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第927話 起死回生の助っ人

 こりゃピンチだ。今更ながらに気が付いた


 目の前のビフロンス伯爵とやらは、城を壊された事でめっちゃ怒ってるし(当然だけど)それより深刻なのが何度倒しても即復活する事。聞けば自分達は精神体だから消える事が無いと言うし、なんなら一生付きまとわれそうな感じがする。特に一緒に居る女型のデモンのジト目が怖い。


 そんな事より深刻なのは、向こうにはオージェ隊とグレース隊がいて、この事を早く教えないとアイツらも生贄になってしまう。アイツらがこちらに飛ばされてしまったら、俺達は完全敗北する。


 俺は余裕なふりして奥歯をギリリと噛んでいた。


 おびき寄せてデモナードに閉じ込めるだと? めっちゃ完璧な作戦じゃねえか。フェアラートの野郎ムカつく。こんな作戦があるなんて思いもしなかった。戻る術が無いんじゃね? 一生デモナードに居なくちゃならない?


 って思っちゃう。 


 そんな気持ちにとどめを刺す「お困りのようでございますね」などと英国紳士のような掛け声。


 うわあ…ビフロンスの助っ人が現れた…。終わったか?


 と思って焦って振り向いた。


 だが…その不安は一瞬にして解消される。


「アスモデウスゥゥゥゥ?」


「は! 遅れて申し訳ございません」


 目の前には会釈をしている、アスモデウスがいた。その長い髪とスマートな顔立ち、紛れもなくアグラニ迷宮を管理させているアスモデウスだ。


「なんでここに?」


「君主様が、お困りのご様子でございましたので」


「いや、困ってはいたけど」


「いよいよ私が、君主様のお役に立つことが来たのでは! と、うずうずしております!」


「助かる! てかどうしよう。このビフロンス伯爵が怒ってて…」


 するとアスモデウスが、ギロリとビフロンス伯爵を睨みつける。


「説明しろ」


「いえ! お、王よ! 我が親愛なる王よ! この者達が…」


 カッ!

 

 ビリビリビリビリ!


 アスモデウスから、めちゃくちゃ物凄い威圧感が発せられた。地上にいる時とは、比べ物にならないほどの強烈な威圧感だった。地上でもめっちゃ強い奴なのに、デモナードだとそのレベルは段違いらしい。あと、説明しろって言ったばかりなのに、めっちゃキレてる。


「ゴミが君主様に対し、”この者”などと!」


「も、申し訳ございません!」


 待てよ…さっきビフロンスが言ってた言葉。アスモデウスを”王”って呼んでたな。


「アスモデウス」


「は、君主様」


「君って王なの?」


「はい。このあたり一帯の王です」


「ええ!」


「恐れ入りますが、君主様。今はそれどころではないのではございませんか?」


 そうだった。


「えーっと…そうそう、この人の城を吹き飛ばして付きまとわれていたんだ」


「城ごときで、ごたごた言われていたのでございますか?」


「ああ」


 アスモデウスはぎろりとビフロンスを睨む。


「貴様…」


「も、申し訳ございません! 王のお知り合いだとは露知らず!」


「知るも知らないも無い。だが…お前たちは今ここにいる事を大きく感謝せよ。この上なき幸せを噛みしめるが良い。君主様のご尊顔を拝めただけではなく、お役に立つことが出来るのだぞ。全ての事に感謝し、誠心誠意尽くす事が出来るのだぞ?」


