第917話 モエニタ王都攻略作戦会議
敵の魔道具の秘密を知った俺は、さらに魔人の一般兵を輸送して連れて来るようにエミルに頼んだ。マキーナやラーズやドランを護衛につけて、ヘリコプターを操縦できるティラも連れて行かせる。また魔人軍基地の防衛にあたっている、ミノスやスラガ、クレ、ナタ、タピ、マカも連れてくるように言い、モエニタ王都を囲んでしまう作戦を一気に進める事にした。
少々危険が伴うのは承知の上だが、フェアラートがなにやら恐ろしい事をしているのを知り、早急に事を進める必要が出て来たのだ。
その間にも、ビトーから事情聴取をして、敵の情報を探る事にする。
「アーティファクトの工場は、地下なんだね?」
「うん」
「だけど、どこの地下か分からないって事だ?」
「連れていかれた時は王城だったんだけど、その後で目隠しされて他に行ったんだ」
どうやらフェアラートの奴は、万が一、子供が拿捕された場合に、拷問されても答えられないようにしてるようだ。
それを聞いたオージェが言った。
「まあ、それだけ知られたくないって事なんだろう」
ブリッツも言う。
「オージェさんの言うとおり、それだけ重要なんでしょうね」
むしろそこが敵の要であれば、なんとしても場所を突き止めて破壊したいところだ。だがどこにあるか分からないのであれば攻めようもないし、そこにいる孤児達を救出せねば、丸ごと殺してしまう事になりかねない。
ここには神々とモーリス先生、魔人の主要メンバーが集まっていた。皆が俺の判断を待っている。
「モエニタ王都に潜入して、アーティファクトの工場と、孤児たちの居場所を突き止める必要がありますね。これは…意を決するしかなさそうです」
「そうじゃなあ、調べるしかないじゃろう」
「子供達を救出してからじゃないと、更に悲惨な事になってしまいそうですしね」
「まったく…あやつは、いつからそんな鬼畜に成り下がってしまったのか」
「なんでしょう。プライドでしょうか? きっと我々には分からない何かがあるんでしょう」
「わしが行って叱ってやらねば!」
「先生は面が割れてますから、潜入部隊からは除外ですね」
「ラウルもじゃろ」
「確かに」
俺が魔人達を見渡すと、シャーミリアが指名して欲しそうな表情をしているが、どう考えても目立つんだよなあ。魔人が潜入すればバレる可能性が高い気がする。そうすればアーティファクト工場を突き止めるより先に、全面的に突入しなければならなくなりそうだ。
「うーん。美しすぎたりデカすぎたりすると、すぐに魔人だとバレるよね?」
そう言うと、なぜかシャーミリア、カララ、アナミス、ルピアが、ならば私が! という顔をして俺を見つめている。
むしろ、人間離れしている、お前らの顔面偏差値が高すぎて目立つんだが…。
「敵には火神がいる。魔人はすぐにバレる可能性が高い、だから人間が潜入するのが望ましいが…」
シャーミリア、カララ、アナミス、ルピアががっかりしている。
俺がぐるりと見渡していると、一人のイケメンと目が合った。
「あ。そう言えば最近きたばっかりだよね?」
「ええ」
「冒険者に成りすますにも丁度いいか」
「わかりました」
俺が声をかけたのはカーライルだ。カーライルであれば普通…一応、人間だし、目立たないかも。
「潜入捜査、なんて大丈夫かい?」
「ええ、聞き込みをして本拠地を突き止めてごらんに入れましょう」
「わかった」
「では、私も同行させてくださいまし」
それを聞いていた聖女リシェルが手を上げる。だが…そんな危険な所に聖女を送り込むとか、何かあったらサイナス枢機卿に申し訳が立たない。
「えっと…かなり危ないけど?」
「あら、冒険者に成りすますのであれば、回復役は必要です」
万が一正体がバレた場合危険なんだよなあ。俺がどうするか悩んでいると、もう一人が手を上げて言う。
「あの、私も顔はバレてないと思う」
ミゼッタだった。
「いや、確かにそうだけど、敵の真っ只中に行くんだよ?」
「分かってる。万が一、逃げる場合は私の魔法が役に立つと思う」
「確かに、あの光魔法は強力だけど…」
「聖女様が行くのなら私も行く! ね! ゴーグもそう思うよね!」
「あ、あの」
突然聞かれたゴーグはアタフタしているが、ミゼッタはガンとして聞かなかった。するともう一人が手を挙げた。
「なら敵さんは、わしもわからんでしょうなあ」
「うーん」
「グレース様。私が行ってもよろしいですかな?」
「えーっと」
オンジが行くという。確かに人間だけど、ただの老人だ。まあまあ腕も立つけど、敵が敵だけにどうしたものか。とりあえず即答を避けて、他に打開策がないかを考える事にする。
「わかった。他の面子を連れてくるまで待ってくれ」
皆が頷いた。そして俺はすぐにティラに念話を繋げる。
《ティラ》
《はい》
《連れて来るメンバーを追加する》
《はい》
《ニホンジン達とナンバーズを全員連れて来てくれ》
《わかりました》
俺がじっと考えていると、デメールが俺に言う。
「うちの子はどうじゃろね?」
「アンジュですか?」
「見た目は人間だし」
「でも、オウルベアだと分かれば狩られるんじゃないですか?」
「あのねえ。変身できるのはオウルベアだけじゃないんだよ」
「えっ?」
デメールがアンジュに向かって言う。
「変身してごらん」
「わかりました」
アンジュが体を震わせ、その次の瞬間、シュッと立派な馬になった。
「うっそ!」
「ブルルル」
「どうじゃな?」
「これならカモフラージュ出来ますね」
するとデメールがアンジュに言う。
