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第93話 ブービートラップ

俺はシャーミリアに抱かれ夜の上空へと舞った。



かなり高度を上げてもらうと街の全容がみえてきた。



「これは・・」


高高度の空からグラドラムの街がすべて見渡せたとき、あるものが見えてきた。


「魔法陣だ・・」


なんと、グラドラムの街全てを使った魔法陣が描かれて、薄っすらと輝きをはなっていた。


「魔法使いがいないのに光ってる・・」


《しかし魔法陣にしてはデカ過ぎないか?》



「これは・・なんだ!?」


「これはいったい・・」


2人の声がかぶった。シャーミリアも知らないようだった。


《何が起こる?おそらくなんらかの罠だとは思うが・・》


かなり危険な状態だと俺の勘が警鐘を鳴らしている。



「シャーミリア!ポール王の元へ急いで降りてくれ!」


「かしこまりました!」


俺とシャーミリアは漆黒の大空から一気にグラドラムへ急降下する。



その間にも俺は各部隊と無線で連絡を取っていた。



「全員聞け!急いでギレザムとジーグの元へ合流しろ!」


「「「はい!」」」


教会から神父を連れて逃げて来ているであろう、ギレザムとジーグにも連絡を取る。


「どこにいる?」


「は!ポール王と神父たちを連れて邸宅へと戻っている途中です!」


「戻るな。」


「は?」


「そこにいろ!」


「はい!」



そして俺は次に、ティラとタピに連絡をする。


「ティラ!今の状況は!?」


「マズルを連れて、ポール邸に向かっているところです。」


「行くな!マズルを連れて船に戻れ!」


「は、はい!」


ティラとタピは踵を返してマズルを連れて船に戻っていった。



「ルフラもポール邸の見張りをやめてギレザムに合流しろ。」


「館の中の使用人は放っておいても大丈夫でしょうか?」


「お前が心配だ!とにかく来い」


「はい!」


ルフラはポール邸の外で警戒して機関銃を構えていたが、街の方角に向かう。



「アナミス!聞こえるか?」


「はい・・」


「持ち場を離れてグラドラム内に入り、ギレザムたちと合流しろ!」


「わかりました・・眠りがとけてしまうものがいるかもしれませんが・・」


「かまわん!屍人に任せておけ!急げ!」


「はい!」



そして俺は船にいるダークエルフに連絡を取る。


「今どんな状況だ?」


「待機中です。」


「よし!まもなくティラとタピがマズルを連れて船に着く、2人ほど迎えに出してくれ!」


「かしこまりました!」


「ティラ、タピ、マズルを救出後、俺達を置いてすぐに港をでろ!できるだけ沖にむかえ!」


「了解です!」



連絡を取り終えたころ、シャーミリアと俺がポールの元に降りる。ギレザムとジーグに護衛されていた3人の神父たちも急に現れた俺とシャーミリアに驚いている。ポールが話しかけてくる。


「おお、ラウル様!どういう状況ですか!?」


「ええ・・、ポール王に少しお尋ねしたいことがありまして急遽駆けつけました。」


「尋ねたい事ですか?なんなりと!」


「俺が魔人の国に行っている間、グラドラムは平和でしたか?」


「いえ・・平和ではありませんでした。私の力が及ばずに・・申し訳ございません。美しい女もたくましい男も・・かわいらしい子供もみな・・ファートリアかバルギウスへつれて行かれてしまいました。」


ポールが怒りに顔を真っ赤にし、こぶしを握り締めて涙をためて言う。


「そうでしたか。ではこの手紙は?」


俺は船でデイブ宰相がポケットに忍ばせた手紙を見せる。


___________________________

ラウル様へ


ようこそおいでいただきました。

本来はもっと友好的なお出迎えになるはずが、奴らのおかげでこのような形式ばった御挨拶になり申し訳ございません。奴らの強大な軍事力に対し抗うすべのない我々が、軍門に下るしかなかった無能をお許しいただきたく思います。


