第923話 押し寄せるアーティファクト兵団
敵のアーティファクト鎧には、どんな仕掛けが施されているか分からなかった。もしかしたら反射魔法が発動するかもしれず、遠距離から撃つわけにはいかない。俺が召喚した武装を、全ての魔人達に装備させているものの、銃火器は使わず白兵戦にて状況を把握する事にする。アーティファクト兵達は、まだ俺達の接近に気が付いておらず上を見上げていた。どうやらその先に飛んでいるのは、噴射機で飛び回るカーライルだ。
《至近距離でやれ。カーライルを救わねば》
《《《《《は!》》》》》
《ハイ》
「カララは、アーティファクト鎧を調べるために糸を!」
「はい!」
アーティファクト兵にギレザムとガザムの刃が、シャーミリアとゴーグの爪が襲い掛かる。カララは念の為に俺の護衛と、アーティファクト鎧の調査を行わせ、状況次第で攻撃に加わる事にする。
ギィン! ガィン!
なんだと? 弾かれているのか?
直属の魔人の刃が通らないのを始めて見た。どうやらアーティファクト鎧は前回の戦闘から更に改良が加わっているらしく、相当頑丈に作られている。しかし、めちゃくちゃ有効打を打つ奴が一人いた。
ファントムだ。
ファントムはただやみくもに、拳を振り下ろしているが、鎧はへこまずとも人間ごとひしゃげている。恐らくは関節などが滅茶苦茶になって、潰れている状況なのだろう。剣や銃弾が通らなくても、力業ならばどうにかなるらしい。ファントムの周りだけ、戦闘不能になっていくアーティファクト兵が増えていた。それでも次々に飛びかかってきて、何とかファントムを抑えようとし始める。
命知らずだ。すげえ。
「敵だ!」
ようやく俺達に気が付いたアーティファクト兵達が、こちらに目を向けた。そして俺の視界には、ボロボロになりながら力尽きて落ちて来るカーライルが映る。
「シャーミリア! カーライルを離脱させろ!」
「は!」
シュッ!
シャーミリアが消えるように飛び去り、空中からカーライルの姿が消えた。他の仲間達がアーティファクト兵を押しつつ、ファントムがまとめて吹き飛ばして行く。
「お連れしました」
シャーミリアが、ぼろ雑巾のようになったカーライルを俺の所に連れて来た。
「ごぼっ! げほげほ! す、すみません…」
カーライルはもうすぐ死にそうな状態だ。見れば腕が一本無くなっているし、全身がケロイドになっていてイケメンが台無しだ。髪の毛もほとんど残っておらず、目ん玉も焼けて口から歯がむき出しになっている。申し訳程度に皮の鎧が体にこびりついている状態で、生きているのが不思議なくらいだった。
「カララ! ガードしろ!」
「はい」
「死ぬなよカーライル!」
カララにガードさせ敵が近づかないようにして、俺はすぐさまエリクサーを取り出しカーライルにぶっかけた。どうやら一本では足りないらしく、もう一本を取り出してかける。シュウシュウと音をたてて腕が生えて来て、目玉が現れ唇が塞がっていく。
「お手数をおかけします」
「なに冷静に言ってるんだよ! 死ぬとこだったじゃないか!」
「すみません。逃げ損ねました」
「だからすぐに出ろって言っただろ!」
「申し開きのしようもない」
「だけど、敵の秘密工場を突き止めたんだな。リシェルから地図をもらい、魔人達に念話で共有している!」
「そうですか。受け取ってもらえましたか」
「そんな話は後だ!」
魔人達が応戦し、戦闘不能になるアーティファクト兵が大勢出ているのに、動く兵の数が減らない。どうやら都市のあちこちから、蟻の大群のようにここに押し寄せているらしい。
