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第928話 アーティファクト鎧を無傷で手に入れる方法

 もう俺達はコソコソする必要が無くなった。フェアラートの策が他にあるかもしれないが、恐らくは俺達をデモナードにすっ飛ばして、封じ込める作戦が最大の狙いだったと思える。その為に奴らは、ずっとモエニタ王都に閉じこもり、俺達のちょっかいに反応することなく耐え忍んで来やがった。俺達が何も知らずに、王都に侵入してくるのを首を長くして待っていたのだ。


 今までの敵のやってきた行動の答え合わせが出来た事で、やるべき事がはっきりした。奴の転移魔法に飛ばされる事の無いように戦ってアイツを始末する事。ゼクスペルの残り三人と火神が気になる所だが、目下フェアラートが最大のネックになっている。俺の想像ではあるが、恐らくはフェアラートを倒すかどうかがこの戦いの鍵になる。


 とまあ、簡単に言ったものの…近づけないとなれば遠距離攻撃しかない。


 王都の高い市壁が近づいて来て、都心あちこちで煙が上がっているのが見えた。


「どこから侵入を?」


 ギレザムが聞いて来る。


「正門からでいいよ。中ではオージェの隊とグレースの隊が動いているから、恐らく別動隊が来たと思って違う部隊を差し向けてくるだろう」


「わかりました」


「モーリス先生が予測してたんだけど、あれは反射魔法じゃないぞ。転移魔法を使って、こちらの攻撃を直接転移させているんだ。だから遠距離から攻撃をすれば、そのまま自分らに攻撃してしまっているっていう寸法だ。だがフェアラートが目視できる場所に居なければ、あれは効果を発揮しない。シャーミリアとやった夜の空爆は届いているからな、奴が目視するか攻撃を感知しなければ返ってこない」


「なるほどでございます」


 俺達の部隊が正門から堂々と入り込むと、市民達が驚いて逃げ出していった。このあたりでも戦闘が行われたらしいが、おそらくグレースとゴブリン部隊が応戦したのだろう。既にいなくなっているのは、内部に侵入して戦っているからだ。


 ブオオオオオオ! と敵の笛の音が聞こえる。


「ご主人様。敵に視認されたようです」


「問題ない。位置がわかるか?」


「は! 数か所ございます」


「俺達の位置を報告している奴らがいるんだ。全て殺してこい」


「かしこまりました」


 バシュッ! シャーミリアが消える。敵の目論見が分かった以上、臆する事はなかった。離れた場所でM240中機関銃の銃声が鳴り響き始める。都市のあちこちで立ち上る煙は、戦いの場所が移り変わっていった証拠だ。


「カララ! 周囲に近づく敵がいたら、至近距離からウージーを撃ち込め」


「はい」


 オオカミ形態のゴーグにまたがったカララが、三十のウージーサブマシンガンをバッと広げて展開させる。すると走るハンヴィーに火炎瓶を投げ込む兵士が出て来た。カララが空中で火炎瓶を撃ち落とし、投げた奴の顔面の前にウージーを出して撃った。兵士は脳漿を飛び散らせて即死、だが他の奴らが火炎瓶を投げ込もうとしていた。


 あちこちで火の手が上がる。アラクネの糸で操るウージーが、火炎瓶を直接射抜いたのである。自分で投げようした火炎を浴びて、あちこちから逃げ回るように火だるまの人間が出て来た。ほとんどはウージーの掃射で死んだが、辛うじて動けるやつが火だるまになっている。


 ガガガガガガガガ!


