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第931話 辿り着いた非人道研究所

 カーライル達が見つけた、アーティファクトの研究がおこなわれているであろう教会。その入り口をぶち壊してグレースのゴーレムが入り、俺が操作する暗視カメラが付いたドローンがその頭の上を飛んでいる。映像には何の変哲もない教会内部が映し出されているが、人の気配はなく、既に逃げ出したか元々教会としてのていを保っていないのか分からない。


 カーライルが俺に言う。


「地下です。そこを右に向かうようにしてください」


 カーライルが俺のディスプレイを見ながら指示を出し、俺とグレースがその指示に従って先に進める。するとカーライルが言う通りに、石廊下を進んだ先に石で出来た地下階段が見えて来た。グレースのゴーレムが石階段を下りて行き、その後ろから俺のドローンがついて行く。


「見たところおかしなところは無いな」


「ラウル様。奥にさらに地下に降りる階段があります」


 地下の石畳を歩いて行くと、石の壁があり行き止まりのようだ。


「行き止まりみたいだぞ」


「右の下から三番目の石を強く押してください」


 グレースのゴーレムが石を押す。すると岩でできた壁が下に潜って行った。


「こんなの良く見つけたな」

 

「聖女リシェル様ですよ。あの方はいろんな教会を見てきてますから、この壁の違和感に気が付いたのです。そのままアンジュがネズミに変身して、壁の隙間から中に入り地下に工場があるのを確認したのです。そしてオンジが壁を探っている間に、この動く岩を見つけたという訳です」


 チームワークが出来てんだ。力押しの俺達とは違う。


 ゴーレムが進む映像をドローンで見ていると、更に地下に進む階段が出て来た。


「ラウルさん。これ以上は狭くてゴーレムでは入り込めないようです」


 体を入れようとしていたゴーレムだが、どうやっても入っていけないようだった。


「つうかドローンの電波もそろそろ怪しいな。行けるところまで行ってみるけど」


 ドローンを操作して先に進めるが、やはり電波が途切れて通信をロストしてしまった。


「エミルを連れて来ればよかった」


「精霊ですか?」


「だけど、仕方ないな。まあ工場入り口までの状況は確認できたわけだし、転移罠とかは無いと考えていいだろう」


「行きますか」


 そして俺は大龍になったオージェに言う。


「オージェ! 俺達が潜って来るから、ここの防衛を頼めるか?」


「わかった」


「ラーズ達は引き続きオージェと防衛しててくれ! 俺達はグレース隊と共に行く」


「「「「は!」」」」


 そして俺が部隊に言う。


「大型の武器は地下では取り回しが悪い。皆の装備を変更する」


「「「「「は!」」」」」


「ティラ達もだ」


「「「「「はい!」」」」」


 するとそれにカーライルが言って来る。


「では、細かい敵に対応できる銃が良いかと思われます。私が斬り落として難を逃れましたが、蝙蝠のようなものが攻撃してきます」


「なるほど。新手のアーティファクトか何かかな」


「わかりません。私もお供いたします」


 俺は早速シャーミリア、ギレザム、ガザム、ゴーグにMPS・AA12フルオートショットガンを召喚し、ティラ達ゴブリン隊には軽量のベネリM4ショットガンを渡す。ファントムは護衛の為に手ぶらで、カララにも武器は渡さずに索敵とカーライルの護衛に徹してもらう事にした。