次の瞬間、カララが糸で扇を作りバッと広げた。するとそこに大きな爆炎が起きる。それを見てカーライルが言った。
「ゼクスペルが出ております」
「それで…よく耐えたな」
ゼクスペル相手に、ただの人間が火だるまになりながらも生き残った事を褒めるべきだろう。カーライルでなければ、とっくの昔に消し炭になっているはずだ。
「ゼクスペルも、アーティファクトの鎧を着ているようです」
「そいつは厄介だ。ゼクスペル用に作ったって事か…」
「そのようです」
ようやく体が復活してきたようで、カーライルがムクリと起きた。俺はカーライルに言う。
「無理するな。あとは任せろ」
「どうされるのです?」
「カーライルが注意をひきつけてくれたおかげで、打開策が見つかったんだ。ここは全く問題ない」
戦っている魔人を見ると、ファントムが押し返しているが、アーティファクト兵がまるで津波のように増えている。流石に敵地の中心では、無尽蔵に兵士が出て来てしまうようだ。
「これを、どうやって?」
「こうだ」
俺はアーティファクト兵達に向かって召喚魔法を発動する準備をし、魔人達に念話で指示を出す。
《いったん引け》
《《《《は!》》》》
次の瞬間、俺は敵アーティファクト兵の頭上に、重量七十トンのナメル装甲兵員輸送車を召喚した。
ズゥッズッゥゥゥゥゥゥゥン!
物凄い地響きと共に、アーティファクト兵達が下敷きになり身動きが取れなくなった。完全につぶれていないのは凄いが、それでもへこんで地面にめり込んでいる。
「ファントム! 真っすぐに蹴り飛ばせ!」
ドゴゥ!
ファントムがナメル装甲兵員輸送車を横なぎに蹴飛ばすと、真っ黒に群れを成すアーティファクト兵達の上をすべるように進んでいった。
ガッバギバギバギバギ!
滑るナメル装甲兵員輸送車は建物まで到達し、一階部分に穴を空けて突っ込んだ。ロードローラーで潰したように、アーティファクト兵が地面にめり込んで道が出来た。
まさに、舐めるように。
「よ!」
ズゥッズッゥゥゥゥゥゥゥン!
そしてもう一機のナメル装甲兵員輸送車を召喚して、アーティファクト兵の頭上に落とす。
「蹴れ!」
ズドゥ!
別な角度の兵達の上をすべるように、七十トンのナメル装甲兵員輸送車がスライドしていく。
「もういっちょ」
ズゥッズッゥゥゥゥゥゥゥン!
そしてまたファントムが蹴った。だがその方向にはゼクスペルがいて、ゴウッ! と火炎を吐き出す。ナメル装甲兵員輸送車に火炎がぶつかり、勢いでそのスピードが削られた。ゼクスペルはそれをガシっと受け止めて、逆にこちらに蹴り飛ばして来た。
「ファントム! 返してやれ!」
滑って来たナメル装甲兵員輸送車をファントムが蹴り返す。まるでエアホッケーゲームのようになって、巻き込まれたアーティファクト兵達は次々に潰れて行った。
その時カララが言う。
「ラウル様。鎧にはわずかながら隙間があります。火炎なら通るかもしれません」
「いや…反射の可能性がある。それよりも、もっと良い事を思いついた」
「はい」
「カララは手当たり次第に鎧の隙間から糸を忍ばせろ」
「は!」
サササササササササササ!
カララの糸が、広場を埋め尽くすアーティファクト兵達に伸びて行った。張り巡らされて行くのを確認し、俺はカララの背中に手を当てて言う。
「召喚したら全てのピンを抜け」
「はい」
次の瞬間、広場にいたアーティファクト兵達から爆発音が聞こえてくる。
ボン! ボボ! ボボボボ! ボボン!
