第930話 フェアラートを追い詰める
アーティファクト鎧ムカデを倒した俺達は、すぐにオージェ達が戦っている都市の北西に向かった。向かう先では多数の煙が上がっていて、恐らく火災が起きているのだろう。市民達は避難を続けているが、パニックでどちらに逃げたらいいかも分かっていないようだ。
「酷いありさまだ」
それにギレザムが答える。
「敵も、なりふり構っていられなくなってきたようですね」
「オージェに居てもらって助かったよ。アイツは神々の中でも桁違いの強さだし、敵の策が分かっていれば自分の立ち回りが分かる。それに、敵は俺達をデモナードに封じ込む作戦が上手く行っていると思ってるだろうけど、既にそれに巻き込まれない術を伝えてあるからね。きっとフェアラートは思い通りにいかなくて、焦っている頃だろうよ」
「そのようです」
《ドラン。間もなく到着するぞ》
俺はオージェの側にいる魔人達に念話を繋げた。
《お待ちしておりましたラウル様。そろそろエリクサーが無くなります》
《よく耐えた》
《オージェ様のおかげです》
俺はシャーミリア達に言う。
「上から行くぞ」
「「「「「は!」」」」」
屋根に上がり先を見ると、さっきと同じように兵士が繋がった鎧ムカデが何匹も鎌首を上げている。
「まったくおかしな物を作りやがって。どっからあんな発想が出てくるかね?」
異世界で合体メカなんて発想を。
「まったくです」
とにかく今がチャンス。奴らはオージェの対応で手いっぱい、俺達が背後から接近している事にも気付いていない。
「だけどシャーミリアが見張りを全部片づけてくれたおかげだよ。じゃなかったらこんなスムーズに近寄ってこれなかった。ありがとうな」
「…ああ…そのような…お言葉を…。はぁはぁ」
しまった…不用意に褒めてしまった。シャーミリアが、なよなよしている。
パリパリ!
「ギャッ!」
「しっかりしろ! 戦闘中だ」
「この! 赤鬼が!」
ギレザムがシャーミリアのケツを剣で叩いたのだ。その剣には電撃が含まれていたらしく、シャーミリアの尻から軽く煙が上がっている。そういえばそうだった。オーガ三人衆とシャーミリアは仲が良い訳ではない、というか、ギレザムが真面目なのかシャーミリアがふざけているのか。
だが冷静なガザムが言う。
「仲間割れをしている場合ではない。まもなく戦闘区域だ」
二人もすぐに切り替えて、次の屋根に飛び移って止まる。
「ご主人様。いかがなさいますか?」
「敵は俺達に気が付いていない。鎧ムカデの攻撃の要はあくまでもゼクスペルだ。あの二体を片付ければ鎧ムカデは機能しない」
「では先ほどのように?」
「いや。あそこにはフェアラートがいる。気づかれれば転移魔法でこちらの攻撃をそっくりそのまま返してくるだろう。だから銃が通るのは多分初撃だけだ」
「しかし接近すれば…」
「ああ。またデモナードに飛ばそうとしてくるだろうな。だけど、今この戦場にいるのは俺達だけじゃない」
それを聞いてギレザムが答える。
「連携という訳ですね」
「そう言う事だ」
そして俺はすぐにオージェ隊のドラン、スラガ、ラーズ、ミノスに念話を繋げる。
《これから火炎ムカデのケツを刺す。だが気づかれずにやれるのは一体だけだろう、もう一体をやろうとすればフェアラートの転移で攻撃を返される。だが、一体を潰してしまえば、敵の攻撃は半減するからな。フェアラートがこちらに意識を向けた瞬間、お前達でムカデを掴んで引き離せ》
《《《《は!》》》》
《ルフラ、ゴブリン隊!》
《《《《《は!》》》》》
《これからドラン達が大やけどを負うかもしれん。グレースに大量保管されているエリクサーを持って、オージェ隊の支援に迎え》
《《《《《は!》》》》》
《あのーラウルさん? 僕はルフラさんを纏っているから直で聞こえてますよ》
そうだった。
《そう言う事だグレース、よろしく頼む》
《連携作戦が楽しいですね》
《確かにな》
《今度は撃たれないでくださいよ》
《同じへまはしないさ》
グレースが言っているのは前世のサバゲのチーム戦の事だ。あの時の経験はこっちの世界でも生きていて、そのおかげで生き抜いて来れた気がする。
「射線を確保しよう」
街中を進みながら、鎧ムカデを操っているゼクスペルの一人の背中を確認した。二棟分の建物の窓越しを突き抜けた先で、鎧兵に腕を突っ込んで鎧ムカデを操っているようだ。
《いた。アイツをやったら突入するぞ、くれぐれも転移に気を付けろ》
《《《《《は!》》》》》
全員が配置につくのを待つ。
ドラン、スラガ、ミノス、ラーズが言う。
《《《《こちらはいつでも》》》》
グレースが言う。
《オージェさんらを視界にとらえましたよ》
《OK》
どれ、好き放題友達をなぶってくれている奴のケツに弾をつっこんでやるか。
俺はゼクスペルの頭に狙いを定めている、ダネルNTM-20アンチマテリアルライフルの引き金をしぼった。
バズン!