 ハンヴィーの上でM134ミニガンを構えていたガザムが、出てきた奴らを撃ち殺していく。バラバラになって飛び散る兵士を尻目にハンヴィーは進む。


 そこにティラから念話が入った。


《ラウル様。銃声が聞こえました! 侵入したのですね!》


《潜入した。今からそちらに向かう、グレースと合流したいんだ》


《ただいまアーティファクト兵と応戦中です》


《敵に魔術師は?》


《見当たりませんが、ゼクスペルが一人。アーティファクト兵に火炎を供給し、こちらを攻撃してきています。グレース様のゴーレムがそれを防いでいる状況》


《下がっていいぞ!》


《はい》


 そこにシャーミリアが降りて来る。


「見張りは片付けました。ティラ達は南東の角におります、グレース様もそこにおいでかと」


「了解だ。ギレザムそっちに向かってくれ」


「は!」


《ティラ! そのまま北進してくれ。合流しよう!》


《はい》


 俺達はグレース達の元へと走ろうかとしたが…それほどスムーズにはいかなかった。再び俺達の前にアーティファクト兵団が立ちふさがったからだ。先ほどの笛の音を聞きつけて、路地裏からぞろぞろと出てきやがった。


「お出ましか」


「そのようですね」


 するとアーティファクト兵団は、孤児のビトーが格納されていたようなリヤカーを数台引いて出て来た。その数台のリアカーの先に砲塔のようなものが突き出ている。


「ん? ギレザムよけろ!」


 きゅきゅきゅきゅ! ギレザムが突っ走るハンヴィーを蛇行させる。


 ドン!


 ボワァッ!


 火の玉が筒から飛んで来た。


「戦車だ!」


 数台のリアカーから次々に火の玉が飛び出す。それを見てシャーミリアが言う。


「ファイアボール。あれは魔法です」


「そんなもん作ってたのか!」


 次々に飛んで来る火の玉に、カララがウージーサブマシンガンを捨てて防御膜を張り巡らせた。カララの糸が焼ける事は無いようなので、あれはゼクスペルの火炎とは質が違うようだ。


「ゼクスペルもフェアラートもいないようだな」


「そのようです」


「よし。車両を捨てる! これに乗っていると逃げ隠れ出来ない!」


「「は!」」


 俺達は車を止めて、カララの膜の後ろに隠れている。


「カーライル! 俺達はここを動けない! グレース達がこちらに向かっているから、誘導して連れて来てくれ!」


「わかりました。それではいってまいります」


 カーライルが車を降りて路地裏に入ったと思ったら、バシュッと噴射装置を使って屋根の向こうに飛んでいく。俺はすぐに車の中にC4プラスチック爆薬を召喚し、信管を刺しこんだ。


「車を離れるぞ!」


「「「は!」」」


「3、2、1」


 ダッと俺達は車を捨てざま、起爆装置を入れた。


 ドッ! ズドン!


 C4プラスチック爆弾の爆発に紛れ、俺達は屋根や路地裏に飛んだ。するとファイアボールの攻撃が止み、アーティファクト兵達がじっとこちらを見ている。


「や、やったか」

「爆発したぞ」

「木端微塵だ」


「「「「やったああああ!」」」」


 アーティファクト兵達が喜んでいる。煙が収まるまで身動きを取らなかったが、じりじりと前に出て来た。恐らくは俺達の死体を確認するつもりでいるのだろう。


「よし。それじゃあ、アーティファクト鎧を無傷で手に入れるぞ」


「「「「「かしこまりました」」」」」


「カララ、やってくれ」


「はい」


 サララララララララ! 蜘蛛の糸より細い糸が、通りや路地裏に張り巡らされて行った。恐らく敵は鎧を着ているから、その微妙な感覚に気づく事はないだろう。剣を構えじりじりと進んで来る。


 カララの糸は、手あたり次第にアーティファクト兵の鎧に忍びこんでいく。


「ごめんなカララ。汚い事させてしまって」


「いえ。効果的たと思います」


 本当に申し訳ないと思う。カララの糸は鎧に忍び込むだけではなく…中の兵士達の…尻の穴に…。


「鎧を壊したくないんだ。外は強いかもしれないけど中はそうでもない」


 そしてカララが言った。


「兵士の腹に忍び込ませました」


 俺はカララの背中に手を添え、糸の先にM67破片手榴弾を召喚する。すると視界に映るアーティファクト兵達が、腹をおさえてうずくまり始めた。腹の中に、6センチ大の鉄の塊が現れたのだから仕方がない。