「カーライルにはこれを」


 カーライルにはENVG-B 暗視ゴーグルを渡した。地下に入れば、光が届いていない可能性があるからだ。魔人はどうにかなるが、彼はさすがに不利になってしまう。


 そして俺はグレースに向かって言う。


「ルフラはグレースの目になってくれ、そしてグレースを守れ」


 グレースの七色の頭の上から、ひょこりとスライムが生えてきて答える。


「かしこまりました。グレース様引き続きお願いします」


「ルフラさん。よろしくおねがいします」


「行くぞ!」


 俺達は一気に教会に飛び込み、安全が確認できている地下のゴーレムの所まで走りこんだ。止まっているゴーレムにグレースが命令する。


「入り口が塞がらないように、あそこに立っていてくれ」


 ドスドスと音をたててゴーレムが入り口に立ちはだかった。そのまま俺達は地下二階に向けて侵入していく。すると通路の途中に俺のドローンが落ちていた。


「ここまでしか電波が届かないんだな」


「そうみたいですね」


 そしてカーライルが言う。


「こちらです」


 さらに奥に進んで行くと、いくつものドアが並んでいる場所に出る。


「ここに入るとアレが襲ってきます」


 そこでカーライルが一つのドアを開いた。俺達が入っていくと、その先には広い空間が広がっている。俺達が出た場所は、その広間のキャットウォークのような場所だった。まるで体育館の上にある通路のような場所である。


 俺は自衛隊のDSP Y 3006E発煙筒を数本召喚し、火をつけてポイポイと下へと放ってやった。床が照らされて広間の様子が浮き出て来た時だった。


「来ます」


 カシャカシャカシャと音をさせて何かが近づいて来る。するとそれは目玉に羽が付いたような奴で、生き物ではない事が分かる。確かに蝙蝠のような感じだが、明らかに俺達を狙ってきているようだ。


「撃ち落とした方が良いかと」


「撃ち落とせ!」


 魔人達はフルオートとセミオートの散弾銃を、飛んで来るアーティファクトらしきものに向けて撃つ。すると驚いた事が起きる。


 バゴン! バゴン! ズドン! ズガン!


 それらが空中で爆発しだしたのである。


「くっつかれると爆発します」


「それでカーライルは良く助かったね」


「逃げながら斬り落としました。恐らくは爆発音で侵入したのがバレました」


「しかし…特攻兵器とはね」


 魔人達がバンバンと散弾銃の乱れ撃ちをしているので、蝙蝠のアーティファクトは一向に近寄っては来れなかった。弾が無くなったら、すぐに新しいのを召喚して渡してやる。


「こりゃ普通の人間が侵入したら即死だな」


「そう思います。ですが流石はラウル様。あれは近寄る事も出来ないようです」


「散弾銃様様だよ」


 俺達の散弾銃部隊は、バスバス撃ちながら進んで行き地下に降りる階段を見つけた。近寄る蝙蝠アーティファクトを撃墜しながら、下に降りるとそこらにアーティファクトらしきものが置いてある。あの兵士や冒険者達が引いていたような、戦車のようなアーティファクトだらけだった。


 ようやく蝙蝠アーティファクトの特攻が収まりグレースが言う。


「あの蝙蝠みたいなアーティファクトも、子供から作られたんでしょうかね?」


「胸糞悪いけど、たぶんそうだろうな。自分の意志も無い機械になんかしやがって」


 そしてカーライルが俺に言った。


「私が見たのはここまでです。ここに子供らも数人が居たと思われましたが、他の者達を確認する前に脱出を余儀なくされました」


「カララ! 周辺に探りを入れてくれ!」


「はい」


 カララの体から蜘蛛の糸より細い糸が、周辺に張り巡らせられて行く。少ししてカララが言った。


「いました…生きている者もおります」


「よし、行くぞ」


 だがカララが俺を引き留めて言う。


「ラウル様。覚悟してご覧くださいませ」


「ん? 分かった…」


 カララに連れられて、俺達がその広間の端に行くと隣に繋がる扉が現れる。


「鍵がかかってるな」


 それを開けようとしても開かなかった。


「ファントム」


《ハイ》


 ファントムがその扉をガシっと掴んで、ボゴッ! と外した。そして俺はその中に発煙筒を投げ込む。すると部屋の中が照らされて、俺達は絶句するのだった。


 カーライルが声を出す。


「これは…このような…」


 俺もグレースもたまりかねて呟いた。


「酷いもんだ…」

「なんでこんなことが出来るんですかね!」


 なんとそこには解体された子供の残骸や、半身で吊るされた子供にアーティファクトが繋がったもの、首から下が箱になったような子供、二人の子供を結合してパイプだらけになったようなのが、それこそ部屋の奥まで大量にあったのである。