魔人国へのラウル様宛て書簡も形式的な物ばかりだったのは、すべて奴らに検閲されているが故のことでした。


あなた様は私たちを救った英雄です。


もしラウル様が決起をなさるときは、私共もお供させていただきたく思います。ことを起こすのであればぜひ我々にもお声がけいただきたく思います。


またこの3年間で、我がグラドラムにもファートリア神聖国とバルギウス帝国の間者が、たくさん潜入しております。3年前の1000人の兵消失事件の真相を探るものも多数訪れました。ラウル様が流布された魔人の仕業ではないかという噂のおかげで、平穏に暮らす事が出来るようになりましたが、奴らは報復する事を諦めてはおりません。魔人など大したことは無いという論者もおり、ファートリアバルギウス連合から魔人国へ攻めようという声も上がっております。


ラーテウス・ノランとバウム・シュタインというものがおりますが、彼らは大勢の兵を引き連れてきております。さらにグラドラム首都内だけでなく広範囲に分布しており、失踪対策として連絡を密にしておるようです。我々もすべてを把握する事は出来かねております。


やつらは邪な考えを持ちラウル様達を出迎えていると考えられます。


十分お気を付けくださるようお願いいたします。


くれぐれもラウル様単独で動くことの無きようご注意ください。


我が親愛なるラウル様へ


ポール

___________________________


「えっ!ラウル様・・この手紙は?」

 

逆にポールが俺に聞いてきた。


「デイブ宰相から受け取ったものです。」


「私の字ではございません。私は・・これを書いておりません。」


「やはり・・そうか。」


「これを?デイブから受け取ったのですか?」


「そうだ。ファートリアのラーテウスとバルギウスのバウムの対応から考えて、平穏に暮らしているという内容に少しひっかかっていたんだ。」


ポールは考え込むように黙ってしまう・・


「ラウル様、グラドラムは平穏などではございません。圧政に苦しみ連れていかれた民は帰ってこず、地獄のような日々を送っておりました。その旨はこっそり書簡にしたため魔人の国の船に乗せたはずなのですが・・」


「おそらくそれは俺の元へは届いていません。魔人の国にいたころは、グラドラムは魔人の脅威の傘の下で穏やかに暮らしているとそう聞いておりました。」


「平穏・・そのようなことは、一度もございませんでした。」


神父のひとりが不安な顔でポールに尋ねてきた。


「ポール王よ・・これはどういうことでありましょう?」


「カリスト・クルス神父・・わたしにもよくわかりません。」


ポールが困った顔でクルス神父に答えている。


「ラウル様、元のラシュタル王国からきたカリスト・クルスと申します。」


「はい。」


「私のいたラシュタル王国は、今はファートリア及びバルギウスの支配下に置かれております。国王一族や兵は皆殺しにあいました。いまは酷い圧政に苦しんでおります。グラドラムだけは魔人の国との窓口の役割があり、ポール王や王族は殺されずに残されました。」


「ラシュタルもか・・」


「はい、一度も平和だったことなどございませんでした。私もおめおめと生きながらえグラドラムにたどり着き、ポール王の庇護の元で神父をさせていただいているのです。」


「シュラーデン王国も同じ状況ですか?」


「おそらくは・・戦火はシュラーデンにも伸びましたから。ただ私はすんでのところで国を出ましたので・・それ以上はわかりません。」


《ということは・・書簡を検閲していたのはデイブ宰相か。どういうことだ?グラドラムを取り仕切っていたやつが何でこんなことを?》


「ポール王、俺達と一緒にすぐに決起するつもりでしたか?」


「ラウル様との話をするまでは、行動の決定は出来かねておりました。しかし・・この手紙ではすぐに決起する・・すぐに戦うというように見えますな・・。」


「かなり巧妙な文章で俺もまったく疑いませんでした。辻褄があっているからです・・しかしグラドラムが平穏というところにひっかかっていたんです。」


「なぜ、デイブが・・」


《ここで推理をしている暇はないな・・》



「とにかく!おそらく緊急を要する事案が出来ました。」


「どうすれば・・」


話していると西側からアナミスが来る。東側からガザム、ゴーグ、ダラムバ、巨人化したスラガ、ポール邸からルフラも合流。南側壁面付近からはマリアがファントムの手に乗ってマキーナと来た。上空からはルピアが降りて来た。