「へっ? な、なにを?」


 もうアスモデウスは、ビフロンスにも女型のデモンにも興味は無いようだった。


「では君主様。この者達を糧に戻りましょう」


「ん? 糧? どういう事?」


 そしてビフロンスも焦って言う。


「王よ! それはどう言う事にございますか!」


 だがビフロンスには答えずに、アスモデウスは俺だけに言った。


「お任せください」


 そしてアスモデウスはビフロンスと女型のデモンに向いた。


「我は命ずる。我が君主ラウル様の御身のため、永遠にその魂を役立てる時が来た。お前達にその極上の役目を申し付ける」


 するとビフロンスと女型は全く抵抗することなく平伏した。


「「身に余る光栄にございます」」


 アスモデウスはシャーミリアに言う。


「では、シャーミリアさん。ファントムに命じてください」


 俺には何の事か分からなかったが、シャーミリアは理解しているようだった。


「少しだけあなたを見直したわ」


 そう言ってシャーミリアはファントムに指をさす。


「何をやってるんだい! ウスノロ! 聞いた通りだよ! さっさとおし!」


 どすどすとファントムがビフロンスと女型の前に行った。そしてガバリと口を胸元まで開き、ゴオオオオオオ! と、ビフロンスと女型を吸い込み始めた。死体を吸う時と同じような感じで。


 ビフロンスと女型が恍惚とした表情になる。


「ああああああ。凄い! なんと素晴らしいのだろう! 我はこのためにあったのですね!」


 シュゴオオオ! ビフロンスと女型がファントムに吸い込まれてしまった。その次の瞬間、まるで風船のようにファントムがバン! と膨らむ。


 おいおい。大丈夫なのか?


 一瞬ファントムが破裂するんだと思った。だがシュウゥゥゥゥゥゥと蒸気が抜けるように湯気を出して元に戻る。


 よかった…。


 それを見てアスモデウスが言う。


「これからはファントムが鍵となりましょう。デモナードとの行き来はご自由に」


「そうなの!?」


「はい♡ もちろんにございます! その君主様のお喜び様が、何よりものご褒美にございます♡」


 うわあ。今度はアスモデウスが恍惚としているよ。


「アスモデウスも一緒に?」


「恐れながら、この身は精神体にございます。あちらに戻ればアグラニ迷宮の体に宿るのみ」


「もしかして、精神だけなら自由に行き来できるの?」


「大変おこがましいお話にはなってしまうのですが、我はこの地の王となっております。ですので自由に行き来する事が出来ます」


「そうなんだ。前にアスモデウスは向こうで、あっさり敵の契約を解いたね。契約って、そんな簡単に解ける物なの?」


「いえ。それは違います。契約が解けたのは、君主様の偉大なお力があったからでございます。あのような小物との契約など一瞬で解けました」


「契約によって、誰と契約したか言えないんだっけ?」


「そうです。あちらでは仮初の体が消えますので。でも今は話す事が出来ます。なにせここはデモナードでございます」


「違うんだ?」


「左様でございます。我が精神体はそれでは消えません」


 何かあっちとこっちで、デモンの状況も変わって来るらしい。


「じゃあ、契約した小物って誰?」


「アブドゥルという小物にございます」


 その名前、久しぶりに聞いた。転移魔法陣を駆使して俺達を苦しめた奴だ。


「そうなんだ」


「はい」


「でも、王であるアスモデウスが、なんでそんな小物と契約を?」


「はい。それはデモンにも裏切者がいたからでございます」


「裏切者?」


「マルヴァズールという第二階級のデモンが裏切りました」


「アスモデウスの階級は?」


「第一階級にございます。ちなみに君主様が倒されたベルゼバブも第一階級です」


「めっちゃ強かったと思ったらそうなんだ」


「でも。倒されましたね。流石でございます」


 めっちゃ強いと思ってたけど、アスモデウスと同等のデモンだったんだ。ベルゼバブって。


「ささっ! そろそろお戻りになられては?」


「どうやって?」


「命じればいいのです君主様。あとはファントムが全てを」


「わかった。んじゃあっちに戻ったら、アスモデウスはアグラニ迷宮に戻るのな」


「左様でございます。駆けつけろと言われれば参りますが?」


「いやいい。敵は転移魔法を体得しているから、北大陸がいつ襲われるか分からない。アスモデウスみたいな器用な奴が一人居た方がいい。北で俺の配下が困っていたら、助けてやってくれるか?」


「もちろんにございます」


「じゃあ。俺達は戻る」


「行ってらっしゃいませ 」


 アスモデウスが深々と礼をした。俺はファントムに命じる。


「ファントム。俺達を向こうの世界に戻せ」


《ハイ》


 ぶわん! とまたファントムが風船みたいに膨れて、ばしゅぅぅぅぅと湯気が噴出する。視界が真っ白になり、その湯気が次第に晴れて来た。すると突然青空が広がり、草原が目の前に広がる。