「抜け」


 兵士は俺達が見ている前で…。


 ボフッ、ボ、ボボボボボボボボボボボボボボボボボボ…


 鈍い音をたてて、糸が切れた操り人形のように鎧が転がっていく。見ていると鎧からジワリと血がにじみ出して来た。


 すまんな。魔人と現代兵器の力の組み合わせは、こんなことも出来るんだよ。


 それを見ていたシャーミリアが嬉々として言う。


「ご主人様! 傷をつけずにアーティファクト鎧を手に入れる事が出来ましたね!」


「それはそうなんだけどさあ…。グレースにこれらを格納させんのはちょっと気が引けるなあ…。血でてるし、中は腹を破裂させたおっさんらが詰まってるんだぜ…」


 するとゴーグが言う。


「ラウル様ぁ! 燃やせば血は止まるんじゃないですかぁ?」


「確かに」


「あの…グレース様には内緒にしたらいいと思います!」


「言わなきゃ分かんねえか?」


「はい」


 ゴーグがピュア表情でニコニコ笑いながら答える。


「んじゃ」


 俺は自衛隊の携帯放射器を召喚した。皆がそれを持って、倒れているアーティファクト鎧を焼いて行った。ゴーグの言うとおりに鎧から流れ出て来る血は止まり、見た目はただの鎧のように見える。中には焼死体が詰まっているが、言わなきゃわからないだろう。


 そんな作業をしているとオージェ隊のドランから念話が繋がった。


《ラウル様。ただいま、孤児が囚われている教会の前におります。ですがこちらに例の魔導士とゼクスペル二体、及びアーティファクト兵が現れました。やはりここが敵の重要拠点の一つのようです》


《カーライル達が調べた通りだな…きっと秘密工場でもあるんだろ》


《そのようです》


《別世界に飛ばされるから、接近するなよ》


《もとより接近できてません。アーティファクト兵が強力な火炎を吐いてきます》


《それか…。それはゼクスペルの火炎を増幅させる機能を持っているらしい。恐らく先にゼクスペルを倒さないとどうにもならない》


《そういう仕組みですか…》


《どうやってしのいでる?》


《…なんと申し上げていいのか分かりませんが、オージェ様が殴り飛ばしています》


《ごめん。何を?》


《火炎を》


《なにで?》


《素手で》


 意味が分からないが、それでしのげるんだったらしのいでもらってたらいいか。


《ですが、火傷を負っております。我々がエリクサーをかけていますが、間もなく使い切ります》


《だよねぇ! やっぱ無傷じゃすまないよねぇ! 撤退して!》


《…オージェ様が何としても子供達を救うのだと申して動きません》


 ああ…そういう奴だよ。オージェは…。慈善的な心が一番強い奴だから、目の前で苦しんでいる人がいると思うと、すぐに動かないとダメな奴なんだ。


《すぐ行く》


《は!》


 するとそこにカーライルが、グレースとゴブリン隊を連れてやってきた。


「ラウルさん! 敵が追ってきてます!」


「こっちもか…」


 オージェ部隊のエリクサーが切れるのが先か、こちらのゼクスペルを倒すのが先か…。


 ひとまず。


「グレース。ここの鎧を回収してくれ。持ち帰ってバルムスに引き渡すつもりだ」


「了解です!」


 死体入りだけどね。


 グレースは次々に鎧に触れて行き、虹蛇の格納庫にしまい込んでいく。全ての鎧を仕舞いこみ、戦車について俺に聞いて来る。


「これどうします?」


「たぶん中に子供入ってんだよなあ」


「だったら違うところに入れますよ。そこなら時間も止まってるみたいだし」


「あ、じゃあ頼む」


 そう言って、グレースはアーティファクト戦車も消していく。


「で、ヴァルキリーを出してほしい」


「はい」

 

 俺の前にヴァルキリーが出て来た。


「装着!」


 ガパン! と開いたので背中から入る。


《お待ちしておりました。我が主》


《敵を迎え撃つ》


《はい》


 するとグレース達を追って来た、アーティファクト兵達の足音が聞こえて来た。


「隠れろ」


「「「「「「「は!」」」」」」」


 俺達は気配を消して、周辺の路地や屋根の上、建物の中に侵入し待ちかまえるのだった。 

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