第929話 ムカデ人間は元から絶たなきゃダメ
グレース率いるティラ達ゴブリン隊と合流するが、後から火の一族ゼクスペルとアーティファクト兵団が追って来ているらしい。念のため、さっき鎧を回収した時と同じ作戦が使えるか、カララにアラクネ糸の網を広げてもらった。
角を曲がって来たアーティファクト兵は繋がっており、ムカデのような状態になっている。
「キモ!」
「虫けらのようでございますわ」
「カララ! とりあえずさっきみたいに、アラクネ糸を兵士らの鎧に潜らせてみてくれ」
「はい」
少ししてカララが言う。
「ラウル様。糸を鎧に潜らせる前に切られるようです」
「やっぱそうか。ゼクスペルが鎧に火炎を共有しているからだ」
「ラウルさん、アイツらの火炎はマジで強烈ですよ」
「グレースは、ゴーレムであの火炎を防いだんだっけ?」
「おかげで、かなりゴーレムを壊されちゃいましたよ。ストックはわずかです」
あの鎧はかなり丈夫で、広場で戦車に潰させた時も、ただ地面にめり込んだだけのようだった。恐らくは、あの時のアーティファクト兵も復活しているのだろう。
「行動不能にしてオージェ達の所に向かうか、ここで完全に倒すか…。でも挟み撃ちされちゃうよなあ」
「ここで何とかしたほうがいいでしょうね」
だけどこいつら…なんでゼクスペルの火炎が巡っている鎧を着て、中の人間が平気でいられるんだ? さっき中の人を殺して完全に機能停止させたら、俺達の火炎放射器の熱は通ったよな?
そこで俺は、基地に待機しているバルムスに念話を繋げる。
《おーいバルムス》
《なんでしょうかラウル様》
《アーティファクト兵の鎧なんだけどさ、中の人を殺したら外からの熱で死体が焼けたんだけど、なんかゼクスペルが火炎を巡らせているのに、人間達が普通に動いてんだよね》
《恐らく生体反応を利用した魔法陣だと思います。技師のビトーが入っていた時にも、ラウル様の白リン弾の熱が通らずにビトーは無事でしたから。中の人間が生きているうちは、その生体から何らかのエネルギーを抽出して強化できるのだと思われます》
《だから人間の体を利用して作ってるんだっけ?》
《恩師様曰く、そう言う事です》
《完全に息の根を止める策が無くてさ》
するとバルムスが言う。
《大元をやるしかないでしょう》
そんな話をしていると、繋がったアーティファクト兵の列が突然持ち上がった。まるでつながった兵士達が、鎌首を上げた蛇のようになって動き始めたのである。
「キモ! なんだあれ!」
つながった黒い鎧ムカデが、鎌首を上げて建物よりも高く上がっていくのである。まるで巨大な大蛇のようにあたりを探るように動く。
それを見たグレースが叫んだ。
「合体メカじゃないっすか! どうやって動かしてるんだ?」
次の瞬間だった。
ゴオオオオオオオオオ!
「うお! 火吐いた! 退避!」
建物や路地に隠れていた魔人達が飛び出す。気づけば何匹もの巨大なムカデが鎌首を上げていた。
「なんだよ。あんな使い方も出来んのかよ! あれ中の人間どうなってんだ?」
突然その鎧ムカデたちは、体中から火炎をまき散らし始めた。
「無差別に焼き始めやがった!」
市民の建物などお構いなしに、合体鎧ムカデたちが火炎を吐く。あたりが火の海になり、焼けた建物から火のついた市民達が飛び出して来た。しかしゼクスペルの火炎では普通の人間など一瞬、蒸発するように次々に燃え尽きていってしまう。
グレースが言う。
「こいつらおかまいなしですよ!」
バルムスが言ってたな…。止めるなら、大元、すなわちゼクスペルを仕留めるしかないって事だ。だがその前に味方を守らねばならない!
「ティラ、クレ、ナタ、タピ、マカ!!」
「「「「「は!」」」」」
「グレースとカーライルを連れて、すぐにここを離脱しろ」
「「「「「は!」」」」」
「カーライル! よく秘密基地を突き止めてくれた! このままグレースと一緒に離脱してくれ!」
「はい」
俺はヴァルキリーを着ているから熱を感じていないが、さすがにグレースやカーライル、ゴブリン隊にはキツくなっているはずだ。俺達が鎧ムカデを食い止めている間に、ここを離れてもらうしかない。
《全員! グレース達が離脱するまで銃撃でムカデを引き付けろ!》
《《《《《は!》》》》》
ズドドドドドドドドドドドドド!
俺達の銃が一斉に火を噴いて、鎧ムカデを迎え撃つ。だが弾丸は、はじかれて貫通しないようだ。
俺はすぐさま、スターストリーク HVM誘導ミサイルシステムを数基召喚する。そして手元のレーザー照射器でムカデの頭の部分を照らした。
バシュ! バシュッ! バシュッ!
スターストリークHMVは、弾頭の先に三発のダーツという子弾を搭載しており、発射された先でその子弾を切り離して飛ばすミサイルだ。特質すべきはタングステン合金製の弾体で、超高速で敵に突っ込む。レーザーで一度照射すれば、そこめがけて自動で突っ込んでいくので外れる事もない。
ドン! ドン! ドン!