「どうだろうアンジュ。あんな小さな子達が犠牲になっているというんだ。今度は助ける側に回っても良いのではないかな」
アンジュはビトーをじっと見つめて頷いた。
「オウルベアの一族も助けてもらったし、今度はあたしが助ける番! やる!」
やる気満々のようだ。
「あの!」
ミーシャも手を上げるが、それには俺が即答する。
「ダメ」
「なぜです?」
「ミーシャは体術も無いし、武器も使えないからね。なんで行きたいんだ?」
「魔人軍の今後の為、アーティファクトの工場を見てきます!」
なるほど…それか。
「それは…敵を制圧してからにしておこう」
「わかりました」
「あとマリアも面が割れてる可能性が高い、母さんもカトリーヌもね」
するとイオナが言う。
「あら残念。私も立候補しようと思ったんだけど」
いやいや、行かせるわけないじゃん。
「母さんもカトリーヌも目立ちすぎる」
「わかったわ」
「わかりました」
それで潜入に関する話し合いは終わった。
その夜ヘリコプターの編隊が神殿基地に降り立ち、魔人とニホンジン、そしてナンバーズがやって来る。俺が出迎えると、ミノスとスラガ、クレ、ナタ、タピ、マカ、以下魔人達が跪いた。
「良く来てくれた。魔人兵を引き連れて、モエニタ王都周辺の村や都市を制圧する。既に兵糧攻めは始まっているが、更に作戦のスピードを進めるつもりだ。夜のうちに各地に飛んでやってしまおう」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
魔人達はすぐに動き出す。そして俺は日本人達の所に来て言う。
「来てもらってありがとう。本当はあっちの世界に戻る手がかりを見つけたいところだけど、その前にやる事が山ほどあるんだ。手伝ってほしい」
「もちろんです!」
ハルトが言う。すると他の四人も頷いている。
「えーっと、今回能力的に潜入に同行してほしいのは、マコとキリヤかな」
「「わかりました」」
「マコはナンバーズのファーストからファイブまでを連れて行ってくれ。みんなとは別行動で、いざという時はナンバーズにマコの力を使っていい」
「わかりました」
「普通の村人より、遥かに鍛えられているからな。マコの力を使えば、かなりの強さを発揮するはずだ。万が一みんなが危険に晒された時は、その力で脱出の隙を作ってやってくれ」
「任せてください」
「キリヤは冒険者の魔法使い役としてチームに入ってくれ」
「はい!」
「彼らを守るのが役目だ。土魔法で防御をすること」
そして俺は立候補してくれた人らにもう一度聞く。
「えーっと。まだ行く気はある?」
みんながコクリと頷いた。ならば注意事項を伝えねばならない。
「まず下手に戦おうとかしない事、あまり危険な潜入はしない事、あくまでも街の噂話や、裏町あたりの情報屋で情報を取る事に専念してくれ。アーティファクトの流通経路を追ってもいいが、危ないと感じたらすぐに都市をでるんだ。カーライルに隊長をお願いするけどいいかな?」
「もちろんです」
結局、都市に潜入するのは、カーライル、聖女リシェル、ミゼッタ、オンジ、アンジュ、キリヤの小隊と、マコとナンバーズの小隊の二部隊となる。
「位置を特定し、孤児たちを救出する事が目的だが、無理ならそこまで突き止めなくていい」
「わかりました」
「よし! それじゃあ万が一に備えるぞ! 潜入部隊がアーティファクトの工場を突き止めていようがいまいが、緊急事態が生じたら残り全員で都市に突入する事にしよう」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
「もちろん孤児の命は守りたいが、仲間の命の方がずっと大切だ。ここで総攻撃する事になるかもしれないが、仲間に被害が出ないようにするんだ」
皆は了承し、作戦行動を開始した。
「母さん達と先生はここにいてください」
するとモーリス先生が言う。
「何を言うか。昔の教え子が悪い事をしとるのなら、それを咎めるのは道理じゃろ!」
「ですが」
「わしゃ行くぞ」
それを聞いていたイオナも言う。
「ラウル。私達も行くわ」
「いやいや、母さんが来ても」
するとアウロラが言う。
「お兄ちゃん。多分私は行った方が良いの」
「だめだめ!」
「神託なの。恐らく私や神様のみんなも行った方が良い」
「えっ?」
俺が神たちを見る。するとデメールが言った。
「わたしの子が行くんだからね、もちろん連れて行っておくれ」
「デメール様…危ないですよ」
だがそれを聞いていた雷神が言う。
「ほな、わしも行くで。そんな子供らをこんなけったいなもんに改造するやつなぞ、放っておいていい事あらへん」
骨の死神も言う。
「ですなあ、死んだ人間を復活させるのとはわけが違う。吾輩も一緒に行くとしますか」
意図せず。総攻撃のような形になってしまう。敵の反射魔法を警戒しながら戦う必要があるが、モエニタ王都の人間の被害も最小限にとどめねばならない。戦争ではあるが、むやみに罪のない人が死ぬのは避ける必要がある。
「わかりました。じゃあ一緒に行きましょう」
結局、全員がフェアラートがやっている非人道的な行為が許せないのであろう。
そして俺は魔人達に言う。
「いいか! 神様たちと人間の仲間に指一本触れさせるな! いざという時は、俺達が矢面に立って皆を守るんだ!」
「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」
直属の魔人たちが鬼気迫る表情で返事をした。いよいよモエニタ王都の攻略作戦が開始される事になるのだった。