「ん? 戻って来たのか?」


 ギレザムが答える。


「そのようです」


「都市じゃないぞ?」


「恐らくデモナードでの移動距離が、そのままこちらにも反映したんでしょう」


 なるほど。じゃあ念話を繋いですぐに通達せねば。


《ルフラ、ティラ、ドラン、スラガ、ラーズ》


《《《《《は!》》》》》


 良かった。念話が繋がった。


《みんな! フェアラートには近づくな! アイツは俺達を生贄にしてデモンの国に飛ばしやがった。奴の真の狙いは俺達をデモンの国に飛ばす事だ。くれぐれも接近戦は回避するんだ》


 スラガが言う。


《危なかったです。ラウル様の気配が消えた事で、オージェ様とトライトンが接近戦で一気にかたをつけようとしておりました》


 あっぶな! マジでアスモデウスに感謝だわ。


《くれぐれも止めてくれよ。デモナードに飛ばされるぞ》


《ラーズが話をし、踏みとどまっていただけました》


 良かった…。


《これからそちらに向かう。それまで待て!》


《《《《《は!》》》》》


 これでひとまず、仲間がデモナードに飛ばされる事は無いだろう。


「さて。俺達も急行するぞ、まだ仲間は飛ばされてない」


「「「「「は!」」」」」

《ハイ》


 俺は高機動多用途装輪車両ハンヴィーを召喚して乗り込み、シャーミリアにM240機関銃とバックパックを渡しながら言う。


「シャーミリアは上空援護しながらついてこい」


「は!」


「ゴーグはオオカミ形態でカララを乗せろ」


「はい」


 そして俺はカララの為に三十丁のウージ―サブマシンガンを召喚した。カララはアラクネの糸でそれらをすべて空中に浮かせる。


「地上の護衛はカララが頼む」


「は!」


「ギレザムとガザムとカーライルは俺と一緒にハンヴィーに乗れ」


「「「はい」」」


「ファントムは遅れるなよ」


《ハイ》


 皆がスタンバイをして、ガザムがハンヴィーのアクセルを踏む。急発進したハンヴィーは草原を猛スピードで走り出した。その周りをシャーミリアとゴーグとカララ、そしてファントムがついて来る。


 とにかく急がねば。フェアラートが、どんな手段を使って来るのか皆目見当がつかない。おそらく俺がデモナードから戻って来れるとは思っていないだろうから、その油断を突く。


《全軍に告ぐ。フェアラートは俺を戦闘不能にしたと考えているだろう。間違いなく、こちらの手段を封じたと思っているはずだ。そこに俺達が奇襲をかける。距離を置きつつ牽制し包囲網を築け》


《《《《《《《《は!》》》》》》》》


 すぐにモエニタ王都が見えて来た。ギレザムの言う通り、デモナードでの移動距離がこちらに関係しているらしい。デモナードのアスモデウスは精神体だったから、すぐに現れる事が出来たけど、こっちではまだアグラニ迷宮にいるのだろう。こちらの世界とデモナードのカラクリが見えた事で、今後の対策が見えて来る。


 いよいよ銃火器の音が聞こえて来た。みんなは俺の指示通りに距離を置いて戦っているようだ。


 さてと、余裕ぶっこいてるフェアラートに一泡吹かせてやるか。


 それが証拠に、王都周辺に監視がいない。恐らくは中のオージェ隊とグレース隊を封じ込めれば勝ちだと思っているのだ。


 まあ、フェアラートの俺達封じ込め作戦は完璧だったと言えよう。武力では勝ち目がないと悟ったのか、我慢して我慢してモエニタ王都に俺達を引きずり込んだのだ。


 正直なところ、アスモデウスが居なかったら俺達は完敗していた。


 今は北の地で、冒険者用ダンジョンをせっせと運営しているアスモデウスに感謝するのだった。

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