライルは行けるか?」
「ええ。やられっぱなしは性に合わないです」
「よし!」
そして俺達は一斉に、城壁を飛び降りるのだった。魔人達はすぐに鏡面薬を使って、周囲を探り始める。いよいよ俺達は敵の本丸に攻め込むのだった。