「よし。揃ったか。」


魔人は全員、俺の指示を待つ。


「俺とシャーミリア、マキーナで、デイブに確認するためポール邸に向かう。」


「はい!」


「あとは全員武装して街の正門から外に出ろ!外からの敵兵が来たら全て殲滅だ!」


「「「「は!」」」」


「シャーミリア、俺を抱いて飛んでくれ!」


「は・・はい」





そして俺とシャーミリア、マキーナが飛んであっというまにポール邸にたどり着く。すると邸の前に一人の少女が倒れていた。あれは・・ユークリット出身のおさげ髪の少女だ。同郷の子がポール邸の前に倒れていた。


「おい!おまえは・・なんでここにいるんだ?」


「あ・・御曹司・・わたしは先に逃げた人たちを見失い暗闇を迷ってしまいました。やっとポール様の御屋敷を見つけたのですが中には入れてもらえませんでした。」


《ルフラが持ち場を離れた後に来たのか?》


「どういうことだ・・?」


「わかりません。棒でなぐられ気が付いたらここに。」


《バルギウス側の人間だから・・こいつははじかれた?》


俺は問いただすためポール邸の玄関を開けた。それをきっかけに中から強烈な屡巌香(るがんこう)の匂いが出てきた。


「ご主人様・・これは?」


「くっ!どういうことだ?」


俺もシャーミリアもマキーナも想定外の出来事に次の判断が鈍った。するとポール邸の屋敷の周りが光り輝いた。


「しま・・っ」


屡巌香が充満し俺は膝をついた。シャーミリアもマキーナも苦しみ始める。光の結界の中に俺達はいた。


《魔法使いがいないのに?なにがきっかけとなったんだ?ブービートラップ・・》


「ど・・どうしたんです!御曹司!」


「ぐうっ」


屡巌香が結界の中に充満していく・・とらえられてしまったらしい。


「あ・あの・・私はどうしたら・・すぐに誰かを呼んできます!」


「ま、まて!お前は何ともなく動けるんだな。」


「はい!大丈夫です!」


「俺たちの代わりに屋敷の中を見てきてもらえるか?」


「わかりました。」



《やばいな・・とにかく無線で現状を伝えるしかないか。》



こちらから通信しようとしたとき、マリアの方から通信が入ってきた。


「マリア!アナミスが眠らせていた兵士達はどうした?」


「眠ったまま、屍人の騎士達に貫かれて全員死んでいました。」


ゾンビがとどめを刺したか、やはりアナミスの催眠は凄いな。それは計画通りだが・・


「そうか・・それで、どうした?」


「街の外から敵兵が大挙して押し寄せています。松明の光が無数にみえます!」


「なに!?」


《このタイミングで。やはり罠だったか・・》


「ラウル様!魔法使いも大勢いるようです。」


「ひとまず全員、壁の内側に入れ!巨人のスラガは魔法使いに巨体をさらすな!武器を設置したら小人化しろ!ルピアも魔法使いがいるとなると上空は危ない!飛ぶな!」


《マリアのスナイパーライフルが頼みだが・・》


「マリアとルフラは城壁の上に登り狙撃体制をとれ!全員自動小銃で敵兵を食い止めろ!・・ごふっ」


「ラウル様!どうしました!?」


「いや、なんでもない!俺が行くまで、敵を食い止めるんだ!いいな!」


「了解しました!」



「ゴボッ」


俺は・・大量に血を吐いていた。


《迎賓館でも吸い込んだからな・・これはガルドジンや配下がやられるのも無理はないな・・》


毒が体に回り始めたのだった。




そして異変に気が付き後ろを振り向くと・・


町の中央の空が赤い光で輝いている。


「あれは・・俺達が隠した・・」


巨大な魔石が浮かび上がっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の話…ポイントはやはり『デイヴから渡された手紙』…でしょうか? ポール王曰く 「いえ・・平和ではありませんでした。私の力が及ばずに・・申し訳ございません。美しい女もたくましい男も・・か…
[一言] 魔石ってラウルに吸収されてなかったっけ
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