 俺達が中に入っていくと…結合されたパイプだらけの子供が目を開けた。


「あ、ひっ。こ、やめ! あ、めて」


「生きてるのか…」


 あまりにもの事に、俺は体が震えて来る。怒りなのか何なのか分からない。


「グレース…どうしたらいんだろう?」


「分かりません。下手に触ったら…どうなるか」


 だが一人が話をした事によって、周りの半アーティファクトの子供らが目を開けた。


「だ。あっ。な、きた」

「げっげげぐ。あぎぃ」


 どれもが人間としての人格を保っていないようで、自分がどうなっているのかも分かっていないようだ。一部が目覚めた事により、部屋中の子供たちが壊れたおもちゃのように騒ぎ始めた。


「外して連れていく事は出来ないのでしょうか?」


 カーライルが懇願するように言うが、さすがにこんな状況ではどうする事も出来なかった。


「外せば…多分死ぬだろう」


「そんな…」


 そこでカララが言う。


「奥の部屋にもおります」


 それを聞いて、騒ぐ半アーティファクトの子供たちの間を通り抜けていく。奥の部屋の扉を開けるといくつもの檻があり、子供たちがまるで家畜のように閉じ込められている。だがその子供たちはまだ、改造される前のようで体におかしそうな部分は無い。


「かなり臭うな」


「劣悪な環境のようですね…」


 俺は懐中電灯を召喚して、一番近くの檻に行き中を照らす。すると中の子供が怯えたように奥に引っ込んで行ってしまった。


「僕らは助けに来たんだよ。ここから連れ出してあげるから答えて欲しいんだ。強制的に連れて来られたのかい?」


「た…食べ物をくれるっていうから」


 少し年上の女の子がはっきり言った。


「みんなもかい?」


「そう」


「食べ物なら僕があげるから、僕らとここを逃げ出そう」


「ほんと?」


「ほんと」


「……」


 だが子供達は身動きできないでいた。するとシャーミリアが言う。


「アナミスを呼びますか?」


「だな。既にゼクスペルは全員殺したし、フェアラートは重傷を負って逃げている。エミルの隊を呼ぶか」


 そして俺はアナミスに念話を繋げる。


《アナミス》


《はい》


《王都の敵は制圧した。だがそれより困った事がある。すぐにエミルに伝えて王都に部隊を差し向けてくれ》


《かしこまりました》


《フェアラートはまだ死んでいない。そして火神の動向が分からないから、注意して近づいてくれ》


 そして地上で待っているラーズ達に言う。


《聞いての通りだ。エミル隊が来るから誘導してくれ》


《《《《は!》》》》


 そして俺はアメリカ軍用チョコレートを召喚する。米軍が兵士に配給しているチョコレートで、士気の高揚やカロリーの補給のために利用される物だ。その一つを剥いてティラに渡した。見た目が子供に近いので警戒を解いてもらえると考えたのだ。


「これを与えてみて」


「はい」


 ティラがそれを檻の近くに持って行って言う。


「おいしいよー。おかしだよー。とりにおいでー」


 さっき話した女の子が恐る恐るやってきて、それを奪い取るようにして奥に引っ込んだ。


「かじってみてー」


 カリ。


「…あまい…」


 そして俺はトランプのように、チョコレートを両手に広げて言う。


「いっぱいあるから、おいで」


 すると子供達はゆっくりと檻の前まで来て、チョコレートを受け取ってくれた。俺はそれに対し包み紙を剥いて食べてみせる。


「ほら。こうやって食べるんだよ」


 子供達は見よう見まねでチョコレートを食べ始める。すると他の檻の子らも、羨ましそうに見ていた。俺は更に大量にアメリカ軍支給チョコレートを召喚し、ゴブリン隊達がそれを持って各檻に配っていくのだった。

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