逃げたグレース達を追おうとしたムカデは、そのミサイルの勢いに止められた。
「お前らの相手は俺達がしてやるよ」
そこで俺は魔人達に言う。
《ギレザム、ガザム、ゴーグ、ファントム! お前らでアイツをひきつけていてくれ! 派手な武器を召喚するから取りに来い!》
《《《は!》》》
《ハイ》
俺たちは一旦奥の建物に隠れて、ナパームより高温で眩しい光を発する増粘自然発火剤 TPA 入りの弾頭を装備した、M202四連多連装焼夷ロケットランチャーを一人一人に召喚する。
「あの鎧に効かないかもしれないが目くらましにはなる! 分散し各方向からミサイルを撃ち込め!」
「「「は!」」」
《ハイ》
「俺がゼクスペルを殺すまで目くらましに徹底しろ」
「「「は!」」」
《ハイ》
「よし! シャーミリア! カララ! ついてこい!」
「「は!」」
鎧ムカデたちにギレザムらが四連多連装焼夷ロケットランチャーをぶっ放す。すると明るい光と高温が鎧ムカデを包み込み大きな爆炎が上がった。
俺とシャーミリアとカララはその隙をついて、一気に路地裏に飛び込んで走り出した。
《ヴァルキリー! M18発煙手榴弾をばら撒き続けろ》
《はい。我が主》
ピンを抜いたM18発煙手榴弾があたりにばら撒かれて行き、濃い緑の深い煙が黙々と立ち上がり始めた。建物の間から次々に立ち上る緑の煙に、視界が一気に悪くなっていく。もちろん魔人達にはこの目くらましは聞かず、俺もヴァルキリーを着ているので鮮明に見える。
だが敵の鎧に入っている奴らは人間、鎧に視界までクリーンにする機能があるとは思えない。それが証拠に俺達はその煙の中を、アーティファクト兵団をぬって易々と抜ける事が出来たのだった。
《ゼクスペルを探せ》
《《は!》》
深い煙幕が街を埋め尽くす中で、俺達はゼクスペルを探す。あちこちにアーティファクト兵がいるが、ヴァルキリーが次々にM18発煙手榴弾をばら撒くので、俺達を見つける事は出来ないようだ。
《ご主人様。鎧ムカデの胴体を辿りましょう》
《よし》
緑の煙が充満する中で、人の手足の生えた鉄ムカデの胴体を廻っていく。
これ中の人達どうなってるんだろう?
手足はあまり関係ないようで、自由に動いているように見えた。
だがじっくり観察している暇はなかった。緑の煙幕を張られた事によって、敵はより一層無差別に攻撃しだす。体全体が炎に包まれ周辺が瞬く間に燃え上がって行った。
「都市が全部焼けちゃうだろ…」
カララが言った。
「敵も、なりふり構っていられないのかもしれません」
「焦ってるってか?」
「グレース様たちの部隊なら、すぐにつぶせると思っていたのではないでしょうか? それなのに突然反撃を喰らい不利になってしまった。恐らくはこちらを片付けて、すぐにオージェ様達と戦っている部隊に合流するつもりだったのでしょう」
「なるほど。敵も焦ってんのか」
そして俺達が走り抜けた先に…
《いた!》
ゼクスペル。確かイーグニスとか言う奴だ。そいつが目の前のアーティファクト兵の背中に、ズボっと腕を突っ込んでいる。
「アイツが操ってんのか?」
「そのようでございます」
煙幕で視界の悪い建物の陰から、イーグニスを観察する。
「無防備じゃね?」
「はい。ご主人様、そのように見受けられます」
するとカララが言った。
「慣れていないのです。私が無意識にアラクネの糸を操れるのは数百年の経験があるからこそ、恐らくゼクスペルはこの戦い方に不慣れです」
「そりゃそうだ。あんなへんてこな鎧ムカデを使いこなせって言ったって、簡単に行く訳がない」
「はい。それが証拠に、攻撃が的確ではなく無差別になっています」
んじゃあ…。やってみっか。
俺が召喚したのは、ダネルNTM-20アンチマテリアルライフル。20x110mm弾が撃てる対物ライフルで、航空機関砲に装填するような弾を撃ち出す。全長が179センチメートルもあり俺の身長よりデカい。こんなのを市街戦で使うのは現実的ではないが、イーグニスは鋼ムカデを操るのに必死。こっちに気が付いてすらいない。
俺は静かに寝そべり、緑の煙の中からイーグニスに向けて、ダネルNTM-20アンチマテリアルライフルをかまえる。もちろん対ゼクスペルに徹甲弾を装填していた。
やっぱこれデカいわ。
普通ならゼクスペルに着弾する前に弾頭は焼かれるけどな…。
なんか当たりそうな雰囲気なんだよな。
しかもこの至近距離で対物ライフルを避けられるわけがない。
俺はしっかりとイーグニスの頭に狙いを定めて引き金を引いた。
ズドン!
ゴパァ!
イーグニスの頭が吹き飛んだ。ドサリと倒れ込み、操っていた鎧ムカデがズズゥゥゥゥン! と地面に倒れ込んで来る。
「当たった」
「完全に無防備でしたね」
「びっくりするほど簡単にやっつけちゃった」
「お見事でございますご主人様」
そこで俺はすぐにカララに言う。
「カララ! 再び糸を張り巡らせろ!」
「かしこまりました」
俺に言われたカララが、ズササササササ! と糸を張り巡らせ、何が起きたか分からず焦っている、アーティファクト兵達の鎧に潜り込ませていくのだった。
「ラウル様。全ての鎧に、いきわたりました」
「おっけ」
俺はカララの背中に手を付けて、アラクネの糸の先にM67破片手榴弾を召喚したのだった。