そしてまるでドミノ倒しのようにバタバタと倒れていった。
そう、俺はカララの糸を通じて、鎧の中にMK3衝撃手榴弾を召喚したのだった。カララが糸でそれを抜いて、鎧の中で爆発させたのだ。
「ゼクスペルには糸を焼き切られました」
ゼクスペルの周りに居る、アーティファクト兵達だけは手榴弾作戦が通用しなかったらしい。だが次の瞬間、ゼクスペルの周りに居る兵士達が手をつなぎ始める。
「なんだ?」
まるで連結しているかのように、次々に繋がっていく。
「するとカーライルが言う。あれです! あれにやられました!」
「なに?」
次の瞬間、繋がっているアーティファクト兵から、次々に火炎のレーザーのようなものが飛んで来た。俺は眼前に、ナメル装甲兵員輸送車を召喚しそれを防ぐ。だがナメル装甲兵員輸送車は次第に赤く膨れ上がり、大爆発を起こしてしまった。すかさずカララが糸のバリアを張り、俺達はその火炎から逃れる事が出来た。
「なんだありゃあ!」
するとギレザムが言う。
「連結してさらに増幅しているようですね」
「ゼクスペルの火炎をか?」
「そう見えます」
そいつはヤバい。カーライルが逃げられなかったというのもうなずける。それは、つながった兵のどこからでも撃つことが出来るらしく、カララの糸のバリアの範囲も広がっていく。
「後退するぞ!」
「「「「「は!」」」」」
《ハイ》
だが、そうは問屋がおろさなかった。
「逃がすものですか」
突然潰れたアーティファクト兵達の上に、フェアラートとゼクスペルの二人が現れた。前に遭遇した時のようなさらりとした服装ではなく、フェアラートもゼクスペルもアーティファクト鎧を着こんでいる。どうやら俺達の戦い方を見て、自分らもそれに対応したらしい。
俺はすぐに、ナメル装甲兵員輸送車を召喚しファントムに告げる。
「フェアラートに向けて蹴れ」
ナメル装甲兵員輸送車は勢いよく滑り、フェアラートに向かって行く。このまま押しつぶしてくれれば、逃げる時間ぐらいは稼げるかもしれない。しかし目の前で信じられない事が起きる。なんと滑って行ったナメル装甲兵員輸送車が突如消えたのだ。
「あれ?」
次の瞬間、俺達の頭上にナメル装甲兵員輸送車が現れた。
「回避!」
急いでそれを回避して、俺達は下敷きになるのを避ける。
ズッズゥゥゥゥゥン!
俺達の前にナメル装甲兵員輸送車が落ちた。土煙が上がり、あたりの視界が悪くなる。それを利用して逃げようと思ったら、あらぬ方向から声が聞こえて来た。
「逃がしません」
俺達が振り向くと、なんと至近距離にフェアラートとゼクスペルの二人がいたのだった。
「転移か!」
厄介だった。だが先ほどのナメル装甲兵員輸送車の跳ね返しを見て、俺はあれが反射魔法ではない事を知る。直前で転移させて俺達の上に降らしたのだ。
至近距離ならば!
《シャーミリア!》
《は!》
シャーミリアが俺を抱いて飛び、フェアラートの目前へと接近する。ほぼゼロ距離になったところで、バレットM82対物ライフルを召喚しフェアラートの鼻っ面にぶっ放した。
ギィン!
うそだろ!
凄まじい反射速度で、ゼクスペルの二人がアーティファクト鎧を着た手でその弾をはじいたのだ。だがその威力のせいで、腕が後ろに大きく振られている。その隙に俺とシャーミリアはそこから距離を置いた。
「まったく…油断も隙も無い。恐ろしい少年だ」
「先生が残念がってたぜ。もっといい方向に力を使えば、大魔導士になれたのにと」
「……聞きたくもありませんね」
「今はおもちゃ作りに忙しいみたいだな」
一瞬、フェアラートのまゆ毛がピクリと動いたが、すぐに平静を取り戻して言う。
「神が侵入するのを待っていたのですよ。そして三つの反応があった。もう袋の鼠です」
「捕まえて見ろよ」
俺とフェアラートが舌戦を行っている間に、魔人達はフェアラートの包囲を完了させていた。一斉に飛びかかり、コイツを始末してしまえば戦局はかなり変わる。俺達はその機会を伺うのだった。