20x110mm徹甲弾が銃身から飛び出し、最初の建物のガラスを割り真っすぐに飛んでいく。アイツらは好き放題暴れている為、こちらの銃声は聞きつけていないようだ。
ドッパァア!
二軒先のガラスを突き破って到達した弾丸は、鎧ムカデに集中しているゼクスペルのドタマを撃ちぬいた。見事に頭を飛び散らせて、残った首からぴゅーぴゅーと血を噴き出している。
その瞬間にもう一匹の鎧ムカデごと、もう一人のゼクスペルが空中に飛ばされた。火傷覚悟でアイツらが一本釣りしてくれたのだ。
「突撃!」
俺達は四方に分散して、首を飛ばしたゼクスペルの先にいるフェアラートを視界にとらえる。俺は目の前にガン! と、FV432イギリス装甲兵員輸送車を召喚した。その上にダネルNTM-20アンチマテリアルライフルを構えて、フェアラートに向けて撃つ。
バズン!
ガン!
やはり銃弾は届かずに、俺が撃った弾は一瞬でFV432イギリス装甲兵員輸送車に戻って来た。
だが。それでもボルトアクションで次弾を装填し撃った。
バズン!
ガン!
そしてもう一発。既にFV432イギリス装甲兵員輸送車は穴だらけだ。シャーミリアも反対側から、M240機関銃を乱射した。それを確認したフェアラートは転移魔法を展開し、そのままシャーミリアに返してくる。
ボボボボ!!
シャーミリアの体に穴が開いた。するとシャーミリアがファントムに言う。
「盾におなり!」
そう言ってシャーミリアはファントムの後ろに隠れM240を乱射した。ファントムは穴だらけになるが、超再生で穴が埋まっていく。
ガガガガガガガガ!
バズン! バズン! バズン!
俺も撃ち続けているので、フェアラートは身動きが出来なくなっていた。そこにバラバラになったアーティファクト兵達がやってきて、フェアラートの前に立ちはだかり始める。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
それらの攻撃をアーティファクト兵が防ぎ始めた。
そこで、ようやくフェアラートが口を開いた。
「ガキが! なぜそこにいる! 飛ばしたはずだ!」
俺はFV432イギリス装甲兵員輸送車の陰に隠れて言う。
「プチ旅行は楽しかったぜ! おかげで俺のペットがめっちゃ強くなった! 礼を言う!」
「くそ! フォイアー! フォイアアアア!」
「ばーか。火の奴は今ごろ俺の友達にフクロにされてるよ! おまえ誰に手を出したか分かってねえなあ」
「……」
「終わりだよ!」
だがフェアラートは笑い始める。
「くっくっくっ! あははははは!」
「狂ったか?」
「馬鹿め! 突破してみよ! 我がアーティファクト兵を!」
バラバラだったアーティファクト兵が次々に積み重なっていき、あっという間にドーム状になった。フェアラートをすっぽりと包み込んでいる。そのおかげで確かに弾丸が通らなくなった。
フェアラートが叫ぶ。
「いけ! その鉄の後ろにいるやつを潰せば終わりだ!」
いつの間にか後ろから、アーティファクト兵の大群が押し寄せてきていた。
「馬鹿はどっちだ? おまえ鎧に囲まれて周り見えんのかよ」
キュィィィィィィィィ!
ガガガガガガガガガガガ!
ビリビリビリビリ!
ギレザムが屋根の上から掃射したM134ミニガンの弾頭が、電気を帯びて地上のアーティファクト兵に降り注いだ。
「ぐああああああ」
「ぎゃああああ!」
「ぐうううううう!」
バタバタとアーティファクト兵が倒れていく。弾丸が通っているのではなく、鎧の隙間からギレザムの電流が流れているのだ。中の兵隊が感電して身動きが取れなくなっていき、そこにM9火炎放射器を持ったガザムとゴーグが現れ、倒れている鎧の山に思いっきり火炎をぶちまけた。
「お前の可愛い鎧兵達が蒸し焼きになってんぞ」
するとフェアラートの鎧ドームの一部がスッと開いた。すかさず俺はそこにダネルNTM-20アンチマテリアルライフルを撃ち込む。
チュンチュンとドームの中で跳弾したようだ。
「ぎゃあ!」
当たったか?
すると俺の側にカララがやって来た。
「ドームを崩しましょう」
俺はカララの背中に手を当てて、糸の先にM67手榴弾を召喚した。カララがドームになっている騎士達の内部に糸を忍ばせておいたのだ。
ボンボンボンボン!
グシャ!
ドームが崩れ、腹から血を流して押さえているフェアラートが出て来た。俺がすかさずダネルNTM-20アンチマテリアルライフルを撃ち込むが、再び転移で返されFV432イギリス装甲兵員輸送車に穴が一個増える。
だがそこで俺が言った。
「終わりだよ! フェアラート!」
最後の一個の手榴弾、カララがフェアラートの背中に貼り付けた手榴弾のピンを抜く。
ボン!
だが次の瞬間、フェアラートは消えた。
「糸が切れました。転移で逃げたようです」
「くっそ!」
周辺にアーティファクト兵はまだおり、剣を構えてこちらに進んできていた。
「シャーミリア! ギレザム! ガザム! ゴーグ! 奴が! フェアラートが逃げた! 既に銃反射は無い! 一帯のアーティファクト兵を潰せ!」
「「「「は!」」」」
「カララとファントムは俺と来い!」
「はい」
《ハイ》
そして俺達がオージェの所に駆けつけると。
「えっ?」
「あれは…」
デカい龍がゼクスペルをボコボコに殴っていた。火炎をまき散らしているのもお構いなしに、強固な鎧のようなウロコで包まれたデカい龍が、可哀想なくらいにゼクスペルをボコボコにしていたのである。ゼクスペルの火がだんだんと弱まってきて、とうとうその活動を止めてしまった。
なにこの龍? つうかゼクスペルの火で焼けない?
咄嗟に俺が身構えてしまう。するとゼクスペルが動かなくなったのを確認してくるりと俺を見た。
「ラウル。どこ行ってたんだ? 」
「お、えっ! オージェェェェェ!!」
俺はさっきフェアラートに、比喩的な表現でフクロにするって言ったんだけど。本当に袋叩きにしていたのだった。
「ああラウル、竜化薬を一つ貰ったぞ」
「つうか、そいつの火熱くなかったか?」
「さっきまではな。だがフェアラートの反撃が来ないと知って、巨大化しても問題ないと判断したんだ。ドランが竜化薬を持っていたからもらった」
「たしかにフェアラートに巨体を晒すのは危険か…。つうかメリュージュさんにそっくりになるんだな」
「まあ、親子だからな」
「なるほど」
「それでフェアラートはどうした?」
「逃げたよ。行先はわからん」
「なら、まず教会の秘密工場に捉われている子供達を助けたい」
そこにグレースが来る。
「ならゴーレムを先に入れてやりましょう。どんな罠があるか分からない」
「じゃあ俺のドローンも飛ばしてやるか」
「俺は竜化薬の効果が切れるまで入れん 」
「だな」
そしてグレースがゴーレムを一体出し、俺が偵察ドローンを召喚してディスプレイで操る。入り口をバゴンとぶち壊して入るゴーレムについて、ドローンを秘密工場に潜入させてやるのだった。